M46パットン中戦車
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+概要
アメリカ陸軍は、当時開発を進めていたT26重戦車(後のM26パーシング重戦車)の車体と砲塔を流用し、主砲を22.5口径105mm榴弾砲M4に換装した、火力支援型のT26E2重戦車の開発計画を1944年にスタートさせたが、これは1945年7月に、「M45重戦車」(1946年5月にM26重戦車と共に中戦車に分類替え)として制式化され、ミシガン州ウォーレンのデトロイト工廠において生産が開始された。
このM45中戦車には、1943年から開発が進められていた新型パワーパックを搭載することが予定されていたが、第2次世界大戦の終了に伴って生産が185両で打ち切られたため、結局新型パワーパックは搭載されずに終わった。
その後アメリカ陸軍は1948年1月に、M26中戦車をベースに改良を加えた新型中戦車「M26E2」の開発計画をスタートさせたが、このM26E2中戦車に、M45中戦車用に開発された新型パワーパックを搭載することになった。
このパワーパックは、アラバマ州モービルのコンティネンタル自動車製の、AV-1790-3 V型12気筒空冷ガソリン・エンジン(出力810hp)と、インディアナ州インディアナポリスのGM(ジェネラル・モータース)社アリソン変速機部門製の、クロスドライブ式自動変速・操向機CD-850-1(前進2段/後進1段)を組み合わせたものであった。
M26中戦車に搭載されたミシガン州ディアボーンのフォード自動車製の、GAF V型8気筒液冷ガソリン・エンジンの出力は500hpだったので、新型エンジンへの換装によって実に310hpも大幅にパワーアップしたことになる。
またM26中戦車に用いられた、アリソン社製の900F2トルクマティック式変速機(前進3段/後進1段)に代えて、新たに採用されたCD-850-1クロスドライブ式変速・操向機は、変速機、最終減速機、操向ブレーキが1つのケース内に収納され、全ての回転軸が入力軸と直角の(すなわちクロスした)横向きになっていたのが特徴で、M26E2中戦車はこの新型変速・操向機の採用により、自動変速に加えてパワーステアリングの機能を持つに至り、1本の操縦桿を前後に倒して変速、左右に倒して操向する画期的なイージードライブを実現した。
新型パワーパックの搭載に伴い、M26E2中戦車の機関室上面はやや上方に持ち上げられ、グリルの形状も改められた。
また、機関室中央に設けられていたラジエイターが廃止され、この部分もグリルに変更されている。
さらに、前部グリルの中央には排気管がカバーと共に設けられ、左右フェンダーに置かれたマフラーに導かれた。
これに伴い、車体後面に開口していた排気口は姿を消した。
また車体後面の左側には、車内との連絡用の電話を収める装甲ボックスが新設された。
M26E2中戦車の試作車の製作は、車両登録番号3012420のM26中戦車を用いて、デトロイト工廠で1948年春から開始された。
同年5月には、完成した試作車がメリーランド州のアバディーン車両試験場に送られて、試験が実施された。
M26E2中戦車には当初、新たに開発された機関系に故障が生じるなどの問題が多発したが、その後改良が進められ、M26中戦車に比べて機動性や操縦性が優れていることが確認された。
この時点で、M26E2中戦車の主砲を高初速の73口径90mm戦車砲T54に換装する案が出たが、より強力な120mm戦車砲を装備するT43重戦車の開発が進められていたこともあり、結局従来通りの50口径90mm戦車砲M3の砲身に、新機構の排煙機と改良型の砲口制退機を追加して、M3A1に進化させる案に落ち着いた。
これに併せて、砲架が俯仰安定装置が追加されたM67A1に替わり、砲手用の直接照準機もM26中戦車に用いられたM71C(倍率5倍)から、M83C(倍率4倍)に変更された。
さらに、第6転輪と起動輪の間に小さな履帯緊張用の支持輪が追加されるなど、サスペンションと駆動系統に少し手が加えられ、出来上がった車両には新たに「T40」の試作呼称が与えられた。
その後、米ソ間の緊張が高まるにつれてT40中戦車に注目が集まり、1948年度に試作車10両の製作が認められて、翌49年8月からアバディーン車両試験場で性能試験が始まった。
T40中戦車の試作車の内、9両はアバディーンでの試験に供され、残る1両はT39装甲工兵車に改造された。
さらに、試験に供された9両のT40中戦車の内8両は、後にM46A1戦車に再改造されている。
本当はアメリカ陸軍としては、この機会をとらえて完全な新設計の戦車を開発したかったのだが、それには莫大な時間が必要なためやむを得ず、M26中戦車に改良を加えただけのT40中戦車で我慢することにした。
こうして、アメリカ陸軍の次期主力戦車の最有力候補となったT40中戦車は、M26中戦車の改良型とはいいながら、随所に施された変更によってすっかり近代化され、アメリカ陸軍自身もそれを認めて、1948年7月30日に「M46中戦車」(Medium
Tank M46)として制式化し、さらに、かの第2次世界大戦の英雄ジョージ・スミス・パットン・ジュニア陸軍大将に因んで、「ジェネラル・パットン」の愛称を与えた。
M46中戦車の試験は順調に進んで、1949年度には晴れて予算が認められ、800両のM46中戦車がデトロイト工廠に発注されて生産が開始された。
M46中戦車の生産型第1号車は、1949年11月初めにアバディーン車両試験場に送られたが、生産型では車体後面下部に3個の整備用円形ハッチが設けられており、これがT40中戦車との相違点となっている。
