1964年に量産が開始された汎用装甲輸送・牽引車MT-LB(オブイェークト6)は転輪が、PT-76水陸両用軽戦車、およびファミリー車であるBTR-50装甲兵員輸送車と同じものを同じ数だけ使っているため(しかも上部支持輪が無いところも同じ)、以前はこれらをベースにした車両であると解説されることが多かった。 しかしMT-LB装甲輸送・牽引車は、PT-76水陸両用軽戦車とそのファミリー車両を開発したボルゴグラード・トラクター工場(VTZ)ではなく、ハリコフ・トラクター工場(KhTZ)が独自に開発した車両であり、転輪など足周りの一部にPT-76水陸両用軽戦車と同一のコンポーネントを使用したに過ぎない。 MT-LB装甲輸送・牽引車は当初、核戦争時代に対応する中型野砲用牽引車として開発されたものと見られる。 従ってNBC防護システムを備えると共に、7.62mm機関銃PKTを持つ小型銃塔(TKB-01)を搭載し、最小限の自衛火力を備えている。 車内には2名の乗員(車長と操縦手)の他、11名の操砲要員または砲弾などの貨物2tを搭載することができる。 機関室は車体左側の操縦手席後方に位置し、駆動はフロント・ドライブ式の起動輪で、ダブルガイド式のPT-76水陸両用軽戦車に比べてやや幅広の履帯に動力を伝達する。 要員・貨物室は車体右側および後部に位置し、このため車体後面に乗降と荷物積み下ろしのための観音開き式の大型ドアが配置されている。 このように、貨物と人員輸送という平凡な任務に似合った単純な構造を持っているが、それがかえって使い勝手の良さに繋がり、旧ソ連・ロシアはもとより供給された東欧諸国、中東諸国などでも装甲兵員輸送車として使用されたり、指揮官用車両や各種支援車両(対空部隊や工兵等)のベースとして用いられる等、今日に至るまで広く使用されている。 特に装甲兵員輸送車として使用した際には、車体後面に乗降用ドアがあることが同じ装軌式装甲兵員輸送車であるBTR-50シリーズや、装輪式装甲兵員輸送車のBTR-60シリーズと比べても大変に都合が良かった(BTR-50、BTR-60の両シリーズとも車体後部に機関室があるため、搭乗歩兵の出入りは車体側面ハッチや車体上面から行った)。 本車の生産は現在は行われていないが少なくとも1970年代いっぱいまでは量産が続けられ、1980年代まで大量に輸出が継続されたと思われる。 国際紛争の現場では、今日も必ず顔を出す旧ソ連製AFVの1つである。 派生型としては、寒冷積雪地および沼地踏破用の超幅広履帯を備えたMT-LBVがある他、低空・短距離用対空ミサイル・システム9K35「ストレラ(矢)10」の自走発射機(9A34、9A35)に使われている。 |
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<MT-LB装甲輸送・牽引車> 全長: 6.454m 全幅: 2.75m 全高: 1.92m 全備重量: 12.2t 乗員: 2名 兵員: 11名 エンジン: YaMZ-238V 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル 最大出力: 240hp/2,100rpm 最大速度: 61.5km/h(浮航 6km/h) 航続距離: 500km 武装: 7.62mm機関銃PKT×1 (2,500発) 装甲厚: 8〜10mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2013年5月号 旧ソ連時代から使われる汎用装甲車輌 MT-LB」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年1月号 多用途性に優れたMT-LB装軌牽引車」 前河原雄太 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年3月号 ソ連・ロシア装甲車史(8) BRDMの登場」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年2月号 フィンランド陸軍AFVの30年」 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年5月号 チェコ陸軍の現用AFV」 アルゴノート社 ・「ロシア軍車輌写真集」 古是三春/真出好一 共著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2020年5月号 赤の広場のソ連戦闘車輌写真集(5)」 山本敬一 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年12月号 フィンランド軍の戦闘車輌(3)」 齋木伸生 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 |
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