●M113A3装甲兵員輸送車 M113A3装甲兵員輸送車は、度重なる改良によりM113装甲兵員輸送車が段階的に重量が増加したことへの対処として開発が進められたもので、その中心となるのは「RISE」(Reliability Improvements for Selected Equipment:実用性向上/装備近代化)と呼ばれる機関系のアップグレード・パッケージである。 エンジンはそれまでの6V-53 V型6気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力212hp)に、ターボチャージャーを取り付けて出力の向上が図られた6V-53Tディーゼル・エンジン(出力275hp)に換装される。 併せて変速機も改良型のX-200-4変速機に換装されることになり、出力/重量比はM113A2装甲兵員輸送車の16.3hp/tから20hp/tと大きく向上して、加速性や不整地走行能力はM113A2装甲兵員輸送車を大きく上回っている。 これと共にラジエイターや冷却ファン、マフラーも新型に替わる等の改良が盛り込まれており、機関系はほぼ一新されたと考えて良い。 これ以外の改良としては、戦場戦闘識別装置(BCIS)やAN/VVS-2操縦手用夜間視察装置、強化型位置表示記録装置(ERLRS)、M13ガス検知フィルター・システム、M17ペリスコープ用対レーザー防御装置、軽量型GPSレーション加熱装置等の装備が導入されている。 さらに戦闘室の防御力を向上させるため、内壁にはケブラー材が張られているのもM113A3装甲兵員輸送車での変化である。 防御といえば、このM113A3装甲兵員輸送車では「P900」と呼ばれる増加装甲キットが開発された。 このキットは、車体前面と側面に防弾アルミ板を用いた装甲セルをボルト止めするもので、空間装甲として機能し、さらに車体後面にも増加装甲板がボルト止めされている。 加えて地雷対策として床板には鋼板を装着し、車長用キューポラには後述するACAVで採用された装甲カバーと防盾もキットに含まれている。 この増加装甲を装着した場合の戦闘重量は、13.9tとなる。 M113A3装甲兵員輸送車は新造ではなく、全て既存のM113A1/A2装甲兵員輸送車から改造が行われるもので、M113A2装甲兵員輸送車で導入されたステアリング装置や装甲燃料タンク等も、M113A1装甲兵員輸送車に対しても換装が行われるという大規模なものである。 1992年3月の時点でアメリカ軍向け1,740両、輸出向け56両の改造が終了している。 |
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●M113装甲兵員輸送車の武装強化 M113装甲兵員輸送車は1962年より南ヴェトナム軍に対する供与が始められたが、南ヴェトナム軍では本車を軽戦車的な使い方をしたため、車外に身を乗り出して12.7mm重機関銃の射撃を行う車長に対する防御として、1963年初めから12.7mm重機関銃に防盾が装着されるようになった。 当初、現地部隊の手で作られたため様々なスタイルのものが存在したが、その後、アメリカ軍からも同様に防盾の装着要求が出されたため、沖縄の補給所において製作された防盾を用いるのが一般的となった。 この発展型として開発されたのがACAV(Armored Cavalry Assault Vehicle:装甲騎兵突撃車両)で、1966年4月にFMC社は軟鋼で作られた2種の試作防盾キットを製作した。 設計にあたっては現地の防盾装備車の写真5枚が参考にされ、現地の部隊から送られたコメントも設計に用立てられたといわれる。 車長用キューポラの周囲を丸く取り囲む形に装甲板が装着され、後方は開いたハッチが装甲板の代わりとなるため開放された状態となっている。 また、この前方には防盾も装着されていた。 最初の設計案ではキューポラ周囲の装甲板は平板を傾斜させたものだったが、製作の際に湾曲したものに変更されている。 これに加えて、キャビン上のハッチの左右にも防盾付きの7.62mm機関銃M60の装備が考えられ、ハッチ後方中央にもピントルを備えることで、どちらか1挺を外して後部に装備することもできた。 この改修キットは「Aキット」と呼ばれ、車長用キューポラと12.7mm重機関銃に装着される防盾のみのものは「Bキット」と呼称された。 改修キットの審査後、アメリカ陸軍はFMC社に385キットの製作を発注したが、その後追加が行われて1966年7月15日までに476キットが完成してヴェトナムに送られている。 そして第11騎兵連隊車両への装着を皮切りに装備が始められたが、この改修キット装備車に対しては「ACAV」の呼称が与えられた。 ACAVの乗員は車長と操縦手、銃手2〜3名、40mm擲弾発射機M79の射撃手の合わせて5〜6名で構成されており、このため兵員の収容数はその分減っている。 続いて1965年12月には、M113装甲兵員輸送車に車上戦闘能力を付加した車両6両の製作要求がFMC社に対して出された。 この車両は「XM734」と名付けられ、車体等はM113装甲兵員輸送車と変わらなかったが車体側面に各4基、後面に2基のガンポートと視察ブロックが新設されており、このため戦闘室左側面の燃料タンクは中央に移されて、このタンクの左右にシートが設けられてそれぞれ4名が着座した。 ガンポートの前方にはそれぞれ1名が座れるシートが設けられたので、乗員数は12名となる。 さらに射撃時の発射ガスを排出するため、ヴェンチレイターが新設された。 車長用キューポラは7.62mm機関銃を連装で装備するM27動力銃塔が装着されており、6両の内2両に対してはRPG-7携帯式対戦車ロケット対策として、車体前/側面に金属棒が装着されていた。 試作車は1966年3月に完成してヴェトナムに送られ、実戦試験に供された。 一部の車両ではM27動力銃塔を装備せずに、ACAVと同じ装甲板キットを備えたものや遠隔操作式の20mm機関砲をキューポラに装備したものもある。 このXM734はさらに車体後部を改良したXM765に発展し、最終的にはAIFV歩兵戦闘車に進化することになる。 |
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<M113A3装甲兵員輸送車> 全長: 5.296m 全幅: 2.6861m 全高: 2.521m 全備重量: 12.3t 乗員: 2名 兵員: 11名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 64.4km/h(浮航 5.8km/h) 航続距離: 483km 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (2,000発) 装甲厚: 28.58〜44.5mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2003年2月号 バラエティーを増す最近の兵員輸送車(1)」 小野山康弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2016年12月号 M113装甲兵車とそのバリエーション」 井坂重蔵 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年10月号 アメリカ陸軍AFVの現状と将来」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年4月号 ベストセラーAPC M113シリーズ」 後藤仁 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年3月号 アメリカ陸軍の現用車輌」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2022年12月号 M113装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 |
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