M40 155mm自走加農砲
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+開発
1943年12月、翌年に実施される連合軍のヨーロッパ進攻作戦では、機甲師団の支援用に中口径自走砲を投入することが決定された。
当時、アメリカ陸軍にはM12 155mm自走加農砲があったが、主砲が第1次世界大戦型の旧式野砲で、車体もM3中戦車がベースで全体的に旧式化しており、台数もわずかであった。
そこで、当時のアメリカ陸軍の主力戦車であったM4中戦車の車体をベースに、新型の155mm加農砲M1を搭載する自走砲が開発されることになった。
この新型自走砲には「T83」の開発番号が与えられ、1944年3月18日にペンシルヴェニア州ピッツバーグのPSC社(Pressed Steel
Car:圧延鋼板・自動車製作所)に対して、5両の試作車の製作が発注された。
T83自走加農砲の最初の試作車は1944年7月28日に工場をロールアウトし、メリーランド州のアバディーン車両試験場において200発の射撃試験が実施された。
この試験においてT83自走加農砲は、射撃の反動を吸収するために車体後部に設けられた駐鋤を下ろしてない状態でも、安定した射撃を行えることが確認された。
続いて同年10月にT83自走加農砲の試作第2、第3号車が完成し、ノースカロライナ州にあるアメリカ陸軍野戦砲兵局のフォート・ブラッグ試験場において、1カ月に渡る本格的な運用試験が行われた。
試験の結果は好評で若干の内部配置の変更を経て、翌45年1月にPSC社に対しT83自走加農砲304両の先行生産が発注された。
またこれに先立って、T83自走加農砲の車体を流用して開発されたT30弾薬運搬車の製作も発注されていたが、1944年12月に発注がキャンセルされたため少数の生産に終わっている。
T83自走加農砲の生産は1945年2月から開始され、同年5月には「M40 155mm自走加農砲」(155mm Gun Motor Carriage
M40)としてアメリカ陸軍に制式採用され、発注数は600両に拡大された。
結局、第2次世界大戦が終了したこともあり、M40自走加農砲の調達は1945年9月をもって中断されたが、それまでに418両が生産されてアメリカ陸軍に引き渡された。
この内24両は後述のM43自走榴弾砲に改造されたため、M40自走加農砲として完成したのは394両となる。
M43自走榴弾砲は、M40自走加農砲と全く同じ車体に8インチ(203mm)榴弾砲M1を搭載したものである。
開発番号「T89」を与えられた同自走砲は、T83自走加農砲の試作第1号車のアバディーン車両試験場における試験を契機に、155mm加農砲M1に代えてより大口径の8インチ榴弾砲M1を搭載することが提案されたもので、200発の射撃試験を終えたT83自走加農砲の試作第1号車の主砲を8インチ榴弾砲M1に換装して、T89自走榴弾砲の最初の試作車が製作され、75発の射撃試験が実施された。
試験の結果が良好だったため1944年11月にPSC社に対して、T83自走加農砲の試作第4、第5号車として完成させるはずだった車両を、T89自走榴弾砲に変更することが指示された。
T89自走榴弾砲の試作第2、第3号車は1945年1月初めには完成し、ジェネラル・モータース社の車両試験場で初期試験を実施した後に、フォート・ブラッグ試験場において本格的な運用試験が行われた。
試験結果が満足すべきものだったことから、T89自走榴弾砲もPSC社に対し、制式採用以前の段階で576両もの生産発注が行われたが、これも戦争の終了に伴いキャンセルされたため、1945年6〜9月にかけて48両が完成したのみであった。
その後同年9月から、M40自走加農砲の内24両が主砲を8インチ榴弾砲に換装してT89自走榴弾砲に改造されたため、T89自走榴弾砲として完成したのは合計72両となった。
T89自走榴弾砲が、「M43 8インチ自走榴弾砲」(8inch Howitzer Motor Carriage M43)としてアメリカ陸軍に制式採用されたのは、1945年11月になってからである。
M40、M43の両自走砲とも制式採用以前のT83、T89の段階であった1945年2月に、第991野戦重砲兵大隊にM12自走加農砲と共に配備され、ヨーロッパ戦線で初陣を飾っている。
同大隊に配備されたのはT83自走加農砲の試作第3号車と、T89自走榴弾砲の3両の試作車の内の1両で、T89自走榴弾砲の方は配備後早い段階で、主砲を155mm加農砲M1A1に換装してT83自走加農砲に改造されている。
以後、両自走砲とも1950年6月に勃発した朝鮮戦争に投入された他、M40自走加農砲はNATO同盟国にも供与され、1960年代前半まで使用された。
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+構造
M40自走加農砲とM43自走榴弾砲は主砲、砲架、弾薬ラックが異なるだけで基本的に同一規格の車両であり、HVSS(水平渦巻スプリング・サスペンション)と幅58.4cmの広幅履帯から成る足周りを持つM4中戦車シリーズ後期型の車体をベースにしていたが、大口径砲を搭載するために車体幅は57cmも広げられ、エンジンも車体中央部に移されており、それまでの自走砲とは違って戦車の車体をベースにしたというより、同一コンポーネントを用いて整備上の共用性を図った全くの新規開発の車体というべきものだった。
エンジンは、M4/M4A1中戦車の後期型に用いられたのと同じ、ニュージャージー州パターソンのライト航空産業製の、R-975-C4 航空機用星型9気筒空冷ガソリン・エンジン(出力460hp)が搭載され、変速・操向機もM4中戦車シリーズと同じく、前進5段/後進1段のシンクロメッシュ式手動変速機と差動歯車式操向機を組み合わせていた。
