+概要
第2次世界大戦当初から、前線に兵員を輸送する手段としてM2ハーフトラックや、M3ハーフトラックなどの半装軌式装甲兵員輸送車をその任に充ててきたアメリカ陸軍であったが、オープントップのハーフトラックでは榴弾等の弾片や軽火器、そして市街地等での戦闘において被害を被るのは必知であり、この問題を改めるべく1944年秋にミシガン州ウォーレンのデトロイト工廠に対して、密閉式の兵員室を備える装軌式の装甲兵員輸送車の開発を命じた。
「T13」の開発番号が与えられたこの車両には、当時生産に入っていた新型軽戦車M24の機関系とサスペンションが流用されており、兵員輸送以外にも偵察、貨物輸送、牽引等、様々な用途への転用が求められていた。
車体は箱型で、車体前部に正操縦手席と副操縦手席を並列に配し、その後方に機関室を設けてM24軽戦車と同じ、ミシガン州デトロイトのキャディラック社製のシリーズ44T24
V型8気筒液冷ガソリン・エンジン(出力148hp)2基を置き、車体後部を兵員室に充てていた。
戦闘重量は17.55tで、路上最大速度は35マイル(56.33km)/h、路上航続距離は250マイル(402km)とされ、装甲厚は全周0.5インチ(12.7mm)と薄く、装甲を犠牲にして重量を抑えることである程度の速度が求められたことが分かる。
また兵員は18〜25名を収容することとされており、M3ハーフトラックが12名を収容していたのと比べるとかなり大きな収容能力が要求されていた。
しかしこのT13計画は1945年3月22日付で放棄され、同年4月5日付でT13のコンセプトを受け継ぎながらM18対戦車自走砲の機関系を用いて、さらなる兵員搭載数の増加を図ったT16計画が新たにスタートする運びとなった。
このT16は兵員搭載数を増加させるためにT13の大型化を図ったもので、その全長は6mを大きく超えて6.53mにも達していた。
このため車体前部に並列に配された正、副操縦手および車長の3名の乗員に加えて、車体後部の兵員室に24名の兵員を収容することができた。
T16はT13と同じく箱型車体を踏襲しており、装甲厚は車体前部が最大で0.625インチ(15.88mm)とされており、わずかではあるが装甲の強化が図られていた。
機関室は正、副操縦手席の間に置かれたが、T16に採用されたニュージャージー州パターソンのライト航空産業製の、「ワールウィンド」(Whirlwind:旋風)R-975
星型9気筒空冷ガソリン・エンジンは背が高いため、これを水平に寝かせて、クランク・シャフトからベベル・ギアを介して変速・操向機に伝達するという、少々複雑な駆動系を採っていた。
この機関室の後方に車長が位置し、先の正、副操縦手と合わせてそれぞれにキューポラが備えられていた。
車長席の後ろは兵員室とされ、左右側面に各1基ずつと中央に背中合わせに2基のベンチシートが設けられ、シートには各6名ずつが着座した。
また車体の左右側面には、各4カ所ずつスライド・カバーが付いたガンポートが備えられ、車体後面には左右それぞれ独立した乗降用ドアが2枚設けられていた。
また、この2枚の乗降用ドアにもカバー付きのガンポートが設けられ、さらに視察ブロックも備えていた。
車体中央部の左右には上面と側面に分割された乗降用ドアが装備され、この側面ドアにもカバー付きガンポートと視察ブロックが装着されていた。
また自衛用として車体後部には、ユタ州オグデンのブラウニング火器製作所製の12.7mm重機関銃M2を備え、さらに後部上面4カ所にソケット式の機関銃マウントを取り付けて、任意に同社製の7.62mm機関銃M1919A4の装備を可能としていた。
このT16計画は1945年4月12日に試作車の製作が承認され、M24軽戦車の開発を手掛けたキャディラック社が開発を担当することとされ、1945年6月までにまず6両の試作車を完成させることが要求されて製作が始まった。
1945年8月に日本が降伏した時点では、まだ試験が行われていた段階で実戦への参加は果たせなかったが、「M44 AUV(Armored Utility Vehicle:汎用装甲車)」として制式化された。
しかし、一応制式リストには載ったものの試験を行った結果、装甲兵員輸送車として用いる場合、兵員27名という収容能力は必要無いことが判明し、1個分隊を構成する12名が搭乗できれば充分という結論が出されたため、よりサイズの小さい12名収容の装軌式装甲車T18(後のM75装甲兵員輸送車)が開発されることになり、M44汎用装甲車は少数生産(生産数は不明)に終わることになった。
M44汎用装甲車の生産と並行して、1945年10月31日にM44汎用装甲車の改良型が「M44E1」の呼称で発注された。
このM44E1汎用装甲車はT16の試作車をベースとして改造が施されたもので、後にM41ウォーカー・ブルドッグ軽戦車に採用されたエンジンと同系列の、アラバマ州モービルのコンティネンタル発動機製のAOS-895-1
水平対向6気筒空冷スーパーチャージド・ガソリン・エンジン(出力500hp)が搭載された。
併せて変速・操向機や履帯も新型に替わり、ガンポートを溶接して塞いだり車体中央部のドアの内、上面のものが固定され機関銃マウントが廃止される等の改良が行われた。
しかし車体サイズは当然ながら以前のままであり、オーバーサイズであることは明白だったため、結局M44E1汎用装甲車は試作のみで終わり量産は行われなかった。
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