M48パットン戦車
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+開発
アメリカ陸軍は1949年から、新たなコンセプトに基づいた新型中戦車T42の開発を進めていたが、1950年6月25日に朝鮮戦争が勃発したため、T42中戦車は早急な実戦化が求められることになった。
このためT42中戦車の砲塔を、M46中戦車の車体に搭載した暫定型の戦車を製作することになり、「M47中戦車」として制式化されて(アメリカ陸軍は1950年11月7日に、戦車の分類を主砲口径による分類に変更したため、M47中戦車も「90mm砲戦車M47」と呼称が変化した)、1951年4月から生産が開始された。
M47戦車は車体はM46戦車と大差なく、主砲も同じ90mm戦車砲だったが、世界で初めて、実用型の砲連動ステレオ基線長式測遠機を装備していたのが最大の特徴であった。
しかし、M47戦車に搭載されたM12ステレオ式測遠機は装備された位置の都合で、主砲の発砲の衝撃により誤差が生じてしまい、一射撃ごとに照準を修正し直さなければならず、そのせいで次発の発射に時間が掛かり、連射速度が著しく低下するという致命的欠陥を露呈した。
そこでこの欠陥を改善するため、アメリカ陸軍兵器局は1950年12月、M47戦車の後継となる90mm砲搭載戦車T48の開発を、ミシガン州オーバーンヒルズのクライスラー社に発注した。
ただしこの発注には、1952年4月までにT48戦車の部隊への配備を開始するという、付帯条件が付けられていた。
T48戦車は、デラウェア州のクライスラー社ニューアーク工場で順調に試作が進行し、早くも1951年3月にはクライスラー、GM(ジェネラル・モータース)、フォードの3社と、アメリカ陸軍の間で生産に関わる契約が締結された。
クライスラー社ニューアーク工場で完成したT48戦車の試作第1号車は、M47戦車と同様の砲塔に新型のステレオ式測遠機T46E1(基線長1,524mm)を装備しただけでなく、主砲の俯仰角を自動的に算定可能なT30弾道計算機も備えており、さらにパルシング・リレイ式の砲塔制御システムも搭載されていた。
なおT48戦車では、主砲発射時の衝撃の影響をできるだけ受け難くするため、M47戦車と違って、T46E1ステレオ式測遠機は砲塔の中央部に設置されていた。
パワーパックは、アラバマ州モービルのコンティネンタル自動車製の、AV-1790-5B V型12気筒空冷ガソリン・エンジン(出力810hp)と、インディアナ州インディアナポリスのGM社アリソン変速機部門製の、CD-850-4クロスドライブ式自動変速・操向機(前進2段/後進1段)を組み合わせて搭載していた。
操縦装置も大きく改善され、アメリカ陸軍の制式戦車としては初めて操向レバー式に代えて、ハンドル式操縦装置が導入された。
足周りは片側6個の中直径転輪と、片側5個の上部支持輪で構成されており、サスペンションはトーションバー(捩り棒)方式が採用されていた。
なおM46戦車とM47戦車にあった、履帯の張度を調整するために、第6転輪と起動輪の間に設けられていた支持輪は廃止されている。
T48戦車に続いて製作された2番目の試作車がT48E1戦車で、これはT48戦車の車体に、新設計の亀甲型砲塔を搭載したものであった。
測遠機はT48戦車と同じT46E1だったが、主砲の90mm戦車砲は単肉砲身のT139(後にM41として制式化)で、−9〜+19度の範囲で俯仰する外部防盾式のT148砲架に架装されていた。
なおこの砲架には同軸機関銃として、ユタ州オグデンのブラウニング火器製作所製の7.62mm機関銃M1919A4E1と、砲側照準用のT156望遠照準眼鏡も併せて装着されていた。
車長用ハッチは砲塔上面右側にあり、ブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2を架装できる対空銃架が装着されていた。
砲塔上面左側には、半月形をした後ろ開き式の装填手用ハッチと、ヴェンチレイターが設けられていた。
また砲塔後部には、車外装備品を収納するためのバスケットが取り付けられていた。
続いて、T48戦車とT48E1戦車で得た経験を活かして製作されたのが、3番目の試作車となるT48E2戦車であった。
