1964年にフランスのノール社と西ドイツのベルコウ社は共同して、低空防御を目的とした対空ミサイル・システム”Roland”(ドイツ名:ローラント、フランス名:ローラン)の開発をスタートさせた。 その後ノール社はエアロスパシアル社、ベルコウ社は合併によりメッサーシュミット・ベルコウ・ブローム(MBB)社とそれぞれ名を変えたものの、ローラントの開発は続行されフランスは昼間型のローラント1を、西ドイツは全天候型のローラント2をそれぞれ担当して開発に当たった。 続いてローラントの生産を行う組織として合弁会社ユーロミサイル社が設立され、1975年から1977年初めにかけて仏独両陸軍による本格的な運用試験を実施した後生産に移行した。 1977年12月にまずフランス陸軍へのローラントの配備が始まり、次いで翌78年からは西ドイツ陸軍への配備も開始された。 ローラント対空ミサイル・システムは、マッハ1前後で飛来する敵の地上攻撃機を低空で迎撃することを目的として開発されたもので、その要求は高度100m以下で最大マッハ1.3で飛来する航空機に対する迎撃能力を有し、機甲部隊と行動を共にできる機動力を備え、全周に対する捜索能力を持つというもので、当初からミサイルと捜索機材を組み合わせたシステムとして開発が行われた。 このためある一定の基準を満たしている車両ならば搭載することが可能で、西ドイツ陸軍ではマルダー歩兵戦闘車の車体を用いてミサイル・システムを搭載している。 ローラントのシステムは左右にミサイル発射機を備える全周旋回式ターレットと、レーダーおよびそのアンテナ・ディッシュ、火器管制装置、そして車内に収められる円筒形のミサイル弾倉などから構成されている。 レーダーはパルス・ドップラー方式を採用しており、低空で飛来する目標に対するグランド・クラッターを排除して捜索と追跡を可能としている。 レーダーの配置はゲーパルト対空自走砲と同じで、全周旋回式ターレットの上部後方に捜索用レーダー、前部に追跡用レーダーを装備している。 捜索距離は最大16kmといわれ、超低空から6,000mまでの範囲を捜索領域に収めている。 西ドイツ陸軍が採用したローラント2は前述のように全天候下での運用能力を備えており、ミサイルは全長2.4m、直径0.16m、発射重量66.5kg、弾頭重量6.5kgで、中央部に4枚の安定翼と同じく前部に4枚の操縦翼を備えており、いずれも折り畳み式で発射後自動的に展張する。 ミサイルの最大飛翔速度はマッハ1.6で有効射程は500〜6,300m、有効射高は20〜3,000mとなっている。 ミサイル発射機はミサイルの保管コンテナも兼ねており、5年間未整備で稼動状態を保っている。 ドイツ陸軍では144両のマルダー歩兵戦闘車にローラント2システムを搭載し、スウェーデンのボフォース社から導入した牽引式の40mm連装対空機関砲の後継に充てている。 この他、MAN社製の8×8トラックにローラント2システムを搭載したタイプも運用している。 ドイツ軍では、ローラント対空ミサイル・システムは「FlaRakPz」(Flugabwehrraketenpanzer:対空ミサイル戦車)と呼ばれる。 またアメリカ陸軍も、1974年に短距離防空用として自軍仕様のローラントを開発することを計画し、1975年1月にヒューズ社に開発契約が与えられた。 アメリカ陸軍仕様のローラントは「XMIM-115A」の名称が与えられ、ボーイング社とヒューズ社が生産を担当することになっていた。 当初はM109 155mm自走榴弾砲の車体にミサイル・システムを搭載することが計画されたが、後にM812A1 6×6トラックの車体に搭載することに計画が変更された。 1979年にはXMIM-115Aミサイルの生産が承認され、ボーイング社とヒューズ社で生産が開始されたが、2年後の1981年には1個大隊分のみで本ミサイルの調達を中止することが決定された。 XMIM-115Aミサイルは1985年の生産終了までに約600発が完成したが、1988年9月にはアメリカ陸軍の装備から外されてしまった。 しかし一方、ローラントは開発国であるドイツとフランス以外にアルゼンチン、イラク、カタール、スペイン、ナイジェリア、ブラジル、ベネズエラなど多くの国で採用されており、1989年には改良型のローラント3も登場し、シリーズの総生産数は25,000発以上に達している。 |
<マルダー・ローラント対空ミサイル・システム> 全長: 6.92m 全幅: 3.24m 全高: 2.94m 全備重量: 32.5t 乗員: 3名 エンジン: MTU MB833Ea-500 4ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 600hp/2,200rpm 最大速度: 70km/h 航続距離: 520km 武装: ローラント2対空ミサイル発射機×2 (10発) 7.62mm機関銃MG3×1 装甲厚: 8〜30mm |
<ローラント2対空ミサイル> 全長: 2.40m 直径: 0.16m 翼幅: 0.50m 発射重量: 66.5kg 弾頭重量: 6.5kg 最大飛翔速度: マッハ1.6 誘導方式: 半自動指令照準線一致(ラジオリンク使用) 有効射程: 500〜6,300m 有効射高: 20〜3,000m |
<参考文献> ・「パンツァー2008年1月号 特集 マルダー戦闘兵車」 竹内修/三鷹聡/柘植優介 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年12月号 ロラント自走対空ミサイル車輌」 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年5月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年10月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著 グリーンアロー出版社 ・「世界の軍用車輌(2) 装軌式自走砲:1946〜2000」 デルタ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「新版 ミサイル事典」 小都元 著 新紀元社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研 |