M3/M5ハーフトラック
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+開発
M2ハーフトラックの試作車であるT14ハーフトラックの開発が、イリノイ州シカゴのダイアモンドT自動車で行われていた1939年末、アメリカ陸軍の一部の歩兵将校がこの新型ハーフトラックを試し、これが歩兵機械化の困難を解決する有効な手段であることを確信した。
そこで陸軍兵器局は1940年初めにダイアモンドT自動車に対して、T14ハーフトラックをベースとした兵員輸送用ハーフトラックの開発を「T8」の開発番号で発注した。
T8ハーフトラックは開発当初より、T14ハーフトラックとコンポーネントを共用化することが考慮されていたため、シャシーはもちろんのことエンジンや変速機、操向機、後部走行装置、そして履帯などは全く同じものが用いられていた。
兵員の収容数を増やすために、車体後部の兵員室はT14ハーフトラックよりも若干延長され、兵員室後面には右開き式の乗降用ドアが新設された。
またT14ハーフトラックは火砲の牽引用に開発されたため、兵員室内の前部左右に弾薬収納箱が装備されていたが、T8ハーフトラックは兵員輸送を目的としていたため、弾薬収納箱とその専用ハッチは廃止された。
このため兵員室内は非常にすっきりとまとめられ、兵員室の容積が増加したこともあって操縦室内の3名の乗員以外に、兵員室内に10名の完全武装歩兵を収容できるようになった。
T8ハーフトラックは1940年8月に「M3兵員輸送用ハーフトラック」として制式化され、M2ハーフトラックと共に1940年10月17日に量産が公式に承認された。
M3ハーフトラック・シリーズの生産は、1941年からアラバマ州バーミンガムのオート・カー社、オハイオ州クリーヴランドのホワイト自動車、ダイアモンドT自動車の3社で行われた。
基本形となったM3ハーフトラックは1941年に1,859両、1942年に4,959両、1943年に5,681両生産されており、総生産数は12,499両である。
またM3ハーフトラックの自衛力を強化するために、操縦室の上部右側にM49リングマウント式機関銃架を装着した改良型が開発され、「M3A1ハーフトラック」として制式化されて1943年10月から生産が開始された。
M3A1ハーフトラックは1943年に2,037両、1944年に825両生産されており、総生産数は2,862両である。
また、M2ハーフトラックのレンドリース仕様であるM9ハーフトラックと同様に、M3ハーフトラックにレンドリースを目的とした改良を施した車両が、イリノイ州シカゴのインターナショナル・ハーヴェスター社で開発され、1942年2月に「M5ハーフトラック」として制式化された。
M5ハーフトラックは1942年に152両、1943年に4,473両の合計4,625両が、インターナショナル・ハーヴェスター社で生産された。
さらに、M5ハーフトラックにM49リングマウント式機関銃架を装着したM5A1ハーフトラックが開発され、1943年に1,859両、1944年に1,100両の合計2,959両がインターナショナル・ハーヴェスター社で生産された。
M5/M5A1ハーフトラックは、イギリス連邦諸国やソ連に供与された。
また1943年1月にアメリカ陸軍兵器局は、M2/M3ハーフトラックの設計の統合に乗り出し、これに「T29」の開発番号を与えた。
T29ハーフトラックの試作第1号車は1943年4月に完成し、試験に供された後同年10月に「M3A2ハーフトラック」として制式化された。
このM3A2ハーフトラックは、リングマウント式機関銃架に装甲が追加された他、車体後部に雑具を収めるフレームが追加され、後部座席は簡単に取り外すことが可能となった。
しかし、M3A2ハーフトラックが実用化された頃にはハーフトラックの生産は大幅に削減されており、本車が量産に移されることは無かった。
この設計統合プログラムは、レンドリース向けのM9/M5ハーフトラックについても進行され、試作車には「T31」の開発番号が与えられた。
T31ハーフトラックは試験後に「M5A2ハーフトラック」として制式化されたが、やはり量産には移されなかった。
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+派生型
M3ハーフトラック・シリーズは合計で53,813両もの大量生産が行われたが、この中で兵員輸送車型として完成したのは約73%の39,436両で、残りの14,377両は各種派生型に改造されている。
派生型には基本的に4車種があり、対戦車自走砲、自走榴弾砲、対空自走砲、自走迫撃砲に類別される。
この中で最も多数生産されたのは対空自走砲で、9,107両と総生産数の約17%に及んでいる。
M3ハーフトラックをベースとする対戦車自走砲には、フランス製野戦加農砲の改良ライセンス生産型である、36口径75mm野戦加農砲M1897A4を搭載したM3
75mm対戦車自走砲と、イギリス製6ポンド対戦車砲のアメリカ版である、50口径57mm対戦車砲M1を搭載したT48 57mm対戦車自走砲の2種類が存在する。
M3 75mm対戦車自走砲は1941年に86両、1942年に1,350両、1943年に766両の合計2,202両、T48 57mm対戦車自走砲は1942年に50両、1943年に912両の合計962両がそれぞれ生産された。
M3ハーフトラック・ベースの自走榴弾砲には、16口径75mm榴弾砲M1A1を搭載したT30 75mm自走榴弾砲と、22.5口径105mm榴弾砲M2A1を搭載したT19
105mm自走榴弾砲の2種類がある。
T30 75mm自走榴弾砲は1942年に500両、T19 105mm自走榴弾砲は1942年に324両がそれぞれ生産された。
M3ハーフトラックをベースとする対空自走砲は多数開発されているが、その多くが主武装として、ユタ州オグデンのブラウニング火器製作所製の12.7mm重機関銃M2を採用していた。
12.7mm重機関銃M2を連装で装備する、ニューヨークのW・L・マクソン社製のM33機関銃架を搭載したM13対空自走砲(M3ハーフトラック・ベース)、M14対空自走砲(M5ハーフトラック・ベース)、12.7mm重機関銃M2を4連装で装備する同社製のM45機関銃架を搭載したM16対空自走砲(M3ハーフトラック・ベース)、M17対空自走砲(M5ハーフトラック・ベース)、コネティカット州ハートフォードのコルト火器製作所製の54口径37mm対空機関砲M1A2
1門と、12.7mm重機関銃M2 2挺を装備するM42複合砲架を搭載したM15対空自走砲が制式化されている。
