巡航戦車Mk.II (A10)
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+概要
ウェストミンスターのヴィッカーズ・アームストロング社は、製造コストの高さが問題となって量産がキャンセルされた中戦車Mk.IIIに代わる新型中戦車A9の開発を1934年2月に開始したが、このA9中戦車計画に遅れること3カ月、1934年5月に試作が開始されたのがA9中戦車の重装甲版として計画されたA10中戦車で、A9中戦車の最大装甲厚が14mmであったのを約2倍の30mmに増厚して製作されることになっていた。
A9中戦車の最初の試作車A9E1は1936年4月に完成しているので、A10中戦車の最初の試作車A10E1も1936年中には完成しているはずである。
A10中戦車の基本的な構造はA9中戦車のものをそのまま流用しており、最大装甲厚が変化しただけなのでファミリー車両といっても差し支えないと思われる。
しかし、A10中戦車は装甲の強化によってA9中戦車より重量が約2t増加したにも関わらず、パワープラントはA9中戦車のものをそのまま流用したため機動性能が大きく低下してしまった。
なおA10中戦車では、A9中戦車で主砲塔の前方に左右並列に配置されていた機関銃装備の副砲塔を廃止しており、これが両車の外見上の一番の相違点となっている。
この副砲塔は非常時の脱出の際、銃手に対する危険性が指摘されていた。
A10中戦車の最初の試作車A10E1では、左右の副砲塔を撤去しただけで戦闘室前部のデザインに手を加えなかったため、戦闘室前部は中央に操縦手席が突出した不自然なデザインになっていたが、後に戦闘室前部の幅が拡げられて操縦手席は前部左側に移動し、前部右側には車体機関銃とこれを操作する銃手が追加された。
これによって乗員はA9中戦車の6名から、1名減少して標準的な5名となり車体長も短くなっている。
A10中戦車の砲塔は基本的にA9中戦車の主砲塔と同様のもので、動力旋回機構もA9中戦車のものが引き継がれていたが、砲塔前面装甲板の傾斜角が変更され車長用のハッチが大型化し、砲塔後部バスルの下に収納箱が追加されるなど細部の作りには変化が見られる。
この砲塔はバスケット式ではなく、車長の座席も無かったようである。
1936年にイギリス陸軍は戦車の分類方法を改め、従来の「軽戦車」、「中戦車」、「重戦車」に加えて「巡航戦車」(Cruiser Tank)、「歩兵戦車」(Infantry
Tank)という2つのカテゴリーが新設された。
A10中戦車は当初は「歩兵戦車」としての採用を狙っていたものの、最大装甲厚60mmといった基準をクリアできず、結局は「重巡航戦車」(Heavy
Cruiser Tank)として採用されることになった。
続いて1937年6月からヴィッカーズ社のA9巡航戦車およびA10巡航戦車と、王立造兵廠のA7E3巡航戦車がイギリス陸軍によるトライアル(性能評価試験)に供された。
しかし、このトライアルにおけるA10巡航戦車の評価はアンダーパワーであるだとか、クロスカントリー能力が良くないだとか、遅いといった散々なものであった。
なお1938年になって「重巡航戦車」というカテゴリー名は混乱を招くとされ、イギリス陸軍最初の重巡航戦車として「重巡航戦車Mk.I」(Heavy
Cruiser Mk.I)の制式呼称が与えられる予定であったA10巡航戦車は、結局「巡航戦車Mk.II」(Cruiser Mk.II)として制式化された。
イギリス陸軍に制式採用された巡航戦車Mk.IIは1938年7月には100両が発注され、翌39年9月には75両が追加発注されており、これらは全て1940年9月までには納入が完了した。
その生産内訳はヴィッカーズ社が10両、ソルトリーのMCCW社(Metropolitan Cammell Carriage and Wagon:メトロポリタン・キャメル客車・貨車製作所)が45両、スメジックのBRCW社(Birmingham
Railway Carriage and Wagon:バーミンガム客車・貨車製作所)が120両というもので、その内の30両は15口径3.7インチ(94mm)臼砲を搭載したCS(Close
Support:近接支援)タイプであった。
巡航戦車Mk.IIは主砲の同軸機関銃として、当初は巡航戦車Mk.Iと同様7.7mmヴィッカーズ液冷機関銃を搭載していたが、これはわずかに13両が生産されただけである。
生産主力となったのは主砲同軸、車体機関銃共に空冷の7.92mmベサ機関銃を搭載した巡航戦車Mk.IIAで、こちらは主砲の防盾が新型となっている。
巡航戦車Mk.IIAに搭載された7.92mmベサ機関銃は、チェコスロヴァキアのブルノ工廠製の7.92mm重機関銃ZB-53をBSA社(Birmingham
Small Arms:バーミンガム小火器製作所)がライセンス生産したもので、イギリス戦車に初めて搭載された空冷機関銃となった。
巡航戦車Mk.IIは第1機甲師団に配属された31両が、大陸派遣軍として最初にドイツ軍と砲火を交えている。
その後は巡航戦車Mk.Iと同様、機甲師団に配属されて北アフリカでドイツ軍と戦っている。
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<巡航戦車Mk.II>
全長: 5.588m
全幅: 2.527m
全高: 2.65m
全備重量: 14.377t
乗員: 5名
エンジン: AEC A179 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 150hp/2,200rpm
最大速度: 25.75km/h
航続距離: 161km
武装: 50口径2ポンド戦車砲×1 (100発)
7.7mmヴィッカーズ機関銃×1
7.92mmベサ機関銃×1
装甲厚: 7〜30mm
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<巡航戦車Mk.IIA>
全長: 5.588m
全幅: 2.527m
全高: 2.65m
全備重量: 14.377t
乗員: 5名
エンジン: AEC A179 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 150hp/2,200rpm
最大速度: 25.75km/h
航続距離: 161km
武装: 50口径2ポンド戦車砲×1 (100発)
7.92mmベサ機関銃×2 (4,050発)
装甲厚: 7〜30mm
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<参考文献>
・「パンツァー2001年3月号 初期の北アフリカ戦におけるイギリス戦車」 齋木伸生 著 アルゴノート社
・「パンツァー2009年3月号 イギリス軍 初期の巡航戦車」 前河原雄太 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年9月号 イギリス軍の巡航戦車シリーズ」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年2月号 大戦間のイギリス巡航戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー1999年4月号 初期のイギリス巡航戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2020年8月号 イギリス巡航戦車発達史」 齋木伸生 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2012年11月号 イギリス巡航戦車(1)」 白石光 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「グランドパワー1999年3月号 イギリス巡航戦車Mk.I〜V」 大村晴 著 デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版 ・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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