M3軽戦車
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+概要
第2次世界大戦前におけるアメリカ陸軍の軽戦車シリーズの集大成として生産されたM2A4軽戦車の発展型が、このM3軽戦車シリーズであり、ドイツ軍のポーランド侵攻における電撃戦の戦訓を盛り込んで、1939年春よりイリノイ州のロックアイランド工廠で開発が始められた。
その最大の変化となったのは装甲の強化で、車体前面の装甲厚がM2A4軽戦車の1インチ(25.4mm)から1.5インチ(38.1mm)に増加した。
さらに車体上部構造が後方に延長され、機関室の上面装甲板も装甲厚が増加している。
これらの改良により戦闘重量がM2A4軽戦車の11.6tから12.7tに増えたため、接地圧増大への対処として誘導輪を大型化して取り付け位置を下に降ろし、地面と接地する方式に改められたため外見もやや異なっている。
しかしM2A4軽戦車と同じく、当時はまだ溶接技術に難があったため車体や砲塔の装甲板はリベットで接合され、戦闘室前面左右のスポンソンに装備された7.62mm機関銃もそのまま残されていた。
まだ避弾経始が重視されていなかったため装甲板の傾斜角は小さかったが、その分車内容積は大きく量産性に優れ、また防御力は適度な厚さの良質な圧延防弾鋼板が提供していた。
主砲はM2A4軽戦車と同じく、牽引式の53.5口径37mm対戦車砲M3を短砲身化して戦車砲に改修した50口径37mm戦車砲M5を装備していた。
本車が「M3軽戦車」(Light Tank M3)として制式化されたのは1940年7月のことであったが、生産を担当するミズーリ州セントチャールズのACF社(American
Car and Foundry:アメリカ自動車製造・鋳造所)がまだM2A4軽戦車の生産を行っていたため、この生産が終了した1941年3月から生産が開始され、1942年8月までに5,811両が完成している。
極初期に生産された278両のM3軽戦車は7角形のリベット接合式砲塔を搭載していたが、生産第279号車からは溶接式砲塔に変更されている。
また1942年初めからの生産車(生産第1946号車以降)では、鋳造と溶接を組み合わせた馬蹄形の砲塔が採用され、さらに同年半ばからの生産車では主砲にジャイロ式安定化装置が新設された。
1942年に入ると車体もリベット接合から溶接式に改められ、また生産車の内の1,285両は試験的にアラバマ州モービルのコンティネンタル発動機製のW-670-9A
星型7気筒空冷ガソリン・エンジン(出力262hp)に代えて、テキサス州ダラスのギバーソン・ディーゼル・エンジン社製のT-1020-4 星型9気筒空冷ディーゼル・エンジン(出力245hp)を搭載して完成している。
北アフリカにおけるドイツ軍との戦闘でイギリス軍が得た戦訓により、車体後部に投棄可能な25ガロン(94.6リットル)容量の燃料タンクが2個追加されたのも生産中の変更箇所である。
続くM3A1軽戦車は、全高を低くするために車長用キューポラを廃止して新たにペリスコープを装備し、砲塔をそれまでの手動旋回式から動力旋回式とし砲塔バスケットを採用した改良型で、戦闘室前面左右のスポンソンの7.62mm機関銃は廃止されている。
またM3A1軽戦車では、主砲が改良型の53.5口径37mm戦車砲M6に改められている。
M3軽戦車に装備された37mm戦車砲M5では、砲身の下に駐退/復座機が露出していたためこの部分が被弾により破損し易かったが、37mm戦車砲M6では駐退/復座機は防盾内に収められるようになり、閉鎖機も半自動式のものに変更されている。
M3A1軽戦車は1941年8月に制式化され1942年7月から生産に入り、1943年2月までに4,621両が完成したが、この内211両はT-1020-4ディーゼル・エンジンを搭載していた。
またM3A1軽戦車の車体を溶接構造としたM3A2軽戦車も試作されたが、量産はされなかった。
最終生産型のM3A3軽戦車は、1942年8月に制式化され同年12月より生産が始められたもので、1942年3月からすでに生産に入っていたM5軽戦車の改良点を大幅に採り入れたものであった。
M3A3軽戦車では車体が溶接構造となり、操縦手席が前に出て前面装甲板は1枚板となった。
スポンソンは廃止され、戦闘室前面右側にボールマウント式銃架を設けて7.62mm機関銃が装備された。
車体形状の改良により車内スペースは増加し、37mm砲弾の携行数も103発から174発に増え、車内に燃料タンクが2個追加されたため路上航続距離は113kmから217kmへと増大した。
またエンジンには、空気清浄機が装着された。
戦闘室の側面装甲板には約20度の傾斜が付けられ、足周りを保護するためにサイドスカートが装着された。
砲塔形状も変化し、無線機搭載のために後部にバスルが設けられた。
1943年10月までに3,427両のM3A3軽戦車が完成したが、一部はT-1020-4ディーゼル・エンジンが採用されている。
なおM3A3軽戦車はアメリカ軍では使用されず、全て外国への供与に回されている。
M3軽戦車シリーズはイギリスの他、ソ連、フランス、中国にも供与された。
イギリス軍では、南北戦争で南軍騎兵師団の指揮官として名を馳せたジェイムズ・E・B・スチュアート将軍に因んで「ジェネラル・スチュアート」と命名され、M3軽戦車のガソリン・エンジン搭載型を「スチュアートI」、ディーゼル・エンジン搭載型を「スチュアートII」、M3A1軽戦車のガソリン・エンジン搭載型を「スチュアートIII」、ディーゼル・エンジン搭載型を「スチュアートIV」、M3A3軽戦車を「スチュアートV」と呼称した。
M3軽戦車シリーズは砂漠では巡航戦車としてほぼ理想的な実用性を示したので、「ハニー」(Honey:すばらしいもの、一級品)という愛称までもらった。
1941年7月、北アフリカにイギリス陸軍のM3軽戦車84両が到着した。
アメリカ製戦車の中で、最初に実戦を経験する戦車になる。
その後の増強分と合わせてM3軽戦車1個連隊約150両が、1941年11月18日からの「十字軍作戦」(Operation Crusader)に投入された。
それ以後、M3軽戦車は軽快さと信頼性が高く評価され偵察戦車として活躍する。
この期間が、M3軽戦車の絶頂期であった。
1942年2月には、イギリス陸軍の第7戦車旅団がビルマのラングーンに到着した。
同旅団には、M3軽戦車で編制された第2戦車連隊(M3軽戦車の総数は約150両)があった。
