M2中戦車
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+概要
アメリカ陸軍は1918年に初の国産中戦車であるM1921中戦車の開発を開始して以来、1920〜30年代にかけて各種中戦車の試作を継続して行ってきたが、1938年に完成したT5中戦車においてようやくその基本形が確立されることになった。
T5中戦車の開発は、アメリカの3大自動車メーカーの一角であるミシガン州オーバーンヒルズのクライスラー社が担当した。
T5中戦車は、時期を同じくして制式化されたM2軽戦車の部品を多用することが要求されたため、それまでの試作中戦車で採用されていたクリスティー式サスペンションを用いずに、やや古臭いVVSS(Vertical
Volute Spring Suspension:垂直渦巻スプリング・サスペンション)が採用され、機構的には後退した感があった。
武装は全周旋回式砲塔に50口径37mm戦車砲M5と、7.62mm機関銃M1919A4を同軸に装備する他、車体左右のスポンソンの前後にも7.62機関銃を合計で4挺装備し、さらに対空用にも7.62mm機関銃を装備していた。
T5中戦車の最初の試作車であるフェイズIの完成度はまずまずであったが、搭載したアラバマ州モービルのコンティネンタル発動機製のW-670 星型7気筒空冷ガソリン・エンジン(出力262hp)のパワー不足が問題となったため、エンジンをニュージャージー州パターソンのライト航空産業製のR-973
星型9気筒空冷ガソリン・エンジン(出力350hp)に換装したフェイズIIIに発展することとなる。
このフェイズIIIの試作車は1939年6月に完成し、「M2中戦車」(Medium Tank M2)として制式化された。
続いて同年8月には、イリノイ州のロックアイランド工廠にM2中戦車の先行生産型15両の製作が発注された。
この生産型では砲塔側面に7.62mm機関銃M1919A4が2挺追加されており、合計で8挺もの7.62mm機関銃を備えるに至った。
M2中戦車は先住民に襲われた騎兵隊よろしく周囲に機関銃を乱射するという、いかにもアメリカ的な発想の具現化ともいえる戦車であったが、見た目の強さとは裏腹にその実用性は低かった。
1940年に入ると最大装甲厚を1.125インチ(28.58mm)から1.25インチ(31.75mm)に強化し、重量増加による接地圧増加を避けるために履帯幅を広げ、さらにエンジンもライト航空産業製のR-975-EC2
星型9気筒空冷ガソリン・エンジン(出力400hp)に強化した発展型が試作された。
これは1940年6月に「M2A1中戦車」(Medium Tank M2A1)として制式化され、当時のヨーロッパでの戦局を鑑み同年8月に1,000両という大量発注が行われた。
しかしドイツ軍の西方電撃戦での戦訓を検討した結果、5cm戦車砲を装備するIII号戦車や7.5cm戦車砲を装備するIV号戦車といったドイツ陸軍の主力戦車に対しては、37mm戦車砲しか装備していないM2A1中戦車では対抗するのが難しいという判断が下され、砲塔に75mm戦車砲の装備が検討されたもののサイズ的に不可能であり、車体上部構造を一新して車体右側に限定旋回式に75mm戦車砲を装備することが決まり、後にM3中戦車に発展することになる。
前述のようにM2A1中戦車は当初1,000両という大量発注が行われたものの、火力不足という理由で発注数は後に126両に減らされ、結局1940年11月〜1941年8月にかけて、ロックアイランド工廠とクライスラー社の2社で合計94両が生産されたに留まった。
1941年6月には後継となるM3中戦車の生産型の引き渡しが開始されたため、M2A1中戦車はその存在意義を失い訓練用戦車として余生を送ることになった。
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<M2中戦車>
全長: 5.385m
全幅: 2.616m
全高: 2.845m
全備重量: 17.246t
乗員: 6名
エンジン: ライトR-973 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 350hp/2,400rpm
最大速度: 41.84km/h
航続距離: 200km
武装: 50口径37mm戦車砲M5×1 (200発)
7.62mm機関銃M1919A4×8 (12,250発)
装甲厚: 6.35〜28.58mm
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<M2A1中戦車>
全長: 5.385m
全幅: 2.616m
全高: 2.743m
全備重量: 18.74t
乗員: 6名
エンジン: ライトR-975-EC2 4ストローク星型9気筒空冷ガソリン
最大出力: 400hp/2,400rpm
最大速度: 41.84km/h
航続距離: 200km
武装: 50口径37mm戦車砲M5×1 (200発)
7.62mm機関銃M1919A4×8 (12,250発)
装甲厚: 6.35〜31.75mm
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<参考文献>
・「パンツァー2012年9月号 アメリカのTシリーズ試作戦車(7) T4戦闘車/T5中戦車/T5戦闘車/T6軽戦車シリ
ーズ」 大佐貴美彦 著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年6月号 AFV(アホデ・ファニーナ・ヴィークル)(16)」 M.WOLVERINE 著 アルゴノート社
・「パンツァー2006年4月号 各国多砲塔戦車の歴史 フランス/アメリカ」 柘植優介 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年3月号 知られざるアメリカ中戦車 M2/M2A1」 松井史衛 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2010年7月号 M3リー/グラント中戦車(1)」 丹羽和夫 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2010年10月号 M3リー/グラント中戦車(2)」 丹羽和夫 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2020年11月号 M3リー/グラント(1)」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2007年11月号 M4シャーマン(1)」 古是三春 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「グランドパワー2000年11月号 ソ連軍のレンドリース車輌」 古是三春 著 デルタ出版
・「第2次大戦 イギリス・アメリカ軍戦車」 デルタ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
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