M-55S1戦車は1991年に旧ユーゴスラヴィアから分離独立したスロヴェニアが、自国陸軍でも使用している旧式なT-55中戦車の近代化と共に、輸出を狙って開発した改修型戦車である。 なおこの開発には、中東戦争で捕獲した戦車の改修などで旧ソ連製戦車の扱いに慣れている、イスラエルのラファエル社が協力している。 原型であるT-55中戦車は1940〜50年代に開発された旧式戦車であるが、まだ世界的には非常に多数が現役にある。 M-55S1戦車は、これらの車両を西側第2世代MBT並みの性能に引き上げることを狙っている。 主砲は、イスラエル軍も使用しているイギリスの王立造兵廠製のL7系51口径105mmライフル砲が採用されている。 この砲の性能は定評があり、さらにイスラエルで開発された新型APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)も用意されている。 当然FCS(射撃統制システム)も近代化されており、レーザー測遠機、映像強化装置、弾道コンピューター等を統合したスロヴェニアのフォトナ社製の新型FCSが搭載されている。 防御力向上のためには、定評あるイスラエル製のスーパー・ブレイザー爆発反応装甲が車体、砲塔の各部にボルト止めされている。 これは成形炸薬弾に対する防御を目的としており、RPG-7携帯式対戦車ロケットの場合弾着角度40度まで耐えることができ、TOW対戦車ミサイルでも70度まで耐えることが可能といわれる。 車体側面下部にはマッドガードと5分割されたスカートが装着されているが、これはゴム製でT-72戦車にも用いられているものであり、運動エネルギー弾と化学エネルギー弾の双方に対して防御効果を備えている。 また、簡単に交換ができるのも特徴といえる。 さらに対戦車ミサイル防御用に、周囲に存在する赤外線放射源を探知して自動的に発煙弾を発射するLIRD・IR警報システムが装備されている。 LIRDは砲塔上面に立てられたセンサーで赤外線を感知し、車長席に設けられたモニターにその方向を表示する一方、車内無線に警告を発するというもので、その感知範囲は全周で−20〜+60度といわれる。 砲塔後部に装備されたIS-6発煙弾発射機はCL3030発煙弾を40mまで発射でき、その煙幕の効果は直径60mにも達し、風速2m/秒の場合2分に渡って煙幕が留まるといわれる。 エンジンは新型のスロヴェニア製V型12気筒液冷ディーゼル・エンジン(出力600hp)が採用されており、変速機も新型に変更されている。 なお輸出用には、ドイツのMAN社製の新型パワーパック(出力850hp)も用意されている。 走行装置も改修が加えられ、転輪は片側5個で変わらないがT-72戦車のものが流用され、新たに片側4個の上部支持輪が設けられている。 履帯もT-72戦車と同じものに変更され、ゴムブッシュ付きとなった。 M-55S1戦車はスロヴェニア陸軍で部隊配備が進められているが、輸出についてはまだ成約は無いようである。 |
<M-55S1戦車> 全長: 8.485m 車体長: 6.45m 全幅: 3.50m 全高: 2.35m 全備重量: 38.0t 乗員: 4名 エンジン: 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル 最大出力: 600hp/2,000rpm 最大速度: 55km/h 航続距離: 500km 武装: 51口径105mmライフル砲T-10×1 (36発) 12.7mm重機関銃NSVT×1 (250発) 7.62mm機関銃PKT×1 (3,000発) 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2013年1月号 20世紀のベストセラー戦車 T-54/55」 平田辰 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2003年7月号 現用のT-54/55戦車近代化型」 鈴木浩志 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年11月号 増加装甲を付けた前世代のMBT」 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年1月号 スロベニア軍のM-55S1戦車」 アルゴノート社 ・「パンツァー1999年9月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2018〜2019」 アルゴノート社 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 |