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M50/M51スーパー・シャーマン戦車





●M50戦車

イスラエル建国を巡る1948〜49年のアラブ諸国との戦い(第1次中東戦争、イスラエル独立戦争)において、イスラエルはアラブ諸国の戦車部隊(ソ連製のT-34-85中戦車が主力装備)に対抗するため、中東地域に展開したイギリス軍から戦車(アメリカ製のM4シャーマン中戦車やイギリス製のクロムウェル巡航戦車等)を盗んだり、スクラップを買い取って再生する等して戦車戦力を構築していった。

またアメリカ、フランス、イタリア等といった旧M4中戦車使用国からも廃用となったそれらをスクラップの名目で買い漁ったり、アメリカ本土は元よりヨーロッパ中に散在していたM4中戦車用の各種予備部品の収集も精力的に行っていたが、その際には当事国に根を下ろしていたユダヤ系の人々が多大な協力をしたと伝えられている。
このようなイスラエルが最初に生み出したM4中戦車ベースの改修戦車が、「シャーマク」(Shermak:”Sherman with Krupp”の略語)であった。

これはスクラップとして入手した、主砲が外されたVVSS(Vertical Volute Spring Suspension:垂直渦巻スプリング・サスペンション)を備えた100両余りのM4A1中戦車に、ドイツのクルップ(Krupp)社製の30口径7.5cm野戦加農砲M1911を搭載したものだった。
次にイスラエルが生み出したのが、1950年代中期から後半にかけて開発と戦力化が行われたM50スーパー・シャーマン戦車である。

これはかつてドイツ軍のパンター戦車やIV号駆逐戦車の主砲に用いられた70口径7.5cm戦車砲KwK42をベースに、戦後フランスが開発した61.5口径75mm戦車砲CN-75-50をM4中戦車に搭載したものである。
この75mm戦車砲CN-75-50は元々AMX-13軽戦車用に開発されたもので、その砲口初速は1,000m/秒とオリジナルの37.5口径75mm戦車砲M3の600m/秒を大幅に上回り、装甲貫徹力もHVAPDS(装弾筒付高速徹甲弾)を使用すれば射距離1,000mで170mmと当時としては非常に優秀な戦車砲だった。

1954年にイスラエルからフランスのブルジュに技術者が派遣されて開発が開始されたが、最初の試作段階では75mm砲搭載型のM4A2中戦車とM10対戦車自走砲がテストベッドとして使用された。
最終的に改修のベースとなったのは、車長用ハッチに加えて装填手用ハッチが設けられた75mm砲搭載用の最後期型砲塔で、砲塔後部に張り出していた短いバスルは基部からバッサリと切り取られ、代わりに大きく張り出した形状のカウンター・ウェイトを兼ねた巨大な鋳造のバスルが溶接された。

一方砲塔前部にも箱型の張り出しが溶接され、砲耳が前方に押し出されて砲塔内スペースを少しでも増加させると共に、砲塔の重量バランスを取る役割を果たしていた。
75mm戦車砲CN-75-50の砲身先端には同砲を搭載したAMX-13軽戦車と同型の砲口制退機が装着されており、砲身基部が収まる防盾部上面にはサーチライト装着用のマウントも備えられていた。
また砲塔の左右側面には、発煙弾発射機がそれぞれ2基ずつ装着された。

この砲塔が結合された車体は初期型のM50 Mk.I戦車ではM4A4中戦車とM4中戦車ハイブリッド型で、これらはVVSSを装備してコンティネンタル社製のR-975 星型9気筒空冷ガソリン・エンジンを搭載していたが、後期型のM50 Mk.II戦車ではM4中戦車シリーズの全型式の車体が使われるようになり、エンジンはカミンズ社製のVT8-460-B1 V型8気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力460hp)に、またサスペンションもHVSS(Horizontal Volute Spring Suspension:水平渦巻スプリング・サスペンション)へと換装されている。

