M113C&Rリンクス装甲偵察車 オランダ仕様

M113C&Rリンクス装甲偵察車 カナダ仕様

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+開発
西側の装軌式APCのベストセラーとなったM113装甲兵員輸送車を生み出した、ペンシルヴェニア州フィラデルフィアのFMC社は、1950年代末にM113をベースに、指揮・偵察に用いる装軌式車両を開発することを企図した。
そしてこの計画案をアメリカ陸軍に提出し、自己資金でM113A1から改造された試作車を製作して、ケンタッキー州のフォート・ノックスで試験に供した。
この試作車はM113の車長用キューポラに代えて、M114装甲偵察車の火力強化型であるM114A1E1用に開発された、フランスのイスパノ・スイザ社製の86.4口径20mm機関砲HS820(M139)を装備する、油圧駆動式のM27車長用キューポラを搭載したのが変更点で、車体そのものはM113からほとんど変化していない。
しかしこの試作車は、偵察用車両としては車体サイズが大き過ぎる等の理由で陸軍では採用されず、結局試作のみに終わった。
そこでFMC社はこの開発ノウハウを基に、1963年初めからより小型で軽快な偵察用車両の開発を自己資金で開始した。
そしてまとめられたのが、開発期間の短縮とコストの削減を図るため、M113A1の各種コンポーネントを流用しながら、車体長と車幅を短縮して、転輪数をM114と同じ片側4個に改め、車体前面上部の傾斜角を鋭くした「M113
1/2」と称する基本案だった。
車体長と車体前部の形状がM113と異なるのに加え、さらに大きな変化が機関室の移動だった。
これは、M113で車体前部右側に配置されていた機関室を車体後部に移し、代わりに操縦手席の右側に無線手席を新設するというもので、箱型車体以外M113の面影はほとんど無くなっていた。
ただし、車体中央部の後方に車長席を設けるレイアウトは変わらず、このコンセプトに基づいて実物大木製モックアップが製作された。
このモックアップには「モデルX」と称する、M114A1装甲偵察車用のM26車長用キューポラをベースとする改修型キューポラが搭載され、ダミーの20mm機関砲M139が装備された。
さらに、車長用キューポラの右側には上開き式の乗降用ハッチが設けられ、機関室の移動に伴い燃料タンクは車長席の左側に位置を変え、その上方に燃料注入口を設けていた。
また操縦手用ハッチの周囲4カ所にM17ペリスコープを配し、ハッチの前部には全周旋回が可能な赤外線対応型ペリスコープM19が装備された。
また無線手用ハッチの周囲4カ所にもM17ペリスコープを備えるなど、各部に大きな変化が散見できる。
実物大木製モックアップに続いて、自己資金でM113 1/2の試作車が製作された。
M113シリーズと同様に車体は5086防弾アルミ板の溶接工法が採られ、最大装甲厚も1.75インチ(44.45mm)と同様で、車体前面に波切り板を備えて水上浮航能力を維持していた。
ただし、車内容積が減少したために水上浮航に際しては、車体後部に配された吸・排気グリルの周囲に起倒式のカバー、もしくは潜水塔を装着する必要があった。
パワーパックは、M113A1と同じエンジンと変速・操向機の組み合わせが踏襲されたが、機関室のサイズが狭いため操向機などを収めることができず、起動輪は前部配置とされ、車体前部に収められた操向機に、変速機から床下を通って延ばされた推進軸が結合された。
車体幅はM113の105.75インチ(2.686m)から95インチ(2.413m)に狭められ、このためトーションバーは専用の短縮型が用いられた。
モックアップで用いられていた20mm機関砲M139とモデルX車長用キューポラに換えて、試作車では車内から射撃可能な12.7mm重機関銃M2を装備したM26車長用キューポラが搭載されたが、このキューポラは必要に応じて、車内から射撃可能な7.62mm機関銃M73を連装で備えるM74キューポラもしくは、7.62mm機関銃または12.7mm重機関銃装備の100-Eキューポラに変更することが可能だった。
さらにM113をヴェトナム戦争に投入して得られた戦訓から、25mm以上の機関砲装備や、無線手用ハッチの前方に7.62mm機関銃M60を備えるピントルマウント装備、さらには車長用キューポラへのTOW対戦車ミサイル発射機の搭載も併せて提案されている。
