中戦車Mk.III (A6)
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+概要
ウェストミンスターのヴィッカーズ・アームストロング社はイギリス陸軍の要請に基づき、1925年末に世界初の多砲塔戦車であるA1E1インディペンデント重戦車を実用化したが、続いてイギリス陸軍は1926年9月に当時配備されていた中戦車Mk.I/Mk.IIの後継として、インディペンデント重戦車をベースに改良を加えた16t級の多砲塔中戦車を開発するようヴィッカーズ社に要求した。
この新型多砲塔中戦車には「A6」の戦争省制式番号が与えられ、「A6中戦車」または「ヴィッカーズ16t戦車」と呼ばれた。
ヴィッカーズ社は1927年3月にA6中戦車の木製モックアップを提示し、これを審査したイギリス陸軍はA6E1、A6E2の2両の試作車の製作を同社に発注した。
さらに1928年には、3両目の試作車A6E3が追加発注された。
A6E1は乗員6名、全長6.55m、全幅2.67m、最大装甲厚14mmで車体中央部に3名用の主砲塔を搭載し、その前方に2基の副砲塔を操縦室を挟んで左右並列に搭載していた。
主砲塔の上面には2基のキューポラが左右並列に設けられ、砲塔前面には40口径3ポンド(47mm)戦車砲と7.7mmヴィッカーズ液冷機関銃が同軸に装備されていた。
また2基の副砲塔にはそれぞれ、7.7mmヴィッカーズ液冷機関銃が連装で装備されていた。
エンジンは、コヴェントリーのアームストロング・シドレイ社製のV型8気筒空冷ガソリン・エンジン(出力180hp)を搭載し、戦闘重量17.5tの車体を路上最大速度30マイル(48.28km)/hで走行させることができた。
設計的には車体前部を操縦室、車体中央部を戦闘室、車体後部を機関室とする今日の戦車と同じレイアウトが採用され、戦闘室と機関室が装甲隔壁で分離されるようになったため乗員がエンジンの熱や騒音から解放され、生残性も向上した。
A6E2は基本的にはA6E1と同じであったが、A6E1がアームストロング・シドレイ社製変速・操向機を装備していたのに対し、A6E2ではスイスのヴィンターシュー社製変速・操向機に変更されていた。
また後にエンジンも、ショアハム・バイ・シーのリカード社製のCIディーゼル・エンジン(出力180hp)に換装された。
1928年7月にA6E1とE2の射撃試験が行われたが、この試験において副砲塔に連装で装備された7.7mmヴィッカーズ液冷機関銃の不具合が指摘され、当時製作中であったA6E3では同機関銃を単装で装備することになった。
1928年後期に完成したA6E3はウィルソン・クロスシャフト変速・操向機を装備し、副砲塔の7.7mmヴィッカーズ液冷機関銃は単装に変更され、主砲塔上面のキューポラも左側の車長用のもののみとされた。
また1937年には、ベイジングストークのソーニクロフト社製のRY12ガソリン・エンジン(出力500hp)への換装試験が実施された。
これら試作車を用いた一連の試験の結果、イギリス陸軍は1930年にA6E3をベースに改良を加えたものを「中戦車Mk.III」(Medium Mk.III)として制式採用し、量産を行うことを決定した。
中戦車Mk.IIIに盛り込まれた新たな機構としては、無線機収納スペースを確保するために後部が延長された主砲塔、およびキリスト教の僧正の帽子型の車長用キューポラの装備や、改良型機関銃マウント、毒ガス防護装置、良好な近接戦性能、新型操向ブレーキの採用等があった。
武装はA6E3と同様、主砲塔に3ポンド戦車砲と同軸の7.7mmヴィッカーズ液冷機関銃1挺を、また前部左右の副砲塔にそれぞれ同機関銃を1挺ずつ装備していた。
しかし中戦車Mk.IIIは製造・運用コストが高いことが原因で、わずか3両の増加試作車が製作されたのみで1934年5月に量産を行わないことが決定された。
これは折からの世界恐慌が大きく影響しており、イギリス政府が深刻な財政難に陥ったため、高性能ではあるが高コストな中戦車Mk.IIIを大量配備することが不可能になったのである。
中戦車Mk.IIIの3両の増加試作車の内1両はヴィッカーズ社で、残り2両は王立造兵廠で製造された。
これらの中戦車Mk.IIIは全て1934年に第1機甲旅団に配備され、この内2両は無線機を増備して指揮戦車に改造されている。
結局中戦車Mk.IIIは少数生産に終わったものの、その後ヴィッカーズ社は中戦車Mk.IIIをベースにより軽量で安価な多砲塔戦車A9の開発に取り組み、これは「巡航戦車Mk.I」(Cruiser Mk.I)としてイギリス陸軍に制式採用され1936〜37年にかけて125両が生産された。
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<A6E1中戦車>
全長: 6.553m
全幅: 2.667m
全高: 2.794m
全備重量: 17.5t
乗員: 6名
エンジン: アームストロング・シドレイ 4ストロークV型8気筒空冷ガソリン
最大出力: 180hp
最大速度: 48.28km/h
航続距離:
武装: 40口径3ポンド戦車砲×1
7.7mmヴィッカーズ機関銃×5
装甲厚: 9〜14mm
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<中戦車Mk.III>
全長: 6.553m
全幅: 2.692m
全高: 2.946m
全備重量: 16.0t
乗員: 6名
エンジン: アームストロング・シドレイ 4ストロークV型8気筒空冷ガソリン
最大出力: 180hp
最大速度: 48.28km/h
航続距離:
武装: 40口径3ポンド戦車砲×1
7.7mmヴィッカーズ機関銃×3
装甲厚: 9〜14mm
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<参考文献>
・「グランドパワー2002年7月号 ソ連軍多砲塔戦車 T-28/T-35
(1)」 古是三春 著 デルタ出版
・「グランドパワー2016年9月号 ソ連軍中戦車」 斎木伸生 著 ガリレオ出版
・「パンツァー2006年3月号 各国多砲塔戦車の歴史 イギリス」 柘植優介 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年3月号 イギリスの多砲塔戦車」 大竹勝美 著 アルゴノート社
・「パンツァー1999年5月号 イギリスの多砲塔戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「世界の戦車
1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
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