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メルカヴァMk.IV戦車





●攻撃力

メルカヴァMk.IV戦車はイスラエル陸軍の主力MBTであるメルカヴァ戦車シリーズの最新型で、1990年代初頭に開発が開始された。
2001年より先行生産型の製作が開始され、2002年6月24日に首都イェルサレムで行われた式典において初めて一般公開された。
2003年7月より部隊運用試験が開始され、2004年からは実戦部隊への配備が開始されている。

メルカヴァMk.IV戦車は年間50両のペースで約400両を生産することが計画されており、旧式化したマガフ戦車シリーズを置き換える形でイスラエル陸軍への配備が進められている。
メルカヴァMk.IV戦車の主砲は、Mk.IIIに装備されていたIMI社(Israel Military Industries:イスラエル軍事工業)製の44口径120mm滑腔砲MG251の改良型であるMG253が採用されている。

使用弾種はIMI社製のM322/M338 APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)、M325 HEAT-MP(多目的対戦車榴弾)に加えて、IMI社が新たに開発したM329 APAM-MP(多目的対人・対物弾)が使用できる。
M329は最大射程4〜5kmでタングステン調整破片と時限信管を内蔵しており、戦車にとって大きな脅威である航空機や攻撃ヘリコプターに有効な攻撃を行える他、遮蔽物に隠れた歩兵への攻撃も可能なため治安作戦でも使用される。

また、IAI社(Israel Aerospace Industries:イスラエル航空宇宙工業)が開発した砲腔発射式のLAHAT対戦車ミサイルを使用することも可能で、敵MBTに対してアウトレンジで攻撃を行うことができる。
主砲弾薬は合計48発が搭載されるが、砲塔内後部には即用弾5発を収めた回転式弾倉が2個配置されており、装填手が任意の弾種を選択すると主砲の砲尾近くまで砲弾が自動的に運ばれるようになっている。

砲尾への砲弾の装填は装填手の手で行われるため完全な自動装填ではないが、従来は砲塔底部に置かれた即用弾を装填手が一発ずつ持ち上げて装填していたのでかなり装填動作が迅速になっている。
またイスラエル陸軍は「戦車の乗員は掩体構築や車両整備、周辺警戒などで最低4名必要であり、自動装填装置を搭載して乗員を3名に減らすのは好ましくない、熟練した装填手なら自動装填装置と変わらない速度で装填を行える」と従来から主張しており、メルカヴァ戦車に自動装填装置を導入する考えは無いようである。

即用弾以外の主砲弾薬は従来通り車体後部に搭載されており、被弾時の誘爆を防ぐために砲弾はグラスファイバー製の耐火型コンテナに収められている。
メルカヴァMk.IV戦車の副武装は、主砲左側の砲塔装甲板に縦長の切り欠きを設けてベルギーのFN社製の7.62mm機関銃FN-MAGを1挺同軸機関銃として装備している他、車長用ハッチに設けられているリングマウントにも7.62mm機関銃FN-MAGを1挺装備している。

また主砲防盾上にマウントを設けてアメリカのブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2を1挺装備しているが、これは軽装甲目標や歩兵への攻撃に用いられる他、主砲の照準を行うための標定銃としても使用される。
イスラエル陸軍MBT固有の装備である対歩兵用の60mm迫撃砲は、メルカヴァMk.IV戦車でも砲塔内に装備されている。
Mk.IVでは迫撃砲用の弾道コンピューターが搭載されているため、かなり正確な射撃が可能となっている。

メルカヴァMk.IV戦車ではFCS(射撃統制システム)の強化も図られており、新型のナイトMk.IV FCSが採用されて昼/夜間に関わらず高い戦闘力を発揮できる。
さらにエルビット社製の「WINBMS」(Weapon-Integrated Battle Management System:兵器統合戦闘管理システム)と呼ばれるC4Iシステムも搭載されており、部隊単位の戦闘力が大きく向上している。


●防御力

メルカヴァMk.IV戦車は装甲防御力についても大幅に強化されており、特に砲塔周りの形状が従来のメルカヴァ戦車シリーズと大きく異なっている。
メルカヴァMk.IV戦車の砲塔形状は従来の鋭い楔形からずんぐりした亀甲型に変化しているが、これはゲリラが装備する携帯式の対戦車兵器に対して全周方向で高い防御力を発揮するための工夫である。

砲塔をこのような形状にすることで内部の主装甲と外部の追加装甲の間に大きな空間を設けており、成形炸薬弾頭の装甲穿孔力を大幅に低減させることができる。
また砲塔外周部の装甲板は70〜75度の極端な傾斜角が付けられているため避弾経始の効果が大きく、徹甲弾などの運動エネルギー弾に対する防御力も大きく向上している。

メルカヴァMk.IV戦車ではトップアタック方式の対戦車兵器への対策として、砲塔上面にもモジュール式の追加装甲が装着されている。
追加装甲を装着した影響で、メルカヴァMk.IV戦車はMk.IIIまで砲塔上面左側にあった装填手用ハッチが塞がれてしまっているが、後で必要になった場合のことを考えて追加装甲の下にはハッチの開口部が残されている。

またメルカヴァMk.II戦車以降と同様に、砲塔後部バスルの下には「チェイン・カーテン」と呼ばれる短い鎖の先端に鉄球を吊り下げたものを多数並べており、この部分の成形炸薬弾頭に対する防御力を強化している。
メルカヴァMk.IV戦車のサイドスカートは当初、メルカヴァMk.II戦車後期型以降と同じ複合装甲製のものを装着していたが、生産途中から日本の10式戦車などと同様に下半分をラバー薄板に変更したタイプのサイドスカートが用いられている。

