●M113装甲兵員輸送車の開発 初の戦後型APCであるM75装甲兵員輸送車、さらなる近代化が図られたM59装甲兵員輸送車と、APCの実戦化を進めてきたアメリカ陸軍は1954年6月から、車体の共用化を図った軽量型戦闘車両の開発をミシガン州のデトロイト工廠の手でスタートさせた。 この車両は大重量型と軽量型の2種に分かれ機関系や走行系を共通とし、空挺作戦にも用いるため大重量型は空中投下を可能とすべく戦闘重量は7.2tとされた。 一方軽量型は3.6tを限界とし、いずれも浮航性が求められており装軌式と装輪式がそれぞれ検討された。 大重量型は兵員10名を収容でき、自走砲、貨物輸送車、救急車等への転用が考えられており、軽量型は4名の兵員を収容して偵察や指揮車、無反動砲搭載車等としても用いることが考えられていた。 1955年8月には装軌式大重量型のモックアップが完成し、また時を同じくして走行性能の要求を満たせないという判断から、装輪式大重量型の開発はキャンセルされた。 1956年1月5日付の装備技術委員会報告書によると、この新型車両ファミリーが装軌式装甲兵員輸送車T113(乗員13名)、装軌式装甲兵員輸送車T114(乗員4名)、装輪式装甲兵員輸送車T115(乗員5名)とすることが記載されているので、前年度の末までには基本構想がまとまったものと思われる。 この内T115はモックアップが完成しただけで開発は中止され、T114は1963年5月に「M114装甲指揮・偵察車」として制式化された。 検討の結果、国防省は1956年5月にFMC社(Food Machinery and Chemical Corporation:食品・機械・化学企業)との間にT113装甲兵員輸送車の開発契約を結び、試作車16両を発注した。 試作車16両は装甲兵員輸送車10両、81mm迫撃砲搭載型2両(後にT257と改称)、ダート対戦車ミサイル装備型3両(後にT149と改称)、そして1両は開発専用車に分かれていた。 またこの内8両は当時実用化された5083防弾アルミ板が用いられ、残る8両は防弾鋼板を用いることで防弾アルミ板の有効性を探る試験をも兼ねていた。 防弾アルミ板使用車は「T113」、防弾鋼板使用車は「T117」の呼称が与えられ、さらにT113は既存の軍用空冷ガソリン・エンジン、T117は民生用液冷ガソリン・エンジンを用いることが決まり、1956年10月にはモックアップ審査が行われ翌57年にはそれぞれの試作車が完成した。 T113はコンティネンタル発動機製作所製のAOS1-314-2エンジンを、T117はフォード自動車製の368-U-Cエンジンをそれぞれ搭載していたが、変速・操向機等は同一のものが用いられている。 これ以外のレイアウトは両型とも同一で重量はT113が7.92t、T117は8.79tで、いずれもパラシュートによる投下が可能であった。 車体左前部に操縦手席、その右側に機関室を設け、機関室後方にあたる車体中央に車長席を置いて、その後ろの兵員室内の左右には折り畳み式ベンチシートが備えられ、それぞれ5名ずつの乗員が着座した。 またこの兵員室上面には乗降用ハッチが装着され、後面には左側に小さなハッチを持つ油圧式ランプドアを備えていた。 さらに車体前面には波切り板を設けて浮航時の安定性を図っている等、前作のM59装甲兵員輸送車のレイアウトを踏襲していたが、整備・交換に難があった左右のスポンソンの機関系を車体前部に移動する等、外見こそ大差無いものの各部に改良が盛り込まれていた。 また足周りは上部支持輪を廃止して誘導輪も接地型となるなど、M59装甲兵員輸送車とは顕著な変化が見られた。 さらに1957年末には機関系のコスト低減と装甲強化が求められ、FMC社はこの要求に対し2種の案を提出した。 1つは空挺部隊向けに重量を7.88tに抑えたもので、もう1つは機甲部隊向けとして装甲を強化して重量を10.8tとしたものであり、1958年10月9日付でそれぞれ「T113E1」と「T113E2」の名称が与えられ、4両ずつの試作車が発注された。 また前述したダート対戦車ミサイル装備型は、T113E1/E2の車体を用いることに計画が改められている。 この試作初号車は1958年11月には完成しており、基本的にはT113と大差無いがT113の試験で浮航時の安定性に難があることが判明したため、波切り板を大型化する必要と関連して車体前面装甲板がそれまでの2枚式から1枚式に替わり、サスペンションの強化も行われた。 さらに各転輪の間隔を若干詰めて、後部に誘導輪を独立した形で設けたのも変更点となっている。 また細かい所だが車体前部の牽引フック掛けも、アルミ製の溶接式から鋼製のボルト止めに改められている。 機関系はクライスラー社製の361B液冷ガソリン・エンジン(出力215hp、後に「75M」と改称)と、アリソン社製のTX-200-2変速機の組み合わせに変更された。 また防弾アルミ板に代えて2インチ(50.8mm)厚の防弾マグネシウム板の使用も検討されたが、燃焼し易いという問題があったため後にキャンセルされている。 1958年秋からは運用試験が始まり、試験後T113E2の重量を180kg減らすことが求められ、FMC社は車体下面と後面、さらに袖板の装甲を薄くすることでこれに応じた。 この改良はアメリカ陸軍にも承認されて、結局T113E2が1959年4月2日に「M113装甲兵員輸送車」として制式化された。 制式化に続き先行生産車2両が製作され、1960年1月より生産を開始した。 その後、アメリカ軍向けの生産は改良型のM113A1装甲兵員輸送車にシフトしたため、M113装甲兵員輸送車の生産は1964年末で終了し生産数は4,974両に留まった。 しかし諸外国向けとしての生産が1968年末まで続けられ、9,839両が輸出用として完成している。 |
