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マークスマン対空自走砲


チーフテン・マークスマン対空自走砲



ヴィッカーズMk.3マークスマン対空自走砲



●開発

戦後イギリス陸軍は長らく対空自走砲を開発してこなかったが、1980年代に入って陸軍はチーフテン戦車の車体をベースとする新型対空自走砲を調達することを計画し、国内の兵器メーカーに対して提案を募った。
これに応じて王立造兵廠とフランスのトムソンCSF社が共同開発したのが「セイバー」(Sabre:サーベル)対空自走砲で、一方マルコーニ電子システム社が開発したのが「マークスマン」(Marksman:射撃の名手)対空自走砲である。

この新型対空自走砲は、既存の戦車車体をそのまま流用できるように対空機関砲やレーダーなどの武装システムを全て砲塔内に詰め込んで完結させることが求められており、セイバーとマークスマンはそれぞれ砲塔1基ずつが自社資金で製作されてチーフテン戦車の車体に搭載され、イギリス陸軍の試験に供された。
セイバー対空自走砲は王立造兵廠の手になる30mm対空機関砲を連装で装備し、これにオエイル・ヴァートと呼ばれる起倒式のドップラー捜索レーダーとFCS(射撃統制システム)を搭載したものであった。

一方マークスマン対空自走砲は、スイスのエリコン社製の35mm対空機関砲KDAを幅の広い箱型の砲塔に連装で装備し、砲塔後部に捜索距離12km、追尾距離10kmの起倒式捜索・追尾レーダーを備えていた。
しかし結局、イギリス陸軍はセイバーとマークスマンのいずれも採用すること無く、新型対空自走砲計画は中止された。

これは当時、牽引型のレイピア対空ミサイル・システムをアメリカ製のM548貨物輸送車の車体後部に搭載した自走型レイピアの導入をイギリス陸軍が進めていたためで、防空任務は自走型レイピアに任せれば新たに対空自走砲を導入する必要は無いと判断されたのである。
その後もマルコーニ社はヴィッカーズMk.3戦車やチャレンジャー戦車など様々な車体にマークスマン砲塔を搭載した試作車を製作してイギリス陸軍や海外に対して売り込みを図ったが、なかなか商談が成立しなかった。

しかしそんな中、自国陸軍が運用している旧式なソ連製のZSU-57-2対空自走砲の後継車両の調達を計画していたフィンランド政府が、比較的安価で高性能な対空自走砲としてマークスマンに目を付けた。
フィンランド政府は当時陸軍が運用していたソ連製のT-55AM戦車の車体への搭載を目的として、マルコーニ社に対して所定の砲塔リング径に改めることを条件として1988年12月にマークスマン砲塔システム7基を発注し、製作された砲塔は1991年10月から引き渡しが開始された。

しかし1992年に不具合が発見されたため1993〜94年にかけて改修が行われ、1996年から実戦配備が開始された。
「It.Psv.90 Marksman」(90式対空戦車マークスマン)として制式化されたフィンランド陸軍のマークスマンは、前述のように当初T-55AM戦車の車体に搭載されて運用されていたが、後にフィンランド陸軍がドイツから中古のレオパルト2A4戦車を導入したため、現在はレオパルト2A4戦車の車体に載せ替えて運用を続けているようである。

前述のようにマークスマン対空自走砲の最大の特徴は、従来の対空自走砲のように車体と砲塔を全て含めてシステムとして完結するのではなく、対空機関砲やレーダーといった武装システムのみを砲塔内に全て詰め込んで完結させ、車体については既存の戦車車体を流用できるようにした点である。
現代の対空自走砲は非常に高価で中小国には開発が不可能になってきているため、マルコーニ社は完結した砲塔システムの形で販売することで、安価に対空自走砲を作り出すことを可能にしたのである。

日本の87式自走高射機関砲が1両当たり約14億円するのに対し、マークスマン対空自走砲は約3億円と非常に安価であり、しかも戦後に開発されたほとんどのMBTの車体に搭載可能なのは非常に魅力的に思われる。
残念ながら、現在の販売実績はフィンランドに7両が採用されたのみであるが、そのコンセプト自体は間違っていなかったのは確かであろう。


●構造

マークスマン対空自走砲の砲塔は、砲塔内にほとんどのシステムを収容しなければならなかった関係で、ドイツのゲーパルト対空自走砲や日本の87式自走高射機関砲などの砲塔に比べて幅のある箱型をしており、その左右に主武装である対空機関砲を装備している。
主武装は、西側の近代的対空自走砲の標準武装ともいえるスイスのエリコン社製の35mm対空機関砲KDAを装備している。

このKDA機関砲は90口径という長砲身砲で、APDS(装弾筒付徹甲弾、重量380g)で1,385m/秒という高初速、発射速度も1門当たり550発/分と高率を誇っている。
弾薬は対空用にHEI(焼夷榴弾、重量535g)、SAPHEI(半徹甲焼夷榴弾、重量550g)、対地用にAPDSがある。
砲口初速はAPDS以外、1,175m/秒である。

対空用の最大有効射程は約4,000mで弾薬には近接信管が内蔵されておらず、直撃により目標を撃破する。
射撃は通常、20〜40発のバースト射撃が行われる。
機関砲の弾倉は、ゲーパルトや87式では砲塔下に巨大なドラム型弾倉を備えているが、マークスマンではコンテナ式弾倉に変更されており、再装填時間を短縮して対応能力を向上させている。
各機関砲の弾倉内にはHEI 230発、APDS 20発の合計250発の弾薬が収納されている。

レーダーはゲーパルトや87式が捜索レーダーと追尾レーダーを個別に装備しているのに対して、マークスマンは砲塔後部にディッシュ型のシリーズ400起倒式レーダーを1基装備しているだけで、これが捜索レーダーと追尾レーダーを兼ねている。
これは捜索レーダーと追尾レーダーを個別に装備した場合に比べて若干性能が劣るのではないかと思われるが、マルコーニ社は性能よりもコストの低減を優先してこの方式を採用したようである。

もちろん高性能なコンピューターをリンクさせたFCSを搭載することで処理速度を向上させ、交戦時間を短縮して対応するように考えているようである。
マークスマンのレーダー性能は捜索距離12km、追尾距離10kmとなっている。
またバックアップ用として2軸が安定化された光学照準サイトを2基装備しており、8kmまで計測可能なレーザー測遠機も組み込まれている。

このサイトはバックアップ用としてだけではなく、レーダーと独立して捜索・追尾用に使用することも可能で、マークスマンはレーダーと光学照準サイトで最大3目標の同時追尾が可能となっている。
砲塔内の武装システムを機能させるために、マークスマンはAPU(補助動力装置)を装備している。
このAPUはディーゼル・エンジンで、砲塔後部に搭載されている。


<参考文献>

・「パンツァー2011年4月号 AFVの主力火器 エリコンの車載機関砲」 加藤聡 著  アルゴノート社
・「パンツァー2009年7月号 対空自走砲の歴史と現状」 坂本雅之 著  アルゴノート社
・「パンツァー2012年5月号 イギリスの対空戦車」 竹内修 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年9月号 戦車車体改造の対空自走砲」  アルゴノート社
・「パンツァー2020年2月号 LEOPARD2 MARKSMAN」  アルゴノート社
・「パンツァー2000年3月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート51 スカイスイーパー 対空自走砲」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  潮書房光人新社
・「グランドパワー2016年7月号 チャレンジャー主力戦車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2014年10月号 チーフテン主力戦車」 後藤仁 著  ガリレオ出版

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