M109A6パラディンはM109 155mm自走榴弾砲シリーズの最新型であり、M109A4自走榴弾砲と同じく「HELP」(Howitzer Extended Life Program:榴弾砲寿命延長計画)から誕生したものだが、本車の場合は並行して進められた「HIP」(Howitzer Improvement Program:榴弾砲発展計画)での改良も盛り込まれており、性能的にはシリーズ最強の存在となっている。 「HIP」計画は1984年11月より開始され、様々な武装の換装も含まれていた。 これには、M109A1〜A4自走榴弾砲の主砲である33口径155mm榴弾砲M185をベースとして39口径に長砲身化した155mm榴弾砲XM284と、「AAS」(Advanced Armament System:先進型武装システム)計画から生まれた155mm榴弾砲XM282、XM283があり、XM284はチャージ8のM208装薬を用い、M549A1ロケット補助榴弾を30kmまで飛ばすことが可能であった。 またXM282は58口径という長大な砲身長を有し、新たに開発されたXM244装薬の使用を可能としていた。 XM864ベース・ブリード榴弾を使用した場合の最大射程は45kmにも達し、同時に従来の155mm砲弾は全て発射することができた。 XM283は、牽引式155mm榴弾砲M198から発展した155mm榴弾砲M199を車載化したもので、圧力低減型砲口制退機が装着されていた。 1985年10月に、BMYコンバット・システムズ社(ボウエン・マクラフリン・ヨーク社から改組)との間に開発契約が結ばれて本格的な開発が始まったが、この計画にはイスラエルも参加して進められており、まずM108 105mm自走榴弾砲を用いて155mm榴弾砲XM284を装備した試作車が製作され、次いで3年間の間に試作車11両(内2両はイスラエル向け)がM109A1、M109A3 155mm自走榴弾砲から改造された。 その内訳は155mm榴弾砲XM284を装備するM109A3E2自走榴弾砲が4両、155mm榴弾砲XM282/XM283を装備し、新型油圧ダンパーと改良型サスペンション、トーションバーの強化、ショック・アブソーバーの新型化等が盛り込まれたM109A3E3自走榴弾砲が5両、イスラエル向けとして砲を155mm榴弾砲M185のままとし、砲架をM178に換装したM109A1C自走榴弾砲が2両であった。 このM109A1C自走榴弾砲では弾薬搭載数の増加を図り、M109A3E3自走榴弾砲で導入された改良も盛り込まれていた。 M109A3E2自走榴弾砲の試作第1号車は、1988年3月30日にBMYコンバット・システムズ社のヨーク工場をロールアウトし、完成した試作車を用いて1989年5月まで試験を実施した結果、砲は39口径155mm榴弾砲M284、砲架はM182A1の組み合わせが採用されることになった。 そして砲塔の新型化等を含む様々な改良が盛り込まれて、1990年5月に「M109A6 155mm自走榴弾砲」(155mm Self-propelled Howitzer M109A6)として限定生産を行うことが決まった。 またこのM109A6自走榴弾砲には、M109自走榴弾砲シリーズとしては初めて「パラディン」(Paladin)の愛称が与えられた。 ちなみに「パラディン」とは、中世フランスの物語の中に登場するシャルルマーニュ大帝に従う12勇士のことである。 M109A6自走榴弾砲で採用されたM182A1砲架は、M109A5自走榴弾砲で採用されたM182砲架の改良型であり、温度センサーが装備され、シリンダー復帰機構は改良型に替わり、リコイル・シリンダーのシール改良、砲塔の旋回装置と砲の俯仰装置のボール・ベアリングの新型への交換などが行われている。 さらに主砲の薬室は新たに開発されたものが用いられ、併せて排煙機と砲口制退機も改良型に替わっている。 また砲塔は弾薬搭載数の増大を図って後部に弾薬庫を新設し、ケブラーを用いた内張りを施した新型砲塔が採用された。 この結果、弾薬搭載数は39発とシリーズ最多となっている。 M109A6自走榴弾砲のFCS(射撃統制システム)の詳細は明らかにされていないが、弾道コンピューターと自動射撃位置航法システムを組み合わせた「AFCS XXII」(Automatic Fire Control System)と呼ばれる自動FCSが採用されている。 この装置は、民生用の技術を導入することでコストの低減が図られている。 さらにGPS(Global Positioning System:衛星位置測定装置)の装備や、砲・砲塔の駆動を油圧式から火災に対し安全な電動モーター駆動に変更、VIS車内通話装置の採用、新型無線機の装備、操縦手用新型パッシブ式夜間視察装置の導入、発電機の650Aへの強化、車長用夜間視察装置とハッチの改良、車内操作式トラヴェリング・クランプの装備、ハロンガス自動消火システム、機関系状況表示モニター、動力補助装置付き半自動装填装置の搭載とこれによる乗員4名への低減等、車体、砲塔各部に対し多くの改良が実施された。 これらの改良により戦闘重量が28.849tに増えたため、パワーパックは同タイプの機能向上モデルを採用している(エンジン出力は440hpに強化)。 