車体サイズの小型化に伴い、完成したM113 1/2の試作車の戦闘重量は18,650ポンド(8.459t)と、M113A1の24,080ポンド(10.922t)から大きく減少した。
このため、同じパワーパックの搭載により路上最大速度40マイル(64.37km)/h、路上航続距離325マイル(523km)に達し、水上浮航速度も4マイル(6.44km)/hを記録した。
つまり、M113 1/2は機動性能でM113A1を大きく上回ったのである。
FMC社は早速、アメリカ陸軍に対してM113 1/2の採用を提案したが、この提案を受けた陸軍は結局採用を見送った。
これはすでに陸軍が同様の目的で、ミシガン州デトロイトのGM(ジェネラル・モーターズ)社キャディラック部門に開発させた、M114装甲偵察車の生産が開始されていたためである。
しかし結果として、アメリカ陸軍がM113 1/2を採用せず、M114を選んだ判断は誤りであったといえる。
M114もM113 1/2と同様に、M113を小型・軽量化したような偵察用車両であったが、エンジンの出力が低かったため不整地での機動性能がM113より低く、ヴェトナム戦争ではその扱い難さが兵士たちから不評であった。
このため、アメリカ陸軍は1975年にM114シリーズの退役を決定し、1980年には部隊から姿を消してしまったのである。
もしも、M113を上回る機動性能を持つM113 1/2が採用されていれば、このような短命の車両に終わることは無かったであろう。
アメリカ陸軍での採用を得られなかったM113 1/2のその後の運命であるが、FMC社は海外に対して積極的に本車の売り込みを図った。
そしてこれが功を奏し、オランダから266両、カナダから174両の発注を得ることに成功した。
そして1966年9月には、「M113C&R」(「C&R」は「Command and Reconnaissance:指揮・偵察」の略語)と呼ばれる生産型が完成した。
オランダが導入した266両のM113C&Rは、「M113C&V」(「C&V」は、オランダ語で「指揮・偵察」を表す「Commando
en Verkenningen」の略語)と名付けられ、250両が陸軍、16両が王立憲兵隊に配備された。
一方、カナダが導入した174両のM113C&Rは全て陸軍に配備され、「リンクス」(Lynx:ヤマネコ)の呼称が与えられたが、この呼称はFMC社がそのまま本車の愛称として採用した。
オランダ陸軍と王立憲兵隊のM113C&Rは1990年代初頭に退役し、後にバーレーン(35両)とチリ(8両)に売却された。
一方、カナダ陸軍のM113C&Rは1993年に退役し、当初はM113A2が暫定的にその任務を代行し、その後、1996年末までに203両のコヨーテ装甲偵察車(8×8型装輪式)に置き換えられた。
なおカナダ陸軍を退役し、スクラップとなったM113C&Rの内84両はオランダの民間企業に売却され、その後イランがこのスクラップを入手した。
イランは、自国軍で使用するために84両のM113C&Rをスクラップ状態から修復し、現在も運用を続けている模様である。
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+構造
M113C&RはM113の派生型なので、M113と同様に車体は5086防弾アルミ板の溶接構造が採用されているが、兵員室を設けていないことで全長はかなり短縮され、転輪はM113の片側5個から4個に減り、車体前部の形状も一新された。
これは、M113では車体前部に配置されていた機関室が車体後部に移ったことによる。
車体の装甲厚は前面上部が1.25インチ(31.75mm)、前面下部が1.75インチ、側面上部が1.25インチ、側面下部が0.75インチ(19.05mm)、後面が1.25インチ、上面が1.25インチ、下面が1インチ(25.4mm)となっている。
機関室内にはM113A1/A2と同じく、ミシガン州デトロイトのGM社デトロイト・ディーゼル部門製の、6V-53 V型6気筒液冷ディーゼル・エンジン(212hp/2,800rpm)と、インディアナ州インディアナポリスのGM社アリソン変速機部門製の、TX-100自動変速・操向機(前進3段/後進1段)を組み合わせたパワーパックを搭載している。
本車は機関室のサイズが狭いため操向機などを収めることができず、起動輪は前部配置とされ、車体前部に収められた操向機に、変速機から床下を通って延ばされた推進軸が結合されている。 また燃料タンクの容量は、87ガロン(329リットル)となっている。
