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マルダー2歩兵戦闘車





●開発

ソ連軍は1960年代後期から従来の兵員輸送を主目的とするAPC(装甲兵員輸送車)と異なり、兵員輸送能力と高い戦闘能力を両立させたIFV(歩兵戦闘車)という新しいジャンルの車両の実戦配備を開始した。
APCが自衛用の機関銃程度しか武装を装備していないのに対し、ソ連初のIFVであるBMP-1歩兵戦闘車は73mm低圧滑腔砲や9M14マリュートカ対戦車ミサイルなど、戦車にも対抗可能な強力な武装を装備しており、西側の軍事関係者たちを驚かせた。

このBMP-1に対抗するために西側諸国もIFVの開発に着手したが、その中でも先陣を切ってIFVの実用化に漕ぎ着けたのが西ドイツであった。
西ドイツが1960年代末に実戦化したマルダー歩兵戦闘車は、長砲身の20mm機関砲と強力なミラン対戦車ミサイルを装備し、防御力でもBMP-1を大きく上回る優秀なIFVであった。

マルダーは1975年までに2,136両が生産されて、レオパルト1/2戦車と共に長らく西ドイツ軍機甲師団の主力装備の座を担ってきた。
しかし1980年代半ばにはさすがに旧式化が目立ってきたため、西ドイツ政府は80年代末にマルダーの近代化改修型と、後継となる新型IFVの開発を並行して進めることを決めた。
この新型IFVとして開発されたのが、マルダー2歩兵戦闘車である。

マルダー2の開発に際してはクラウス・マッファイ、ティッセン・ヘンシェル、ダイムラー・ベンツ、クルップMaKの4社が基本設計案を提出し、比較検討の結果1987年末にクラウス・マッファイ社の案が選択されて試作車の製作契約が結ばれた。
そして「VT001」と呼ばれる試作第1号車が1991年9月に完成し、各種試験に供された結果満足すべき性能を示したためマルダー2は750両の調達が計画された。

しかし1990年に東西ドイツが統合されたことでドイツ政府が深刻な財政難に陥ったことや、翌91年末にソ連が崩壊して冷戦が終結した等の理由により、当時開発が進められていた各種兵器は見直しが行われることになり、IFVについては現用のマルダーを近代化改修して21世紀まで運用を継続するよう方針転換が図られ、マルダー2は1992年に計画自体がキャンセルされることとなった。


●構造

マルダー2歩兵戦闘車は前作のマルダー歩兵戦闘車の発展型というよりも、イギリスが1980年代後期に実戦化したFV510ウォーリア歩兵戦闘車の影響を強く受けており、外見もウォーリアとよく似ていた。
車内レイアウトは車体前部左側に操縦室、前部右側にパワーパックを収める機関室を配し、車体中央部に全周旋回式砲塔を搭載する戦闘室、車体後部に兵員7名を収容する兵員室を配するという、近代型IFVに共通するアウトラインにまとめられていた。

マルダー2の車体は圧延防弾鋼板を用いた溶接構造が採られ、基本構造の上からモジュール化された増加装甲板を装着し、必要に応じてこの装甲板を変更することで交換や、より強力な装甲板が開発された際の適応性を持たせていた。
足周りの構造についてはマルダーを踏襲しており、フロント・ドライブ方式で片側6個の転輪と片側3個の上部支持輪を組み合わせており、各転輪はトーションバー(捩り棒)式サスペンションで懸架されていた。

マルダーに比べて大幅に装甲防御力が強化された結果、マルダー2の戦闘重量は44.3tとマルダーより約15tも増加したが、Pz.H.2000 155mm自走榴弾砲と同じ強力なパワーパック(MTU社製のMT881Ka-500 V型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,000hp)と、レンク社製のHSWL284自動変速機(前進4段/後進2段)の組み合わせ)のおかげで路上最大速度60km/hの高い機動性能を発揮できた。

車体後面の乗降用ドアはマルダーが1枚板のランプドアだったのに対し、マルダー2では観音開きの2枚式に変更された。
また兵員室上面にも、乗降/視察に用いる4枚の円形ハッチが装備されていた。
車体の左右側面には外部視察用に各3基のペリスコープが設けられていたものの、ウォーリアと同様にガンポートは未装備とされており、搭乗兵員が外部に向けて射撃する能力は求められなかった。

マルダー2の砲塔は主武装として、ラインメタル社にヘッケラー&コッホ社やマウザー製作所などの各社が協力して開発された35/50mm機関砲Rh503が装備され、車長と砲手の2名が収められていた。
このRh503機関砲は砲身を変更するだけで35mmと50mmの弾丸を射撃することが可能で、射撃速度は150〜400発/分の範囲で切り替えが可能であった。

さらにディジタル・コンピューターを介したFCS(射撃統制システム)と、車長用として展望式照準機、砲手にはレーザー測遠機を組み込んだ熱線映像照準機が装備され、車長、砲手共に液晶ディスプレイが標準装備となっており、マルダーより戦闘力は大きく向上を見せていた。
副武装としてはRh503機関砲と同軸に7.62mm機関銃MG3を1挺装備していた他、砲塔の前面右側に3連装の発煙弾発射機を装備していた。


<マルダー2歩兵戦闘車>

全長:    7.31m
全幅:    3.48m
全高:    3.05m
全備重量: 44.3t
乗員:    3名
兵員:    7名
エンジン:  MTU MT881Ka-500 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,000hp/2,700rpm
最大速度: 60km/h
航続距離: 500km
武装:    35/50mm機関砲Rh503×1 (287発)
        7.62mm機関銃MG3×1 (5,000発)
装甲厚:


<参考文献>

・「パンツァー2001年5月号 防禦力強化が進む最近の戦闘兵車」 斎木伸生 著  アルゴノート社
・「パンツァー2000年5月号 ドイツ企業が開発した輸出用戦闘兵車」  アルゴノート社
・「パンツァー2011年6月号 今月のトピックス」  アルゴノート社
・「パンツァー2001年6月号 海外ニュース」  アルゴノート社
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」  デルタ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー


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