軽戦車Mk.I
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軽戦車Mk.I(A4E4)
軽戦車Mk.IA(A4E6)
軽戦車Mk.IA(A4E8)
軽戦車Mk.IA(A4E10)
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+開発
第1次世界大戦後のイギリス陸軍は、大型で複雑高価な重戦車/中戦車の研究を進める一方で、先の大戦で注目された、機関銃と装軌式装甲車を組み合わせた小型軽量安価な装甲車両の研究も行っていた。
基本は乗員2〜3名、武装は機関銃1挺のみである。
そうした中、イギリス陸軍少佐のジファード・L・Q・マーテル卿は個人的に自宅ガレージで、自動車部品などの様々な廃品から1名用の半装軌式の豆戦車(Tankette)を作り上げた。
この豆戦車は中古のマクスウェル社製乗用車のエンジンや、アメリカのフォード自動車製トラックの車軸などを流用したもので、特別に作られたのはロードレス・トラクション社による履帯だけだった。
1925年にイギリス陸軍関係者にお披露目されたこの1名用豆戦車は、歩兵を機械化する手段として注目を浴び大いに反響を呼んだため、イギリス戦争省はマーテル卿にその改良型の製作を求めた。
改良型であるモリス・マーテル豆戦車はマーテル卿とカウリーのモリス自動車の手で開発が行われ、1926年3月に最初の車両が完成した。
モリス・マーテル豆戦車は2tあまりの車体に出力16hpのモリス社製エンジンを搭載した車両で、4両が製作されたがこの内3両が1名用、1両が2名用であった。
1名用のタイプは、操縦と射撃を同時に行うことができない点が問題となって後に放棄されることとなる。
戦争省はイギリス陸軍の実験機械化部隊に偵察車両として配備するため、2名用のモリス・マーテル豆戦車8両の製作を1927年にモリス社に発注した。
こうした流れの一方で、予備士官の技術者ジョン・V・カーデン卿とヴィヴィアン・G・ロイドがチャーツィーで創業した小さな車両メーカー「カーデン・ロイド・トラクターズ社」(CLT社)が、自社資金で開発した1名用の豆戦車を1925年に戦争省に提案してきた。
彼らはマーテルの豆戦車が評判となっていることに目を付け、同様の車両を製作してイギリス陸軍に売り込むことを目論んだのである。
このカーデン・ロイド豆戦車は、当時多数生産されており安価に入手・整備が可能であった、フォード社製の4輪乗用車フォード・モデルTのエンジンを採用しており、マーテル卿の豆戦車より製造コストが安かったため戦争省は好印象を抱き、改良型の製作を発注した。
カーデン・ロイド豆戦車の改良型はMk.I〜Mk.VIまで9種類製作されたが、5番目の改良型(なぜか呼称が与えられなかった)以降は2名用の車両となり、6番目の改良型であるカーデン・ロイドMk.IVの性能を高く評価した戦争省はCLT社に対し、前述のモリス・マーテル豆戦車と同様に実験機械化部隊に配備するために8両の改良型の製作を発注した。
この改良型は「カーデン・ロイドMk.V」と名付けられ、モリス・マーテル豆戦車と共に実験機械化部隊において試験運用が実施された。
試験運用ではモリス・マーテル豆戦車の優秀性が指摘されたものの、この時点でモリス社は商用車などの生産に注力するため、豆戦車の開発・生産から手を引くことになった。
マーテル卿は引き続き、マンチェスターのクロスリー自動車と組んで新型豆戦車の開発に取り組んだが、軍の仕事の片手間に行っていた彼の研究は間もなくストップしてしまう。
その結果、この種の車両としてはカーデン・ロイド豆戦車が残ることになり、イギリス陸軍は同車をベースにした2つのタイプの装軌式装甲車両を調達することを決定した。
その1つは歩兵部隊が使用するオープントップ式の機関銃運搬車で、もう1つが戦車部隊で使用される砲塔を装備した軽戦車であった。
CLT社は歩兵部隊の要求に応じてオープントップ式の2名用装軌式装甲車両を1928年に開発したが、この車両はそれまでのカーデン・ロイド豆戦車シリーズの集大成とも呼べるもので非常に洗練されており、イギリス陸軍は「カーデン・ロイド機関銃運搬車Mk.VI」の制式呼称で大量調達を行うことを決定した。
その一方で、CLT社は戦車部隊の要求に合わせてカーデン・ロイドMk.VII、Mk.VIIIといった数種類の軽戦車を試作したが、こうしたCLT社(1928年3月にウェストミンスターのヴィッカーズ・アームストロング社に吸収合併された)の努力はやがて実を結び、カーデン・ロイドMk.VIIIが1929年に「軽戦車Mk.I」(Light
Mk.I)の呼称でイギリス陸軍に制式採用されることとなった。
軽戦車Mk.Iは4両の試作車が製作されてそれぞれA4E2〜E5までの呼称が与えられ、主に様々な試走や試験に使用された。
A4E2はオープントップ式の円形銃座に12.7mm対空機関銃を連装で装備した対空自走砲となり、A4E4には後にホルストマン式サスペンションが装着された。
続いて1930年10月に軽戦車Mk.Iの改良型である軽戦車Mk.IAの試作第1号車が完成し、試験の結果軽戦車Mk.Iより優れていることが判明した。
軽戦車Mk.IAは5両の試作車が製作され、それぞれA4E6〜E10までの呼称が与えられた。
A4E8には、コイル・スプリング(螺旋ばね)を用いたホルストマン式サスペンションが導入された。
軽戦車Mk.IAは武装に関して様々な試験が行われ、その中には7.7mmと12.7mmのヴィッカーズ重機関銃を上下に連装で装備したものがあり、この車両はA4E10と名付けられた。
1931年には熱帯地での試験を行うため、4両の軽戦車Mk.IAが当時イギリスの植民地であったインドに送られた。
これらの車両には熱帯地向けの様々な改良が施されており、試験の結果インド政府はインドの地理的条件に合わせて若干変更した以外は、イギリス陸軍の車両と同じ仕様の軽戦車Mk.IAを発注した。