このM3軽戦車は日本陸軍の戦車砲も対戦車砲も全て跳ね返すことができ、ペグーでは九五式軽戦車中隊を全滅させた。
このように前哨戦では善戦したが歩兵の圧倒的兵力差のため、1942年3月にはイギリス軍はラングーンから脱出せざるを得なかった。
その際大河を渡れないM3軽戦車は全て爆破・遺棄したが、少数の無傷の車両が日本軍の手に落ちてその後同軍によって愛用された。
M3軽戦車は軽快ではあったが車高が高く目立つこと、車幅が狭く主砲の大口径化ができないこと、履帯幅が狭く接地圧が高いこと等の欠点があった。
1942年中期以降は新型のM5軽戦車が配備され始めたために、1943年には第一線装備から外された。
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<M3軽戦車>
全長: 4.531m
全幅: 2.235m
全高: 2.642m
全備重量: 12.701t
乗員: 4名
エンジン: コンティネンタルW-670-9A 4ストローク星型7気筒空冷ガソリン
最大出力: 262hp/2,400rpm
最大速度: 57.94km/h
航続距離: 113km
武装: 50口径37mm戦車砲M5×1 (103発)
7.62mm機関銃M1919A4×5 (8,270発)
装甲厚: 9.52〜50.8mm
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<M3軽戦車 ディーゼル・エンジン搭載型>
全長: 4.531m
全幅: 2.235m
全高: 2.642m
全備重量: 12.701t
乗員: 4名
エンジン: ギバーソンT-1020-4 4ストローク星型9気筒空冷ディーゼル
最大出力: 245hp/2,200rpm
最大速度: 57.94km/h
航続距離: 145km
武装: 50口径37mm戦車砲M5×1 (103発)
7.62mm機関銃M1919A4×5 (8,270発)
装甲厚: 9.52〜50.8mm
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<M3A1軽戦車>
全長: 4.531m
全幅: 2.235m
全高: 2.642m
全備重量: 12.928t
乗員: 4名
エンジン: コンティネンタルW-670-9A 4ストローク星型7気筒空冷ガソリン
最大出力: 262hp/2,400rpm
最大速度: 57.94km/h
航続距離: 113km
武装: 53.5口径37mm戦車砲M6×1 (106発)
7.62mm機関銃M1919A4×3 (7,220発)
装甲厚: 9.52〜50.8mm
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<M3A1軽戦車 ディーゼル・エンジン搭載型>
全長: 4.531m
全幅: 2.235m
全高: 2.642m
全備重量: 12.928t
乗員: 4名
エンジン: ギバーソンT-1020-4 4ストローク星型9気筒空冷ディーゼル
最大出力: 245hp/2,200rpm
最大速度: 57.94km/h
航続距離: 145km
武装: 53.5口径37mm戦車砲M6×1 (106発)
7.62mm機関銃M1919A4×3 (7,220発)
装甲厚: 9.52〜50.8mm
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<M3A3軽戦車>
全長: 5.027m
全幅: 2.525m
全高: 2.565m
全備重量: 14.697t
乗員: 4名
エンジン: コンティネンタルW-670-9A 4ストローク星型7気筒空冷ガソリン
最大出力: 262hp/2,400rpm
最大速度: 49.89km/h
航続距離: 217km
武装: 53.5口径37mm戦車砲M6×1 (174発)
7.62mm機関銃M1919A4×3 (7,500発)
装甲厚: 9.52〜50.8mm
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兵器諸元(M3軽戦車)
兵器諸元(M3A1軽戦車)
兵器諸元(M3A3軽戦車)
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<参考文献>
・「パンツァー2014年5月号 アメリカ軽戦車の夜明け M1戦闘車からM3軽戦車へ」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年8月号 日の丸を付けたM3スチュアート戦車(1)」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年9月号 日の丸を付けたM3スチュアート戦車(2)」 高橋昇 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年6月号 M3/M5軽戦車シリーズ」 白石光/水野靖夫 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2014年4月号 誌上対決 38(t)戦車 vs M3軽戦車」 久米幸雄 著 アルゴノート社
・「パンツァー2000年1月号 アメリカ陸軍 M2/M3軽戦車」 水野靖夫 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2009年11月号 M3/M5軽戦車シリーズ」 丹羽和夫 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2020年6月号 アメリカ軽戦車史(1)」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2020年7月号 アメリカ軽戦車史(2)」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「グランドパワー2000年11月号 ソ連軍のレンドリース車輌」 古是三春 著 デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「徹底解剖!世界の最強戦闘車両」 洋泉社
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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