「M4A6中戦車」（Medium Tank M4A6）として制式化された車両は、M4A4中戦車のエンジンをミシガン州オーバーンヒルズのクライスラー社製のA57 マルチバンク30気筒液冷ガソリン・エンジンから、イリノイ州ピオリアのキャタピラー社製のD-200A 星型9気筒空冷ディーゼル・エンジン（後にRD-1820に改称）に換装し、車体前面が防弾鋼の鋳造、それ以外の部分が圧延防弾鋼板の溶接構造となっているハイブリッド車体を用いたタイプである。

M4A6中戦車の生産はM4A4中戦車と同じくミシガン州ウォーレンのデトロイト工廠が担当したが、1943年末にアメリカ陸軍がM4中戦車のエンジンをニュージャージー州パターソンのライト航空産業と、ミシガン州ディアボーンのフォード自動車のガソリン・エンジンに一本化し、M4、M4A1、M4A3の3つの型式に生産を絞ることを決定したため、1943年10月〜1944年1月にかけてわずか75両が生産されたに留まった。
M4A6中戦車はアメリカ本国での訓練に使用されただけで、実戦には投入されていない。

M4中戦車シリーズは1942年9月に北アフリカのイギリス軍へ供給されたのを皮切りに、以後米英軍の主力戦車として第2次世界大戦末期まで主役を演じた。
そして能力的に勝るドイツ軍戦車に対しても、数に物をいわせて連合軍を勝利へと導いたのである。
その総生産数は対独戦が終結した1945年5月までに49,234両となり、多くの連合国に供与された。

戦後も多くのM4中戦車がアメリカの同盟国に供与されているが、中には驚くべきことに1980年代に入っても現役で運用されているケースもあった。
1950年6月に朝鮮戦争が勃発したことによりアメリカ軍のM4中戦車は再び前線に復帰し、長砲身76.2mm戦車砲とHVSSを備えるM4A3E8中戦車は、北朝鮮軍第105機甲旅団に配備されたソ連製のT-34-85中戦車に対して確実に好成績を収めた。

しかしそれらは最終的に、より強力な90mm戦車砲を備える新型のM26およびM46中戦車に取って代わられ、M4中戦車は1950年代でアメリカ軍から徐々に姿を消していった。
第4次まで数えた中東戦争においても、M4中戦車はイスラエル、アラブの両陣営で使用され大きな役割を果たした。

1948年の第1次中東戦争（イスラエル独立戦争）と1956年の第2次中東戦争（スエズ動乱）では、M4中戦車がイスラエル軍機甲部隊の主力戦車であり、1967年の第3次中東戦争（6日戦争）と1973年の第4次中東戦争（ヨム・キプール戦争）には改造型のM50／M51スーパー・シャーマン戦車が登場した。
エジプト軍も、第1次および第2次中東戦争でM4中戦車を使用している。

イスラエルはレバノン南部のハダド少佐の部隊と、ベイルートのキリスト教右派民兵組織にM4中戦車を供給し、それらは同地で繰り広げられた激しい内戦にも参加した。
イスラエル供給によるM4中戦車はイディー・アミン大統領失脚劇の際のウガンダ軍でも使用され、ニカラグアではサンディニスタ革命制圧のために駆り出された（1979年）。

キューバではカストロの革命勢力に向けてバティスタ政権がM4中戦車を投入し、1959年のカストロ政権成立後も使用され続けた。
その後1961年にアメリカの支援を受けた反カストロ勢力が、キューバ西部南岸のピッグス湾から侵攻を企てた際にも、上陸したM41軽戦車に対してカストロ側のM4中戦車が少なくとも1両出撃している（なお、この侵攻作戦は反カストロ側の敗北に終わった）。

1965年に勃発した第2次インド・パキスタン戦争では、どちらの陣営にもM4中戦車の姿があった。
1971年の第3次インド・パキスタン戦争でもパキスタン軍には約40両のM4中戦車が現役に留まっており、チャーンブ戦で第26騎兵隊によって運用された。
この他アジア地域ではインドシナ戦争でフランス軍が、国共内戦時の中国でも国民党軍がそれぞれ少数ながらM4中戦車を使用した。