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+M1A2戦車
1970年代末にアメリカ陸軍が実用化したM1エイブラムズ戦車は、あくまで発展途上にある戦車として、将来のバージョンアップを前提に開発されており、例えば主砲は、新型のAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の使用を前提に、M60戦車と同じ105mmライフル砲を搭載していたが、当初からNATO軍との装備共用化の流れを踏まえて、西ドイツ陸軍が次期MBT(主力戦車)に採用したレオパルト2戦車の主砲と同じ、120mm滑腔砲の搭載を予定していた。
これは各種視察装置やFCS(射撃統制装置)関係、装甲防御力面でも同様で、最初から最先端機器を一挙に搭載することはせず、長期に渡る調達と運用の過程で、改修によりバージョンアップを図ることとされていた。
これは、あまりふんだんに新型装備を盛り込もうとして、予算オーバーで実用化が挫折したMBT-70戦車の教訓を踏まえたことと、議会でのスムーズな予算承認を見通して採られた方策であった。
幸いにも、これがM1戦車の兵器としての陳腐化を遅らせ、改修による段階的なバージョンアップにより21世紀の現在でも、世界トップレベルの戦闘力を備えるMBTとしての地位を保ち続ける結果に繋がっている。
なお、M1戦車に主砲の換装や装甲の強化を主眼とする改良を図ったM1A1戦車は、改良の第1段階として「ブロックI」の呼称が与えられており、続いて視察装置やFCS関係の強化を主眼とする、第2段階の改良「ブロックII」を具現化したものがこのM1A2戦車である。
M1A2戦車は、1988年からM1A1戦車への導入が開始されたDU(Depleted Uranium:劣化ウラン)装甲を、最初から導入して生産されており、主砲もM1A1戦車と同じく、ニューヨーク州のウォーターヴリート工廠製の、44口径120mm滑腔砲M256(原型は、西ドイツのラインメタル社が開発した120mm滑腔砲Rh120)を装備しているが、現代におけるMBTの頭脳ともいえる電子機材が、大幅に進化している点が最大の変化である。
M1A1戦車の生産が開始されて間もない1985年2月1日に、アメリカ陸軍参謀本部の副参謀長は、M1A1戦車の改良計画「ブロックII」の開発を承認し、同年8月には一般に公表され、1988年12月14日にM1戦車シリーズの開発メーカーである、ミシガン州スターリングハイツのGDLS(General
Dynamics Land Systems)社との間に開発契約が結ばれて、その開発完了に伴い1990年1月には、「FSED」(Full-Scale
Engineering Development:全規模技術開発)計画がスタートし、FSED車10両の製作契約が交わされた。
最初の5両のFSED車は1992年3月に引き渡されたが、このFSED車の発注から間もない同年4月には、ブロックIIの生産型62両の生産契約が結ばれ、M1A1戦車と並行する形で生産が開始された。
ブロックIIの生産型第1号車は1992年11月に引き渡され、1993年4月に全車の引き渡しを完了したが、これに先立つ1993年初めには、「120mm砲戦車M1A2エイブラムズ」として運用認可を得ている。
しかしアメリカ陸軍はコストの削減を背景として、M1A2戦車をそれ以上発注することは無く、既存のM1戦車をM1A2仕様に改修するよう方針をシフトし、最終的に550両がM1A2戦車に変身した。
M1A2戦車のM1A1戦車からの主な変更点を列挙すると、テキサス州ダラスのTI(テキサス・インスツルメンツ)社が開発した、「CITV」(Commander's
Independent Thermal Viewer:車長用独立熱映像視察装置)と、車体/砲塔電子ユニット(U/TEU)が導入された。
また、カリフォルニア州カルヴァーシティのヒューズ航空機が開発した、直接照準/2軸式ヘッドアセンブリー(LOS/DAHA)、イギリスのスミス工業製の自車位置/航法ユニット(POS/NAV)、ミシガン州オーバーンヒルズのクライスラー社が開発した直接支援電子システム支援セット(DSESTS)、車長用統合ディスプレイ(CID)、操縦手用統合ディスプレイ(DID)、射撃統制電子ユニット(FCEU)、砲手用操作および表示パネル(GCDP)、車体動力分配ユニット(HPDU)、車体/砲塔位置センサー(HUPS)、改良型車長用武装ステイション(ICWS)も導入された。
他にも無線車内通信ユニット(RIU)、軽量型GPS(LGPS)、改良型サスペンション(ASU)が採用されるなど、様々な部分に改良が盛り込まれた。
その結果として、M1A2戦車は電子装備の90%がディジタル化され、アナログ機材はわずか10%にしか過ぎないという。
これはM1A1戦車と全くの逆転であり、操縦性の向上や目標捕捉時間の短縮、そしてコンピューターを介する各種機材からの、乗員に対する情報提供時間の短縮と、目には見えず数字には表れない部分での、総合的な能力向上に繋がったわけである。
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+M1A2TUSK戦車
M1A2戦車はM1A1戦車と共に、2003年3月20日に開始されたイラク戦争(第2次湾岸戦争)に投入されたが、ここでM1戦車シリーズは、1991年の湾岸戦争では無かった新たな脅威に晒されることになる。
それが、「IED」(Improvised Explosive Device:即席爆発装置)と呼ばれる、携帯電話などの遠隔操作で作動させる爆発物や、自動車に爆弾を積んだり体に爆弾を装着したいわゆる自爆テロ、そして旧ソ連製のRPG-7を代表とする安価な携帯式対戦車兵器での攻撃である。
その戦訓を背景に登場したのが、「TUSK」(Tank Urban Survival Kit:戦車市街戦生残性キット)である。
このTUSKの研究は2004年から開始され、この研究から導き出されたのは従来の前方方向に加えて、全周に対する監視能力の向上と防御力の強化がその中核とされた。
この際にまとめられた要求の主眼は、XM19「ARAT I」(Abrams Reactive Armour Tile I:I式エイブラムズ爆発反応装甲タイル)の装着である。