このT48E2戦車の最大の特徴は、車体に大規模な改修が施されたことである。
車体前部下面には船舶の船首のような丸みが付けられ、車体底部も船底に似た丸みを持つ形となった。
これは、地雷に対する抗堪性を向上させるために採用された方法であった。
また車体形状の変更に合わせて、操縦手席が車体前部中央に配され、それに伴ってM46、M47戦車に装備されていた車体機関銃は廃止となり、車体機関銃手兼副操縦手も廃止された。
一方機関系では、オーバーヒート対策として機関室上面に改良が加えられ、その中央部には排気マフラーが装着された。
このような特徴を持ったT48E2戦車は、メリーランド州のアバディーン車両試験場での各種試験において、制式化するに相応しい成績を上げた。
そこで1953年5月に試験が終了すると同時に、T48E2戦車は「90mm砲戦車M48」(90mm Gun Tank M48)として制式化され、「ジェネラル・パットン48」の愛称も与えられた。
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+車体の構造
M48戦車シリーズの車体は、3つのブロックに分割して防弾鋼の鋳造で製作され、前部ブロックと後部ブロックを中央部ブロックに溶接で結合するという構造となっていた。
車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が機関室というオーソドックスな配置となっており、戦闘室と機関室の間にはエンジンから生ずる熱気や、被弾およびトラブル時の火災等から乗員や搭載弾薬を保護するため、隔壁が設けられていた。
操縦手席は操縦室内の中央部に設けられており、その両側には90mm砲弾の収納ラック等が設置されていた。
機関室内には中央に、エンジンと変速・操向機が結合されたパワーパックが収容されており、その両側には燃料タンクが配されていた。
またM48A1戦車とM48A2戦車では、機関室内の右側に補助発電機が設置されていた。
機関室上面の形状は型式によって異なっており、M48、M48A1戦車では面一のフラットなグリルだったが、M48A2〜A5戦車では、天井が一段盛り上がったプレート状のグリルとなっていた。
なおM48A2戦車とM48A3〜A5戦車では、エア・クリーナーの装備位置も異なっており、M48A3〜A5戦車では、箱型のエア・クリーナーが機関室の両側に装着されていた。
M48戦車シリーズのエンジンは、M48戦車の初期生産車がAV-1790-5Bガソリン・エンジン、中期生産車がAV-1790-7/7Bガソリン・エンジン、M48戦車の後期生産車とM48A1戦車がAV-1790-7Cガソリン・エンジン、M48A2戦車がAVI-1790-8ガソリン・エンジン、M48A3、A4戦車がAVDS-1790-2Aディーゼル・エンジン、M48A5戦車がAVDS-1790-2Dディーゼル・エンジンを搭載していた。
AV-1790-5B/7/7B/7Cガソリン・エンジンは、出力810hp/2,800rpm、4ストローク・90度V型12気筒(独立)OHC・気化器付きマグネット点火の空冷ガソリン・エンジンであった。
総排気量26,692cc、圧縮比6.5:1、シリンダー内径146mm、ストローク146mmで、重量は5Bで1,171kg、7〜7Cは1,201kgとなっていた。
5Bは1949年6月〜1953年6月まで、7シリーズは1952年10月〜1956年4月にかけて、コンティネンタル社によって製造された。
これらのエンジンは互換性があり、7/7Bはアウトリガー・ファンと気化器が接続され、さらに7Cでは冷却効率を上げるためシリンダー・ヘッドの形を変更したので、7Cを搭載したM48、M48A1戦車の機関室のカバーは少し高くなっていた。
AVI-1790-8ガソリン・エンジンは、AV-1790-7シリーズを大幅に改良したもので、インテグラ・クーラー社、シモンズ・エアロセリーズ社でライセンス生産された2つのSU15G3、またはSU570分配方式圧縮ポンプの燃料噴射装置が取り付けられていた。
ちなみに「AVI」の末尾の「I」は「Injection:噴射」の頭文字であり、本エンジンが燃料噴射装置付きであることを表していた。
