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+攻撃力
メルカヴァMk.II戦車は、1983年から部隊配備が開始されたメルカヴァ戦車シリーズの2番目の生産型であり、メルカヴァMk.I戦車の初陣となった、1982年のレバノン侵攻(ガリラヤの平和作戦)で得られた戦訓を加味した、多くの改良が施されている。
メルカヴァMk.II戦車ではFCS(射撃統制装置)の強化が図られており、Mk.Iに搭載されていたマタドールMk.I FCSの改良型である、マタドールMk.II
FCSが採用されている。
マタドールMk.II FCSではレーザー測遠機が、Nd-YAG(ネオジム-イットリウム・アルミ・ガーネット)方式に変更されて性能が向上し、砲手用サイトには熱線映像装置が追加されている。
なおメルカヴァMk.II戦車の生産開始に合わせて、ラマト・ハシャロンのIMI社(Israel Military Industries:イスラエル軍事工業)では、M111
APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の改良型であるL7系105mmライフル砲用の新型APFSDSを開発しており、これは「M413」として制式化されて1984年から配備が開始された。
M413 APFSDSは弾頭重量6.3kg、砲口初速1,465m/秒、射距離2,000mで419mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することが可能で、シリア軍やイラク軍が装備するソ連製の新鋭戦車、T-72の前面装甲を貫徹できる性能を備えていた。
このM413 APFSDSの実用化によって、メルカヴァ戦車はT-72戦車と対等に戦える能力を手に入れたのである。
また、ロードのIAI社(Israel Aerospace Industries:イスラエル航空宇宙工業)の手で、L7系105mmライフル砲の砲腔から発射できるLAHAT対戦車ミサイルが開発されており、1992年からイスラエル陸軍のMBT(主力戦車)への装備化が開始されている。
ちなみに「LAHAT」(ラハト)は、”Laser Homing Anti-Tank:レーザー誘導対戦車”の略語と、ヘブライ語で「雷」を意味する単語を掛けた呼称である。
LAHAT対戦車ミサイルは、ERA(爆発反応装甲)への対策として二重の成形炸薬弾頭を備えており、射距離に関わらず約800mm厚のRHAを穿孔することが可能である。
ミサイルはレーザー誘導方式で、最大有効射程は約6kmとなっており、敵MBTをアウトレンジで攻撃することが可能な他、戦車にとって大きな脅威である地上攻撃ヘリコプターを迎撃することも可能である。
LAHAT対戦車ミサイルを運用する際にはFCSに若干の改修が必要であり、メルカヴァMk.II戦車には5〜6発程度が搭載される。
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+防御力
メルカヴァMk.II戦車では砲塔の前面と左右側面に、「バズーカプレート」と呼ばれる約60mm厚の追加装甲がボルト止めされ、車体前面装甲も装甲厚が強化されている。
バズーカプレートは、セラミック板を薄い防弾鋼板で包んで溶接した構造の、複合装甲になっていると推測されており、HEAT(対戦車榴弾)や対戦車ミサイル等の、成形炸薬弾頭に対する防御力を大きく向上させている。
また砲塔後部バスルの下には、新たに「チェイン・カーテン」と呼ばれるものが取り付けられている。
これは、短い鎖の先端に鉄球を吊り下げたものを多数並べた空間装甲の一種で、成形炸薬弾頭の装甲穿孔力を低減させる効果がある。
また、「サードアイ」(Third Eye:直観、第三の眼)と呼ばれるレーザー警戒システムが新たに装備され、装填手用ハッチ後方の砲塔上面にレーザー検知用のセンサーが立てられている。
またメルカヴァMk.II戦車では、サイドスカートがMk.Iの3分割式のものから、10分割式の新型のものに変更されている。
これは整備や交換の便を考慮したためで、スカートの取り付け方法も2枚一組で、楕円形のリーフ・スプリングを介して取り付けるように変更されている。
サイドスカートの材質も、当初はメルカヴァMk.I戦車と同じく約8mm厚の防弾鋼板製であったが、後にセラミックを内蔵していると思われる複合装甲製のものに変更され、成形炸薬弾頭への防御力を向上させている。
メルカヴァMk.I戦車では砲塔右側面に、外装式に装備されていた対歩兵用の60mm迫撃砲は、Mk.IIでは砲塔内装備に変更され、車内から安全に装填できるようになった。
60mm迫撃砲自体も、メルカヴァMk.I戦車に装備されていたC07からC04に型式が変更されている。
またメルカヴァMk.II戦車では、砲塔の左右側面前部にIMI社が開発した「CL-3030」と呼ばれる、ボックス式の6連装発煙弾発射機が装備されるようになった。
このCL-3030発煙弾発射機は現在、イスラエル陸軍AFVの標準装備となっており、センチュリオン戦車やマガフ戦車、M113装甲兵員輸送車などにも装備されている。
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+機動力