こうした近代化により、M109A6自走榴弾砲は従来のM109自走榴弾砲シリーズと比べて生残性150%、耐弾力50%、反応時間100%、主砲の有効射程30%、稼働率40%、乗員の作業効率25%ずつが向上したという。 特に各機能の自動化により射撃準備時間が60秒、撤収時間が30秒にそれぞれ短縮され、敵の砲撃にさらされる危険が減少されている。 主砲の39口径155mm榴弾砲M284は、M203/M203A1装薬を用いての最大射程は30kmといわれており、ロケット補助榴弾やベース・ブリード榴弾を用いた場合はさらに射程は延長される。 発射速度は半自動装填装置の搭載により緊急時のバースト射撃で13秒間に3発、3分間のバースト射撃で毎分4発、持続射撃で毎分1発となっている。 M109A6自走榴弾砲の生産は、1990年9月にまず44両をBMYコンバット・システムズ社に発注し、1992年にその生産型第1号車が完成している。 その後60両ずつが2度に渡って発注され1994年までに164両が完成し、1992年4月より引き渡しが開始された。 生産が進められている中、アメリカ陸軍はM109A6自走榴弾砲を既存のM109自走榴弾砲シリーズからの改造に切り替えることを決め、BMYコンバット・システムズ、FMC、ジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズの3社に対してM109A6自走榴弾砲への改造コストの試算が求められた。 その結果1993年4月にFMC社が選定され、4月9日に60両のM109自走榴弾砲シリーズを300,500万ドルでM109A6自走榴弾砲に改造する契約が交わされた。 その後も段階的に改造契約が結ばれ、1994年2月にFMC社とBMYコンバット・システムズ社は合併してユナイテッド・ディフェンス社となり、以後の生産と改修はこの新会社が行うことになった。 M109A6自走榴弾砲の改造生産は1999年11月まで続けられ、950両が完成している。 改造生産に際してはユナイテッド・ディフェンス社が新型砲塔を生産し、これをレターケニー陸軍補給所において改造された車体に搭載するという方式が採られた。 1997年には州軍向けの車両も発注されており、最終的に16個の砲兵大隊がM109A6自走榴弾砲を装備する予定で、1999年半ばにその最初の部隊となった3個大隊が実戦配備となっている。 M109A6自走榴弾砲はアメリカ陸軍以外では、サウジアラビア陸軍が300両導入している。 |
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<M109A6 155mm自走榴弾砲> 全長: 9.677m 車体長: 6.894m 全幅: 3.922m 全高: 3.236m 全備重量: 28.849t 乗員: 4名 エンジン: デトロイト・ディーゼル8V-71T LHR 2ストロークV型8気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 440hp/2,300rpm 最大速度: 64.4km/h 航続距離: 346km 武装: 39口径155mm榴弾砲M284×1 (39発) 12.7mm重機関銃M2×1 (500発) 装甲厚: 31.75mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2010年6月号 アメリカ軍戦闘車輌の動向-2009 (2)」 和久尊 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年9月号 M109自走砲車の開発・構造・発展」 後藤仁 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年10月号 アメリカ陸軍AFVの現状と将来」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年9月号 M109 155mm自走砲車 インアクション」 アルゴノート社 ・「パンツァー2011年4月号 ベストセラー自走砲車 M109シリーズ」 アルゴノート社 ・「ウォーマシン・レポート60 現用AFV写真集(1)」 アルゴノート社 ・「世界AFV年鑑 2005〜2006」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2022年2月号 アメリカ軍自走砲(戦後編)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「異形戦車ものしり大百科 ビジュアル戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の装軌装甲車カタログ」 三修社 ・「世界の最強陸上兵器 BEST100」 成美堂出版 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |
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