他にも、車長用ICWSへの熱映像カメラとレーザー測遠機の搭載(これはM1A2戦車の場合標準装備なので、M1A1戦車からの改修車向けの装備である)、装填手用の7.62mm機関銃M240の防盾を、より背の高い透明装甲防盾(TAGS)に改め、熱映像カメラの装着と専用ディスプレイ、さらにキセノン灯の新設、主砲防盾上面への砲手用狙撃/対物マウント(CS/AMM)なる呼称で、12.7mm対物狙撃銃とキセノン灯の装着、操縦手用熱映像カメラの新設、車体下面への増加装甲板装着、地雷の爆発に耐えられる操縦手用強化座席への換装。
車体後面右側への戦車・歩兵電話(TIP)新設、戦闘室内へのコンセント新設などの改修が要求され、これらの機材を一括して560セットが発注され、2007年から改修車の配備が開始された。
これらの機材をもう少し詳しく記述すると、ARAT Iは、コネティカット州シムズベリーのEBAD(Ensign-Bickford Aerospace
& Defense)社により開発されたERA(爆発反応装甲)である。
基本的には、湾岸戦争に参加したアメリカ軍のM2/M3ブラッドリー戦闘車に対する改修で装着された機材を、そのまま踏襲したもので、2006年にM1A2戦車への装着試験が行われた。
その装備は、サイドスカートの側面に上下それぞれ16個のERAボックスを装着するもので、EBAD社によると小銃弾や弾片の着弾で作動することは無いとしている。
なお一部の車両では、上方のERAボックスを15個に減じている例も確認できる。
同様にICWSへの熱映像カメラとレーザー測遠機の装着は、M1A2戦車で導入されたCITVに備えているので、前述したようにCITV未装備のM1A1戦車向けの機材である。
また、装填手席に備える7.62mm機関銃に装着された「TAGS」(Transparent Armour Gun Shield:透明装甲防盾)は、イギリスのBAEシステムズ社が開発したもので、それまでの防盾とは異なり、上方に透明部を設けて視界の向上を図ったものである。
7.62mm機関銃の上に装着された熱映像カメラは、装填手が装着するゴーグル(正しくはヘッドマウント・ディスプレイ−HMD)と、車内のディスプレイに映像が表示される方式を採っている。
砲手が操作する12.7mm対物狙撃銃は、中東戦争におけるイスラエル陸軍の戦訓を背景として導入されたもので、その有効射程は約2,000mと大きい。
また操縦手用の熱映像カメラは、ペリスコープの上端に装着しその視野角は水平31.5度、垂直42.2度で、通常時での視界距離は1,790m、土埃などで邪魔された場合でも190mまでの視界を得ることが可能である。
さらに車体下面に装着する増加装甲板は、装甲厚20mmで爆風を外側に逃がすために単なる平面ではなく、形状がV字形とされている。
ただし装着に伴い、重量が1.36tほど増大してしまった。
そして操縦手用強化型座席は、それまでの床固定式から天井吊り下げ式に改められ、2点式シートベルトも4点式に変更されている。
TUSKキットで用意された「TIP」(Tank-Infantry Phone:戦車・歩兵電話)は、M1A2SEPv2戦車で導入され以前の型式にもフィードバックされたものとは異なり、上端部が機関室の後端部まで延長された専用のものが用いられている。
さらに、TUSKキットに加えられた機材が格子装甲(スラット・アーマー)で、金属製の支柱とパイプを組み合わせた安価な機材ではあるが、RPG-7などの携帯式対戦車兵器への対抗に供するには充分な能力を備えている機材で、防御力の弱いストライカー装輪式装甲車シリーズで多用されている。
この格子装甲は、M1戦車シリーズの場合は車体後部の機関室の周囲に装着する形が採られ、イラクに展開していた1個機甲部隊のM1A2SEP戦車に対して装着された。
しかし、能力不足との判断からその装着は短期間に終わり、TUSKキットからは省かれてしまった。
TUSKキットはさらなる改良が計画され、TUSK II、IIIへと段階的に発展しており、2008年からTUSK IIは実車に装着されている。
まずTUSK IIだが、これは先に記述したTUSK Iの仕様に加えて、サイドスカートに装着されるXM19 ARAT Iは、より軽量化が図られ爆発効果も向上したXM32
ARAT IIに換わった。
このARAT IIは、爆薬を収めたERAボックスの数はARAT Iと同じく片側16個だが、さらに薄くなって軽量化が図られ、しかもそれぞれが湾曲したのに加えて、下方に35度傾斜した形で装着することで、爆発の方向を逸らしている。
さらに砲塔の左右側面にも、それぞれ7個ずつが装着されたことも変化の1つである。
加えて、それまで前方にしかなかった装填手用の7.62mm機関銃に装着された防盾の後方に、上面を透明防弾ガラスとした全周をカバーする防盾が装着された。
そのスタイルからこの機材は、乗員たちからは「360度防盾」と称されている。
ただしアメリカ陸軍ではこの新型防盾に対して、「LAGS」(Loader's Armour Gun Shield:装填手用装甲防盾)なる呼称を与えており、130セットが発注され、2008年にイラクに送付されて現地で装着された。
最後は、すでにレオパルト2A5戦車などで実用化されている、「DRVC」(Driver's Rear View Camera:操縦手用後方監視カメラ)の導入である。
これは、車体後面右側に設けられている尾灯と一体化する形で装備されたもので、操縦手席のディスプレイに映像が表示される。
そして最新のTUSK IIIは、車長席と装填手席の機関銃マウントに安定装置が備えられ、砲塔バスケットに装着された座席も、操縦手と同様に吊り下げ式に変更することで地雷爆発時の対処とし、サイドスカート側面に装着される爆発反応式のARAT
IIに代えて、安価かつ極めて軽量なエアバッグ方式に改められた。
ただしこのTUSK IIIは、まだ実車へのフィードバックは先になるものと考えられている。
なおこのTUSKキットは、部隊レベルの整備場において12時間で装着が可能といわれ、当然ながらイラクに派遣された車両に対して装着が実施された。
ただし当初はその数が揃わなかったために、車両ごとに装備に差が生じていた。
またTUSKキットは、M1A2戦車に加えてM1A1戦車各型にも導入されている。
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+M1A2SEP戦車
