120S/M60-2000戦車
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+開発
アメリカ陸軍の戦後第2世代MBTとして1950年代末に実用化されたM60戦車は、現在では旧式化してしまっており、アメリカ陸軍では戦後第3世代MBTであるM1エイブラムズ戦車に置き換えられ、大部分が退役している。
しかし、第3世代MBTは非常に高価で簡単には購入できないため、世界22カ国の軍隊において現在もM60戦車シリーズが主力MBTとして使用され続けている。
そこで旧式のM60戦車を、2000年代にも通用するMBTに近代化改修するプランが幾つも公表されている。
2000年代初頭、M1エイブラムズ戦車の製造メーカーであるミシガン州スターリングハイツのGDLS(ジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ)社が、少なくともM1A1戦車レベルに匹敵するM60戦車の改良モデルを提案した。
これが、「120S」(別名:M60-2000)と呼ばれる近代化改修プランで、トルコ陸軍が1990年代末に計画した、M60戦車の後継MBT調達計画(1,000両規模)に参加するために企画されたといわれる。
GDLS社は2000年末に自社資金で120S戦車の開発に着手しており、2001年8月には試作車が完成した。
120S戦車の試作車は、同年10月にトルコで開催された兵器展示会「IDEF(International Defence Industry Fair:国際防衛産業見本市)2001」で初めて公開され、IMI社(イスラエル軍事工業)が提案したM60近代化改修プラン、「サブラ」(Sabra:イスラエル生まれのユダヤ人)の試作車などと共に、トルコ陸軍による評価試験に供された。
しかし、残念ながら120S戦車はトルコ陸軍には採用されず、今のところ他の商談も成立していない模様である。
120S戦車の基本コンセプトは、既存のM60戦車の車体に120mm滑腔砲を装備するM1A1戦車の砲塔を搭載し、2000年代に通用するMBTに仕立て上げようというもので、車体と砲塔にはさらに手が加えられる。
もちろん費用は、新品のM1A1戦車を買うよりずっと安く済む。
このようにGDLS社の提案する120S戦車は、既存の最新システムを旧式なM60戦車に組み込むだけで安価に、M1A1戦車クラスのMBTを確実に実現できる戦車プランといえるであろう。
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+攻撃力
120S戦車の主砲は、M1A1/A2戦車と同じくアメリカ製の44口径120mm滑腔砲M256を装備している。
このM256は、ドイツ陸軍のレオパルト2A0〜A5戦車の主砲に採用された、同国のラインメタル社製の44口径120mm滑腔砲Rh120をベースに、ニューヨーク州のウォーターヴリート工廠で、部品点数を若干減らす等の改良を施したライセンス生産型である。
120mm滑腔砲M256は、ラインメタル社製のDM53 APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を使用した場合、砲口初速1,670m/秒、射距離2,000mで650mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹可能とされている。
120S戦車の主砲弾薬搭載数は42発となっており、砲塔内に36発、車体内に6発搭載される。
FCS(射撃統制装置)はM1A1戦車と同系のもので、砲手用サイトにはレーザー測遠機、熱線映像装置が内蔵されている。
そして車長用サイトには、最新型のM1A2戦車が装備しているCITV(Commander's Independent Thermal Viewer:車長用独立熱線映像装置)を採用している。
このシステムの搭載によって120S戦車は、夜間・悪天候であっても砲手が標的を攻撃し、同時に車長が他の敵を捜索できるようになるのである(ハンター・キラー能力の獲得)。
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+防御力
前述のように120S戦車の砲塔は、M1A1戦車のものがほとんどそのまま流用されている。
アメリカ陸軍のM1A1戦車は、1991年2月の湾岸戦争地上戦で初めて実戦投入されているが、この時は、イラク陸軍の保有するMBTの中でも精鋭である、旧ソ連製T-72戦車の125mm滑腔砲の直撃を受けても、前面装甲は一度も貫徹されることが無かったといわれる。
ただし、湾岸戦争に投入されたM1A1戦車は、劣化ウラン装甲メッシュを複合装甲に導入したM1A1HA(Heavy Armor:重装甲)と呼ばれるタイプで、非拘束セラミック板を封入した複合装甲を持つノーマルのM1A1戦車に比べて、装甲防御力が大幅に強化されていた。
