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M163対空自走砲





M163対空自走砲は、アメリカ空軍が航空機搭載用機関砲として開発した20mmヴァルカン砲M61を給弾装置、射撃装置と共に単座サーボ制御砲塔にまとめ、M113装甲兵員輸送車の車体に搭載した師団防空用の対空車両であり、アメリカ陸軍が旧式化したM42ダスター対空自走砲の後継として開発したものである。
アメリカ陸軍兵器コマンドは1964年に20mmヴァルカン砲M61を装備する対空車両と牽引対空砲の開発を計画し、「VADS」(Vulcan Air Defense System:ヴァルカン防空システム)の計画名称が与えられた。

VADSの開発は20mmヴァルカン砲M61を開発/生産していたジェネラル・エレクトリック社武装システム部門が担当することになり、車載型には「XM163」、牽引型には「XM167」の開発名称が与えられて開発が進められた。
1965年に完成した試作車を陸軍防空局の本拠地であるフォート・ブリスとアバディーン車両試験場に運んで運用試験を実施し、同年中に車載型が「M163 VADS」、牽引型が「M167 VADS」として制式化が決まり、1967年より生産が始められた。

M163対空自走砲は1968年8月よりアメリカ陸軍への引き渡しが開始され、M42対空自走砲に代えて部隊配備が行なわれ1970年には生産を終了した。
しかし海外への輸出用として1975年に生産を再開し最終的には1987年までに671両が完成しており、この内601両がアメリカ陸軍に引き渡された。
アメリカ陸軍以外ではイスラエル、ヨルダン、モロッコ、サウジアラビア、タイで使用されている。

なお「M163」はシステム全体の名称であり車台部分は「M741」と呼ばれるが、このM741車台のベースとして用いられたのはディーゼル・エンジンを備えるM113A1装甲兵員輸送車である。
M741車台は基本的にはM113A1装甲兵員輸送車の車体や機関系をそのまま流用しているが、サスペンションに固定機構が設けられ射撃時の安定性を高めているのが特徴である。
また重量増加により浮航性能が低下することを避けるために車体の前、側面にはフロートが新設されている。

M163対空自走砲の主武装である20mmヴァルカン砲は75.9口径20mm機関砲の砲身を6本まとめたもので、非常に高い発射速度を持っている。
ただし航空機用として使用されているM61は発射速度が6,000発/分であるが、M163対空自走砲に搭載されているものは発射速度を3,000発/分に抑えており「M168」の呼称が与えられている。

砲塔は全周旋回が可能で、20mmヴァルカン砲の俯仰角は−5〜+80度となっている。
弾薬はHEI(焼夷榴弾)、API(焼夷徹甲弾)、TP(演習弾)が用意されており、砲口初速はいずれも1,030m/秒である。
射撃は10発、30発、60発、100発のバースト射撃が選択できる。

弾薬はドラム型弾倉に1,100発が収納され、リンクレス給弾システムのシュート(コンベア)を介して自動的に装弾される。
さらに、予備弾薬として1,000発が車内に搭載されている。
FCS(射撃統制システム)はアメリカ海軍が開発したMk.20Mod.ジャイロ機構を備えた見越し角計算機付き照準機と、エンテック社が開発したAN/VPS-2パルス・ドップラー・レーダーを中心に構成されている。

レーダーは測距のみに用いられ見越し角をコンピューターにより計算し、そのデータを基に砲手が追尾するという方式を採っている。
後にM113装甲兵員輸送車がM113A2に発展したのに合わせてM163対空自走砲の車台も同規格のM741A1に改修されたが、この改修車両は「M163A1」と呼称が変更されている。

アメリカ陸軍ではM163対空自走砲は、M48シャパラル対空ミサイル・システムと共に機甲防空大隊に配備されている。
この防空大隊はM48シャパラルを12両装備する対空防御中隊2個と、同じくM163を12両装備する対空防御中隊2個で編制されている。


<M163対空自走砲>

全長:    4.864m
全幅:    2.855m
全高:    2.921m
全備重量: 12.493t
乗員:    4名
エンジン:  デトロイト・ディーゼル6V-53 2ストロークV型6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 212hp/2,800rpm
最大速度: 64.37km/h(浮航 5.79km/h)
航続距離: 483km
武装:    75.9口径20mm6砲身ヴァルカン砲M168×1 (2,100発)
装甲厚:   28.58〜44.45mm


<参考文献>

・「パンツァー2016年8月号 機関砲の歴史に新時代を画したガトリング砲(上)」 桑島昌孝 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年9月号 機関砲の歴史に新時代を画したガトリング砲(下)」 桑島昌孝 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年9月号 陸自の車輌・装備シリーズ 高射火器(2)」 田村尚也 著  アルゴノート社
・「パンツァー2016年12月号 M113装甲兵車とそのバリエーション」 井坂重蔵 著  アルゴノート社
・「パンツァー2002年12月号 バルカン・システム開発の歴史(1)」 小畑恒二 著  アルゴノート社
・「パンツァー2009年7月号 対空自走砲の歴史と現状」 坂本雅之 著  アルゴノート社
・「パンツァー1999年9月号 アメリカ陸軍のM163自走バルカン砲」  アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」  アルゴノート社
・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「グランドパワー2022年12月号 M113装甲兵員輸送車」 後藤仁 著  ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」  デルタ出版
・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著  光人社
・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著  グランプリ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」  コーエー


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