前述のように、アメリカ陸軍はコスト削減のためにM1A2戦車の新規生産をわずか62両で終了し、残りは既存のM1戦車をM1A2仕様に改修して調達する方針にシフトした。
こうして、2001年までに550両のM1戦車がM1A2戦車に改修されたが、陸軍はその後、M1A2戦車のさらなる能力向上を図って、「SEP」(System
Enhancement Package:システム拡張パッケージ)の呼称で段階的な改良を実施している。
SEP改修計画の第1段階の開発着手は、M1戦車のA2化改修が開始されたのと時を同じくして、1994年9月に陸軍がGDLS社との間に、M1A2戦車の改良に関する開発契約を結んだことから計画がスタートした。
そして2001年2月に、GDLS社と240両のSEP改修契約が結ばれて作業が開始され、同年中にはその改修第1号車が引き渡され、2004年12月までに改修作業を終え、全車が陸軍の手に渡されている。
続いて2005年に入ると陸軍は240両のM1A2戦車と、400両のM1A1AIM戦車のSEP改修契約をGDLS社と交わし、改修作業が再開された。
SEP改修における骨子は車内各部の電子機材の更新、砲手用照準機への新型熱映像装置の追加装備、モノクロ・ディスプレイのカラー・ディスプレイへの換装、砲塔前面の内壁に装着されているDU装甲を、より耐弾性が強化された第3世代DU装甲への換装。
目標の捜索および追尾距離が3,220m以上に延伸した、強化型熱映像機材の導入などで、総合的な戦闘能力がさらに向上することになった。
また、M1A1/A2戦車では砲塔の後面にEAPUが装着されていたが、イラク戦争での戦訓を背景として、SEP仕様では機関室の左側に位置を変え、小口径弾の直撃による被害を排除した。
この新型APUは、「UAAPU」(Under Armour Auxiliary Power Unit:装甲内補助動力装置)と呼称を変え、駆動もそれまでのディーゼル・エンジンではなくガスタービン・エンジンに換装され、これがSEP仕様における外観上の識別点となった。
ただしこの新型APUの導入に際しては、そのコストが問題視されたために、多くのSEP改修車では装備されないまま改修を終え、以前と同じく砲塔後面にEAPUを装着しているので、識別点とするのは難がある。
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+M1A2SEPv2戦車
SEP改修計画の第2段階がこのSEPv2で、M1A2SEP戦車と州兵向けのM1A1SA戦車を対象として、2006年後半にアメリカ陸軍とGDLS社の間で改修契約が結ばれ、開発がスタートした。
前述したように、M1A1戦車のA2化改修の際に電子機材の90%がディジタル化されたが、SEPv2ではオープンディジタル・アーキテクチャー概念技術が導入され、電子機材のOSを「COE」(Combat
Operating Environment:戦闘操作環境)と呼ばれる新OSに更新。
車長席へのM153「CROWS(Common Remotely Operated Weapon Station:共通遠隔操作式武装ステイション)II」の搭載、さらにディジタル・ディスプレイへの換装などが、SEPv2改修における中核となっている。
M153 CROWS IIは、ノルウェイのKDA(Kongsberg Defence & Aerospace)社が開発したRWS(遠隔操作式武装ステイション)であり、2軸式の安定装置を備え、ユタ州オグデンのブラウニング火器製作所製の12.7mm重機関銃M2を、車内でディスプレイを見ながらジョイスティックで操作することができ、車長の被害を防いでいる。
もちろんハッチを開いて、車長が半身を乗り出し射撃を行うことも可能である。
また併せて、M1A2戦車の標準装備でもある熱映像カメラが12.7mm重機関銃の下に新設され、昼/夜間を問わずビデオカメラとして機能する。
さらに、M1A2戦車の標準装備であるレーザー測遠機の発信部が、熱映像カメラの斜め右上に装着されたことも、CROWS IIへの新たな装備である。
ただし、SEPv2改修当初はCROWS IIの製作が遅延したために、旧型であるICWSを装着して完成している。
TUSKで導入された車体後面右側へのTIP装備や、TUSK IIでの尾灯一体型後方監視カメラも、このSEPv2で標準装備とされている。
加えて細かい箇所ではあるが、砲塔バスル部の左側面に小さな装甲箱が新設された。
これは、すでに装備されている風センサーと同様に外気状況を測定する機材で、「CREW II」の呼称が与えられている。
さらに外側からは確認できないが、海兵隊向けのM1A1戦車や州兵向けのM1A1SA戦車で採用された、砲塔バスケットへの追加バスケット装着や、機関室内左側に収められた燃料タンクの前方にバッテリー6基を追加し、EAPU共々エンジン停止時における電力供給に用いられた。
最初の生産型M1戦車から、機関室右前方にバッテリー6基を標準装備していたが、このSEPv2でそれを倍増したわけである。
これは電子機材の強化に伴う、発電量増加への対処でもあった。
そして2007年に、M1A2SEP戦車の全車に対するSEPv2改修契約が結ばれ、SEPv2改修第1号車は2009年に完成したが、その前年である2008年に、435両のM1A1戦車をSEPv2仕様に改修する契約が結ばれている。
そして2010年から、SEPv2改修車が第1騎兵師団と第1機甲師団の第1旅団に対する引き渡しが開始され、さらに2013年には第3歩兵師団への引き渡しも始まり、同年末までには陸軍に配備された全ての実戦部隊がSEPv2改修車となり、州兵2個大隊にもM1A1SA戦車に代えてM1A2SEPv2戦車が引き渡されている。
なお、SEPおよびSEPv2改修に漏れた残存するM1A1戦車は、全車が退役して保管状態となった。
さらに期日は不明だが、2012年に陸軍は保管されているM1戦車シリーズの2,000両を、オーバーホールした上でSEPv2仕様への改修を画策し、2013年5月に陸軍秘書官のジョン・M・マクヒューは、まず120両以上の改修希望を表明した。
そして2015年初めには、その第1段階として1億1,400万ドルで12両のオーバーホールとSEPv2改修を、2,600万ドルで48基の変速・操向機新規製作、4,100万ドルで新型の砲手用熱映像装置の製作に関する契約が結ばれた。
同年2月から、まず最初の6両のSEPv2改修作業が開始されたが、この6両は陸軍ではなく州兵への配備とされていた。