エンジンの左右には合計215ガロン(814リットル)容量の燃料タンクが設置されており、路上最大速度24マイル(38.62km)/h、路上航続距離100マイル(161km)の機動性能を発揮した。
乗員は8名で、車体前部の操縦室に操縦手と無線手の2名が収まり、車体後部のオープントップ式戦闘室に、砲架に搭載された主砲と砲手、車長、装填手4名が収容された。
操縦室内には左側に操縦手、その右側に無線手が位置し、操縦手の頭上には76mm砲搭載型M4中戦車の砲塔の装填手用ハッチを流用した、円形の左開き式ハッチが装備されていた。
また無線手の頭上には、やはり同じ砲塔の車長用キューポラを流用した、円形ハッチ付きのキューポラが装備されていた。
キューポラの周囲には6基の視察ブロックが設けられ、キューポラ上部のハッチはM6ペリスコープが備えられ、中央部がペリスコープごと旋回できるようになっており、全周の視界を得られるようになっていた。
戦闘室内には最前部中央に、M40自走加農砲ではM13砲架に搭載された155mm加農砲M1、M43自走榴弾砲ではM17砲架に搭載された8インチ榴弾砲M1が設置され、その左側に砲手、右側に車長が位置した。
その他に4名の装填手も搭乗することになっていたが、戦闘室の容積が狭いため、通常は戦闘室内の6名の乗員は随伴する弾薬運搬車に搭乗していたものと思われる。
砲架の左右の戦闘室壁面には主砲弾薬(M40自走加農砲では155mm弾薬10発、M43自走榴弾砲では8インチ弾薬8発)を収めるラックがそれぞれ設けられており、戦闘室の後面部分は後方に90度倒して射撃用プラットフォームとして使用できるようになっていた。
車体後面には、射撃時の反動を吸収するための駐鋤が備えられており、戦闘室最後部左側には、駐鋤を手動で起倒させるためのワイアーを操作するウィンチ機構が収められていた。
M40自走加農砲の主砲である45口径155mm加農砲M1は、M12自走加農砲に搭載された第1次世界大戦以来の38.2口径155mm加農砲M1918M1を更新するため、1938年に開発された新鋭野砲で、「ロング・トム」(Long Tom)という通称で呼ばれた。
牽引式の同砲は第2次世界大戦後、日本の陸上自衛隊にも供与されて長く使用された(自衛隊に供与されたのは改良型のM2)。
使用弾薬はM101榴弾(重量42.6kg、砲口初速853m/秒)、M112B1風帽付被帽徹甲榴弾(重量45.3kg、砲口初速837m/秒)、M104発煙弾(重量44.5kg、砲口初速837m/秒)で、発射速度は1発/分と遅かったが、M101榴弾を使用した場合で最大射程23.5kmと、当時としては長い射程を有していた。
なお、M40自走加農砲に搭載されたのは155mm加農砲M1の砲尾を改修したM1A1で、生産途中から改良型の155mm加農砲M2が導入されたが、その時期は不明である。
M43自走榴弾砲に搭載された25口径8インチ榴弾砲M1(生産途中から改良型のM2が導入された)は、1939年に開発されたもので発射速度は1発/分、使用弾薬はM106榴弾(重量91kg、砲口初速594m/秒)と、Mk.1A1榴弾(重量91kg、砲口初速408m/秒)の2種で、M106榴弾を発射した場合最大射程は16.9kmとなっていた。
牽引式の同砲はやはり第2次世界大戦後、日本の陸上自衛隊にも供与された(自衛隊に供与されたのは改良型のM2)。
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<M40 155mm自走加農砲>
全長: 9.068m
車体長: 6.655m
全幅: 3.15m
全高: 3.302m
全備重量: 36.742t
乗員: 8名
エンジン: ライトR-975-C4 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 460hp/2,400rpm
最大速度: 38.62km/h
航続距離: 161km
武装: 45口径155mm加農砲M1A1またはM2×1 (20発)
装甲厚: 12.7〜107.95mm
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兵器諸元
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<参考文献>
・「グランドパワー2007年1月号 155mm自走砲M40と戦後の自走重砲」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2020年4月号 M10/M36戦車駆逐車」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(1)
装軌式自走砲:1917〜1945」 デルタ出版
・「第2次大戦
イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「パンツァー2004年4月号 走るロング・トム M40 155mm自走砲」 松井史衛 著 アルゴノート社
・「パンツァー2007年5月号 アメリカの155mm自走カノン砲 M40」 大竹勝美 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年10月号 知られざるアメリカ自走砲」 斎藤世志見 著 アルゴノート社
・「パンツァー2012年11月号 M40自走155mmカノン砲ロング・トム」 アルゴノート社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
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