トルコ陸軍はアメリカ製のM60戦車とドイツ製のレオパルト1戦車を主力MBTとして運用してきたが、これらは原型が1950~60年代に開発された戦車であるためすでに旧式化してしまっていた。 このためトルコ政府は1990年代末にこれらの後継となる新型MBTの導入と、既存のM60戦車の近代化改修を計画し海外の兵器メーカーに広く提案を募った。 M60戦車の近代化改修計画にはアメリカのGDLS(ジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ)社製のM60-2000戦車、イスラエルのIMI社(イスラエル軍事工業)製の「サブラ」(Sabra:イスラエル生まれのユダヤ人)戦車などが提案されたが、トルコ陸軍による評価試験の結果IMI社のサブラ戦車を「M60T」(”T”はTürkiye:トルコの頭文字)の名称で採用することになった。 サブラ戦車はIMI社がイスラエル陸軍のM48/M60戦車を近代化改修したマガフ戦車シリーズの発展型であり、M60戦車を火力・防御力・機動力の全ての面で戦後第3世代MBTのレベルにグレードアップするものである。 現在サブラ戦車はMk.IとMk.IIの2種類が開発されているが、M60T戦車はサブラMk.II戦車をベースにトルコ陸軍の要望に合わせた独自の改良を加えることとなった。 サブラ戦車の主砲は、M60戦車が装備していたアメリカ製の51口径105mmライフル砲M68(イギリスの王立造兵廠製のL7の改修型)に代えて、イスラエル陸軍のメルカヴァMk.III戦車の主砲と同じIMI社製の44口径120mm滑腔砲MG251が装備されるが、M60T戦車ではメルカヴァMk.IV戦車の主砲と同じ新型の44口径120mm滑腔砲MG253に換装される。 砲塔の前面と左右側面、車体前面、サイドスカートには新開発のモジュール装甲システムが装着され、装甲防御力が大幅に強化される。 ただしサブラ戦車の場合、モジュール装甲を装着すると砲塔の形状がM60戦車と大きく変化し平面で構成された楔形の形状になるのに対し、M60T戦車の砲塔はモジュール装甲を装着した状態でもM60戦車の亀甲型の形状を残したデザインになっている。 またサブラ戦車ではM60戦車に装備されていたM19銃塔型車長用キューポラを撤去して、代わりにイスラエルのウルダン工業製の背の低いウルダン・キューポラが装着されるが、M60T戦車ではM19銃塔型キューポラがそのまま残されている。 M60戦車では砲塔の旋回と主砲の俯仰は油圧で駆動していたが、M60T戦車では火災の危険性が低く反応が早い電動式に変更される。 M60T戦車のFCS(射撃統制システム)はサブラ戦車と同じイスラエルのエルビット/エロップ社製の「ナイト」(Knight:騎士)FCSに換装され、昼/夜間に関わらず高い戦闘力を発揮できる。 ナイトFCSはディジタル弾道コンピューターと砲手用の2軸安定型昼/夜間サイト、レーザー測遠機、車長用昼間サイト等から成る。 砲手用暗視サイトはパッシブの赤外線(熱線)方式で、車長用サイトにも画像を送れる。 またM60T戦車は、アメリカのM1A2エイブラムズ戦車と同様にCITV(Commander's Independent Thermal Viewer:車長用独立熱線映像装置)が搭載され、砲手が目標に狙いを合わせている時でも車長は自分専用のCITVを思いのまま旋回して別な脅威を警戒し、敵目標を探知することができるようになっている。 サスペンションはトーションバー・スプリングとショック・アブソーバーが強化され、乗り心地と射撃時の安定性が向上する。 サブラ戦車の履帯はM60戦車のダブルピン/ラバーブロック組み立て式のT142履帯から、メルカヴァ戦車シリーズに採用されているものと同じウルダン工業製のシングルピン式鋳造履帯に変更されるが、M60T戦車はドイツのディール社製の履帯を採用している。 M60T戦車のパワーパックは、ドイツのMTU社製のMT881Ka-501 V型8気筒多燃料液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,000hp)と、レンク社製のRK304S自動変速機(前進4段/後進4段)の組み合わせで、路上最大速度がM60戦車の48km/hから55km/hに向上する。 2002年3月29日にトルコ政府とIMI社との間で、170両のM60戦車を6億8,800万ドルでM60T戦車に改修する契約が結ばれ、2005年に最初のM60T戦車がトルコ陸軍に引き渡されて評価試験が行われた。 評価試験の結果トルコ政府は2006年5月にM60T戦車を採用することを正式決定し、2007~2009年4月にかけて170両のM60戦車がM60T戦車に改修された。 改修にあたってはIMI社からM60T戦車の改修キットがトルコに送られ、トルコ陸軍の第2整備本部においてM60戦車の改修作業が実施された。 |
<M60T戦車> 全長: 9.40m 車体長: 6.95m 全幅: 3.63m 全高: 3.27m 全備重量: 59.0t 乗員: 4名 エンジン: MTU MT881Ka-501 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,000hp/3,000rpm 最大速度: 55km/h 航続距離: 450km 武装: 44口径120mm滑腔砲MG253×1 (42発) 12.7mm重機関銃M85×1 7.62mm機関銃FN-MAG×1 装甲: 複合装甲 |
<参考文献> ・「パンツァー2010年12月号 第三世代戦車の流出で活況を呈する世界の戦車マーケット」 竹内修 著 アルゴ ノート社 ・「パンツァー2005年6月号 イスラエルのM48/60戦車近代化シリーズ」 白石光 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2018年6月号 マガフ イスラエル流リビルド戦車の全貌」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年11月号 1960~2000年代のトルコ軍AFV」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年9月号 イスラエルの改修戦車 サブラ」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年2月号 2002年の海外戦闘車輌の動向」 林磐男 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2022年1月号 トルコ兵器産業の展望」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年4月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年6月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年9月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年3月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年4月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート18 メルカバとイスラエルMBT」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社 |