例のごとく、予算との兼ね合いで前述した2,000両の改修は遅れたものの、2017年にGDLS社と今後4年間での改修金額を、11億〜16億ドルで契約締結した。
このコストの差は、エンジンを担当するアリゾナ州フェニックスのHAT(Honeywell Aerospace Technologies)社、変速・操向機を担当するインディアナ州インディアナポリスのアリソン変速機、目標捕捉機材を担当するマサチューセッツ州ウォルサムのレイセオン社との兼ね合いによるもので、契約時にはまだ詳細が確定されておらず、暫定的にこの程度であろうとの数字が出されたものと思われる。
さらに陸軍は、2011年にストライカー装甲車に搭載して試験を行った、イスラエル製のAPS(アクティブ防御システム)「トロフィー」(Trophy:ヘブライ語で「ウィンドブレーカー」を表す)のSEPv2導入を計画している。
トロフィーAPSは、ロシアが先鞭をつけた「ドロズド」(Drozd:ツグミ)APSのイスラエル版ともいえるものであり、同国の老舗メーカーとして知られるラファエル先進防衛システムズ社と、イスラエル航空宇宙工業傘下のエルタ・システムズ社が、10年に渡る共同開発の末に2009年に実用化した。
トロフィーAPSは、全周を捜査して敵の対戦車ミサイルやロケット弾を捕捉するレーダーと、自動的に迎撃用擲弾を飛来する方向に向けて射撃する擲弾発射機から構成されている。
レーダーはF/Gバンドの平板式EL/M-2133を砲塔の4カ所に装着し、砲塔後部に搭載された2基の擲弾発射機で迎撃するというもので、すでにイスラエル陸軍ではメルカヴァMk.IV戦車に装着して実戦で使用している。
その迎撃距離は30m程度といわれ、レーダーが対戦車ミサイルやロケット弾を探知してから擲弾発射までに要する時間はわずか0.1秒と、メーカー側は宣伝している。
ただし射撃後に、次弾発射まで0.2〜0.4秒のタイムラグを生じるのが問題視されたという。
ストライカー装甲車にトロフィーAPSを搭載して行われた、アメリカでの実射試験は充分な成功を収めたが、すでにアメリカではレイセオン社が開発を進めていた、「クイックキル」(Quick
Kill:瞬殺)APSが存在していた。
その調整からアメリカ軍は、M1A2SEPv2戦車への早急なトロフィーAPSの導入は行えなかったと見られ、2016年になってようやく、海兵隊のM1A1戦車にトロフィーAPSを装着したデモンストレイターが発表され、2018年にはトロフィーを装着したM1A2SEPv2戦車が、軍事演習で試験的に運用された。
陸軍は2020会計年度予算において、トロフィーAPSをM1A2SEPv2/v3戦車に搭載し、アメリカ国内および国外に4個機甲旅団を準備すると公表した。
トロフィーAPSをM1A2SEPv2/v3戦車に搭載するにあたって、ヴァージニア州アーリントンのレオナルドDRS社と、ラファエル社の合同事業として、専用の改修キット「トロフィー・ディフェンス・システム」(TDS)が開発されることになり、2021年1月にはTDSの開発が完了したことが公表されている。
TDSは4個機甲旅団分400セットが納入され、現在改修作業が実施されている模様である。
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+M1A2SEPv3戦車
アメリカ陸軍がM1A2SEPv2戦車のさらなる発展型である、SEPv3計画に着手したのは2015年のことで、まずGDLS社との間に試作車9両の改修契約が9,220万ドルで結ばれ、2016年には試作第1号車が完成して試験に供された。
この9両の試作車は、いずれもM1A2SEPv2戦車を母体として改修が実施されている。
このSEPv3改修では、弾薬データリンク(ADL)と能力向上型前方監視赤外線(IFLIR)への換装、新型の低姿勢型CROWS(LP CROWS)の導入、対IED機材の装着、そしてコストの問題から、SEPでは少数装備に終わったUAAPUの本格的導入、後述のTIGERを導入した、改良型のAGT-1500Cガスタービン・エンジンへの換装などが中核に置かれ、2017年10月に総額2億7,000万ドルで452両の改修契約が締結され、2017年半ばから改修作業が進められているが、当然ながら改修に供されるのは、前述のように保管されていたM1A1戦車であろう。
まず、新たに装備される「ADL」(Ammunition Data Link)だが、これは主砲の鎖栓部分を改良型に改めたのに加えて、車内のFCSと装填弾薬がデータリンクされ、乗員のディスプレイに使用弾種を表示するもので、即応性向上がその狙いであろう。
また、「IFLIR」(Improved Forward-Looking Infrared)の詳細に関しては明らかにされていないが、SEPv2で装備された第2世代FLIRの能力を、さらに強化した装備であることは間違いないと思われる。
IFLIRは砲手用の照準機と車長用のCITVに導入され、それまでの短波に換えて長・中波の赤外線技術が用いられていることは判明しているが、それ以上は不明のままである。
「LP CROWS」(Low-Profile Common Remotely Operated Weapon Station)は、前述のCROWSを監視機材のレイアウトを改めることで機材全体の高さを抑えたもので、SEPv2のCROWSで12.7mm重機関銃の下方に装着されていた熱映像カメラを、機関銃マウントの右側に移すことで全高を下げているのが特徴である。
加えて、周囲に8基の防弾ガラスを内蔵していた車長用キューポラは、背が半減した新型に換わり、周囲に小型の新型ペリスコープ12基を備えているのも目立つ変化である。
最後の対IED機材は、アフガニスタン紛争とイラク戦争における戦訓から開発されたもので、自らが妨害電波を送り出すことで、IEDの爆発に用いる通信機材(通常は携帯電話が多用される)の電波を無効にする、一種のECM(Electronic
Countermeasure:電波妨害)機材である。
詳細は不明だが、戦闘室内に妨害電波を生成する機材を収め、砲塔後部に立てられた2本の筒状アンテナから、妨害電波が周囲に送り出されることは分かっている。
イギリス陸軍のチャレンジャー2戦車にも同様の機材が搭載されているが、SEPv3で導入されたものは遥かに単純なスタイルである。