M13対空自走砲は1943年に1,103両、M14対空自走砲は1942年に5両、1943年に1,600両の合計1,605両、M16対空自走砲は1943年に2,323両、1944年に554両の合計2,877両、M17対空自走砲は1943年に400両、1944年に600両の合計1,000両、M15対空自走砲は1943年に680両、改良型のM15A1対空自走砲が1943年に1,052両、1944年に600両の合計1,652両生産された。
M3ハーフトラック・ベースの自走迫撃砲は、フランスのブラン社製の81mm迫撃砲をアメリカでライセンス生産した14.9口径81mm迫撃砲M1と、81mm迫撃砲弾を兵員室内に搭載したM21
81mm自走迫撃砲の1種類のみで、1944年に110両がホワイト自動車で生産された。
この内、54両は自由フランス軍に支給されている。
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<M3ハーフトラック>
全長: 6.163m
全幅: 1.962m
全高: 2.261m
全備重量: 9.072t
乗員: 3名
兵員: 10名
エンジン: ホワイト160AX 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 147hp/3,000rpm
最大速度: 72.42km/h
航続距離: 322km
武装: 7.62mm機関銃M1919A4×1 (4,000発)
装甲厚: 6.35〜12.7mm
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<M3A1ハーフトラック>
全長: 6.341m
全幅: 2.223m
全高: 2.692m
全備重量: 9.299t
乗員: 3名
兵員: 10名
エンジン: ホワイト160AX 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 147hp/3,000rpm
最大速度: 72.42km/h
航続距離: 322km
武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (700発)
7.62mm機関銃M1919A4×1 (7,750発)
装甲厚: 6.35〜12.7mm
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<M5ハーフトラック>
全長: 6.326m
全幅: 2.207m
全高: 2.743m
全備重量: 9.299t
乗員: 3名
兵員: 10名
エンジン: インターナショナル・ハーヴェスターRED-450-B 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 143hp/2,700rpm
最大速度: 67.59km/h
航続距離: 322km
武装: 7.62mm機関銃M1919A4×1 (4,000発)
装甲厚: 7.94〜15.88mm
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<M5A1ハーフトラック>
全長: 6.326m
全幅: 2.207m
全高: 2.743m
全備重量: 9.752t
乗員: 3名
兵員: 10名
エンジン: インターナショナル・ハーヴェスターRED-450-B 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 143hp/2,700rpm
最大速度: 67.59km/h
航続距離: 322km
武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (700発)
7.62mm機関銃M1919A4×1 (7,750発)
装甲厚: 7.94〜15.88mm
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兵器諸元(M3A2ハーフトラック)
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<参考文献>
・「パンツァー2005年10月号 第二次大戦のアメリカAPC M3ハーフトラック・シリーズ(1)」 白石光 著 アルゴノ
ート社
・「パンツァー2004年1月号 陸上自衛隊のM3ハーフトラック・シリーズ」 木村信一郎 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年11月号 AFV比較論 Sdkfz.251/M3ハーフトラック」 斎木伸生 著 アルゴノート社
・「パンツァー2016年11月号 M3ハーフトラック・シリーズ・インアクション」 水野靖夫 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年3月号 アメリカのハーフトラック インアクション」 水野靖夫 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年2月号 M3系ハーフトラックのディテール」 城島健二 著 アルゴノート社
・「パンツァー2005年8月号 第二次大戦ハーフトラックの系譜」 篠正人 著 アルゴノート社
・「パンツァー2003年8月号 陸上自衛隊の供与車輌」 高城正士 著 アルゴノート社
・「パンツァー2013年7月号 懐かしの自衛隊車輌」 前河原雄太 著 アルゴノート社
・「第2次大戦 米英軍戦闘兵器カタログ Vol.2 火砲/ロケット兵器」 稲田美秋/箙浩一 共著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2006年9月号 M2/M3ハーフトラック(1)」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3)
装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版
・「第2次大戦
イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「世界の戦車イラストレイテッド32 M3ハーフトラック
1940〜1973」 スティーヴン・ザロガ 著 大日本絵画
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
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