さらに1932年には、軽戦車Mk.IAを2両使用して様々な試験が行われた。
1両にはショアハム・バイ・シーのリカード社製のCI 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力65hp)が搭載され、もう1両には後部の誘導輪を廃止し、片側4個の転輪を薄板の積層リーフ・スプリング(板ばね)で2個ずつ懸架した改良型サスペンションが採用された。
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+構造
軽戦車Mk.Iは、1挺の7.7mmヴィッカーズ液冷重機関銃を装備した円筒形の砲塔を持つ2名用の軽戦車であった。
車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室となっていた。
サスペンション方式は一連のカーデン・ロイド豆戦車シリーズのものを踏襲しており、2個の転輪をリーフ・スプリングのボギーで支えたものを片側2組装備していた。
ただし、カーデン・ロイド系サスペンションの特徴であるガータービームは廃止されていた。
上部支持輪は片側3個で、履帯の張度調整は後部の非接地式の誘導輪の位置を調節することで行われた。
これは小さなことのようだが、イギリス戦車の設計における1つの革新であった。
車体主要部の装甲厚は14mmで、この結果戦闘重量は従来のカーデン・ロイド豆戦車よりも増加し4.25tとなった。
エンジンはウルヴァーハンプトンのヘンリー・メドウズ社製のEPT 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力59hp)を搭載し、路上で30マイル(48.28km)/hの最大速度を出すことができた。
車体の操向は一般の装軌式車両と同様に履帯の差動で行われ、変速・操向機は4段の機械式手動変速機とクラッチ・ブレーキ式の操向機を組み合わせていた。
続いて登場した軽戦車Mk.IAは構造がより洗練されたタイプで、円筒形の砲塔が大型化されたため機関銃の操作が若干容易になった。
なお、武装の機関銃は砲塔の装甲板でがっちり囲まれていたため、初期のイギリス軽戦車は射撃時に機関銃が過熱して射撃不良を起こす問題を生じていた。
この問題は後に軽戦車Mk.IVから冷却ジャケットを組み込むようになり、さらに軽戦車Mk.VIでは循環用ポンプが追加されたので機関銃の過熱は解消された。
軽戦車Mk.IAのサスペンションは、軽戦車Mk.Iに使われたリーフ・スプリングに代わって水平コイル・スプリングのホルストマン式サスペンションを使用していた。
このコイル・スプリングは、それぞれの転輪上の1/4円形のカバーと球形ジョイントで保持されており、このカバーは反対側の端で車体にピボットピンで取り付けられていた。
また軽戦車Mk.IAの装甲は避弾経始を考慮して、軽戦車Mk.Iに比べかなり傾斜が付けられていた。
インドでの熱帯地試験に供された4両の軽戦車Mk.IAには、砲塔上面に角張って傾斜面で構成された固定式のキューポラが取り付けられ、エンジンの冷却装置の改良も行われた。
戦車内の温度を減じるため様々な断熱材の内張りを施す実験も行われ、その結果アスベストの生地を張ることが一番効果的という結論が得られた。
この熱帯地試験で得られたデータは、後に海外で使用されるイギリス戦車に活かされていく。
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<軽戦車Mk.I>
全長: 3.581m
全幅: 1.917m
全高: 2.108m
全備重量: 4.28t
乗員: 2名
エンジン: メドウズEPT 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 58hp
最大速度: 48.28km/h
航続距離: 200km
武装: 7.7mmヴィッカーズ重機関銃×1 (2,500発)
装甲厚: 4〜11mm
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<参考文献>
・「パンツァー2012年8月号 戦間期の落とし子 イギリスの軽戦車Mk.6とそれに至るシリーズ」 三鷹聡 著 アル ゴノート社
・「パンツァー2003年4月号 1930年代のイギリス軽戦車Mk.I〜VI」 齋木伸生 著 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート40 イギリス戦車100年史」 アルゴノート社
・「エンサイクロペディア 世界の戦車 1916〜1945」 アルゴノート社
・「戦闘車輌大百科」 アルゴノート社
・「グランドパワー2013年9月号 ソ連軍軽戦車の系譜(3) 黎明期の豆戦車(1)」 斎木伸生 著 ガリレオ出版
・「アメリカ・イギリス陸軍兵器集 Vol.1 戦車」 後藤仁/大村晴 共著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 イギリス軍戦車」 大村晴/山県教介 共著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 米英軍戦闘兵器カタログ Vol.3 戦車」 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「グランドパワー2000年7月号 イギリス軍軽装軌車輌 1920〜39」 嶋田魁 著 デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「世界の戦車パーフェクトBOOK」 コスミック出版
・「世界の戦車 完全網羅カタログ」 宝島社
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