燃料噴射装置を取り付けることによって、エンジンの信頼性が向上すると共に燃料消費量が減少し、特にクーラーをエンジンと一体化したので、燃料タンクの容量は従来の757リットルから1,230リットルに増加し、燃費は0.2km/リットル、出力は15hpアップして825hp/2,800rpmとなった。
また、補助燃料タンクを携行することによって航続距離は大きく増加した。
このエンジンは、1956年4月〜1960年9月にかけてコンティネンタル社で製造された。
AVDS-1790-2シリーズは、1959年12月からコンティネンタル社で生産が開始された出力750hp/2,400rpm、4ストローク・60度V型12気筒(独立)・分配型圧縮ポンプ・過給機付き空冷ディーゼル・エンジンで、2基の排気ターボ過給機の装着によって排気の際の騒音が低くなったので、マフラーは廃止された。
またディーゼル・エンジンであるため、空気の吸入効率、濾過方式を改良した、2組のフィルター付きアルミ製エア・クリーナーが車体後部に取り付けられた。
AVDS-1790-2シリーズは寸法、重量はAV-1790-5Bガソリン・エンジンと同じ程度であったが、ディーゼル・エンジンであるため低速時におけるトルクが大きく、燃料消費量も少ない。
このため700〜2,400rpmの回転で最大駆動力、早い加速、登坂や旋回時の速度を平均的に持続できる特徴を持っていた。
M48戦車シリーズの変速・操向機は、アリソン社が開発したCD-850-4/4A/4B/5/6/6Aクロスドライブ式自動変速・操向機が搭載された。
この変速・操向機は550〜850hpのエンジンに適合するように設計され、4要素1段・多相型トルク変換機付きの遊星歯車式パワーシフト型で、前進2段/後進1段の速度段数を持ち、三重差動・固定半径・再生式操向機が装備され、操作方向はニュートラル・パークの位置で超信地旋回、前進および後進位置で緩旋回ができた。
この変速・操向機は各タイプとも構造・機能は同じで、伝導効率と耐用命数が順次向上し、また制動力が大きくなっている。
なおCD-850-4はAV-1790-5B、4AはAV-1790-7/7A、4BはAV-1790-7C、5はAVI-1790-8、6/6AはAVDS-1790-2A/2Dと組み合わされる。
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+砲塔の構造
M48戦車シリーズの砲塔は、全体に避弾経始が配慮された亀甲型で、車体と同じく防弾鋼の鋳造で作られていた。
砲塔内には右側に車長、左側に砲手、砲手の後方に装填手が位置した。
なお戦闘室の下部には、砲塔がどの方向を指向していても、砲塔内の全機器類に電力を供給し続けることが可能なスリップリングが装着されていた。
M48戦車シリーズには、基線長1,524mmのT46E1またはM17測遠機が砲塔中部に装着されていた。
T46E1測遠機はステレオ式でM48〜A2戦車に装備され、M48A3〜A5戦車には単眼合致式のM17測遠機が採用されており、この測遠機によって捕捉された目標は、車長または砲手によって弾道計算機にインプットされ、そのデータから使用弾種と射撃諸元を算出して、主砲に俯仰角度を与えた。
主砲と砲塔の駆動装置は油圧式で、M48、M48A1戦車には、ウィスコンシン州ミルウォーキーのオイルギア社製の、パルシング・リレイ操作方式の駆動装置が、またM48A2〜A5戦車には、ルイジアナ州スライデルのキャディラック・ゲージ社製駆動装置が搭載されていた。
M48〜A3戦車には、ニューヨーク州のウォーターヴリート工廠が開発した48口径90mm戦車砲M41が、同芯式油圧スプリング駐退復座装置付きの連動砲架M87またはM87A1を介して、砲塔前部に装備されていた。
なおM87砲架はM48、M48A1戦車に、M87A1砲架はM48A2、A3戦車に用いられていた。
90mm戦車砲M41の砲身先端には、単作動式の円筒形砲口制退機(M48戦車のみ)、またはT字形爆風変向機(M48A1〜A3戦車)が装備されており、また砲尾には垂直鎖栓式閉鎖機が取り付けられていた。
90mm戦車砲M41の砲身は合金製単肉砲身で、砲全長4,909mm、砲身全長3,880mm、腔線32条、右転(25口径で一回転)、砲の俯仰角は−9〜+19度となっていた。
