M11/39中戦車
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+概要
1935年にイタリア陸軍最初の中戦車として計画された8t中戦車は、戦闘室に40口径37mm戦車砲M30を限定旋回式に搭載する計画で開発が開始されている。
翌36年にはスペイン内戦が勃発し、フランコ将軍の反乱軍に加担したイタリアは反乱軍に対して武器援助を実施している。
この時に送られたCV33快速戦車はほとんど何の役にも立たなかったが、同時に送られた8t中戦車の試作車が予想以上の働きを示した。
イタリア陸軍当局はこの事実を踏まえて本格的な対戦車戦闘が行える中戦車の必要性を痛感し、開発が進行中の8t中戦車を拡大して11t級とすることに改めたが、この11t中戦車の最初の試作車が完成したのは1937年であった。
試作第1号車の基本的なレイアウトは後のM11/39中戦車とほぼ同様であったが、サスペンションはCV33快速戦車のものをほぼそのまま拡大しただけの構造であった。
さすがに4倍近くある重量を支えるためには、単純に軽戦車のサスペンションを拡大しただけのものでは構造的に無理があり、1938年に完成した試作第2号車からは転輪を小型化し、2輪が1組となったボギー2組をリーフ・スプリング(板ばね)で支え、これを前後に配するというサスペンション方式に改められている。
この方式は以後、多くのイタリア陸軍戦車で用いられることになる。
乗員は操縦手、砲手、車長の3名でそれぞれ車体右側、同左側、砲塔内に位置しており、操縦手には車体左側面、砲手には車体右側上面、車長には砲塔上面に専用のハッチが与えられていた。
車体・砲塔共にリベット接合構造を採用しており装甲厚は車体が前面30mm、側面14.5mm、後面8mm、上/下面6mm、砲塔が前面30mm、側/後面14.5mm、上面7mmとなっていた。
武装は戦闘室前面右側に40口径37mm戦車砲M30を限定旋回式に搭載していた他、戦闘室上面左側にオフセットして搭載された手動旋回式の1名用砲塔には8mmブレダM38機関銃が2連装で装備されていた。
主砲の40口径37mm戦車砲M30は、ヴィッカーズ・テルニ社(1929年にオデーロ・テルニ・オルランド社に改組)製の40口径37mm対戦車砲を車載用に改造したもので、砲の旋回角は左右各15度ずつ、俯仰角は−8〜+12度となっていた。
M11/39中戦車が登場した1939年末においては、戦車の武装としてはそれほど見劣りするものでもなかったが、戦争の経緯が早過ぎてすぐに時代遅れとなってしまった。
エンジンはそれまでイタリア陸軍の軽戦車で採用していたガソリン・エンジンに代えて、フィアット社製の8T V型8気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力105hp)が採用されたが、これは燃費よりも被弾や故障時に発火事故が起こり難いといった特性を選んだものと思われる。
後に開発されたM13/40、M14/41中戦車にも、このエンジンに改良を加えて出力を強化したものが用いられており、イタリアはヨーロッパでは珍しいディーゼル・エンジンを戦車に本格的に採用した国となった。
11t中戦車は1939年に「11/39中戦車」(Carro Armato Medio 11/39)として制式化され、フィアット・アンサルド社で生産が開始されたが、すぐに後継のM13/40中戦車が登場したため生産は1940年までに100両で打ち切られている。
M11/39中戦車の生産型は1939年初めに引き渡しが開始され70両が北アフリカ、24両が東アフリカに配備された。
北アフリカに送られた車両は第1、第2中戦車大隊に各35両が所属していた。
これらの大隊は、1940年9月のエジプト侵攻作戦時に集成リビア戦車団の集成第1、第2戦車群、および集成マレッティ戦車大隊に配属された。
東アフリカに送られた車両は、東アフリカ中戦車隊に配備された。
しかし、M11/39中戦車は火力が貧弱な上主砲の旋回角が限られていたため、これといった戦果を上げることはできなかった。
東アフリカに送られた車両は1940年11月にエチオピアでイギリス軍の攻撃により壊滅し、北アフリカに送られた車両も1940年12月〜1941年2月にかけて行われたイギリス軍の反撃により、北アフリカ・キレナイカ戦域でほぼ全滅している。
なお少数のM11/39中戦車が1941年初めにイギリス軍に鹵獲され、北アフリカのオーストラリア軍部隊で使用されている。
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<M11/39中戦車>
全長: 4.73m
全幅: 2.18m
全高: 2.30m
全備重量: 11.0t
乗員: 3名
エンジン: フィアットSPA 8T 4ストロークV型8気筒液冷ディーゼル
最大出力: 105hp/1,800rpm
最大速度: 33.3km/h
航続距離: 200km
武装: 40口径37mm戦車砲M30×1 (84発)
8mmブレダM38機関銃×2 (2,808発)
装甲厚: 6〜30mm
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兵器諸元
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<参考文献>
・「パンツァー2005年4月号 イタリア中戦車 M13/40,M14/41,M15/42 その開発・構造・バリエーション」
稲田美秋 著 アルゴノート社
・「パンツァー2002年6月号 第2次大戦のイタリア軍戦車(5) M11/39中戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年5月号 イタリア戦車 その誕生と苦難の歩み」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「パンツァー2022年1月号 イタリア軍写真集(7) M11/39中戦車」 吉川和篤 著 アルゴノート社
・「パンツァー2001年7月号 地中海戦域におけるイタリア中戦車」 白石光 著 アルゴノート社
・「パンツァー1999年8月号 イタリア M11/39中戦車」 伊吹竜太郎 著 アルゴノート社
・「ウォーマシン・レポート12 M1戦車シリーズ」 アルゴノート社
・「グランドパワー2000年4月号 イタリア陸軍(1) イタリア軍の軍用車輌」 嶋田魁 著 デルタ出版
・「世界の戦車(1) 第1次〜第2次世界大戦編」 ガリレオ出版
・「世界の戦車 1915〜1945」 ピーター・チェンバレン/クリス・エリス 共著 大日本絵画
・「戦車名鑑 1939〜45」 コーエー
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