ただし妨害電波を発信すると、それで誤作動して携帯電話が電波を発してしまい、IEDが起爆するという問題も存在するという。
なお、この対IED機材はM1A2SEPv3戦車から標準装備とされたが、それ以前のM1戦車シリーズについても、現地改修キットの形で装備している車両が数多く確認できる。
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+M1A2SEPv4戦車/M1E3戦車
M1A2SEPv4戦車は現時点における最新のSEPシリーズであり、ロシア陸軍が開発し2016年に公開されたT-14戦車への対抗を念頭に置いて開発されたという。
その改良の中心となるのは、「CPS」(Commander's Primary Sight:車長用主照準装置、以前「CITV」と称されていた機材でもある)と、「GPS」(Gunner's Primary Sight:砲手用主照準装置)の機材更新、各種センサーの能力向上と車内ネットワーク化、高解像度ディスプレイへの換装、生残性の強化などである。
加えて、レーザー警戒装置の搭載や通信能力の強化、SEPv2への搭載が計画されているトロフィーAPSの搭載、エンジンの燃費向上、耐弾性の強化、そして、先進型多目的弾薬(AMP)と称される各種の新型弾薬の導入などで、併せて戦闘重量の軽減も求められている。
期日は不明だが、すでに総額5億8,100万ドルでの各種機材開発と、M1A2SEPv3戦車7両を母体とするSEPv4試作車に関する改修契約が結ばれて、2017年から作業に着手している。
続いて2021年から、SEPv4試作車を用いた試験が開始されている。
折しも、2022年2月にロシア軍によるウクライナ侵攻が開始されたことを受け、アメリカ政府はウクライナを支援するため2023年9月に、保管状態にあったM1A1戦車の一部(両数は不明)を同国に供与した。
また9月6日にアメリカ陸軍のジェフリー・ノーマン准将は、SEPv4改修計画を中止して、より積極的な改良計画「M1E3」を開始することを発表した。
「M1E3」という呼称は、将来「M1A3」となるべき発展型の試作車という位置付けだと思われるが、アメリカ陸軍はロシア・ウクライナ戦争に投入された、レオパルト2戦車シリーズなどの西側第3世代MBTの戦訓を踏まえ、M1戦車にはSEPのような能力を継ぎ足す改修ではなく、より抜本的な改良が必要であると認識した模様である。
M1E3計画はSEPv4計画の特徴を採り入れつつ、モジュール式のアーキテクチャを採用する予定で、これに成功すれば、迅速な技術的アップグレードが少ないリソースで可能になる。
これは将来的に、より生残性が高く軽量な戦車の設計を可能にするとノーマン准将は述べている。
M1戦車の能力向上は、重量の増加=機動性の低下と兵站の負担増で成立しており、当初54tだった戦闘重量はSEPv3で66.8tに到達している。
メーカーのGDLS社は、SEPv4で追加される新技術は重量をさらに押し上げると言及しており、ウクライナのような地盤が軟弱な地域では、M1戦車は充分に能力を発揮できないため、M1E3計画への移行を決断したのである。
ちなみに、M1E3計画には2040年以降の拡張性を確保する改良要素も盛り込まれており、M1E3戦車の初期作戦能力は2030年代初頭に獲得予定である。
アメリカ陸軍はM1E3戦車の生産が始まるまで、M1A2SEPv3戦車の生産を縮小すると述べているため、M1E3戦車の運用期間は最低でも15年以上になる見込みである。
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+M1A3戦車
M1戦車シリーズは、1980年に最初の生産車が引き渡されて以後、様々な段階的改良が実施されてきた。
その結果として戦闘能力は拡大し続けたのだが反面、戦闘重量もまた増大し続けることになってしまった。
それでいながら、エンジンは改良が加えられてはいるものの、基本的には最初の生産車と同じ出力1,500hpのままで、このため走行性能に陰りが見えてきたこともまた事実であった。
その根本的な解決を目的に計画されたのが、このM1A3計画である。
アメリカ陸軍は2008年頃から策定作業を開始したようで、2009年にはわずかであるがその情報が伝えられてきた。
それによると、M1戦車を2050年まで運用し続けるために、当時戦闘重量が62tに達していたM1A2戦車の戦闘重量を55tへと大きくダイエットさせ、2014年に試作車を製作して試験に供し、2017年には部隊レベルの運用を開始するというものだったが、現時点でも試作車の完成すら実現していない。
ただし、M1戦車の戦闘重量軽減に関する研究は持続していることは間違いない。
このような状況ではあるが、M1A3戦車における装備類に関しては少ないものの情報が存在しており、断片的ではあるが以下に記述する。
まず主砲だが、これは現在M1A1/A2戦車に用いられている44口径120mm滑腔砲M256の改良型である、M256A2に換装される。
その有効射程は、新型のM829E4 APFSDSを使用して12,000mに達し、それでいながら15%軽量化され、砲身命数も50%増大するという。
加えて、軽量かつ信頼性の高い自動装填装置の導入により装填手が不要になると共に、主砲の発射速度が20発/分へと飛躍的に増大する。
また車体と砲塔前面の複合装甲は、第4世代DU装甲と強拘束セラミック複合装甲を組み合わせることでさらに強固となり、砲塔側面の複合装甲は、従来の弱拘束セラミックから強拘束セラミックに構造が変化したことに伴い、それまでの傾斜装甲板からチャレンジャー2戦車に似た垂直装甲板に改められる。
加えて、車長席の前面に備えられている車内操作式の副武装が、車長用キューポラと装填手用ハッチの後方中央部に位置を変え、12.7mm重機関銃から20mm機関砲に強化される。
さらに、主砲防盾の直後と車長用キューポラの右隣、そして装填手用ハッチの左隣に、それぞれ平板の捜索レーダーを前方に備えた4連装の、「アイアンカーテン」(Iron
Curtain:鉄のカーテン)APSが装着される。
アイアンカーテンAPSは、ヴァージニア州ハーンドンのアーティス(ARTIS=Advanced Real-Time Information Systems:先進リアルタイム情報システム)社が開発したAPSで、捜索レーダーはテキサス州プレイノのマスタング・テクノロジー・グループが開発し、全体の調整はBAEシステムズ社が担当している。