使用弾薬はAP(徹甲弾)、HVAP-DS(装弾筒付高速徹甲弾)、HVAP(高速徹甲弾)、APC(被帽徹甲弾)、HEP(粘着榴弾)、HE(榴弾)等を搭載した。
砲口初速はHEで732m/秒、HEPで792m/秒、APで853m/秒、HVAP-DSで1,250m/秒。
装甲貫徹力はAPを用いた場合、射距離1,000mで150mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹できた。
砲の発射速度は8〜9発/分、最大射程は9,784〜19,568mであった。
一方M48A4、A5戦車の砲塔には、より強力な51口径105mm戦車砲M68が装備された。
105mm戦車砲M68は、イギリスの王立造兵廠が開発した105mm戦車砲L7A1を改修し、M60戦車シリーズの主砲として導入されたものである。
この砲は、優秀な低伸弾道性を持つ合金単肉砲身の戦車砲であり、砲身の中央部には円筒形の排煙機が、また砲尾には垂直鎖栓式半自動閉鎖機が取り付けられていた。
105mm戦車砲M68は、同芯式油圧スプリング付き駐退復座装置付きの連動砲架M116を介して、砲塔前部に取り付けられ、発砲時の後座長は305〜343mmである。
砲全長5,550mm、砲身全長5,347mm、腔線28条、右転(18口径で一回転)、俯仰角は−10〜+20度と、90mm戦車砲M41より少し大きい。
使用弾薬はAPDS(装弾筒付徹甲弾)、HEAT(対戦車榴弾)、HEP、およびHEである。
砲口初速はAPDSで1,470m/秒、HEATで1,170m/秒、HEPで760m/秒であり、発射速度は9発/分で、105mm戦車砲M68の威力は90mm戦車砲M41に比べて、弾丸の運動エネルギーは20%以上強力になっている。
主砲の同軸機関銃については、M48、M48A1戦車およびM48A2戦車の一部には7.62mm機関銃M1919A4E1が、M48A2戦車の大部分、M48A3、A4戦車およびM48A5戦車の一部には7.62mm機関銃M73が装備され、M48A5戦車の大部分には7.62mm機関銃M60Dが、主砲同軸と対空用にそれぞれ装備された。
7.62mm機関銃M1919A4E1は、ブラウニング社が戦車の主砲同軸用に開発した、自動・反動利用式、リンクベルト給弾の空冷機関銃で、重量14.1kg、全長1,067mm、銃身長610mm、腔線4条、右転。
銃口初速は823〜853m/秒、最大射程は2,890〜3,200m、有効射程は直接目標に対して800m、発射速度は400〜550発/分であった。
7.62mm機関銃M73は、イリノイ州のロックアイランド工廠が戦車の主砲同軸用に開発した機関銃で、構造・機能やデータは、7.62mm機関銃M1919A4E1と大体同じである。
7.62mm機関銃M60Dは、歩兵の近接支援用としてメイン州のサコー防衛産業で開発され、当時広く使われていた7.62mm機関銃M60を戦車搭載用に改造したもので、直銃床型、ガス・カットオフ作動システムである。
重量7kg、銃身長508mm、腔線4条、右転(305mmで一回転)、リンクベルト給弾式でNATO弾を使用する。
銃口初速は853m/秒、最大射程は3,200m、発射速度は最小で50発/分である。
M48戦車の砲塔上面には右側に車長用ハッチ、左側に半月形の装填手用ハッチが設けられていた。
この装填手用ハッチの直後には無線アンテナ取り付け基部が、また左後方にはヴェンチレイターが取り付けられていた。
車長用ハッチには、ブラウニング社製の12.7mm重機関銃M2が架装できる対空銃架が装着されていたが、M48A1〜A3戦車には車長用ハッチに代えて、12.7mm重機関銃M2が組み込まれたキューポラ型車長用銃塔M1が装着された。
一方、M48A4戦車およびA5戦車の一部には、メリーランド州ハントバレーのAAI社(Aircraft Armaments Inc:航空機武装社)製の12.7mm重機関銃M85が組み込まれた、大型の車長用銃塔M19が装着された。
ただし、イスラエル陸軍のM48A5戦車はオリジナルの車長用銃塔を、自国のウルダン工業製の低姿勢型車長用キューポラに換装している。
