M60A3戦車は1978年に量産が開始されたM60戦車シリーズの最終生産型で、M60A1RISE戦車の近代化をさらに進め1980年代の必要性に対応した改良型である。 アメリカ陸軍が1950年代末から運用を続けていたM60戦車シリーズは、パットン戦車シリーズの古臭い基本設計を受け継いでいたため抜本的な能力の向上は望めず、近い将来登場するであろうソ連軍の新型MBTに対抗するのは難しいと思われたため、アメリカ陸軍は早急にこれに代わる新型MBTを実戦配備することを望んでいた。 しかしアメリカ陸軍がM60戦車の後継として1963年から西ドイツ陸軍と共同で開発を進めた新型MBT「MBT70」(Main Battle Tank 70)は、双方の運用思想の食い違いやコストの高騰が原因で1970年に開発が中止され、その代替として開発が進められたXM1戦車も様々なトラブルの発生により実用化は1980年代中頃になることが予想されたため、やむなくアメリカ陸軍は1980年代もM60戦車シリーズの運用を続けることになった。 すでにアメリカ陸軍は1971年からM60A1戦車に対して、「RISE」(Reliability Improvements for Selected Equipment:実用性向上/装備近代化)と呼ばれる近代化改修を実施していた。 RISEは主としてM60A1戦車の装備を近代化することを主眼とした改修であったが、アメリカ陸軍は1972年末に信頼性や耐久性を向上させながらM60A1戦車の性能をさらに向上させる近代化改修プラン「M60A1E3」を立案した。 M60A1E3はMBT70戦車の開発経験を基に実用性の低下やコストの上昇を招かないような形で改良を行うことを目指しており、特に「RAM-D」(Reliability、Availability、Maintainability-Durability:信頼性、稼動性、整備・耐久性)と呼ばれる3つの要素を重要視していた。 M60A1E3は1975年から試験が開始され、翌76年にこの改修を施した車両がアメリカ陸軍に引き渡されて「M60A3」の名称が与えられることになった。 M60A3戦車の生産は1978年2月からクライスラー社のデトロイト工場で開始され、1983年度までに合計1,686両が生産された。 さらに既存のM60A1戦車から2,100両がA3仕様に改修されており、合計で3,786両のM60A3戦車が誕生した。 M60A3戦車はFCS(射撃統制装置)を先進・高性能化することにより、戦後第3世代MBTに匹敵する夜間作戦での高度な攻撃能力を獲得している。 FCSはM21アナログ式弾道コンピューター、YAG(イットリウム・アルミ・ガーネット)レーザー測遠機AN/VVG-2、AN/VSG-2 TTS(Tank Thermal Sight:戦車用熱線映像サイト)が新たに導入され、これらの改良によってM60A3戦車の初弾命中率は飛躍的にアップしたという。 実験によれば昼間の射撃での命中率はM60A1戦車に比べて30%以上高くなり、夜間での暗視能力は2倍以上に向上している。 また中東戦争でイスラエル軍が捕獲した旧ソ連製のT-62中戦車を使っての初弾命中率の実験(昼間)では、射距離1,500mで撃ち合った場合M60A3戦車の初弾命中率は約75%であり、T-62中戦車は約46%であったという。 足周りでは重量の増加に応じてサスペンションが強化され、上部支持輪がアルミ製から鋼製に変更された。 また主砲の砲身には熱による歪みを補正するため、グラスファイバー製のサーマル・ジャケットが装着されている。 |
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<M60A3戦車> 全長: 9.436m 車体長: 6.947m 全幅: 3.632m 全高: 3.256m 全備重量: 51.98t 乗員: 4名 エンジン: コンティネンタルAVDS-1790-2C 4ストロークV型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 750hp/2,400rpm 最大速度: 48.28km/h 航続距離: 448km 武装: 51口径105mmライフル砲M68×1 (63発) 12.7mm重機関銃M85×1 (900発) 7.62mm機関銃M240×1 (5,950発) 装甲厚: 12.7〜254mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2008年3月号 M60戦車の40年」 佐藤慎ノ亮/竹内修 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年6月号 レオパルト1A5 vs M60A3」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年4月号 M60戦車シリーズ」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年1月号 近代化された第2世代MBT」 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート8 パットン戦車シリーズ」 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート9 レオパルト1と第二世代MBT」 アルゴノート社 ・「世界AFV年鑑 2005〜2006」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2014年4月号 M60主力戦車の開発と構造」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 |
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