M4中戦車
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+M4中戦車シリーズの開発
アメリカ陸軍はドイツ陸軍のIII号戦車やIV号戦車に対抗するため、旋回式砲塔に75mm戦車砲を備える新型中戦車(後のM4中戦車)を開発することを計画していたが、実用化されるまでには時間が必要だったためそれまでの繋ぎとして、車体右側に限定旋回式に75mm戦車砲を装備する暫定的な新型中戦車を生産することになり、こうして急遽開発されたのがM3中戦車であった。
M3中戦車の設計を1941年3月に終えたイリノイ州のロックアイランド工廠は、本命である旋回式砲塔に75mm戦車砲を備える新型中戦車の5種類の設計案を、当時戦車開発を司っていた機甲委員会に提出した。
この案の中から選定されたのはM3中戦車のシャシーをそのまま流用し、車体上部構造を新たに設計して75mm戦車砲を備える全周旋回式砲塔を搭載するというものであった。
これは最も開発が容易な案であったが、その背景には早急な実戦化が望まれていたことが存在したのはいうまでも無い。
この新型中戦車は「T6」の試作呼称が与えられて開発がスタートし、1941年5月にはモックアップ審査が行われたが、この際車長用キューポラの廃止など細部に手直しが要求された。
T6中戦車の試作車は1941年9月に完成し、メリーランド州のアバディーン車両試験場において各種試験が開始された。
試験の結果は満足すべきものであったため、T6中戦車は1941年10月に「M4中戦車」(Medium Tank M4)としてアメリカ陸軍に制式採用され、大幅な機甲師団増設のため月産2,000両を目標にして、1942年2月より大量生産が開始された。
そのために契約したメーカーは11社に及び、車体製造、エンジン共に多岐に渡った。
この結果M4中戦車は製造メーカーによって微妙な差が発生し、これがM4〜M4A6までの型式として定められた。
また装備する主砲も初期の37.5口径75mm戦車砲M3、後期の52口径76.2mm戦車砲M1、そして火力支援用の22.5口径105mm榴弾砲M4と3通り存在した。
M4中戦車シリーズは長期間・大量に生産され、第2次世界大戦中期以降の米英軍の主力戦車として活躍した。
しかしカタログ性能的にはこれといった特色は無く、火力はドイツ軍の重戦車はもちろんだが、IV号戦車長砲身型にもかなわなかった。
また被弾すると炎上し易いという致命的な弱点があり、後に湿式弾薬庫や追加装甲などの対策を施したものの、根本的解決策とはならなかった。
ドイツ軍の兵士たちは、被弾するとすぐに炎上するM4中戦車を「アメリカ兵のストーブ」と呼んでいた。
しかしM4中戦車がイギリス戦車やドイツ戦車に優っていたのは、カタログ性能には顕れない広い車内スペースと行き届いたレイアウトによる乗員の疲労の少なさ、敵より早く初弾を撃ち出せる砲塔の精密制御機構などに加えて兵器システムとしての完成度、機械的信頼性であった。
アメリカの自動車産業のノウハウを随所に活かして作った戦車だけに、M4中戦車は故障が少なく整備が容易で、操縦も整備も誰でも短期間で修得できた。
また1944年に入って装甲貫徹力に優れる長砲身76.2mm戦車砲を装備するようになると、M4中戦車は非常にバランスの取れた優秀な中戦車に生まれ変わった。
特に1944年6月のノルマンディー戦以降の追撃戦では、その火力・装甲・機動力のバランスの良さが戦車に本来希求されてきた真価を発揮し、アメリカ陸軍の名将ジョージ・パットン将軍はM4中戦車を絶賛している。
1942年9月に北アフリカのイギリス第8軍に318両のM4中戦車シリーズが届けられ、1942年10月23日に開始された「俊足作戦」(Operation
Lightfoot)が本車の初陣となった。
イギリス陸軍では、M4中戦車シリーズを「ジェネラル・シャーマン」と称していた。
この「シャーマン」(Sherman)という名称は、南北戦争において南軍から「悪魔」と恐れられた北軍の名将ウィリアム・T・シャーマン少将に由来する。
M4中戦車シリーズの各型式についてはM4をシャーマンI、M4A1をシャーマンII、M4A2をシャーマンIII、M4A3をシャーマンIV、M4A4をシャーマンVと称していた。
また武装の違いに関しては75mm砲搭載型は接尾記号無し、76.2mm砲搭載型を”A”、105mm砲搭載型を”B”、17ポンド砲搭載型を”C”で表し、他にサスペンションの違いを接尾記号無しがVVSS(垂直渦巻スプリング・サスペンション)装備型、”Y”がHVSS(水平渦巻スプリング・サスペンション)装備型という具合に示した。
M4中戦車がアメリカ陸軍で初めて使われたのは、1942年11月以降のチュニジア戦である。
この作戦ではアメリカ陸軍機甲部隊にまだ実戦経験が無かったこともあって、M4中戦車は大きな損害を受けてしまった。
その後イタリア戦、北西ヨーロッパの戦闘では連合軍機甲部隊の主力となった。
ドイツ軍戦車との戦闘においては75mm戦車砲装備のM4中戦車は、III号戦車長砲身型とは射距離によらずほぼ互角、IV号戦車長砲身型とは500m以内の近距離でなら互角であった。
その後長砲身76.2mm戦車砲への換装、HVAP(高速徹甲弾)の開発等により火力は増強されたものの、射距離1,000m以上ではドイツ軍の重戦車には全く歯が立たなかった。
それにも関わらずM4中戦車が終戦まで第一線に留まり得たのは、1944年6月のノルマンディー上陸以後ドイツ軍戦車の大規模な反撃はほとんど無く、戦場での主な脅威はドイツ軍の対戦車砲であったからで、この種の戦闘では榴弾で勝負が付いたためである。
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+M4中戦車の概要
M4中戦車はシリーズの原型となったT6中戦車の量産仕様といえるもので、車体側面に設けられていたドアが廃止され車体各部も少々リファインされている。
エンジンはT6中戦車と同じく、ニュージャージー州パターソンのライト航空産業が開発した航空機用星型9気筒空冷ガソリン・エンジン「ワールウィンド」(Whirlwind:旋風)R-975が搭載され、車体は圧延防弾鋼板の溶接式となっていた。