12.7mm重機関銃M2は自動・反動利用式、リンクベルト給弾方式の空冷機関銃で、重量37kg、全長1,651mm、銃身長1,143mm、腔線8条、右転(381mmで一回転)、銃口初速893〜930m/秒、最大射程5,916〜6,821m、発射速度は450〜550発/分である。
12.7mm重機関銃M85は、戦車用の対空機関銃として開発されたもので、自動・反動利用式、リンクベルト給弾方式の空冷機関銃である。
重量29.5kg、全長1,384mm、銃身長830mm、腔線8条、右転(381mmで一回転)、銃口初速866〜899m/秒、最大射程5,829〜6,652m、発射速度は最大1,050発/分である。
M48戦車シリーズの砲塔後部には車外備品収納用バスケットが設けられ、その左右にはジェリ缶ラックが1つずつ備えられていた。
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+ヴァリエーション
●M48戦車
本型はシリーズ最初の生産型であり、1953年5月に「90mm砲戦車M48」として制式化された。
武装は主砲の48口径90mm戦車砲M41と、同軸機関銃の7.62mm機関銃M1919A4E1が、T148砲架に架装されて砲塔前部に、また対地・対空兼用の12.7mm重機関銃M2が、砲塔上面の車長用ハッチに装備されており、後者は車内からの操作が可能となっていた。
M48戦車の量産にはクライスラー社ニューアーク工場、ミシガン州デトロイトのGM社フィッシャー車体部門、ミシガン州ディアボーンのフォード自動車等が参加したが、他にも129にも及ぶ様々な企業が各パーツの生産等に加わっている。
M48戦車の部隊への配備は1953年からで、冷戦当時の最前線であった西ドイツに駐留する、第2機甲師団ヘル・オン・ホイールズが皮切りとなった。
●M48C戦車
M48C戦車は、外観も構造も性能もM48戦車と同じだが、乗員の訓練用として特別に軟鋼で作られていたので、耐弾能力は皆無であった。
このため、車体の右側面には「Non-Ballistic」(非耐弾性)と刻印されており、射撃訓練用機材として遠隔操作可能な7.62mm機関銃M1919A4E1が、フェンダー上に装着されていた。
また連射時の照準を容易にするため、主砲の砲身先端にはそれまでの円筒形砲口制退機に代えて、T字形爆風変向機が装着されていた。
●M48E1戦車
M48E1戦車は、オリジナルの90mm戦車砲M41に代えて、イギリス製の51口径105mm戦車砲L7A1を搭載した試験車である。
L7A1はこれ以外にも様々な試験を受けた後、若干の改修を施した上で、「105mm戦車砲M68」としてアメリカ陸軍に制式採用され、M48戦車シリーズの後継であるM60戦車シリーズに搭載された。
●M48E2戦車
M48E2戦車は、アニストン陸軍兵器補給廠で改修された試験車で、後のM48A2戦車誕生の母体となった。
オリジナルの気化器付き空冷ガソリン・エンジンに代えて、イギリスのSU杜から1953年にパテントを購入し、コンティネンタル社とシモンズ社が共同開発した、SU型燃料自動噴射装置を装着した空冷ガソリン・エンジンを搭載していた。
●M48A1戦車
M48A1戦車はM48戦車シリーズ最初の改修型で、1954年に制式化された。
主砲の砲身先端には従来の円筒形砲口制退機に代えて、T字形爆風変向機が装着され、車長用ハッチはキューポラ型車長用銃塔M1に変更されている。
車体上面前部の操縦手用ハッチも出入りの際の便を考慮して、M48戦車より大型の片開き式に改められた。
また、当時のソ連軍戦車に見られた車外装備式追加燃料タンクを模倣して、車体後部に着脱式のドラム缶型追加燃料タンクの装着が可能とされ、これを装備した場合路上航続距離が70マイル(113km)から、134マイル(216km)へと増大した。
なお、この追加燃料タンクはM48戦車にも装着が可能なように、遡って改修が施された。
●M48A1E1戦車
M48A1E1戦車は、M48A1戦車に105mm戦車砲を搭載した試験車である。
本車はM48E1戦車と同じく、アニストン陸軍兵器補給廠で改修された。
ただし、M48A1E1戦車で試験された105mm戦車砲はオリジナルのL7A1ではなく、L7系の砲尾にアメリカで改修を加えた、51口径105mm戦車砲T254(後にM68として制式化される)であった。