この改修の結果、副産物としてアメリカのオリジナル型には存在しない溶接や鋳造の初期型車体にHVSSを備えた車両や、HVSSを備えたM4A4中戦車(M4A4でHVSSを備えたものは生産されなかった)等が誕生した。
M50スーパー・シャーマン戦車の量産は1955年から開始され、第2次中東戦争(スエズ動乱)中の1956年中頃から1個中隊が実戦に投入され、1959年にはM50戦車装備の戦車大隊も編制されている。


●M51戦車

1960年代に入るとアラブ諸国にM50戦車の主砲より強力な100mm戦車砲を装備するT-54/T-55中戦車や、より強力な122mm戦車砲と最大220mmの装甲を備えるIS-3重戦車などのソ連製新型MBTが大量に供給されるようになり、さすがのM50戦車も力不足の色を隠せなくなってしまった。
そこでイスラエルは、再び「老兵」M4中戦車の若返りを画策することになる。

これが、M51スーパー・シャーマン戦車である。
なおM51戦車は「アイ・シャーマン」(Israeli Shermanの略)と呼ばれることもあるが、これは西側メディアがM50スーパー・シャーマン戦車と区別するために勝手に付けた俗称であり、イスラエル軍では「アイ・シャーマン」という名称は使用していない。

そもそもM50戦車とM51戦車に付けられている「スーパー・シャーマン」という愛称自体が、公式のものではないのである。
イスラエルが海外から入手したM4中戦車シリーズの内、装甲貫徹力に優れる52口径76.2mm戦車砲M1を搭載したタイプは最も戦力的価値が高かったため、これは「M1スーパー・シャーマン」の制式名称が与えられてイスラエル軍の精鋭部隊に配備された。

またこれに併せてイスラエル軍は75mm戦車砲M3を搭載したM4中戦車シリーズに「シャーマンM3」、22.5口径105mm榴弾砲M4を搭載した火力支援型には「シャーマンM4」の制式名称を与えている。
イスラエル軍が制式名称として「スーパー・シャーマン」という名称を与えたのは76.2mm戦車砲M1を搭載した「M1スーパー・シャーマン」のみであり、M50/M51戦車の場合は現場で用いられた非公式な愛称である。

M51戦車の改修要領についてであるが今回は便宜性と標準化を考慮して、鋳造車体にHVSSを備えた最後期生産型のM4A1中戦車(とはいえM4A3中戦車も少数含まれた)に改修の対象が絞り込まれた。
エンジンもM50 Mk.II戦車に搭載されたカミンズ社製のVT8-460-B1ディーゼル・エンジンに換装されたが、M51戦車の初期型の一部はコンティネンタル社製のR-975ガソリン・エンジンのままだったという。

一方砲塔は内部容積が広い76.2mm砲搭載型M4中戦車のT23砲塔の後部バスルを切断して、カウンター・ウェイト兼用の鋳造製延長バスルを取り付け砲耳と防盾も全く新しいものに換装された。
肝心の主砲についてはフランス陸軍の戦後第2世代MBTであるAMX-30戦車用に開発された、最新式の56口径105mm戦車砲CN-105-F1に白羽の矢が立てられた。

西ドイツ陸軍のレオパルト1戦車やアメリカ陸軍のM60戦車など、西側の戦後第2世代MBTの主砲に広く採用されたイギリス製の51口径105mm戦車砲L7は、砲口初速1,470m/秒のAPDS(装弾筒付徹甲弾)を主用弾種としていたが、AMX-30戦車の主砲である105mm戦車砲CN-105-F1は、「G弾」(OCC-105-F1)と呼ばれる特殊な構造のHEAT(対戦車榴弾)を主用弾種としていた点が大きく異なっていた。

一般的にライフル砲で撃ち出されたHEATは、その装甲穿孔力の根源となる成形炸薬のジェット噴流が砲弾の回転による遠心力によって拡散するため、滑腔砲で撃ち出された同じ炸薬量のHEATよりも装甲穿孔力が2〜3割減少するのが普通である。
これを解消するためにG弾は弾殻が内外二重構造になっていて、外殻だけが主砲内壁のライフリングと噛み合って回転するようになっており、内殻と成形炸薬は回転しないため高い装甲穿孔力を発揮することができた。

