M44 155mm自走榴弾砲は、M52 105mm自走榴弾砲と並んで第2次世界大戦後すぐに開発されたアメリカ陸軍の戦後第1世代自走砲である。 どちらもM41ウォーカー・ブルドッグ軽戦車の車体をベースに開発された自走榴弾砲で、1947年9月に105mm榴弾砲を装備する「T98」と155mm榴弾砲を備える「T99」の開発計画が並行して進められることになった。 このM44自走榴弾砲はT99の具現化であり、戦後初の自走榴弾砲としてそれなりの成功を収めている。 T99自走榴弾砲の開発はデトロイト戦車工廠が担当しており、当初はM41軽戦車の車体を前後逆にした形とし、その後部に密閉式の戦闘室を設けて155mm榴弾砲T97を搭載する案が計画され、1951年に完成した2両の試作車では計画着手時に公表されたスケッチとは少々異なるものの、密閉式戦闘室に155mm榴弾砲を限定旋回式に搭載して完成している。 この戦闘室は一見すると砲塔のように見えたが、実際は固定式で旋回はできなかった。 T99自走榴弾砲は車体にさらなる改良が加えられ1両の試作車には直接照準タイプの簡易型照準機が、もう1両にはコンピューターなどを介して命中精度の向上を図った究極型照準機がそれぞれ装備されて、名称も「T99E1」と改められた。 そして比較試験の結果アメリカ陸軍は簡易型照準機を搭載したT99E1自走榴弾砲を選定し、250両が発注される運びとなった。 しかし完成した車両は重量が30tにも達し、M41軽戦車の車体を用いるにはエンジンが非力でサスペンションも強度不足であり、機動性などの問題がクローズアップされてしまった。 このため戦闘室を改設計してオープントップとし、各部の重量軽減に努めた改良型のT194自走榴弾砲に生産が切り替えられ358両を生産する一方で、250両が生産されたT99E1自走榴弾砲もT194自走榴弾砲と同じ仕様に改造されることになり、合わせて608両が完成したことになる。 このような紆余曲折があったが、1953年11月には「M44 155mm自走榴弾砲」(155mm Self-propelled Howitzer M44)の制式名称が与えられた。 1956年にはM44自走榴弾砲のエンジンを燃料噴射型に換装することになり、このエンジン換装車には「M44A1」の呼称が与えられている。 1962年には後継のM109 155mm自走榴弾砲にその座を譲ってアメリカ陸軍から退役したが、一部の車両は西側各国に供与されている。 日本の陸上自衛隊にも、エンジンを換装したM44A1自走榴弾砲が10両供与された。 M44自走榴弾砲の車体はM41軽戦車をベースにしたとはいえ、車体を前後逆にして前部に機関室を配し接地長を稼ぐために誘導輪を接地型としているなど実際は全くの別物と見て良い。 反動の大きい155mm榴弾砲を搭載していたため、車体後部には発砲時の反動を受け止めるための駐鋤が設けられていた。 同じ車体をベースにしていたM52自走榴弾砲の場合は、反動の小さい105mm榴弾砲を搭載していたため駐鋤は装備していなかった。 主砲の32口径155mm榴弾砲M45は左右各30度ずつの旋回角、−5〜+65度の俯仰角を有しており、最大射程は重量42.9kgの榴弾を用いて14,600mとなっていた。 弾薬は榴弾の他に化学砲弾や核砲弾も用意されていたが(冷戦当時)、搭載弾薬数は24発とM52自走榴弾砲の102発に比べるとかなり少なかった。 |
<M44 155mm自走榴弾砲> 全長: 6.16m 全幅: 3.239m 全高: 3.112m 全備重量: 29.03t 乗員: 5名 エンジン: コンティネンタルAOS-895-3 4ストローク水平対向6気筒空冷スーパーチャージド・ガソリン 最大出力: 500hp/2,800rpm 最大速度: 56.33km/h 航続距離: 121km 武装: 32口径155mm榴弾砲M45×1 (24発) 12.7mm重機関銃M2×1 (900発) 装甲厚: 9.53〜12.7mm |
<参考文献> ・「パンツァー2002年1月号 陸自の車輌・装備シリーズ M44/M52自走榴弾砲」 田村尚也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年12月号 東京オリンピック(1964年)当時の自衛隊車輌」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年7月号 陸上自衛隊の供与自走砲 M44/M52」 高城正士 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年7月号 陸上自衛隊 懐かしのアメリカ製車輌」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年6月号 陸上自衛隊のM44 155mm自走砲」 前河原雄太 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年4月号 陸上自衛隊の自走砲」 田村尚也 著 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート9 レオパルト1と第二世代MBT」 アルゴノート社 ・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 潮書房光人新社 ・「グランドパワー2021年12月号 M41軽戦車シリーズ」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2010年4月号 M41戦車シリーズ」 島内慶太 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「自衛隊歴代最強兵器 BEST200」 成美堂出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |