初の戦後型APCであるM75装甲兵員輸送車、さらなる近代化が図られたM59装甲兵員輸送車と、APCの実戦化を進めてきたアメリカ陸軍は1954年6月から、車体の共用化を図った軽量型戦闘車両の開発をミシガン州のデトロイト工廠の手でスタートさせた。 この車両は大重量型と軽量型の2種に分かれ機関系や走行系を共通とし、空挺作戦にも用いるため、大重量型は空中投下を可能とすべく戦闘重量は7.2tとされた。 一方軽量型は3.6tを限界とし、いずれも浮航性が求められており、装軌式と装輪式がそれぞれ検討された。 大重量型は兵員10名を収容でき、自走砲、貨物輸送車、救急車等への転用が考えられており、軽量型は4名の兵員を収容して、偵察や指揮車、無反動砲搭載車等としても用いることが考えられていた。 1955年8月には装軌式大重量型のモックアップが完成し、また時を同じくして、走行性能の要求を満たせないという判断から、装輪式大重量型の開発はキャンセルされた。 1956年1月5日付の装備技術委員会報告書によると、この新型車両ファミリーが装軌式装甲兵員輸送車T113(乗員13名)、装軌式装甲兵員輸送車T114(乗員4名)、装輪式装甲兵員輸送車T115(乗員5名)とすることが記載されているので、前年度の末までには基本構想がまとまったものと思われる。 この内T115はモックアップが完成しただけで開発は中止され、T113は1959年4月に「M113装甲兵員輸送車」(Armored Personnel Carrier M113)として制式化された。 検討の結果、国防省は1957年6月にミシガン州のキャディラック社との間にT114の開発契約を結び、1958年6月に試作車6両を発注した(4両は偵察・指揮型、残る2両は106mm無反動砲を搭載する大隊対戦車車両)。 試作車は1958年中に完成したが、偵察型の試作車には車長用キューポラと一体化した小型銃塔が装備され、7.62mm機関銃が搭載されていた。 偵察型の試作車が検討された結果、1961年2月にコストの低減を目的とした改設計が要求され、同年5月に改良型のモックアップ審査が行われた。 この改良案では車体は単純な箱型に改められ、車長用キューポラも小型化されている。 1961年12月29日付でT114装甲偵察車の限定生産が承認され、第1生産バッチとして600両が発注されて量産が開始された。 なお、生産型のアメリカ陸軍への引き渡しは1962年から開始されている。 T114装甲偵察車の車体はM113装甲兵員輸送車を小型化、リファインしたような形状にまとめられており、M113装甲兵員輸送車と同様に5083防弾アルミ板の溶接構造が採用されていた。 車内の配置は車体前部右側に機関室、前部左側に操縦手席を配し、操縦手席の後方には車長席が設けられていた。 車体後部右側には無線手席が備えられ、さらに折り畳み式のシート1基を装備していたので、必要に応じて兵員1名を収容できた。 それぞれの乗員には、専用のハッチが車体上面に用意されていた。 操縦手用ハッチにはペリスコープ3基が装着されており、車長用としては8基のペリスコープを内蔵した旋回可能なキューポラを装備していた。 この車長用キューポラには12.7mm重機関銃M2とそのマウントが装着されており、さらに無線手のハッチには全周旋回が可能なペリスコープを装備していた。 車体後面には円形ハッチが用意され、乗降や脱出に使用された。 パワーパックはシボレー社製のモデル283 V型8気筒液冷ガソリン・エンジン(出力160hp)と、GMC社製のモデル305MC自動変速機(前進4段/後進1段)の組み合わせとなっていた。 サスペンションはトーションバー方式が採用され片側4個の転輪を支えており、車体前部に起動輪、後部に誘導輪が配されていた。 履帯はラバー・バンド式で、上部支持輪は備えていなかった。 機動力は路上最大速度36マイル(57.94km)/h、路上航続距離275マイル(443km)を発揮した。 また本車は水上浮航が可能であり、履帯を駆動させることにより推進力を得るようになっていた。 その後、車長用キューポラを改良型に改めたT114E1装甲偵察車が1962年中に1,215両生産された。 T114E1装甲偵察車では車長用キューポラの旋回速度を高/低2速から選択可能となり、車内からの電気信号により12.7mm重機関銃の操作ができるようになった。 また一部の車両では12.7mm重機関銃に代えて、キューポラと一体化した20mm機関砲を備える小型砲塔を備えて火力の向上が図られている。 1963年5月にはT114が「M114装甲指揮・偵察車」(Armored Command and Reconnaissance Carrier M114)、T114E1が「M114A1装甲指揮・偵察車」(Armored Command and Reconnaissance Carrier M114A1)として制式化され、1964年の生産終了までにM114装甲偵察車が1,215両、M114A1装甲偵察車が2,495両生産されている。 M114/M114A1装甲偵察車は早速、戦闘が激化しつつあったヴェトナムに送られて指揮・偵察任務に供されたが、ヴェトナムのような場所では不整地走行能力が極めて低いことが判明してしまった。 このため、同時期に実戦化されたM113装甲兵員輸送車とは異なり1975年に退役が決定し、1980年には部隊から姿を消した。 |
|||||
<M114装甲偵察車> 全長: 4.464m 全幅: 2.33m 全高: 2.39m 全備重量: 6.846t 乗員: 3〜4名 エンジン: シボレー・モデル283 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 160hp/4,200rpm 最大速度: 57.94km/h(浮航 5.47km/h) 航続距離: 443km 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (1,000発) 7.62mm機関銃M60×1 (3,000発) 装甲厚: 19.05〜44.45mm |
|||||
<M114A1装甲偵察車> 全長: 4.464m 全幅: 2.33m 全高: 2.156m 全備重量: 6.929t 乗員: 3〜4名 エンジン: シボレー・モデル283 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 160hp/4,200rpm 最大速度: 57.94km/h(浮航 5.47km/h) 航続距離: 443km 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (1,000発) 7.62mm機関銃M60×1 (3,000発) 装甲厚: 19.05〜44.45mm |
|||||
<参考文献> ・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2022年12月号 M114装甲偵察車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「パンツァー2000年4月号 ベストセラーAPC M113シリーズ」 後藤仁 著 アルゴノート社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |
|||||