M4中戦車の生産はニューヨーク州スケネクタディのALCO社(American Locomotive Company:アメリカ機関車製作所)、ペンシルヴェニア州エディストーンのBLW社(Baldwin Locomotive Works:ボールドウィン機関車製作所)、ミシガン州ウォーレンのデトロイト工廠、ペンシルヴェニア州ピッツバーグのPSC社(Pressed Steel Car:圧延鋼板・自動車製作所)、イリノイ州シカゴのPSCM社(Pullman-Standard Car Manufacturing:プルマン・スタンダード自動車製作所)の5社が担当した。
PSC社が1942年7月〜1943年7月にかけて1,000両、BLW社が1943年1〜12月にかけて1,233両、ALCO社が1943年2〜11月にかけて2,150両、PSCM社が1943年5〜8月にかけて689両、デトロイト工廠が1943年8〜12月にかけて1,676両のM4中戦車(75mm砲搭載型)を生産している。
M4中戦車(75mm砲搭載型)の総生産数は6,748両であるが、デトロイト工廠で生産された最後期の1,676両では車体前面を鋳造としたハイブリッド車体が用いられており、それ以外の5,072両は全溶接式の車体であった。
また75mm戦車砲M3に代えて105mm榴弾砲M4を搭載した火力支援型のM4中戦車も、1944年2月〜1945年5月にかけてデトロイト工廠で1,641両生産されており、やはりハイブリッド車体が用いられていた。
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<M4中戦車 75mm砲搭載型>
全長: 5.893m
全幅: 2.616m
全高: 2.743m
全備重量: 30.346t
乗員: 5名
エンジン: ライトR-975-C1 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 400hp/2,400rpm
最大速度: 38.62km/h
航続距離: 193km
武装: 37.5口径75mm戦車砲M3×1 (97発)
12.7mm重機関銃M2×1 (300発)
7.62mm機関銃M1919A4×2 (4,750発)
装甲厚: 12.7〜88.9mm
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<M4中戦車 105mm砲搭載型(初期生産車)>
全長: 5.893m
全幅: 2.616m
全高: 2.743m
全備重量: 31.48t
乗員: 5名
エンジン: ライトR-975-C4 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 460hp/2,400rpm
最大速度: 38.62km/h
航続距離: 161km
武装: 22.5口径105mm榴弾砲M4×1 (66発)
12.7mm重機関銃M2×1 (600発)
7.62mm機関銃M1919A4×2 (4,000発)
装甲厚: 12.7〜107.95mm
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<M4中戦車 105mm砲搭載型(後期生産車)>
全長: 5.893m
全幅: 2.997m
全高: 2.743m
全備重量: 32.818t
乗員: 5名
エンジン: ライトR-975-C4 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 460hp/2,400rpm
最大速度: 38.62km/h
航続距離: 161km
武装: 22.5口径105mm榴弾砲M4×1 (66発)
12.7mm重機関銃M2×1 (600発)
7.62mm機関銃M1919A4×2 (4,000発)
装甲厚: 12.7〜107.95mm
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兵器諸元(M4中戦車 75mm砲搭載型)
兵器諸元(M4中戦車 105mm砲搭載型)
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<参考文献>
・「パンツァー2012年10月号 アメリカのTシリーズ試作戦車(8) T6中戦車/T6戦闘車/T7戦闘車/T7軽戦車シ
リーズ」 大佐貴美彦 著 アルゴノート社
・「パンツァー2018年9月号 偉大なる平凡戦車 M4シャーマン中戦車」 宮永忠将 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年2月号 M4シャーマン戦車シリーズ(1)」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年3月号 M4シャーマン戦車シリーズ(2)」 白石光 著 アルゴノート社
・「世界の戦車イラストレイテッド5 シャーマン中戦車 1942〜1945」 スティーヴン・ザロガ 著 大日本絵画
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「グランドパワー2019年11月号 M4シャーマン戦車シリーズ(1)」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2020年1月号 M4シャーマン戦車シリーズ(2)」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2007年11月号 M4シャーマン(1)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「第2次大戦 米英軍戦闘兵器カタログ Vol.3 戦車」 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「グランドパワー2002年5月号 M4/M4A1シャーマン」 遠藤慧 著 デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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