●M-84戦車 |
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M-84戦車は、旧ユーゴスラヴィア(ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国)が旧ソ連からT-72戦車のライセンス生産権を得て独自に改良発展させたMBTである。 旧ユーゴが自国軍向けと輸出用にT-72戦車をライセンス生産する方針を決めたのは1977年のことで、1979年に契約の締結が完了した。 しかし旧ユーゴではT-72戦車をそのままライセンス生産するのではなく、自国軍の運用構想に合うように改良を盛り込むことにしたため、T-72戦車の改設計にその後2年が費やされた。 この間、旧ユーゴは50両のT-72戦車を旧ソ連から導入して部隊の訓練、習熟に当たらせている。 旧ユーゴ製の改良型T-72戦車の試作車が完成したのは、1982〜83年であった。 本車は「M-84」の名称で旧ユーゴ陸軍に制式採用されて1983年から量産に着手され、生産型第1号車は1984年遅くに完成している。 その後1991年に旧ユーゴが分裂するまでに、約500両のM-84戦車が生産されたと見込まれている。 M-84戦車の生産は旧ユーゴの各共和国の多数の工場で分担して行われ、主砲はボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国のトラヴニク市のブラツヴォ鉄道車両製作所、エンジンは同共和国のパレ市のファモス自動車製作所、FCS(射撃統制装置)はスロヴェニア共和国のリュブリャナ市のフォトナ社、弾薬はセルビア共和国のウジツェ市のプルヴィ・パルティザン社でそれぞれ生産され、最終組み立てはクロアチア共和国のスラヴォンスキ・ブロド市のデューロ・ダコビッツ製作所で行われた。 M-84戦車は基本的にはT-72戦車と同一の主砲、エンジンを搭載しており、全体的なイメージはそれほど変わらない。 しかし細部には多くの変更が盛り込まれており、特に砲塔周りにそれが目立つ。 砲塔上面前部中央には環境センサーのポールが立ち、砲塔前面左右には発煙弾発射機が各6基ずつ装着されている。 代わりに、T-72戦車に装備されていたアクティブ式赤外線暗視装置は無くなっている。 砲塔上の視察装置関連のハウジングの形状が変化しているのは、照準システムがオリジナルから旧ユーゴ製のものに変更されているからである。 主砲はT-72戦車と同じく51口径125mm滑腔砲2A46(D-81TM)を装備しており、車体中央部の戦闘室内には底部の主砲弾薬弾倉と一体化した「カセートカ」(Kassetka:カセット)自動装填装置が搭載されている。 副武装もT-72戦車と同じく主砲と同軸に7.62mm機関銃PKT、車長用キューポラに対空用の12.7mm重機関銃NSVTを1挺ずつ装備している。 これらはセルビアのクラグイェヴァツ市のザスタバ・アームズ社でライセンス生産が行われ、PKTが「M86」、NSVTが「M87」の名称で制式化されている。 |
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●M-84A戦車 |
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旧ユーゴではさらにM-84戦車に改良を加えており、1988年から生産が開始されたのが「M-84A」と呼ばれるタイプである。 M-84A戦車はレーザー測遠機、第2世代の映像強化装置、各種センサーと組み合わせたコンピューター化されたFCSを持つ。 M-84A戦車にはSUV-M-84コンピューター化FCSが搭載されており、砲手用にはレーザー測遠機付き2軸安定DNNS-2昼/夜間サイト、車長用にはTNP-160ペリスコープとDNKS-2昼/夜間ペリスコープが装備されている。 さらに詳細は不明だが、装甲防御力も強化されているといわれる。 エンジンもターボチャージャーとインタークーラーを加えた出力1,000hpのV-46-TK V型12気筒液冷ディーゼル・エンジンに強化されていて、路上最大速度はT-72戦車の60km/hから65km/hに向上している。 |
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●M-84AB戦車 |
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M-84戦車は、1989年にクウェートとの間に輸出契約が締結された。 クウェート向けの車両はM-84A戦車を改良したもので「M-84AB」と呼ばれ、SUV-M-84FCSの改良型であるFCS-84が搭載されている他、GPK-59ジャイロコンパス、VRQ316HE/HG通信装置とBCC600インターコム・システムが追加装備されている。 M-84AB戦車は15両の指揮戦車、15両の戦車回収車を含めて200両が発注されたが、1990年8月のイラク軍のクウェート侵攻までに引き渡された車両は15両に留まった。 この内何両かはイラク軍によって破壊されたが残ったM-84AB戦車はサウジアラビアに逃れ、1991年2月のクウェート奪回作戦(砂漠の剣作戦)に参加している。 1991年に旧ユーゴが分裂したことにより、各共和国の工場でコンポーネントを分担して生産を行っていたM-84戦車は生産の続行が不可能となってしまった。 しかしユーゴスラヴィア紛争の終結後、独立したセルビア共和国(旧セルビア・モンテネグロ)は自国軍向けと輸出用にM-84戦車の生産を再開した。 セルビアではM-84AB戦車の改良型であるM-84AB1戦車や、M-84AB戦車にT-72戦車シリーズの最新型であるT-90戦車と同じFCSとERA(爆発反応装甲)、主砲発射式対戦車ミサイル・システムを導入したM-84AS戦車が開発されたが、M-84AS戦車がセルビア陸軍に採用されたものの輸出には今のところ成功していない。 |
