M6重戦車
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+概要
ドイツ陸軍機甲部隊がフランスに攻め込んだ翌月の1940年6月初め、アメリカ陸軍は将来に向けて2種類の新型戦車を開発することを決定した。
これは後に「M3中戦車」(Medium Tank M3)として制式化されることになる中戦車と、全く新たな発想に基づく80t級の重戦車であった。
この重戦車は当初75mm戦車砲をそれぞれ備える主砲塔2基と、37mm戦車砲と20mm機関砲、それに7.62mm機関銃を装備する副砲塔2基を搭載する多砲塔戦車として計画された。
また、装甲は最低でも75mm砲弾に抗堪できることが求められていた。
なぜこの時期に多砲塔戦車を考えたのかは不明だが、この多砲塔案はモックアップ段階で廃案となり、より現実的な設計案に改められた。
それは車体に限定旋回式に75mm戦車砲を装備し、全周旋回式砲塔に50〜75mm戦車砲を備え、さらに車体各部に8挺の7.62mm機関銃を装備するというものであった。
いわばM2中戦車とM3中戦車の思想をミックスさせた拡大版といえるものであり、1940年10月には「T1」の試作呼称が与えられて本格的な開発が開始された。
この時点でT1重戦車の戦闘重量はより現実的な45t級とされ、装甲厚は最大3インチ(76.2mm)で武装は旋回式砲塔に3インチ高射砲と37mm戦車砲を同軸に備え、車体各部に7.62mm機関銃4挺を装備し、B-17重爆撃機に用いられたニュージャージー州パターソンのライト航空産業製の「サイクロン」(Cyclone:台風のインド洋方面での呼び名)R-1820
航空機用星型9気筒空冷ガソリン・エンジンを、車載用に改修したG-200ガソリン・エンジン(出力925hp)を搭載し、路上最大速度25マイル(40.23km)/hを発揮するというものであった。
1941年2月にはT1重戦車の試作車4両の製作契約が結ばれたが、この際、各試作車の車体製造工法やエンジンなどを変更するという方針が採られることとなった。
T1重戦車シリーズの4両の試作車の内T1E1とT1E2は鋳造製の車体が用いられ、T1E3とT1E4の車体は圧延防弾鋼板の溶接式とされた。
エンジンに関してはT1E1、T1E2、T1E3がライト航空産業製のG-200 星型9気筒空冷ガソリン・エンジン1基、T1E4のみがミシガン州デトロイトのジェネラル・モータース社製の6046
直列12気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力410hp)を2基搭載し、動力伝達装置はT1E1がコネティカット州フェアフィールドのジェネラル・エレクトリック社製の電気式変速機、T1E2、T1E3、T1E4がトルク変換機付きの自動変速機を採用していた。
T1重戦車シリーズの試作車の内、まず1941年12月にT1E2が完成した。
しかし戦闘重量が57tと重くブレーキに問題があり、さらに大型の星型空冷エンジンのために冷却が不充分であった。
T1E2は所要の改修を加えた後、1942年4月に「M6重戦車」(Heavy Tank M6)として制式化された。
同時に、T1E3も「M6A1重戦車」(Heavy Tank M6A1)として制式化された。
なお、T1E1は制式化はされなかったが非公式に「M6A2重戦車」(Heavy Tank M6A2)と呼ばれ、一般にもこの名前で認知された。
T1E4は、搭載するディーゼル・エンジンの開発に時間が掛かるために開発中止となった。
M6重戦車シリーズは、1941年の計画当初の時点では5,500両が生産されることになっていたが、1942年9月の新陸軍供給計画で生産数が115両に減らされてしまった。
完成したM6重戦車シリーズの試作車を用いてアメリカ陸軍機甲部隊による運用試験が行われたが、その結果は重量が重過ぎ、主砲威力も乏しく防弾上不利で、さらに機構が複雑で機械的信頼性に乏しいと散々な評価であった。
実際には、履帯交換無しに5,600kmも走行できたのにである。
当時のアメリカ陸軍の戦車運用思想はドイツ陸軍の影響を強く受け、戦車に最も要求されるのは機動性で装甲と火力は副次的としていたので、重戦車を受け入れること自体に難色を示していた。
そして「M6重戦車は輸送効率が悪い。輸送船が次々にドイツ海軍のUボートに沈められているのに船倉に中戦車2両分のスペースが必要になる」という決定的反対意見が提出され、これでM6重戦車の大量配備は完全に見送りとなった。
これによって、アメリカ陸軍兵器局は1943年3月にM6重戦車シリーズの生産数を40両に削減し、1944年11月〜1945年2月にかけてペンシルヴェニア州エディストーンのBLW社(Baldwin
Locomotive Works:ボールドウィン機関車製作所)でM6重戦車が8両、M6A2重戦車が20両、そしてジェネラル・モータース社傘下のミシガン州のグランドブランク工廠でM6A1重戦車が12両生産された。
これらは実戦には投入されず、その後各種のテストベッドとして使用された。
M6重戦車シリーズは、技術的には斬新なものが採り入れられていた。
サスペンションにはアメリカ陸軍戦車として初めて、渦巻スプリングを水平に置いてストロークを稼いだHVSS(Horizontal Volute Spring
Suspension:水平渦巻スプリング・サスペンション)が採用された。
砲塔の旋回と主砲の俯仰には動力方式が採用され、主砲にはジャイロ式安定化装置が装備された。
また、これほど大型の車体に鋳造工法を採り入れたのも本車が初めてである。
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<M6重戦車>
全長: 8.433m
車体長: 7.544m
全幅: 3.112m
全高: 3.226m
全備重量: 57.38t
乗員: 6名
エンジン: ライトG-200 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 900hp/2,300rpm
最大速度: 35.41km/h
航続距離: 161km
武装: 50口径3インチ戦車砲M7×1 (75発)
53.5口径37mm戦車砲M6×1 (202発)
12.7mm重機関銃M2×2 (5,700発)
7.62mm機関銃M1919A4×2 (7,500発)
装甲厚: 25.4〜101.6mm
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<M6A1重戦車>
全長: 8.433m
車体長: 7.544m
全幅: 3.112m
全高: 3.226m
全備重量: 57.29t
乗員: 6名
エンジン: ライトG-200 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 900hp/2,300rpm
最大速度: 35.41km/h
航続距離: 161km
武装: 50口径3インチ戦車砲M7×1 (75発)
53.5口径37mm戦車砲M6×1 (202発)
12.7mm重機関銃M2×2 (5,700発)
7.62mm機関銃M1919A4×2 (7,500発)
装甲厚: 25.4〜101.6mm
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兵器諸元(M6重戦車)
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<参考文献>
・「パンツァー2012年4月号 アメリカのTシリーズ試作戦車(2) T1中/重戦車シリーズ」 大佐貴美彦 著 アルゴ
ノート社
・「パンツァー2012年5月号 アメリカのTシリーズ試作戦車(3) T1重戦車シリーズ(後)」 大佐貴美彦 著 アルゴ
ノート社
・「パンツァー2006年11月号 M103重戦車の開発とメカニズム」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年4月号 アメリカ陸軍のT1/M6重戦車」 城島健二 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年1月号 アメリカM6重戦車の開発」 白石光 著 アルゴノート社
・「世界の戦車
1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「グランドパワー2013年1月号 米陸軍
T28重突撃戦車」 箙公一 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「第2次大戦
イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
・「戦車名鑑
1939〜45」 コーエー
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