アイアンカーテンはモジュール式の近距離APSで、捜索レーダーが敵の対戦車ミサイルやロケット弾を探知すると、4連装の擲弾発射機から自動的に迎撃用擲弾を発射して、それらを撃墜するようになっている。
2013年4月にアーティス社は、アイアンカーテンAPSが厳格な政府試験で満点を獲得したと発表し、2016年からアメリカ陸軍の手で、ストライカー装甲車を用いたアイアンカーテンの評価試験が開始された。
その後2018年8月に陸軍は、アイアンカーテンAPSがまだ技術的に未成熟であるとして、評価試験を継続しないことを決定し、採用は見送られることになった。
その後、M1A2SEPv2/v3戦車400両に対して、イスラエル製のトロフィーAPSが搭載されることになったのは、前述の通りである。
また、砲塔の左右側面に装備されている66mm発煙弾発射機も、M1A3戦車では新型のものに換装される。
前述のように主砲弾薬の自動装填装置を導入したことで、M1A3戦車は装填手が乗員から外されたが、装填手用ハッチはそのまま残され、代わりに砲手の乗降に使用されるようである。
つまり、自動装填装置の導入に伴って砲塔内の乗員配置が変更され、砲手は車長の前方から車長の左隣に移動するのである。
M1A3戦車は主砲の変化に合わせて弾薬も、さらに装甲貫徹力が増大し、ロシア最新のERAである「レリークト」(Relikt:遺存種)ERAも無効化が可能な、M829E4 APFSDSを開発中である。
M829E4 APFSDSは射距離1,000mで1,200mm、5,000mで900mmのRHA(均質圧延装甲板)を貫徹することが可能で、現存する大半の戦後第3世代MBTの前面装甲を、射距離10,000mで貫徹できるとしている。
さらにエンジンは、それまでのガスタービンから大出力ディーゼルに改められ、燃費の向上とさらなる信頼性の確保を可能とするという。
電子機材に関しては明らかにされていないが、M1A2SEPv4戦車と同等もしくはより強化されるものと思われる。
また変速・操向機も改良型の、アリソン社製DDA X-1100-3C自動変速・操向機(前進4段/後進2段)に変更するとしている。
現在の試算ではあるが、M1A3戦車の戦闘重量は56tで単体コスト825万ドル、車体長7.93mで全幅3.66m、全高2.5m、乗員3名、エンジン出力1,550hp、出力/重量比27.7hp/t、変速・操向機アリソンDDA
X-1100-3C、弾薬搭載数:120mm砲弾46発、20mm機関砲弾1,000発、7.62mm機関銃弾10,400発、サスペンションは高張力鋼を用いたトーションバーとショック・アブソーバーの組み合わせ、床下地上高42cm、燃料収容量2,000リットル、最大速度:整地75km/h、不整地46km/h、航続距離579km、TUSK装着可というデータが公表されている。
また車体と砲塔前面の複合装甲の防御力は、KE(運動エネルギー)弾に対してRHA換算で2,355mm、CE(化学エネルギー)弾に対してRHA換算で3,800mmに達するとされるが、これはあくまで試算値であり、現在の技術でこの性能を達成するのはかなり困難であると思われる。
またM1A3戦車は新規生産となるのか、それとも既存のM1A2戦車各型の改修生産になるのかも不明の状態である。
加えて2017年7月12日の講演の席で、アメリカ陸軍参謀総長のマーク・A・ミリー陸軍大将は、M1戦車シリーズに代えて、ロシア陸軍の「アルマータ」(Armata:ギリシャ語で兵器を意味する単語”Arma”の複数形、T-14戦車、2S35自走榴弾砲、T-15歩兵戦闘車などで共用する重装軌式プラットフォーム)のように、戦車や歩兵戦闘車などを共通プラットフォームに改めることが必要と公の場で述べており、このままM1A3計画が進捗するのか、はたまた中止になるのかその動向は流動的である。
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+攻撃力
M1A2戦車の主砲は、M1A1戦車で導入された120mm滑腔砲M256が引き続き用いられている。
この砲は、西ドイツ(当時)のラインメタル社製の120mm滑腔砲Rh120のライセンス生産権を取得して、ウォーターヴリート工廠で小改良を加えたもので、砲身長5.28m(44口径長)、総重量1.91tと当然ながら、M1戦車の51口径105mmライフル砲M68A1の1.5倍以上重量が増加している。
M1A1戦車は当初、高価なタングステン合金を弾芯に用いるM829 APFSDSを主用していたが、1980年代末からは、より安価なDU合金を弾芯に用いたM829A1
APFSDSが主力弾種となった。
M829A1 APFSDSの性能は、砲口初速1,575m/秒、射距離2,000mで540mm厚のRHAを貫徹可能である。
さらにDU弾は焼夷性が高いため、敵戦車の装甲を貫徹した際に車内を高温化し、燃料や弾薬の二次爆発を引き起こす効果がある。
M829A1 APFSDSは、1991年2月の湾岸戦争地上戦において使用され、イラク陸軍が装備するソ連製や中国製の戦車を多数撃破したが、コンタークト5などのERAを装着した戦車に対しては、威力を減じてしまう欠点があることが判明した。
このため、改良型のM829A2 APFSDSが開発され、1993年から運用が開始された。
M829A2では分離装弾筒に軽量な複合材が使用され、砲口初速が1,680m/秒に向上した。
また弾芯の長さも延長されており、射距離2,000mで570mm厚のRHAを貫徹可能になった。
M1A2戦車は生産時期から考えて、このM829A2 APFSDSを当初から主力弾種として用いていたことになる。
続いて2003年には、さらなる改良型のM829A3 APFSDSが登場した。
M829A3では弾芯の長さが800mmまで大きく延長され、それに伴って弾体重量が10kgに増加し、総重量も22.3kgと重くなっている。
M829A3の性能は砲口初速1,555m/秒、射距離2,000mで680mm厚のRHAを貫徹可能といわれる。
これだけでも充分強力な火力性能ではあるが、アメリカ陸軍はさらなる火力向上を目的として、1990年代に入るとドイツのレオパルト2戦車と同様に、M1戦車の120mm滑腔砲を55口径に長砲身化する研究に着手した。
この長砲身化に伴い、砲身長は5.28mから6.6mへと、その重量も3.78tから4.16tへと拡大し、有効射程は44口径砲より約1,500m延伸するとされた。
