M56スコーピオン空挺自走砲は空挺部隊が装備する対戦車車両として開発が始められたもので、アメリカ陸軍の空挺奇襲構想の初期段階において考案された計画でもあった。 1948年10月に開かれた会合において航空機による輸送が可能な対戦車自走砲の要求が出されたことから、本車の開発がスタートした。 本車は当初、当時開発が進められていたT42中戦車(後のM47パットンII中戦車)の車体に90mm戦車砲T119を搭載することが検討されたが、結局アルミ合金製の軽量型装軌式車体にT70砲架に載せられた改良型90mm戦車砲T125を装備する形に改められ、GM(ジェネラル・モータース)社傘下のキャディラック社により開発が行われることが決まり「T101」の試作名称で試作車2両の製作が発注された。 試作車を用いた試験で好成績を収めたため本車は1953年に「90mm自走砲M56」(90mm Self-propelled Gun M56)として制式化され、同時に「スコーピオン」(Scorpion:蠍)の愛称も与えられている。 生産型のM56空挺自走砲は試作型のT101空挺自走砲と大差無かったが、主砲のブラストシールドの形状が改められたり、砲身先端に装着されていた砲口制退機を廃止してカウンター・ウェイトを兼ねた爆風変向機が装着されるなど一部に変化も見られる。 またT101空挺自走砲では乗員が操縦手、砲手、装填手の3名であったが、M56空挺自走砲では無線手を兼ねた車長が追加され4名となったのも目立つ変化である。 M56空挺自走砲の車内レイアウトは車体前部が機関室、車体中央部が砲架に搭載された主砲と乗員4名を収めたオープントップ式の戦闘室、車体後部が主砲弾薬庫とされていた。 戦闘室内には最前部中央に砲架に搭載された主砲が設置されており、その後方左側に操縦手と車長、後方右側に砲手と装填手が前後に並んで配されていた。 車体前部の機関室内にはコンティネンタル社製のAOI-402-5 水平対向6気筒空冷ガソリン・エンジン(出力200hp)と、GM社傘下のアリソン社製のCD-150-4クロスドライブ式自動変速機(前進2段/後進1段)が搭載され、前部に設けられた起動輪を駆動した。 M56空挺自走砲は空輸性を考慮して軽量に設計されていたため、転輪は通常のソリッドゴムを装着したタイプではなく空気圧75psiのゴムタイアを装着したタイプを片側4個備えており、転輪のサイズを大きくすることで上部支持輪を廃止していた。 本車はゴムタイア式の転輪を採用したことで、ソリッドゴム式の転輪を用いた場合に比べて毎時当たりの抵抗ロスを時速に換算して24km/hほど減少させることに成功した。 サスペンションは通常のトーションバーが用いられており、履帯は20インチ(508mm)幅の8分割されたベルト型を用いることで接地圧の減少を図っていた。 主砲の43口径90mm戦車砲M54はパットン戦車シリーズで採用された90mm戦車砲と同じ弾薬を用いることができ、戦闘室最前部の燃料タンクの上に置かれたM88砲架に限定旋回式に搭載されていた。 主砲の旋回角は左右各30度ずつで、俯仰角は−10〜+15度となっていた。 主砲弾薬は車体後部に設けられた3段式の弾薬庫に29発が収容されたが、弾薬庫の蓋は装填手のプラットフォームを兼ねており射撃時には後方へ180度倒された。 また本車は戦闘重量7.144tと軽量なためパラシュートによる空中投下が可能で、大型グライダーや輸送機を用いた空輸も問題無く行うことができた。 1960年代初頭に勃発したヴェトナム戦争では第173空挺旅団のみがM56空挺自走砲を使用したが、本車は軽量化のために主砲のブラストシールド以外に装甲が無く、乗員の防御が全く考慮されていなかったため主にコンボイ・エスコートに用いられた。 1960年代半ばに後継のM551シェリダン空挺軽戦車が開発されたため、M551空挺軽戦車の部隊配備が開始された1968年までにM56空挺自走砲は全車が退役している。 |
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<M56空挺対戦車自走砲> 全長: 5.842m 車体長: 4.557m 全幅: 2.573m 全高: 2.004m 全備重量: 7.144t 乗員: 4名 エンジン: コンティネンタルAOI-402-5 4ストローク水平対向6気筒空冷ガソリン 最大出力: 200hp/3,000rpm 最大速度: 45.06km/h 航続距離: 225km 武装: 43口径90mmライフル砲M54×1 (29発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「グランドパワー2022年2月号 アメリカ軍自走砲(戦後編)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 潮書房光人新社 ・「パンツァー2010年8月号 90mm対戦車自走砲 M56スコーピオン」 アルゴノート社 ・「パンツァー2019年9月号 テキサス州兵博物館に行ってきた★」 アルゴノート社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 |
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