ただし105mm戦車砲CN-105-F1は、M50戦車の主砲である75mm戦車砲CN-75-50と同じく砲口初速が1,000m/秒もあり、砲身も長くて重いため後座長が長くM4中戦車にそのまま搭載するのは困難であった。
そこでイスラエルの技術陣はCN-105-F1の砲身長を1.5m短縮すると共に、砲口初速を800m/秒にまで落とすことにした。

砲身長が1.5mも短くなり砲口初速が200m/秒も低下したら、その影響は運動エネルギー弾であれば著しい装甲貫徹力の低下となって現れるが、化学エネルギー弾であるG弾には全く影響が生じなかった。
ただし砲身長と初速の違いによってオリジナルのCN-105-F1とは弾道特性が変わったため、イスラエルは独自に弾道情報を集積しなければならなかった。

こうして完成したイスラエル製の105mm戦車砲は「D1504」と命名され、少しでも後座長を減らすために砲身先端に効果的な形状の砲口制退機を装着した上で、前述の改造を施した砲塔に搭載されたのである。
なおこの105mm戦車砲D1504から撃ち出されるG弾の装甲穿孔力は、射距離に関わらずRHA(均質圧延装甲板)換算で360mmとなっていた。

M50戦車もM51戦車もイスラエル軍戦車兵の練度の高さとも相まって第2次(M50戦車のみ)、第3次、第4次の3回に及ぶ中東戦争において大活躍している。
そしていよいよ戦車としては古過ぎて通用しなくなってくると、イスラエルはM50/M51を含むM4中戦車シリーズを戦車回収車や自走砲、特殊戦車のベースとして用いた他、戦車型のM50/M51を南米のチリやレバノンのキリスト教民兵組織等に供与し第3の人生を送らせることとした。


<M50 Mk.I戦車>

全長:
全幅:    
全高:    
全備重量: 34.0t
乗員:    4〜5名
エンジン:  コンティネンタルR-975-C4 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 460hp/2,400rpm
最大速度: 40km/h
航続距離: 200km
武装:    61.5口径75mmライフル砲CN-75-50×1
        12.7mm重機関銃M2×1
        7.62mm機関銃M1919A4×1
装甲厚:  


<M50 Mk.II戦車>

全長:
全幅:    
全高:    
全備重量: 34.0t
乗員:    4〜5名
エンジン:  カミンズVT8-460-B1 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル
最大出力: 460hp/2,600rpm
最大速度: 40km/h
航続距離: 270km
武装:    61.5口径75mmライフル砲CN-75-50×1
        12.7mm重機関銃M2×1
        7.62mm機関銃M1919A4×1
装甲厚:  


<M51戦車>

全長:
全幅:    
全高:    
全備重量: 39.0t
乗員:    4〜5名
エンジン:  カミンズVT8-460-B1 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル
最大出力: 460hp/2,600rpm
最大速度: 40km/h
航続距離: 270km
武装:    44口径105mmライフル砲D1504×1 (50発)
        12.7mm重機関銃M2×1
        7.62mm機関銃M1919A4×1
装甲厚:  


<参考文献>

・「世界の戦車イラストレイテッド5 シャーマン中戦車 1942〜1945」 スティーヴン・ザロガ 著  大日本絵画
・「パンツァー2002年7月号 ファイアフライとイスラエルのシャーマン戦車」 白石光 著  アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート18 メルカバとイスラエルMBT」  アルゴノート社
・「グランドパワー2005年12月号 イスラエル軍のシャーマン(1)」 箙浩一 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2005年5月号 シリーズ:中東戦争(2)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2005年6月号 シリーズ:中東戦争(3)」 古是三春 著  ガリレオ出版
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」  デルタ出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」  洋泉社

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