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●M-84A4スナイパー戦車 クロアチア共和国も、クロアチア紛争終結後の1996年からデューロ・ダコビッツ製作所でM-84AB戦車の生産を再開した。 さらにデューロ・ダコビッツ製作所では、M-84AB戦車の改良型であるM-84A4「スナイパー」(Snajper:狙撃手)戦車を開発している。 本車はその名前通り一撃必中の射撃能力を求めた改良型で、スロヴェニアのフォトナ社が新たに開発したFCSオメガ84が搭載されている。 FCSオメガ84はDNZC-2車長用昼/夜間サイト、SCS-84安定化砲手用サイト、DBR-84弾道コンピューター、LIRDレーザー警報システムなどから構成されている。 またM-84A4戦車にはドイツ製の出力1,100hpのディーゼル・エンジンが採用されており、機動性能が向上している。 M-84A4戦車は1996〜2003年にかけて40両程度が新規生産された他、クロアチア陸軍が保有する既存のM-84戦車シリーズも全てこの仕様に改修されている。 |
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<M-84戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.57m 全高: 2.19m 全備重量: 41.5t 乗員: 3名 エンジン: V-46 4ストロークV型12気筒液冷スーパーチャージド・ディーゼル 最大出力: 780hp/2,000rpm 最大速度: 60km/h 航続距離: 500〜700km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46×1 (42発) 12.7mm重機関銃M87×1 (300発) 7.62mm機関銃M86×1 (2,000発) 装甲厚: 最大450mm |
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<M-84A戦車> 全長: 9.53m 車体長: 6.86m 全幅: 3.57m 全高: 2.19m 全備重量: 42.0t 乗員: 3名 エンジン: V-46-TK 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,000hp/2,500rpm 最大速度: 65km/h 航続距離: 500〜700km 武装: 51口径125mm滑腔砲2A46×1 (42発) 12.7mm重機関銃M87×1 (300発) 7.62mm機関銃M86×1 (2,000発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2002年10月号 東欧諸国でリメイクされたT-72戦車シリーズ」 古是三春 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年7月号 T-72戦車 開発・構造とそのバリエーション(3)」 白井和弘 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年9月号 拡散し独自の発展を遂げるT-72」 藤村純佳 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年1月号 垣間見えてきた旧ソ連の戦車技術」 二木巌 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年9月号 セルビア軍第36戦車大隊のM-84戦車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2021年10月号 世界のT-72カタログ」 藤村純佳 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2007年1月号 M84戦車 インアクション」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年11月号 旧ユーゴスラビアのM84戦車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年9月号 スロベニア陸軍のM84A戦車」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2003年7月号 ソ連戦車 T-72 (1)」 古是三春 著 ガリレオ出版 ・「グランドパワー2019年8月号 ソ連軍主力戦車(3)」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 |
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