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その時期は明らかではないが、アメリカ陸軍はM106 107mm自走迫撃砲の生産終了後に、主砲をより大口径の120mm迫撃砲に換装してM106の火力を強化することを検討し、その具現として登場したのがM1064 120mm自走迫撃砲である。 アメリカ陸軍はそれまで運用していた81mm迫撃砲M29や、107mm迫撃砲M30が旧式化したため、1980年代にこれらに代わる新型迫撃砲の調達を模索し始めた。 そして検討の結果、M29の後継にはイギリスの王立造兵廠製の81mm迫撃砲L16、M30の後継にはイスラエルのソルタム・システムズ社製の120mm迫撃砲K6が採用される運びとなった。 L16とK6はアメリカ国内で細かな改修が施され、それぞれ「81mm迫撃砲M252」、「120mm迫撃砲M120」として制式化された。 そしてM106自走迫撃砲の火力強化型には、M120の車載型である120mm迫撃砲M121を搭載することになった。 既存のM106自走迫撃砲を用いて火力強化型の試作車が製作されたが、基本的にはM106が装備する107mm迫撃砲M30に換えて、120mm迫撃砲M121を搭載し、主砲の旋回角は左右各45度ずつと従来と同様であった。 また乗員数については、主砲が大口径化されたにも関わらず、従来の6名(車長、操縦手、砲操作員4名)から、4名(車長、操縦手、砲操作員2名)に減らされた。 なおM121は迫撃砲システム全体の呼称で、システムはM298砲、M191二脚、M9ベースプレート、そして砲台取り付けキットで構成されている。 M121迫撃砲は通常は車両に搭載した状態で使用されるが、補助的なM9ベースプレートとM191二脚用延長脚を使用することで、M121迫撃砲を車両から取り外して地上運用することも可能である。 M121迫撃砲は滑腔砲身から翼安定弾を発射するため、飛翔中の砲弾に回転は発生しない。 システム重量は野砲に比べてはるかに軽量で、有効射程距離は7,240mと迫撃砲としてはかなり長い。 M121迫撃砲から発射される高性能爆薬弾(重量14kg)の致死半径は69mと、爆発力もかなり強力である。 発射速度は最大16発/分で、持続射撃では4発/分となる。 時期は不明だが、この火力強化型は「120mm装甲自走迫撃砲M1064」として制式化され、1990年から既存のM106A1/A2自走迫撃砲を改造する形で生産が開始された。 この際M1064自走迫撃砲のパワーパックは、M113A3装甲兵員輸送車で導入されたものと同じ新型パワーパック「RISE」(ミシガン州デトロイトのGM(ジェネラル・モーターズ)社デトロイト・ディーゼル部門製の、6V-53T V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力275hp)と、インディアナ州インディアナポリスのGM社アリソン変速機部門製の、X-200-4/4A自動変速・操向機(前進4段/後進2段)の組み合わせ)に変更され、「120mm装甲自走迫撃砲M1064A3」の制式呼称が与えられた。 M1064A3自走迫撃砲は、アメリカ陸軍向けとして1,076両が改造生産されたのに加え、エジプトに36両、タイに12両が引き渡されている。 前述のようにM1064A3自走迫撃砲は、原型のM106自走迫撃砲と同様に後部兵員室内に限定旋回式に、前装式の120mm迫撃砲M121を搭載したが、後装式の120mm迫撃砲を備える車両も存在する。 それが、カリフォルニア州ゴリータのデルコ・ディフェンス・システムズ社が開発した全周旋回式の密閉砲塔に、王立造兵廠が開発した後装式の120mm迫撃砲を装備したものを、M113A2装甲兵員輸送車の車体上面に搭載した試作車で、1987年に完成した。 その数字は不明だが、当然ながら砲塔の搭載と外装式の装甲燃料タンクの装着で戦闘重量は増大した。 このため水上浮航能力が損なわれることを避けるため、車体前面の波切り板に加え、車体側面にも中空製の浮航セルが装着された。 確かに、大口径迫撃砲の全周射撃が可能というのは大きなメリットだったが、M1064A3自走迫撃砲に比べて調達コストが高額になることからアメリカ陸軍への採用は見送られ、試作のみに終わっている。 |
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<M1064 120mm自走迫撃砲> 全長: 5.318m 全幅: 2.686m 全高: 2.223m 全備重量: 12.535t 乗員: 4名 エンジン: デトロイト・ディーゼル 6V-53 2ストロークV型6気筒液冷ディーゼル 最大出力: 212hp/2,800rpm 最大速度: 64.37km/h 航続距離: 483km 武装: 120mm迫撃砲M121×1 12.7mm重機関銃M2×1 装甲厚: 28.58〜44.45mm |
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<M1064A3 120mm自走迫撃砲> 全長: 5.319m 全幅: 2.686m 全高: 2.521m 全備重量: 13.109t 乗員: 4名 エンジン: デトロイト・ディーゼル 6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 64.37km/h 航続距離: 483km 武装: 120mm迫撃砲M121×1 (69発) 12.7mm重機関銃M2×1 (2,000発) 装甲厚: 28.58〜44.45mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2007年6月号 第1合衆国騎兵連隊のキャノンボール・ラン演習」 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年10月号 アメリカ陸軍の現用AFV」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2006年9月号 アメリカ第1騎兵連隊のセイバー演習」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2022年12月号 M113装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「世界の最強陸上兵器 BEST100」 成美堂出版 |