サスペンションはM113と同じくトーションバー(捩り棒)方式を採用しているが、M113より車体幅が狭いため、トーションバーは専用の短縮型が用いられている。
履帯はM113と同じく、シングルピン式でゴムパッド付きのT130E1履帯(幅15インチ(381mm)、ピッチ長6インチ(152.4mm))が採用されており、左側が59枚、右側が60枚の履板で構成されている。
この足周りにより、M113C&Rは路上最大速度40マイル/h、水上浮航速度4マイル/h、路上航続距離325マイルと、M113を上回る機動性能を発揮する。
車内の乗員配置はカナダ仕様とオランダ仕様で若干異なっており、カナダ仕様では車体前部左側に操縦手席、その後方右側に車長席、車長席の後ろに無線手席が配されている。
3名の乗員にはそれぞれ独立したハッチが備えられており、車長用には、ユタ州オグデンのブラウニング火器製作所製の12.7mm重機関銃M2を装備するM26銃塔型キューポラが装着されており、手動で全周旋回が可能となっている。
オランダ仕様は基本的にはカナダ仕様と同規格だが、無線手席の位置が操縦手席の右側に変更されているのが相違点となっている。
なおM113C&Rは、無線手用ハッチの前方に7.62mm機関銃を装備するピントルマウントを備えているが、カナダ仕様ではブラウニング社製の7.62mm機関銃M1919のライセンス生産型であるC5A1を、オランダ仕様ではベルギーのFNハースタル社製のFN-MAGを使用する。
機関銃弾の搭載数についてはいずれの仕様も、12.7mm重機関銃弾が1,155発、7.62mm機関銃弾が2,000発となっている。
またオランダは、1970年代に入ってM113C&Rの火力強化を図り、1974年5月にスイスのエリコン社に対して、80口径25mm機関砲KBA-Bと7.62mm機関銃FN-MAGを同軸装備する、GBD-ADA砲塔型キューポラ266基(陸軍250基+王立憲兵隊16基)を発注して、M113C&Rの改修作業を行っている。
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M113C&Rリンクス装甲偵察車 オランダ仕様
全長: 4.597m
全幅: 2.413m
全高: 2.172m
全備重量: 8.459t
乗員: 3名
エンジン: デトロイト・ディーゼル 6V-53 2ストロークV型6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 212hp/2,800rpm
最大速度: 64.37km/h(浮航 6.44km/h)
航続距離: 523km
武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (1,155発)
7.62mm機関銃FN-MAG×1 (2,000発)
装甲厚: 19.05〜44.45mm
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M113C&Rリンクス装甲偵察車 カナダ仕様
全長: 4.597m
全幅: 2.413m
全高: 2.172m
全備重量: 8.772t
乗員: 3名
エンジン: デトロイト・ディーゼル 6V-53 2ストロークV型6気筒液冷ディーゼル
最大出力: 212hp/2,800rpm
最大速度: 64.37km/h(浮航 6.44km/h)
航続距離: 523km
武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (1,155発)
7.62mm機関銃C5A1×1 (2,000発)
装甲厚: 19.05〜44.45mm
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参考文献
・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2022年12月号 M114装甲偵察車」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版
・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
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