しかし、この長砲身120mm滑腔砲は単なる研究の域を出ることは無く、現時点では換装の予定も無い。
さらに2015年11月にラインメタル社は、口径を130mmに拡大した新型滑腔砲の開発を行っていることを明らかにし、翌16年6月には、フランスのパリで開催された兵器展示会「ユーロサトリ2016」において試作砲が公開された。
この砲は後に、2022年6月に開催された「ユーロサトリ2022」において、ラインメタル社が初公開した新型MBT KF51パンターの主砲に採用されている。
「Rh130」の呼称が与えられたこの新型130mm滑腔砲の諸元は、52口径長(当初は51口径長)で総重量3t、砲身重量1.4tとなっており、ラインメタル社ではこのRh130用の新型APFSDS(タングステン弾芯)の開発も並行して進めており、射距離2,000mで930mm厚のRHAを貫徹可能といわれている。
ラインメタル社はRh130とその弾薬を、既存のMBTの火力強化用として積極的に売り込んでおり、アメリカ側にもM1戦車の新しい主砲として採用することを提案した。
しかし今のところ、アメリカ陸軍は120mm滑腔砲M256とM829A3 APFSDSの組み合わせで、対装甲威力は充分と認識しているようで、それ以上の段階には進んでいない。
また主砲の換装には大きなコストが掛かるので、議会の承認を得るのが難しいという事情も影響している。
M1A2戦車では、M1/M1A1戦車に用いられた車長用の動力旋回式キューポラ、「CWS」(Commander's Weapon Station:車長用武装ステイション)に代えて、「ICWS」(Improved
Commander's Weapon Station:改良型車長用武装ステイション)と呼ばれる、固定式の新型キューポラが導入されている。
ICWSは後ろ開き式のハッチを備え、周囲にペリスコープ8基を内蔵する、CWSと同様のレイアウトを採用しているが、キューポラ部分が大型化されてペリスコープのサイズも増大したことで、車長の視野が拡大された。
また、12.7mm重機関銃M2の旋回のためにリングが装着され、併せてマウントも新規製作された。
なお、機関銃の動力式旋回機構はそのまま残され、任意に手動旋回と切り替えることができるのはCWSと変わらない。
加えて専用の熱映像カメラとレーザー測遠機が、新たに設けられた。
また、M1A2戦車で新規に導入された車長用のCITVは、全周旋回式の円筒形装甲カバーに収められ、−12〜+20度の俯仰角を備えて独立した2軸式の安定装置を備えている。
その重量は182kgで、装填手用ハッチの前方に搭載されている。
基本的には、M1/M1A1戦車に搭載された熱映像表示機材と同様だが、倍率は2.6倍と7.7倍を選択でき、車長席の右側に配されたジョイスティックを用いて旋回と俯仰が行われる。
その情報は、車長席の前面に配されたディスプレイに映し出される。
そしてこのCITVが、M1A1戦車との一番目立つ外観的な変化となっているのだが、M1A1戦車の後期生産車では、その搭載を簡単に実施できるように内部に配線を施した上で、砲塔上面に開口部を用意して、外側から円形の装甲蓋をボルトで止めて塞ぐというスタイルが採られていた。
砲手席の前方には、M1/M1A1戦車と同様に様々な照準機材を収める装甲箱が設けられており、基本的には前作と大差無いが、二酸化炭素を用いる改良型の炭素ガス方式レーザー測遠機が収められ、さらに熱映像機材は航空機に導入されている、「FLIR」(Forward-Looking
Infrared:前方監視赤外線)からの技術を流用し、より能力が向上した第2世代熱映像機材が用いられている。
その倍率は3、6、13、25、50倍と、以前の熱映像装置と比べると選択肢が大きく広がり、探知距離は70%、識別力は30%向上したのに加え、目標をロックオンするのに要する時間も45%短縮されたといわれる。
砲塔と独立した2軸式の安定装置が砲手用の照準装置にも装備され、さらに射撃精度の向上が図られたことも見逃せない。
またM1A2戦車では、これらの直接的な戦闘装備の変更に加えて、戦場における総合的な戦闘能力の確保を目的に導入された、自車の位置をディスプレイに表示する「POS/NAV」(Position/Navigation
System:位置測定/航法装置)が導入されたことも見逃せない変化である。
このPOS/NAVは、航空機に搭載されているジャイロと加速度計を組み合わせた、「INS」(Inertial Navigation System:慣性航法装置)の技術を応用したものである。
ディスプレイ上に目的地を入力することで最適のルートが表示され、その誤差は距離で2%といわれる。
ただし、その使用に際してはジャイロを回転させる必要があるので、それが安定して正しい位置表示を可能とするまでに5分を要するのは、航空機に搭載されるINSと同じである。
さらに、目標に対する情報伝達時間は50〜70%短縮され、目標に関する位置情報の誤差は32%に減り、目標地帯の到達精度も92%向上し、行動に要する時間も42%短縮されたという。
そしてこれらのデータリンク機材は、戦車用の装備としては世界で初めて導入された装備であり、M1A2戦車は戦闘装備自体はM1A1戦車と大差無いものの、総合的な戦闘能力として考えた場合は、はるかにM1A1戦車を上回ることになった。
そしてこれこそが、M1A2戦車における最大のメリットなのである。
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+防御力
M1A2戦車はM1/M1A1戦車と同様に、砲塔の前/側面と車体の前面に複合装甲を導入しているが、M1A2戦車に装着されている複合装甲は、M1A1HA+戦車に導入されたのと同じ第2世代DU装甲である。
M1A2戦車の車体と砲塔前面の複合装甲は、4層の材質から構成されていると推測されており、第1層がHHA(高硬度装甲板)、第2層がセラミック層、第3層がDU合金層、第4層がRHAとなっている。
具体的な装甲厚については4層合計で325mm程度と推測されており、セラミック層が75mm厚、DU合金層が100mm厚、HHA層とRHA層は合計で150mm厚となっている。
複合装甲の防御力については、KE弾に対してRHA換算で650mm程度、CE弾に対してRHA換算で1,400mm程度と推定される。