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●M113装甲兵員輸送車の構造 M113装甲兵員輸送車は防弾アルミ板を用いて生産された最初の車両となったが、基本的な構成はそれ以前の装甲兵員輸送車と同じく箱型車体が踏襲され、前部左に操縦手席、右に機関室を配し、その後方中央部には車長席を設け、後部を兵員室としたレイアウトは本車において確立され、以後多くの車両がこのレイアウトを採用することになった。 操縦手には後ろ開き式の専用ハッチが用意されており、このハッチ前方にはM17ペリスコープが4基設けられている。 さらにハッチには、夜間操縦用としてM19赤外線ペリスコープが装備されている。 車長にはM17ペリスコープ5基を内蔵した全周旋回式のキューポラが用意されており、キューポラには12.7mm重機関銃M2を装備するためのマウントが設けられている。 また、キューポラの後方にあたる車体上面には後ろ開き式の乗降用ハッチが配されており、車体後面には車体幅と同じ大サイズの下開き1枚式のランプドアがある。 このランプは油圧式動力で開閉を行うが、通常はランプに備えられた小ハッチが乗降に際して用いられる。 兵員室と機関室は隔壁で分けられ、左右に配された折り畳み式ベンチシートにはそれぞれ兵員5名が座ることができ、さらに車長席の直後には分隊長席が設けられて後方を向く形で着座する。 装甲厚は前/後/上面が38.1mm、側面上部が44.5mm、側面下部が31.8mm、下面が28.58mmだが、一部装甲の薄い部分もある。 車体前部には水上浮航の際、エンジンのある前部が前トリムになることを防ぎ、また水流が車体上面に上がらないように波切り板が装着され、浮航時にはこれを前方に開いて水に入る。 また水密性を高めるために、後部のランプと小ハッチを始めとする開口部の縁にはゴム・シールが施される。 これでも車内に水が僅かではあるが侵入してくるため、車内床面に2基の排水ポンプが備えられ、操縦手の操作で車体前部左側と、後部右側に設けられている排水口から車外に排出される。 この他、寒冷地での使用を考慮して専用の追加キットが用意されており、これは兵員室右前方に排気管と一体化する形でヒーターを置き、ここから兵員室内に暖かい空気を送ると共に、右後部に配されたバッテリー・ケースにダクトを延ばして暖めるもので、必要に応じて機関室内にホット・エアを送ることもできる。 同様に兵員室内に左右2床ずつの担架を装着して、傷病兵を輸送する装甲患者搬送車への変身も可能で、この場合、兵員室内の上下に設けられた固定部にチェーンを張って担架を固定する。 機関系は車体前部右側に配された機関室にパワーパック型式で収められ、車体前面と上面に設けられた大きな点検用ハッチを開くことで簡単に整備を行うことができ、交換も短時間で済むのは大きなメリットといえよう。 エンジンはクライスラー社製の75M V型8気筒液冷ガソリン・エンジン(5,912cc、215hp)を採用しており、これに伝達ギアを介してアリソン社製のTX-200-2自動変速機(前進6段/後進1段)に動力を伝え、さらにFMC社製のDS200差動装置を経由して最終減速機に伝達され、起動輪を駆動させるようになっている。 前作のM59装甲兵員輸送車では、エンジンを左右に配していたために駆動系のロスも多く、また整備性等にも問題があったが、M113装甲兵員輸送車では、最終減速機を除いて一体化されたパワーパック型式を採用しているのでこれらの問題は一掃されている。 さらにラジエイターと冷却ファンを上部の点検用ハッチ内に取り付けることで、整備性の向上を図っている。 302リットル容量の燃料タンクは兵員室内左側のスポンソンの上に配され、路上最大速度は64.4km/h、路上航続距離は322kmと性能面でも従来の装甲兵員輸送車を凌駕している。 水上浮航の際は履帯を駆動して水掻きと同じ原理を使って推進力としており、この場合の速度は5.64km/hとなるが、推進効率を上げるために走行装置の外側にはゴム製のスカートが取り付けられている。 足周りはサスペンションにトーションバーを用い、直径610mm、幅54mmの転輪5個を支え、第1、第5転輪にはショック・アブソーバーが装着されており、各アームにはゴム製のダンパーが取り付けられている。 また上部支持輪が無いことは、M59装甲兵員輸送車からの大きな変更点である。 履帯は幅381mmのシングルピン型式で、各履板には取り外し可能なゴムパッドが装着され片側64枚が標準となっている。 |
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<M113装甲兵員輸送車> 全長: 4.864m 全幅: 2.6861m 全高: 2.496m 全備重量: 10.4t 乗員: 2名 兵員: 11名 エンジン: クライスラー75M 4ストロークV型8気筒液冷ガソリン 最大出力: 215hp/4,000rpm 最大速度: 64.4km/h(浮航 5.64km/h) 航続距離: 322km 武装: 12.7mm重機関銃M2×1 (2,000発) 装甲厚: 28.58〜44.5mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2016年12月号 M113装甲兵車とそのバリエーション」 井坂重蔵 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年4月号 ベストセラーAPC M113シリーズ」 後藤仁 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年10月号 アメリカ陸軍の現用AFV」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2022年12月号 M113装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(3) 装軌/半装軌式戦闘車輌:1918〜2000」 デルタ出版 ・「最新&最強 世界の兵器」 おちあい熊一/野木恵一 共著 学研 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 |
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