M50オントスは106mm無反動砲を6門装備するユニークな対戦車車両で、開発は1951年8〜9月にかけてデトロイト戦車工廠とアリス・チャーマーズ製作所の関係者による会合が開かれ、ここで低価格で軽量な高機動装軌式車両を汎用シャシーを用いて開発する方針が打ち出されたことに端を発する。 これは歩兵部隊の支援を目的とするものであり、同年10月25日にこの新型シャシーを用いた数種類の派生型を開発することが決められ本格的な作業がスタートした。 この内2種類が装甲兵員輸送車タイプであり1つが車内に6名の兵員を収容する短胴型のT55、もう1つが10名の兵員を収容する長胴型のT56であった。 残る4種類は自走無反動砲タイプで4門の106mm無反動砲と7.62mm機関銃を装備するT164、106mm無反動砲4門を備えるT165、106mm無反動砲1門を装備するT166、そして106mm無反動砲10門を装備するT167であった。 この内T55とT56は試作車が製作されたものの装甲兵員輸送車としては採用されず、T164とT167は計画段階で中止された。 T165とT166の試作車は1952年7月より実施された運用試験に供されており、その結果より汎用性の高いT165の方が優れていると判断され、翌53年2月に改良を図ったT165E1が24両発注された。 T165E1の試験にはアメリカ陸軍に加えて海兵隊も参加し、さらにこの24両の内10両はさらなる改良が加えられたT165E2に改造され、1955年8月に「M50 106mm多連装自走砲」(Multiple 106mm Self-propelled Rifle M50)として制式化され、同時に「オントス」(Ontos:ギリシャ語で物事・事象の意)の愛称が与えられている。 しかしM50オントスは陸軍では採用されず、海兵隊のみが発注する形で生産が開始された。 本車の生産はアリス・チャーマーズ製作所で1955年8月〜1957年11月にかけて行われ、合計297両が完成した。 M50オントスは、ウォーターヴリート工廠が開発した106mm無反動砲M40A1C 6門を左右にそれぞれ3門ずつ分けて装備していた。 この106mm無反動砲の内、それぞれ外側に配された砲2門ずつにはレミントン社製の12.7mm標定銃M8Cが射線を合わせて固定装備されており、無反動砲の照準機材として用いられた。 M50オントスの車内レイアウトは車体前部左側に操縦手席、前部右側に機関室をそれぞれ配し、車体中央部以降は極めて小さな旋回式砲塔T149E5を搭載した戦闘室とされた。 主武装の106mm無反動砲M40A1Cは、砲塔の左右に固定された支柱を介して各3門ずつ装備されていた。 T149E5砲塔は左右各40度ずつの限定旋回式で、106mm無反動砲は−10〜+20度の範囲で俯仰が可能であった。 砲塔の旋回と106mm無反動砲の俯仰は手動で行うようになっており、砲塔には他に副武装の7.62mm機関銃M1919A4と砲手用のM20A3Cペリスコープが備えられていた。 106mm無反動砲の弾薬は装甲目標用のHEAT(対戦車榴弾)と装甲/非装甲目標用のHEP(粘着榴弾)の2種が用いられ、戦闘室内に置かれた弾薬庫に合計18発が収容された。 車体後面には観音開き式の大型ドアが設けられており、乗員の乗降や弾薬の取り出しに用いられた。 M50オントスは当初、ジェネラル・モータース社製のモデル302 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(出力145hp)を搭載していたが、1963〜65年にかけて176両にクライスラー社製のHT-361-318 V型8気筒液冷ガソリン・エンジン(出力180hp)への換装が実施され、この改修車には「M50A1」の呼称が与えられた。 M50オントスは1965年3月からヴェトナム戦争に投入されフエやケサンの戦闘などで威力を発揮したが、反面整備性の不良や車外でしか弾薬の再装填を行えないなど欠点も多かった。 |
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<M50 106mm自走無反動砲> 全長: 3.83m 全幅: 2.598m 全高: 2.131m 全備重量: 8.641t 乗員: 3名 エンジン: GM モデル302 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン 最大出力: 145hp/3,400rpm 最大速度: 48.28km/h 航続距離: 185km 武装: 106mm無反動砲M40A1C×6 (18発) 12.7mm標定銃M8C×4 (80発) 7.62mm機関銃M1919A4×1 (1,000発) 装甲厚: 6.35〜12.7mm |
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<M50A1 106mm自走無反動砲> 全長: 3.83m 全幅: 2.598m 全高: 2.131m 全備重量: 8.641t 乗員: 3名 エンジン: クライスラーHT-361-318 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 180hp/3,450rpm 最大速度: 48.28km/h 航続距離: 161km 武装: 106mm無反動砲M40A1C×6 (18発) 12.7mm標定銃M8C×4 (80発) 7.62mm機関銃M1919A4×1 (1,000発) 装甲厚: 6.35〜12.7mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2011年4月号 1950年代に開発された特異な対戦車車輌 M50オントス」 吉村誠 著 アルゴノート 社 ・「パンツァー2005年7月号 フォトリポート ベトナム戦争」 藤井久/水梨豊 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年4月号 ベストセラーAPC M113シリーズ」 後藤仁 著 アルゴノート社 ・「グランドパワー2010年5月号 M50オントス自走無反動砲」 島内慶太 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2022年2月号 アメリカ軍自走砲(戦後編)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「日本と世界の珍兵器大図鑑」 ダイアプレス |
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