アメリカ陸軍は1965年から「歩兵戦闘車」という新しいカテゴリーの車両の開発を開始していたが、その間のヴェトナム戦争やソ連のBMP歩兵戦闘車の出現等を踏まえて、1974年にFMC社(Food Machinery and Chemical Corporation:食品・機械・化学企業)で「XM723」という試作車が製作された。 このXM723は、基本の防弾アルミ装甲の上に中空式のラミネイト装甲を張った車体に、25mm機関砲M242ブッシュマスターを装備した1名用砲塔を搭載し、車長、操縦手、砲手の他に9名の歩兵を収容する車両であった。 同車は各種の試験に供されたが変速機のトラブルが続き、さらに1名用砲塔のため車長の視界が悪いことや、コストの上昇といった問題のため結局採用には至らなかった。 これを受けて1976年10月にXM723を下敷きとして、「FVS」(Fighting Vehicle System:戦闘車両システム)と呼ばれる新たな車両の開発が始められた。 この車両はTOW対戦車ミサイルの発射機と25mm機関砲を装備する2名用砲塔を備え、浮航性を有し防御力はXM723と同等というもので、この要求に従って1977年6月に、XM2歩兵戦闘車とXM3騎兵戦闘車の2本立てで開発を進めることが決定した。 1978年に試作車が完成し、翌79年12月にM2歩兵戦闘車/M3騎兵戦闘車としてアメリカ陸軍に制式採用された。 同時に、第2次世界大戦でアメリカ第1軍司令官を務めたオマール・N・ブラッドリー将軍に因んで、「ジェネラル・ブラッドリー」の愛称が与えられている。 1980年代から1995年にかけて数次に渡って改良・改修されながら、M2歩兵戦闘車シリーズが約4,600両、M3騎兵戦闘車シリーズが約2,800両生産され、M1エイブラムズ戦車と共にアメリカ陸軍の機甲・機械化歩兵部隊の主要装備として第一線で使われ続けている。 M2 IFV(Infantry Fighting Vehicle:歩兵戦闘車)と、M3 CFV(Cavalry Fighting Vehicle:騎兵戦闘車)は同一車体を用い、どちらも砲塔前面にヒューズ社(現ボーイング社)製の87口径25mm機関砲M242ブッシュマスターと、7.62mm機関銃M240を同軸に装備し、砲塔左側面にはTOW対戦車ミサイルの連装発射機を装備しており、敵の同様なIFV、機械化歩兵と自力で交戦できる他、敵MBTに遭遇した場合にもTOW対戦車ミサイルで自衛戦闘を行うことが可能である。 搭載弾薬数はM2 IFVの場合、戦闘員が乗車することもあり25mm機関砲弾が900発、7.62mm機関銃弾が2,200発、TOW対戦車ミサイルが7発(内2発は装填)となっている。 これがM3 CFVの場合25mm機関砲弾が1,500発、7.62mm機関銃弾が4,400発、TOW対戦車ミサイルが12発となる。 乗員数はM2 IFVの場合、車長、砲手、操縦手の3名の他に完全装備の1個分隊(6名)の歩兵を収容できる。 M3 CFVでは2名の偵察員を加えて5名となっており、空いたスペースには各種弾薬類や偵察・連絡用のオフロード・バイク等を収めている。 歩兵戦闘車というと「乗車戦闘が可能」という思想がはびこっていた時代に開発が進められたため、車体左右側面後部と車体後面にはそれぞれ2基ずつのガンポートが設けられ、それぞれに独立したペリスコープが装着されているので車内からの射撃が可能である。 しかし、その後の装甲強化によりこのガンポートは無用の存在となり、乗員数が少ないM3 CFVでは鋼板で塞がれてしまい、ペリスコープも廃止されている。 M2 IFVとM3 CFVの車体は防弾アルミ板の溶接構造で、主に5083防弾アルミ板が用いられているが、車体側面の傾斜している部分のみ7039防弾アルミ板が使われている。 砲塔は車体と同じく溶接構造だが、5083防弾アルミ板と防弾鋼板が混用されている。 車体前部左側に操縦手が位置し、その反対側にカミンズ社製のVTA903 V型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力500hp)と、ジェネラル・ダイナミクス・ディフェンス・システムズ社製のHMPT-500自動変速機(前進3段/後進1段)などを一体化したパワーパックが置かれている。 その後方は車長と砲手を収める全周旋回式砲塔が搭載され、車体後部に兵員室を配するというオーソドックスなレイアウトにまとめられている。 また車体側面には中空式のラミネイト装甲がボルト止めされており、浮航スクリーンを展張することで水上航行も可能である。 M2A1/M3A1はTOW2対戦車ミサイルの運用能力を付加し、NBC防護装置の改良などを行ったものである。 M2A2/M3A2はM2/M3シリーズの既存の生産車に各種の改修を施したもので、現役の第一線部隊に主力として配備されている。 車体と砲塔の全周に1インチ(25.4mm)厚の追加装甲が装着されている他、必要に応じてその表面にさらにERA(爆発反応装甲)、またはパッシブ装甲のタイルを取り付けることが可能で、戦闘重量はA0、A1の約23tから30t台に増大している。 ただし、これに伴ってエンジンの出力も500hpから600hpに強化され、路上、路外双方でのM1戦車への追随能力を確保している他、固有の水上浮航能力も維持されている。 M2A3/M3A3はシリーズの最新型であり、現在既存のM2/M3の生産車に改修を加える形で生産されており、1998年には第1号車が引き渡されている。 アメリカ陸軍は今後8〜10年間に、1,000両以上のM2/M3シリーズをA3仕様に改修する計画を立てている。 A3は1991年の湾岸戦争の戦訓から導き出された数多くの改良・改修点が盛り込まれており、車内に新型のコンピューターとディジタル情報表示装置、MIL-STD1553データ・バス等から成る最新のヴェトロニクスが導入されて、車内の戦闘情報処理能力が格段に向上している。 また攻撃力の面でも、FCS(射撃統制システム)の新型化で目標への自動追尾機能を実現し、複数の目標に対する連続攻撃が可能になっている。 この他、部隊の指揮・統制と地上航法用の新しいソフトウェアの導入、上面装甲板の強化、操縦手用視察ブロックの改良などで、M2A3/M3A3の運用・戦闘効率は世界的に見て最高度の水準にまで高められており、IFVまたはCFVとしての完成度についても最も高い車種になっている。 |
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<M2歩兵戦闘車> 全長: 6.452m 全幅: 3.20m 全高: 2.972m 全備重量: 22.797t 乗員: 3名 兵員: 6名 エンジン: カミンズVTA903-T500 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 500hp/2,600rpm 最大速度: 65.98km/h(浮航 7.24km/h) 航続距離: 483km 武装: 87口径25mm機関砲M242×1 (900発) 7.62mm機関銃M240×1 (2,200発) TOW対戦車ミサイル連装発射機×1 (7発) 装甲厚: |