●M48A1E2戦車
M48A1E2戦車は、コンティネンタル社によって1959年に開発されたAVDS-1790系空冷ディーゼル・エンジンを搭載した試験車である。
また足周りについても、2番目と4番目の上部支持輪が廃止されると共に、新型の誘導輪が装備された。
本車に施された改修は、次期MBTであるM60戦車の開発計画の一環としての内容を持つもので、試験の成果は後にM60戦車に大きく反映されている。
●M48A1E3戦車
M48A1E3戦車はM48A1戦車の車体に、105mm戦車砲M68を装備するM60戦車の砲塔を結合し、空冷ディーゼル・エンジンとクロスドライブ式自動変速・操向機を搭載した試験車で、1975年9月にアニストン陸軍兵器補給廠で改修された。
後にこの改修が制式採用に至り、M48A5戦車となった。
●M48A2戦車
M48A2戦車は、前出のM48E2戦車を1955年11月に制式化した型式である。
SU型燃料自動噴射装置を装着したAVI-1790-8 V型12気筒空冷ガソリン・エンジンと、CD-850-5クロスドライブ式自動変速・操向機を組み合わせたパワーパックを搭載しており、機関室上面は一段盛り上がったプレート状のグリルに変更されている。
またM47戦車以来用いられていた、パルシング・リレイ式の砲塔制御システムに代えて、キャディラック・ゲージ社製の油圧式砲塔制御システムが装備された。
足周りでは2番目と4番目の上部支持輪と、履帯の張度を調整するための支持輪が廃止されたが、上陸作戦時、履帯に無理な力が掛かる可能性が高い、砂浜を走行する海兵隊向けの車両だけは、履帯の脱落をできるだけ防ごうという目的で、上部支持輪が片側5個のままとされた。
当初、M48A2戦車の生産はフォード社の子会社である、ニューヨーク州スケネクタディのALCO社(American Locomotive Company:アメリカ機関車製作所)で行なわれたが、1957年5月からはクライスラー社ニューアーク工場が生産を引き継いだ。
●M48A2C戦車
M48A2C戦車は乗員の訓練に使用するため、全体を軟鋼で製作したM48A2戦車である。
また、操作が簡単で訓練中の未熟な乗員にも使い易い、単眼合致式測遠機M13A1E1が新たに開発されて装備された。
同じく、訓練乗員の慣熟を目的としてM48A2C戦車の一部には、M48A4戦車およびA5戦車の一部と、M60戦車に装着された車長用大型銃塔M19を備えたものも存在する。
●M48A2E1戦車
M48A2E1戦車は、AVDS-1790-1 V型12気筒空冷ディーゼル・エンジンと、CD-850-6クロスドライブ式自動変速・操向機を組み合わせたパワーパックを搭載した試験車で、1958年にコンティネンタル社によって製作された。
この車両は事実上M60戦車のプロトタイプとなり、本車のエンジンと変速・操向機の組み合わせは、そのままM60戦車に踏襲されている。
●M48A3戦車
M48A3戦車は1963年9月に制式化された型式で、M48A1E2戦車が下敷きとなっている。
AVDS-1790-2A V型12気筒空冷ディーゼル・エンジンと、CD-850-4Bクロスドライブ式自動変速・操向機を組み合わせたパワーパックを搭載し、スケールがメートル法で表示された単眼合致式測遠機M17B1Cと、キャディラック・ゲージ社製の油圧式砲塔制御システムが装備されていた。
2,000両のM48A1戦車がクライスラー社ニューアーク工場、ニューメキシコ州サンタフェのUSインダストリーズ社、オハイオ州ライマとアラバマ州アニストンの、両陸軍兵器補給廠でM48A3戦車に改修された。
M48A3戦車は、沖縄県キャンプ・ハンセンに駐屯する第3海兵師団に対して最初に配属され、1965年5月にヴェトナム派遣アメリカ海兵隊の第一陣と共にダナンに陸揚げされた。
その後、陸軍の第6装甲連隊や第11装甲騎兵連隊にも配備されて、アメリカ軍の撤退までヴェトナムの最前線でよく戦った。
●M48A4戦車
1964年4月、アメリカ陸軍は通常砲弾の他に、対戦車ミサイルも発射可能な152mmガン・ランチャーを装備した、M60戦車向けの新型砲塔をクライスラー社に発注した。
この新型砲塔は、既存のM60戦車の車体と結合されてM60A2戦車が誕生したが、その結果、105mm戦車砲を装備する余剰のM60戦車用砲塔が生じた。