このタイプのサイドスカートには、ラバー薄板の形状が直線のものと波型のものの2種類が存在するようである。
なお、このタイプのサイドスカートは最後部のみ格子装甲になっているが、これはこの部分に泥などが詰まり易いことへの対策である。
またメルカヴァ戦車シリーズはパワーパックが車体前部右寄りに搭載されている関係で、車体右側面前方にエンジンの排気口が設けられておりメルカヴァMk.IV戦車でもこれは踏襲されている。

メルカヴァMk.I〜Mk.III戦車ではエンジン排気口のスリットは垂直であったが、メルカヴァMk.IV戦車では避弾経始を考慮してスリットに45度の傾斜角が付けられるようになった。
ただしこれは極初期の生産車のみで、現在は強度を向上させるために楔形のスリット形状に変更されている。

またラファエル社とエルタ社によって、「トロフィー」(Trophy:ヘブライ語で「ウィンドブレーカー」を意味する)と呼ばれる新型の車両用APS(アクティブ防御システム)が2007年に開発されており、現在イスラエル陸軍が装備する戦車への導入が進められている。
イスラエル陸軍の最新鋭MBTであるメルカヴァMk.IV戦車は、すでに全車がトロフィーAPSを装備しているようである。

2011年3月1日にはニール・オズの付近において、ガザ地区からメルカヴァMk.IV戦車を狙って発射された対戦車ミサイルをトロフィーAPSによって撃墜することに成功したと伝えられている。
トロフィーAPSでは戦車の砲塔にエルタ社製のEL/M-2133火器管制レーダーのアンテナが4基設置され、自車に向かってくる対戦車ミサイルやロケット弾をレーダーが感知すると、砲塔の左右側面上部に装備された擲弾発射機から自動的に迎撃用擲弾を発射しこれらを撃墜するようになっている。


●機動力

メルカヴァMk.IV戦車では、メルカヴァ戦車シリーズの最大の弱点となっていた機動力の低さが大幅に改善されている。
メルカヴァMk.IV戦車のエンジンはドイツのMTU社製のMT883 V型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンを、アメリカのジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ社(現L-3 CPS社)でライセンス生産したGD883ディーゼル・エンジンが搭載されており、出力がメルカヴァMk.III戦車の1,200hpから1,500hpへと大きく向上している。

変速機はドイツのレンク社製のRK325自動変速機(前進5段/後進5段)を、AAI社(Ashot Ashkelon Industries:アショット・アシュケロン工業)でライセンス生産したものが採用されている。
このパワーパックは現在「ユーロ・パワーパック」と呼ばれているもの(MT883ディーゼル・エンジンとレンク社製のHSWL295自動変速機の組み合わせ)とほぼ同様のもので、現時点で最も高性能な重MBT用パワーパックという評価を受けているものである。

MT883ディーゼル・エンジンは排気量27.4リットルと非常にコンパクトながら最大1,600hpの大出力を発揮することができ、M1エイブラムズ戦車、チャレンジャー2戦車、ルクレール戦車の各輸出型にも採用されている。
この新しいドイツ製パワーパックによって、メルカヴァMk.IV戦車は戦闘重量が65tに増大しているにも関わらず路上最大速度64km/hの機動力を発揮できるようになり、長年敵対しているシリアが主力MBTとしている旧ソ連製のT-72戦車に機動力で見劣りしなくなった。


<メルカヴァMk.IV戦車>

全長:    9.04m
車体長:   7.60m
全幅:    3.72m
全高:    2.66m
全備重量: 65.0t
乗員:    4名
エンジン:  GDLS GD883 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,500hp/2,500rpm
最大速度: 64km/h
航続距離: 500km
武装:    44口径120mm滑腔砲MG253×1 (48発)
        13.3口径60mm迫撃砲C04×1 (30発)
        12.7mm重機関銃M2×1 (2,500発)
        7.62mm機関銃FN-MAG×3 (10,000発)
装甲:    複合装甲


<参考文献>

・「パンツァー2010年5月号 イスラエルMBTメルカバMk.4 そのメカニズムと運用上の教訓」 荒木雅也 著
 アルゴノート社
・「パンツァー2016年2月号 ユニークな配置を持つメルカバ戦車とそのメカニズム」  アルゴノート社
・「パンツァー2006年3月号 明らかになったメルカバMk.4の性能」 城島健二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年12月号 ベールを脱いだメルカバMk.4」 齋木伸生 著  アルゴノート社
・「パンツァー2008年9月号 AFVのアクティブ防禦システム」 林磐男 著  アルゴノート社
・「パンツァー2018年4月号 特集 メルカバの最新評価」 毒島刀也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2018年3月号 続・現代戦車の基礎知識」 毒島刀也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2023年12月号 メルカバ戦車最新情報」 毒島刀也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2009年9月号 世界の最新・現用MBT」 城島健二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2012年5月号 ステップアップを続けるメルカバ戦車」  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート18 メルカバとイスラエルMBT」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2007年10月号 イスラエル軍戦車 メルカバ(4)」 一戸崇雄 著  ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」  ガリレオ出版
・「新・世界の主力戦車カタログ」  三修社

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