M8軽戦車
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+概要
第2次世界大戦前から続いたアメリカ陸軍の軽戦車の歴史は、M551シェリダン空挺軽戦車を最後として忘れられた存在となっていたが、小型軽量でかつ発射時の反動が少ない大口径砲が実用化されたことと、空輸できるというメリットもあり、アメリカ陸軍は1980年代初めに「AGS」(Armored
Gun System:装甲砲システム)の計画呼称で、M551空挺軽戦車の後継となる新型軽戦車の調達計画をスタートさせた。
これに応じる形で、アメリカ国内の兵器メーカー数社が自社資金で新型軽戦車の開発に着手した。
その中の1つが、ペンシルヴェニア州フィラデルフィアのFMC社(現BAEシステムズ社)が1983年に開発を開始した、「CCV-L」(Close
Combat Vehicle-Light:軽量近接戦闘車両)である。
このCCV-Lは当初、装甲兵員輸送車に酷似した箱型の装軌式装甲車体の上部に、無砲塔式とした旧西ドイツのラインメタル社製の105mm低反動ライフル砲を装備して、乗員3名は全て車体内に収められ、回転式自動装填装置を採用するなど意欲的なコンセプトが盛り込まれていた。
しかし、後に剥き出しの主砲は砲塔型式に改められ、砲自体も国産の105mm低反動ライフル砲に変更されたため、外観は大きく変化した。
なおAGS計画にはCCV-Lの他にも、ルイジアナ州スライデルのキャディラック・ゲージ社製の「スティングレイ」(Stingray:アカエイ)軽戦車、アラバマ州モービルのテレダイン・コンティネンタル自動車製の「遠征戦車」(Expeditionary
Tank)等が提案された。
アメリカ陸軍の手で長期間に渡って実施された性能比較試験の結果、1992年にアメリカ国防省はCCV-Lを「XM8」の呼称で、陸軍の次期軽戦車として採用することを決定した。
XM8軽戦車は1995年10月に「M8 AGS」として制式化され、量産の準備まで行われたものの、東西冷戦の終結やアメリカ政府の財政難等の理由で軍事費が削減されることになったため、国防省は1996年2月5日にAGS計画のキャンセルを発表した。
M8軽戦車は、アメリカ軍の主力輸送機であるC-130中型輸送機での空輸を可能とするために、車体の材質に防弾アルミ板を用いて軽量化を図ると共に、極限までのコンパクト化が図られている。
シルエットを小型化するために砲塔の取り付け位置を低くし、機関室の後部だけを一段高くしてパワーパックを収容している。
また砲塔の小型化のために自動装填装置を採用し、装填手を省いて乗員を3名に減らすことで車内スペースを節約している。
これらの結果、M8軽戦車は戦闘重量を10t級に抑えることに成功している。
また本車は開発期間の短縮とコストの低減を図って、可能な限り既存の車両からコンポーネントを流用している。
エンジンはM977重トラック、変速・操向機はM2ブラッドリー歩兵戦闘車、レーザー測遠機と横風センサーはM1A1エイブラムズ戦車、コンピューター操作パネルはイギリスのチャレンジャー2戦車からそれぞれ流用されている。
主砲には、西側の戦後第2世代MBT(主力戦車)の標準武装ともいえる、イギリスの王立造兵廠製のL7系105mmライフル砲と共通の弾薬を使用できる、ニューヨーク州のウォーターヴリート工廠製の51口径105mm低反動ライフル砲M35を採用している。
また本車は、戦後第3世代MBT並みの高度なFCS(射撃統制装置)を採用しているため、戦後第2世代MBTよりも射撃性能では上回っている。
もっとも装甲は脆弱であり、真っ向からの砲戦ではMBTに対して勝ち目が無いことは明らかである。
M8軽戦車の車体と砲塔には、作戦を行う状況に応じて変更可能なモジュール式の増加装甲パッケージが用意されており、装甲防御力のレベルを1〜3の3段階から選択できるようになっている。
レベル1と呼ばれる軽装甲パッケージは、空輸が可能な緊急展開部隊用として小口径弾や榴弾の破片に対する防御力を備えており、装着後の戦闘重量は19.25tである。
レベル2はより防御力の強化が図られたもので、装着後の戦闘重量は22.25tとなる。
レベル3は30mm機関砲弾に対する防御力を付与するもので、装着後の戦闘重量は24.75tとなる。
M8軽戦車のエンジンは、M977重トラックに用いられているミシガン州デトロイトのジェネラル・モータース(GM)社デトロイト・ディーゼル部門製の、8V-92TA
V型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンと85%の共通パーツを持つ、同社製の6V-92TA V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジンが搭載されているが、JP8燃料を用いた場合は550hp、DF2ディーゼル燃料を用いた場合は580hpと出力が異なる。
このエンジンに、M2歩兵戦闘車で採用されたコネティカット州フェアフィールドのジェネラル・エレクトリック社製の、HMPT-500-3EC油圧式変速・操向機やラジエイター、各種補機類を組み合わせてパワーパックを構成し、車体後部に収めているが、車体後面に設けられたランプドアを開くことで、パワーパックを後方に簡単に引き出して整備などが行えるようになっている。
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<M8軽戦車>
全長: 9.18m
車体長: 6.096m
全幅: 2.692m
全高: 2.555m
全備重量: 19.25t(レベル1)、22.25t(レベル2)、24.75t(レベル3)
乗員: 3名
エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-92TA 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 550hp/2,400rpm
最大速度: 72.42km/h
航続距離: 483km
武装: 51口径105mm低反動ライフル砲M35×1 (30発)
12.7mm重機関銃M2×1 (600発)
7.62mm機関銃M240×1 (4,500発)
装甲厚:
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<参考文献>
・「パンツァー2013年8月号 第二次大戦後の軽戦車の展望」 大竹勝美 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年8月号 軽戦車はなぜモノにならない?」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2022年4月号 アメリカがめざす未来の戦場」 三鷹聡 著 アルゴノート社
・「パンツァー2005年4月号 復活が期待されるM8軽戦車」 武藤猛 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年8月号 アメリカのAGS試作車輌」 アルゴノート社
・「パンツァー2021年12月号 軍事ニュース」 アルゴノート社
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー
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