そこでこの砲塔を、M48A3戦車の車体に搭載してはどうかという提案がなされ、それがM48A4戦車となって結実したのである。
●M48A5戦車
M48A5戦車はM48戦車シリーズの最終型式で、M48A1E3戦車が制式採用されたものである。
当初の予定では、M48A1戦車だけにA5化の改修が施されることになっていたが、後に、M48戦車シリーズ全体に対する性能向上改修計画へと発展した。
この改修による性能の向上は顕著で、そのためM48A5戦車は、「ビッグ・パットン」という愛称で呼ばれることもある。
M48A5戦車への改修作業は、アニストン陸軍兵器補給廠で実施された。
A5化改修はM48A4戦車のケースとは異なり、砲塔全体を交換するのではなく主砲の換装だけだが、M48A1戦車およびA2戦車からの改修の場合、改修個所は砲塔で20カ所、車体で30カ所ほどで、改修が行なわれた期間は約4カ月間であった。
またM48A3戦車からの改修の場合は、その完成度の高さから改修個所は砲塔の9カ所のみで、改修が行なわれた期間は約3カ月間となっている。
1975年10月から始まった第1次改修分では、360両のM48A3戦車がA5化され、その後、764両のM48A1〜A3戦車がA5化された。
さらに1,864両のM48A1〜A3戦車がA5化され、結局、約2,500両のM48戦車シリーズがM48A5戦車に生まれ変わっているが、このように当初の予定より多数がA5化されたのは、本車が州兵軍の装備に指定されたことも原因だったようである。
M48A5戦車の外観上の最大の特徴は何といっても、主砲が従来の90mm戦車砲M41から、M60戦車と同じ105mm戦車砲M68に換装された点である。
しかしそれ以外にも、従来装備されていたM1やM19といったキューポラ型車長用銃塔が、イスラエルで開発され、アメリカのスティール・ファウンドリーズ社でライセンス生産された、低姿勢型車長用キューポラに換装された点と、それに伴って対空・対地兼用の12.7mm重機関銃が、7.62mm機関銃M60Dに変更された点が目に付く。
エンジンは、M48A3戦車から改修されたM48A5戦車には、従来のAVDS-1790-2Aディーゼル・エンジンがそのまま残されたが、M48A1、A2戦車から改修されたM48A5戦車は、AVDS-1790-2Dエンジンに換装されている。
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<M48戦車>
全長: 8.81m
車体長: 6.967m
全幅: 3.632m
全高: 3.241m
全備重量: 44.906t
乗員: 4名
エンジン: コンティネンタルAV-1790-5B/7/7B/7C 4ストロークV型12気筒空冷ガソリン
最大出力: 810hp/2,800rpm
最大速度: 41.84km/h
航続距離: 113km
武装: 48口径90mmライフル砲M41×1 (60発)
12.7mm重機関銃M2×1 (500発)
7.62mm機関銃M1919A4E1×1 (5,900発)
装甲厚: 25.4〜177.8mm
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<M48A1戦車>
全長: 8.81m
車体長: 6.967m
全幅: 3.632m
全高: 3.089m
全備重量: 47.173t
乗員: 4名
エンジン: コンティネンタルAV-1790-5B/7/7B/7C 4ストロークV型12気筒空冷ガソリン
最大出力: 810hp/2,800rpm
最大速度: 41.84km/h
航続距離: 113km
武装: 48口径90mmライフル砲M41×1 (60発)
12.7mm重機関銃M2×1 (500発)
7.62mm機関銃M1919A4E1×1 (5,900発)
装甲厚: 25.4〜177.8mm
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<M48A2戦車>
全長: 8.682m
車体長: 6.871m
全幅: 3.632m
全高: 3.089m
全備重量: 47.63t
乗員: 4名