ちなみにM1A1HA戦車の砲塔前面の装甲防御力は、徹甲弾などのKE(運動エネルギー)弾が命中した場合、RHAの厚さに換算して600mmに相当するという。
またHEAT(対戦車榴弾)や、対戦車ミサイルなどのCE(化学エネルギー)弾に対する装甲防御力は、RHAの厚さに換算して1,300mmに相当するという。
しかし、アメリカ政府はM1戦車シリーズに用いられている、劣化ウラン装甲メッシュを用いた複合装甲の製造技術を高度な軍事機密に指定しており、また、放射性物質である劣化ウランを海外に持ち出すことを厳しく規制しているため、120S戦車の砲塔の複合装甲は、ノーマルのM1A1戦車と同じセラミック系のものが使用されている。
ノーマルM1A1戦車の砲塔前面の装甲防御力は、KE弾に対してRHA換算で400mm、CE弾に対してRHA換算で1,000mmと推定されているので、120S戦車の砲塔前面の装甲防御力も同程度であると思われる。
M1A1HA戦車に比べるとかなり劣る値ではあるが、それでもM60A1戦車に比べると格段に装甲防御力が向上していることが分かる。
120S戦車の戦闘重量はM60A1戦車に比べて約8tも増えているが、その大半は装甲が増加した分だといえよう。
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+機動力
120S戦車は、機関系とサスペンションについても改良が加えられている。
パワーパックは、GDLS社製のAVDS-1790-9 V型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力1,200hp)と、インディアナ州インディアナポリスのジェネラル・モータース社アリソン変速機部門製の、X-1100-5自動変速・操向機(前進4段/後進2段)の組み合わせに変更される。
AVDS-1790-9エンジンはイスラエル陸軍のメルカヴァMk.III戦車、X-1100変速・操向機はM1戦車シリーズに採用されている実績のあるコンポーネントであり、高い信頼性が保証されている。
サスペンションはM1A1戦車と同じトーションバー(捩り棒)方式あるいは、荒れ地での踏破性に優れたGDLS社製の油気圧式サスペンションが採用される。
この高性能ハイパワーになった足周りにより、120S戦車は機動力についても、従来のM60戦車シリーズに比べて飛躍的にパワーアップすることになる。
戦車の機動力を表示するのに利用される出力/重量比を比較すると、M60A1戦車の15.6hp/tに対して、120S戦車は21.3hp/tと大幅に向上しているのが分かる。
路上最大速度についてもM60A1戦車の30マイル(48.28km)/hに対して、120S戦車では38.3マイル(61.64km)/hと実に28%もアップするのである。
クロスカントリーでも、平均40km/hのスピードを維持できるという。
加速性能は、20マイル(32.19km)/hまで9.2秒と素早い。
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<120S戦車>
全長: 9.54m
車体長: 6.946m
全幅: 3.77m
全高: 2.89m
全備重量: 56.25t
乗員: 4名
エンジン: GDLS AVDS-1790-9 4ストロークV型12気筒空冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,200hp/2,400rpm
最大速度: 61.64km/h
航続距離: 443km
武装: 44口径120mm滑腔砲M256×1 (42発)
12.7mm重機関銃M2×1 (1,000発)
7.62mm機関銃M240×2 (11,400発)
装甲: 複合装甲
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<参考文献>
・「パンツァー2008年3月号 M60戦車の40年」 佐藤慎ノ亮/竹内修 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年4月号 MBTのアップグレード」 二木巌 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年3月号 海外ニュース」 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート12 M1戦車シリーズ」 アルゴノート社
・「現代最強戦車の極秘アーマー技術」 ジャパン・ミリタリー・レビュー
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版
・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社
・「世界の主力戦車カタログ」 三修社
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