また前述のように、M1A2戦車の改良型であるM1A2SEP戦車では、さらに強力な第3世代DU装甲が導入されている。
第3世代DU装甲の防御力については、資料によって数値に大きなばらつきが見られはっきりしないが、KE(運動エネルギー)弾に対してRHA換算で650〜700mm程度、CE(化学エネルギー)弾に対してRHA換算で1,500〜1,600mm程度と推定される。
さらに、M1A2戦車の最新改良型であるM1A2SEPv4戦車では、より強力な第4世代DU装甲が導入される計画である。
従来のM1戦車シリーズの複合装甲は、セラミックが充分拘束されていない状態で封入されている弱拘束セラミック複合装甲であり、KE弾に対してセラミック層が充分な防御力を発揮できなかった。
しかし第4世代DU装甲は、KE弾に対して高い防御力を発揮する強拘束セラミック複合装甲が用いられている。
第4世代DU装甲では、ハニカム(6角形)構造に加工したセラミックを、チタン合金などの高強度材料のマトリクスで圧縮応力を掛けて拘束したセルを、びっしりと何層も重ねて防弾鋼板の箱の中に配置した構造になっており、靱性が低く衝撃に弱いというセラミックの弱点が改善され、持ち前の高い硬度を活かしてKE弾の侵徹を阻止できるようになった。
第4世代DU装甲の具体的な防御力は不明であるが、KE弾に対する防御力が大幅に向上したことは間違いない。
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+機動力
M1戦車は当初の戦闘重量は12万ポンド(54.43t)であったが、その後様々な改良が加えられてM1A1、M1A2と型式が変化する度に戦闘重量が増大し続けた。
にも関わらず搭載するエンジンはM1戦車時代と同じく、ペンシルヴェニア州ウィリアムズポートのALE社(アヴコ・ライカミング発動機)製の、AGT-1500ガスタービン・エンジン(出力1,500hp)に何も改良を図らずに用い続けたため、次第に走行性能が低下する事態となった。
このため2006年にアメリカ陸軍は、AGT-1500エンジンの強化改良計画に着手することになった。
改良計画の実際の作業は、1999年にALE社のタービン・エンジン部門を吸収合併した、HAT社の手に委ねられたが、その実態に関しては明らかにされておらず、判明しているのは新型部品への交換による耐用時間の延長と、「TIGER」(Total
Integrated Engine Revitalization:全体統合エンジン再生)なる計画呼称にしか過ぎない。
ただしこの改良型ガスタービン・エンジンは、詳細は不明なものの後に「AGT-1500C」として採用され、前述のM1A2SEPv3戦車に搭載されている。
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M1A2戦車
全長: 9.827m
車体長: 7.917m
全幅: 3.658m
全高: 2.885m
全備重量: 63.049t
乗員: 4名
エンジン: アヴコ・ライカミング AGT-1500 ガスタービン
最大出力: 1,500hp/3,000rpm
最大速度: 66.79km/h
航続距離: 426km
武装: 44口径120mm滑腔砲M256×1 (42発)
12.7mm重機関銃M2×1 (900発)
7.62mm機関銃M240×2 (11,400発)
装甲: 複合装甲
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M1A3戦車
全長:
車体長: 7.93m
全幅: 3.66m
全高: 2.50m
全備重量: 56.0t
乗員: 3名
エンジン: ディーゼル
最大出力: 1,550hp
最大速度: 75km/h
航続距離: 579km
武装: 44口径120mm滑腔砲M256A2×1 (46発)
20mm機関砲×1 (1,000発)
7.62mm機関銃M240B×2 (10,400発)
装甲: 複合装甲
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参考文献
・「グランドパワー2004年9月号 初心者のための装甲講座(番外編) M1戦車シリーズの複合装甲の推定と拘束セ
ラミック複合装甲の能力」 一戸崇雄 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2018年7月号 M1エイブラムス(1)」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2018年9月号 M1エイブラムス(2)」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「世界の戦車(2) 第2次世界大戦後〜現代編」 デルタ出版
・「パンツァー2016年11月号 ステップアップするアメリカ海兵隊のM1A1」 家持晴夫 著 アルゴノート社
・「パンツァー2018年2月号 特集 現用MBTの覇者 M1エイブラムス」 岩本三太郎 著 アルゴノート社
・「パンツァー2007年7/8月号 特集 M1エイブラムス」 柘植優介/竹内修 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2010年3月号 新時代のニーズに対応するM1戦車」 三鷹聡 著 アルゴノート社
・「パンツァー2024年3月号 最強戦車(M1エイブラムス)の黄昏」 三鷹聡 著 アルゴノート社
・「パンツァー2015年7月号 進化するM1戦車の徹底解剖」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2004年11月号 M1戦車 その開発・試作・採用」 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート12 M1戦車シリーズ」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021-2022」 アルゴノート社
・「現代最強戦車の極秘アーマー技術」 ジャパン・ミリタリー・レビュー
・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社
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