1951年にアメリカ陸軍に制式採用されたM75装甲兵員輸送車は、戦後型APCとしてはそれなりに成功を収めた車両であり、実用試験を兼ねて朝鮮戦争に少数が投入された結果、将来の機甲部隊や歩兵師団にも必要な車両であるとの判断が下されて、保有している新旧合わせて3万両以上のAPCの後継として配備することが望ましいとの結論が導き出された。 しかし、M75装甲兵員輸送車は生産コストが高く必要な数の調達は不可能だったため、新たに開発されたコスト低減型の装甲兵員輸送車がT59である。 このT59装甲兵員輸送車は、1951年11月8日付でFMC社(Food Machinery and Chemical Corporation:食品・機械・化学企業)に対し開発要求が出され、試作車6両が発注されたが、開発に際しては低価格化が強く求められていた。 この要求を可能にすべく新規開発の機構は極力減らす方針が採られ、試作車の内4両は、M135トラックで採用されたGMC社製のモデル302 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(146hp/3,600rpm)が2基搭載され、残る2両は、同じく民生用トラック向けとして生産されていたキャディラック社製のモデル331 V型8気筒液冷ガソリン・エンジン(270hp/4,800rpm)が用いられた。 さらに、変速機もトラック用のものを用いてコストの低減を図っていた。 モデル302エンジン装備車は「T59」、モデル331エンジン装備車は「T59E1」の開発番号が与えらて開発が進められた。 FMC社では生産に参画したM75装甲兵員輸送車での経験を活かし、同様のアウトラインを持つ箱型車体の車両としてまとめたが、車体左右のスポンソンにあたる部分にエンジンと変速機を一体化して配し、車体前部に置かれた制御式ディファレンシャルに動力を伝達するという方式を採った。 サスペンションはトーションバー方式が用いられ片側5個の転輪を支えており、独立した誘導輪と上部支持輪を備えるのはM75装甲兵員輸送車と同じで、履帯もM75装甲兵員輸送車のものをそのまま用いていた。 また車体の前部左側に操縦手席、前部右側に車長席をそれぞれ配し、車長用として12.7mm重機関銃M2を備えるキューポラが設けられており、その外観はM75装甲兵員輸送車のレイアウトを受け継いでいるといっても、はるかに洗練されたもので、後に開発される傑作装甲兵員輸送車M113の片鱗を見ることができる。 車体後部に兵員室が配されているのは以前の車両と変わらないが、本車では油圧式の乗降ランプを初めて採用したことが特徴として挙げられよう。 兵員室内の左右側面には5名が着座する折り畳み式シートが設けられ、必要に応じてこのシートを畳むことで車内にジープを自走収容することができた。 これが、ランプを採用した直接の動機であったと思われる。 また兵員室の上面にはハッチが設けられていたが、これは試作車により若干の差が見られた。 車体の装甲厚は周囲が0.625インチ(15.88mm)、上面が0.375インチ(9.53mm)とされたが、車体床面だけは地雷への対処として1インチ(25.4mm)の装甲板が用いられていた。 さらにこのT59/T59E1装甲兵員輸送車では、アメリカ陸軍のAPCとしては初めて水上浮航性が盛り込まれており、このため車体前部には折り畳み式の波切り板が備えられ、後部ランプにもゴムの水密シールが張られていた。 なお、この波切り板はT59装甲兵員輸送車では人力で折り畳んだが、T59E1装甲兵員輸送車では浮航時の安定性を高めるためにより大型になったため、油圧式とされた。 また水上での浮航は、履帯を駆動させることにより推進力を得るようになっていた。 さらに、M75装甲兵員輸送車の生産コストを減らすことを目的として改良が図られたT73装甲兵員輸送車との間に比較試験が行われたが、T59装甲兵員輸送車の方がはるかに優れていることは明らかで、このためT73はキャンセルとなり、1953年5月24日にT59が「M59装甲兵員輸送車」として制式化され、生産契約がFMC社との間に交わされる運びとなった。 M59装甲兵員輸送車の生産型は1953年8月より引き渡しが開始され、当初2,385両が発注されたが、その後も段階的に発注は続けられ、1960年の生産終了までに6,300両以上が完成した。 生産コストはM75装甲兵員輸送車が10万ドル前後であったのに対して、M59装甲兵員輸送車はその1/3程度の28,000ドルでまとめられ、見事にアメリカ陸軍の要求に応えている。 M59装甲兵員輸送車の生産型では、後部ランプの左側に脱出用のドアが新設されたためヴィジョン・ブロックは右側に移動したが、これはまず生産型第1〜第15号車で採用され、続く第16〜第24号車では四角いハッチがそれぞれ装着されたが、第25号車以降では脱出用ドアが標準装備となった。 また兵員室上面のハッチは前後に分かれて配され、前方のものが左に、後方は右にそれぞれオフセットされ、それぞれが逆方向に開くことで降車の妨げとならないよう考慮されていた。 さらに生産型第581号車以降の車両では、それまでのGMC社製のモデル300MG油圧式変速機から、改良型のモデル301MG油圧式変速機に替わったが、いずれも前進4段/後進1段の自動式であることには変わらない。 車長用キューポラは生産型第1303号車から、それまでの6個のヴィジョン・ブロックを持つものに代えて、M17ペリスコープ4基を備える全周旋回式のM59キューポラとなり、さらに第2932号車からは12.7mm重機関銃M2をキューポラと一体化したM13キューポラに換装している等、車両により変化が見られる。 M59装甲兵員輸送車の一部の車両は、フランスから購入したSS-10/SS-11対戦車誘導ミサイルを装備したり、車長用キューポラに遠隔操作式の12.7mm重機関銃を装備するなどの試験に供され、本車に続いて開発されたT113装甲兵員輸送車(後のM113装甲兵員輸送車)で採用されることになる、上部支持輪を廃止した足周り(フラット・トラック・サスペンション)に改造されている。 |
<M59装甲兵員輸送車> 全長: 5.613m 全幅: 3.264m 全高: 2.769m 全備重量: 19.323t 乗員: 2名 兵員: 10名 エンジン: GMC モデル302 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン×2 最大出力: 292hp/3,600rpm 最大速度: 51.5km/h(浮航 6.92km/h) 航続距離: 193km 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (2,205発) 装甲厚: 9.53〜25.4mm |
<参考文献> ・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2022年12月号 M113装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「パンツァー2000年4月号 ベストセラーAPC M113シリーズ」 後藤仁 著 アルゴノート社 |