メルカヴァMk.II戦車のエンジンは、Mk.Iと同じアメリカのテレダイン・コンティネンタル自動車製の、AVDS-1790-5A V型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力908hp)であるが、変速・操向機はIMI社の子会社である、アシュケロンのAAI社(Ashot
Ashkelon Industries:アショット・アシュケロン工業)が開発した、新型の電子制御式自動変速・操向機(前進4段/後進2段)に換装されている。
この新型変速・操向機は、エンジン・ブレーキのためのリターダーが追加され、動力の伝達効率も大幅に改善されている。
メルカヴァMk.I戦車に用いられた、CD-850-6BXクロスドライブ式自動変速・操向機(前進2段/後進1段)と比較すると、機動性能が30%向上し、航続距離が100km延伸したといわれている。
またメルカヴァMk.I戦車では、転輪は全て軽量な鋼プレス製のものが使用されていたが、最も負荷が掛かる第1転輪が破損することが多かったため、メルカヴァMk.II戦車では第1転輪のみ、鋳鋼製の重く頑丈なタイプに変更されている。
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+ヴァリエーション
前述のようにメルカヴァMk.II戦車は、Mk.Iに比べて多くの部分に改良が施されているが、これらの改良点のうち特に重要なものについては、既存のメルカヴァMk.I戦車にも後から適用されており、Mk.IIに準じる改修を施した車両には、「メルカヴァMk.Iハイブリッド」という呼称が与えられている。
また、メルカヴァMk.II戦車は他のイスラエル陸軍MBTと同様に、その後も段階的に近代化改修が実施されている。
まず1980年代後期に、熱線映像装置などFCS関係の改良が実施され、この改良を施した車両には「メルカヴァMk.IIB(ベート)」の呼称が与えられた。
続いて1990年代に入った頃から、トップアタック方式の対戦車兵器に対処するため砲塔上面に追加装甲が装着されるようになり、この改修を施した車両には「メルカヴァMk.IIC(ギーメル)」の呼称が与えられた。
さらに1990年代末頃からは、成形炸薬弾頭への防御力を強化するため、砲塔の左右側面に楔形断面の大きな追加装甲モジュールが装着されるようになった。
この改修を実施した車両には、「メルカヴァMk.IID(ダレット)」の呼称が与えられている。
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メルカヴァMk.II戦車
全長: 8.63m
車体長: 7.45m
全幅: 3.72m
全高: 2.64m
全備重量: 61.0t
乗員: 4名
エンジン: テレダイン・コンティネンタルAVDS-1790-5A 4ストロークV型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼ
ル
最大出力: 908hp/2,400rpm
最大速度: 46km/h
航続距離: 450km
武装: 51口径105mmライフル砲M68×1 (62〜85発)
13.3口径60mm迫撃砲C04×1 (30発)
7.62mm機関銃FN-MAG×3 (10,000発)
装甲: 複合装甲
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参考文献
・「世界の戦車イラストレイテッド26 メルカバ主力戦車 MKs I/II/III」 サム・カッツ 著 大日本絵画
・「パンツァー2005年5月号 対決シリーズ メルカバ vs T-72戦車」 三鷹聡 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年11月号 メルカバ戦車の開発と発展」 齋木伸生 著 アルゴノート社
・「パンツァー2018年4月号 特集 メルカバの最新評価」 毒島刀也 著 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート18 メルカバとイスラエルMBT」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
・「グランドパワー2007年2月号 イスラエル軍戦車 メルカバ(1)」 一戸崇雄 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2007年3月号 イスラエル軍戦車 メルカバ(2)」 一戸崇雄 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2007年7月号 イスラエル軍戦車 メルカバ(3)」 一戸崇雄 著 ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版
・「徹底解説 世界最強7大戦車」 齋木伸生 著 三修社
・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社
・「世界の「戦車」がよくわかる本」 PHP研究所
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー
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