M46中戦車は新規生産と並行する形で、1950年からはM26中戦車とM26A1中戦車からの改造も開始され、最終的に新規生産800両に加えて、1,215両がM46中戦車に改造された。
1950年11月7日、アメリカ陸軍は従来の戦車分類に用いていた軽、中、重といったカテゴリーを改め、主砲による分類に変更した。
これに従ってM46中戦車も、「90mm砲戦車M46」(90mm Gun Tank M46)と呼称が変化している。
M46戦車の生産がまだ続いていた時にアメリカ陸軍は、1949年から開発を進めていた新型中戦車T42の砲塔をM46戦車の車体に搭載した、暫定型戦車M46E1を製作することを決定した。
これが後のM47戦車であり(愛称は同じく「ジェネラル・パットン」)、より避弾経始に優れた砲塔形状と新方式のFCS(射撃統制装置)を特徴とし、車体こそほぼM46戦車そのままだったが、駆動系統にも大幅な改良が施されていた。
アメリカ陸軍はこのM47戦車を、1950年6月25日に勃発した朝鮮戦争に投入するつもりであったが、極端に精巧かつ複雑な新型FCSが災いして、M47戦車は生産開始が大幅に遅れることになってしまった。
これに困惑したアメリカ陸軍は、とりあえずM46戦車に駆動系統の改良のみを施した戦車を生産して、急場を凌ぐことにした。
これがM46A1戦車で、パワーパックがコンティネンタル社製のAV-1790-5B V型12気筒空冷ガソリン・エンジンと、アリソン社製のCD-850-4クロスドライブ式自動変速・操向機の組み合わせに替わり、これに加えてオイル冷却系統の改良やブレーキ能力の向上、車内配線の改善、新型計器盤の装備等の改良が盛り込まれていた。
これらの改良点はM47戦車の開発過程で得られたもので、1951年4月1日に「90mm砲戦車M46(新型)」として360両が発注されたが、後に「M46A1」に呼称が変更されている。
M46A1戦車は外観がM46戦車と全く変わらないので、識別するには車両登録番号を見るしか無い(30163849番以降がM46A1戦車)。
M46戦車は、M26戦車と共に1950年8月から朝鮮戦争に投入されたが、本車はM26戦車に比べて出力/重量比が優秀で、クロスドライブ式自動変速・操向機の採用により旋回が機敏であり、北朝鮮軍の主力戦車であったソ連製のT-34-85中戦車に対しても圧倒的に強かった。
なお、朝鮮戦争で中国軍に鹵獲されたM46戦車の内の数両がソ連に送られたが、主砲に装備されていた新機構の排煙機は直ちにコピーされ、以降のソ連製戦車に導入されるようになった。
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<M46中戦車>
全長: 8.473m
車体長: 6.358m
全幅: 3.513m
全高: 3.178m
全備重量: 43.999t
乗員: 5名
エンジン: コンティネンタルAV-1790-5A 4ストロークV型12気筒空冷ガソリン
最大出力: 810hp/2,800rpm
最大速度: 48.28km/h
航続距離: 129km
武装: 50口径90mmライフル砲M3A1×1 (70発)
12.7mm重機関銃M2×1 (550発)
7.62mm機関銃M1919A4×2 (5,500発)
装甲厚: 12.7〜114.3mm
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<参考文献>
・「パンツァー2013年6月号 アメリカのTシリーズ試作戦車(16) T35火焔放射戦車、T37軽戦車/T40中戦車/T41
軽戦車シリーズ」 大佐貴美彦 著 アルゴノート社
・「パンツァー2014年11月号 歴代戦車砲ベストテン」 荒木雅也/久米幸雄/三鷹聡 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2008年9月号 アメリカ戦車のゴッド・ファザー達」 松井史衛 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年3月号 朝鮮戦争における国連軍戦車」 水野靖夫 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年9月号 アメリカ軍 M46/47中戦車」 城島健二 著 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート8 パットン戦車シリーズ」 アルゴノート社
・「世界の戦車イラストレイテッド19 M26/M46パーシング戦車
1943〜1953」 スティーヴン・ザロガ 著 大日
本絵画
・「グランドパワー2015年3月号 M26重戦車シリーズ(1) M26/M46の開発と構造&派生型」 後藤仁 著 ガリレ
オ出版
・「グランドパワー2015年4月号 M26重戦車シリーズ(2) M26/M46の戦歴&M47の開発と構造」 後藤仁 著
ガリレオ出版
・「グランドパワー2002年11月号 M26重戦車パーシング(1)」 後藤仁 著 デルタ出版
・「グランドパワー2002年12月号 M26重戦車パーシング(2)」 後藤仁 著 デルタ出版
・「世界の戦車(2)
第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
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