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<M2A1歩兵戦闘車> 全長: 6.452m 全幅: 3.20m 全高: 2.972m 全備重量: 22.798t 乗員: 3名 兵員: 6名 エンジン: カミンズVTA903-T500 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 500hp/2,600rpm 最大速度: 65.98km/h(浮航 7.24km/h) 航続距離: 483km 武装: 87口径25mm機関砲M242×1 (900発) 7.62mm機関銃M240×1 (2,200発) TOW対戦車ミサイル連装発射機×1 (7発) 装甲厚: |
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<M2A2歩兵戦闘車> 全長: 6.553m 全幅: 3.277m 全高: 2.972m 全備重量: 27.216t 乗員: 3名 兵員: 6名 エンジン: カミンズVTA903-T600 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 600hp/2,600rpm 最大速度: 56.33km/h(浮航 6.44km/h) 航続距離: 402km 武装: 87口径25mm機関砲M242×1 (900発) 7.62mm機関銃M240×1 (2,200発) TOW対戦車ミサイル連装発射機×1 (7発) 装甲厚: |
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<M2A3歩兵戦闘車> 全長: 6.553m 全幅: 3.277m 全高: 2.972m 全備重量: 27.67t 乗員: 3名 兵員: 6名 エンジン: カミンズVTA903-T600 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 600hp/2,600rpm 最大速度: 56.33km/h(浮航 6.44km/h) 航続距離: 402km 武装: 87口径25mm機関砲M242×1 (900発) 7.62mm機関銃M240×1 (2,200発) TOW対戦車ミサイル連装発射機×1 (7発) 装甲厚: |
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<M3騎兵戦闘車> 全長: 6.452m 全幅: 3.20m 全高: 2.972m 全備重量: 22.655t 乗員: 5名 エンジン: カミンズVTA903-T500 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 500hp/2,600rpm 最大速度: 65.98km/h(浮航 7.24km/h) 航続距離: 483km 武装: 87口径25mm機関砲M242×1 (1,500発) 7.62mm機関銃M240×1 (4,400発) TOW対戦車ミサイル連装発射機×1 (12発) 装甲厚: |
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<M3A1騎兵戦闘車> 全長: 6.452m 全幅: 3.20m 全高: 2.972m 全備重量: 22.911t 乗員: 5名 エンジン: カミンズVTA903-T500 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 500hp/2,600rpm 最大速度: 65.98km/h(浮航 7.24km/h) 航続距離: 483km 武装: 87口径25mm機関砲M242×1 (1,500発) 7.62mm機関銃M240×1 (4,400発) TOW対戦車ミサイル連装発射機×1 (12発) 装甲厚: |
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<M3A2騎兵戦闘車> 全長: 6.553m 全幅: 3.277m 全高: 2.972m 全備重量: 27.216t 乗員: 5名 エンジン: カミンズVTA903-T600 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 600hp/2,600rpm 最大速度: 56.33km/h(浮航 6.44km/h) 航続距離: 402km 武装: 87口径25mm機関砲M242×1 (1,500発) 7.62mm機関銃M240×1 (4,200発) TOW対戦車ミサイル連装発射機×1 (12発) 装甲厚: |
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<M3A3騎兵戦闘車> 全長: 6.553m 全幅: 3.277m 全高: 2.972m 全備重量: 27.67t 乗員: 5名 エンジン: カミンズVTA903-T600 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 600hp/2,600rpm 最大速度: 56.33km/h(浮航 6.44km/h) 航続距離: 402km 武装: 87口径25mm機関砲M242×1 (1,500発) 7.62mm機関銃M240×1 (4,200発) TOW対戦車ミサイル連装発射機×1 (12発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2003年8月号 AFV比較論 ブラッドレイ vs ウォリアー」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年8月号 MICVからブラッドレイへ 初期のアメリカ戦闘兵車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2007年2月号 ブラッドレイICVのバリエーション」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2007年2月号 ブラッドレイICVの開発と構造」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年8月号 ブラッドレイの最新バージョン M3A3ODS」 アルゴノート社 ・「パンツァー2013年12月号 最新のブラッドレイ戦闘兵車」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「世界の最強陸上兵器 BEST100」 成美堂出版 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |
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