エンジン: コンティネンタルAVI-1790-8 4ストロークV型12気筒空冷ガソリン
最大出力: 825hp/2,800rpm
最大速度: 48.28km/h
航続距離: 257km
武装: 48口径90mmライフル砲M41×1 (64発)
12.7mm重機関銃M2×1 (1,360発)
7.62mm機関銃M1919A4E1またはM73×1 (5,950発)
装甲厚: 25.4〜177.8mm
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<M48A3戦車>
全長: 8.682m
車体長: 6.871m
全幅: 3.632m
全高: 3.284m
全備重量: 48.54t
乗員: 4名
エンジン: コンティネンタルAVDS-1790-2A 4ストロークV型12気筒空冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 750hp/2,400rpm
最大速度: 48.28km/h
航続距離: 483km
武装: 48口径90mmライフル砲M41×1 (62発)
12.7mm重機関銃M2×1 (600発)
7.62mm機関銃M73×1 (5,900発)
装甲厚: 25.4〜177.8mm
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<M48A5戦車>
全長: 9.307m
車体長: 6.871m
全幅: 3.632m
全高: 3.061m
全備重量: 48.99t
乗員: 4名
エンジン: コンティネンタルAVDS-1790-2D 4ストロークV型12気筒空冷スーパーチャージド・ディーゼル
最大出力: 750hp/2,400rpm
最大速度: 48.28km/h
航続距離: 483km
武装: 51口径105mmライフル砲M68×1 (54発)
7.62mm機関銃M60D×2 (10,000発)
7.62mm機関銃M219またはM240×1
装甲厚: 25.4〜177.8mm
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<参考文献>
・「パンツァー2013年8月号 アメリカのTシリーズ試作戦車(18) T48、T54中戦車シリーズ/T49軽戦車/T57、58重
戦車他」 大佐貴美彦 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年10月号 ベトナム戦争におけるM48A3戦車(前)」 吉村誠 著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年11月号 ベトナム戦争におけるM48A3戦車(後)」 吉村誠 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年12月号 アメリカ陸軍 T48/T54試作中戦車」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年10月号 M48パットン戦車シリーズ」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年4月号 M60戦車シリーズ」 古是三春 著 アルゴノート社
・「パンツァー2014年12月号 回想の第二世代MBT M48」 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート8 パットン戦車シリーズ」 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート9 レオパルト1と第二世代MBT」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
・「グランドパワー2014年2月号 M48パットン主力戦車」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー
・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社
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