SPz.2(Spähpanzer 2:装甲偵察車2型)ルクスは第2次世界大戦後、旧西ドイツが初めて国産開発した本格的な8輪重装甲車で、第2次世界大戦時のドイツ軍の8輪重装甲車を彷彿させるそのスタイルと高度な機構は各国の装甲車開発に多大な影響を与え、実戦化から約30年に渡って運用が続けられた息の長い車両でもある。 ルクス装甲偵察車の開発は、1964年に旧西ドイツ陸軍が1970年代に用いる8×8、6×6、4×4といった装輪式装甲車の開発要求を出したことに始まる。 翌65年にはMANやビューシンク、ラインシュタール等の各社で構成されたJPO(Joint Project Office:統合開発オフィス)と呼ばれる研究組織が発足したが、これとは別にダイムラー・ベンツ社も独自に開発を行い、これが選ばれて試作車9両が製作され1968年4月から試験に供された。 続いて1973年にラインシュタール・ヴェアテクニク社(現ラインメタル・ラントジステーム社)が生産を担当することが決まり、「ルクス」(Luchs:山猫)の呼称で生産が開始された。 1975年5月には生産型第1号車が完成し、同年9月より旧西ドイツ陸軍への引き渡しを開始した。 ルクス装甲偵察車の生産は1978年初めまで続き、合計で408両が完成している。 本車は戦車よりも価格が高い超高級車であったため他の装甲車のように派生型は作られず、まさに偵察任務に特化して開発された水陸両用の装輪式装甲車である。 ルクス装甲偵察車の車体は圧延防弾鋼板の全溶接構造で、フレームの無いモノコック・ボディとなっている。 車体サイズは全長7.743m、全幅2.98m、戦闘重量は19.5tもあり、スマートだが大型の装甲車である。 車体は避弾経始を考慮して全周に渡って傾斜面で構成されており、前面装甲は20mm機関砲弾の直撃に耐えられる防弾効果がある。 その他の装甲も、旧ソ連製14.5mm重機関銃弾の直撃に耐えられる。 車内レイアウトは車体前部左側が操縦手席、車体中央部が砲塔を搭載した戦闘室および機関室、車体後部が後部操縦手席と冷却装置等の収納部となっている。 車体中央部の左側面には、緊急用の小型ドアが設置されている。 また本車は、NBC防護装置が完備されている。 武装は、ラインメタル社が開発したTS-7砲塔に20mm機関砲MK20 Rh202、7.62mm機関銃MG3(車長用ハッチ)、発煙弾発射機8基が装備されている。 この砲塔は中空装甲が組み込まれた2名用(車長、砲手)で、主武装の100口径20mm機関砲MK20 Rh202は対空・対地どちらにも2,000mの有効射程を有している。 発射速度は1,000発/分、射距離1,000mにおいて厚さ20mmの均質圧延装甲板を貫徹可能である。 搭載弾薬数は20mm機関砲弾が375発(徹甲弾75発、榴弾300発)、7.62mm機関銃弾が1,000発である。 砲塔内には主砲を挟む形で左側に車長、右側に砲手が位置する。 砲塔上部にはそれぞれ独立した後ろ開き式ハッチが設けられ、ハッチの周囲には6基ずつペリスコープが備えられている。 また砲手には、OERI-Z-11A1照準機が備えられている。 ルクス装甲偵察車の足周りは4軸8輪方式で、装輪式装甲車が高速力、航続力、悪路踏破力、ダメージ・コントロールを最もバランス良く発揮できる構造となっている。 サスペンションは垂直コイル・スプリングとテレスコピック型(筒型)油圧ショック・アブソーバーを組み合わせた独立懸架で、非常に乗り心地が良く安定している。 8輪全てが独立懸架のため、片側のタイアが石に乗り上げても他のタイアは沈んだままで影響を受けないのである。 また垂直コイル・スプリングは緩衝力が強く振動が少ない上、リーフ・スプリングよりコンパクトで軽量という利点を持っている。 操向(ステアリング)は4軸全てが向きを変えられるが、第1軸と第2軸の4輪、第3軸と第4軸の4輪がそれぞれペアを組んで左右に動くようになっている。 高速走行時は転倒防止のために前2軸のみで操向を行うが、低速走行時は前2軸と後ろ2軸を逆に操向させて素早く車体の向きを変えることが可能になっている。 例えば2軸4輪で向きを変えた時の旋回半径は9.7mだが、4軸8輪を使えば旋回半径は5.75mに短くすることができるのである。 ルクス装甲偵察車のパワーパックはダイムラー・ベンツ社製のOM403A V型10気筒液冷ディーゼル・エンジンと、ZF社製の4PW95H1自動変速機(前進4段/後進1段)の組み合わせとなっている。 OM403Aディーゼル・エンジンは、排気ターボ式スーパーチャージャー2基により出力390hpを発生する。 このパワーパックにより本車は路上最大速度90km/h、加速力は80km/hまで65秒、水上航行速度9km/h(スクリュー2基)、路上航続距離730km(搭載燃料500リッター)という機動力を誇る。 またルクス装甲偵察車は車体後部にも操縦手席を備えており、通信手を兼ねた乗員が後ろ向きに座る。 例え偵察行動中に都市の狭い道に進入してカーブできなくなっても、車体が後ろ向きのまま90km/hのトップスピードで脱出できるのである。 1982年よりルクス装甲偵察車への熱映像式夜間視察装置の装備が開始され、この装備改修を受けた車両は「ルクスA2」と呼ばれており、砲塔左側に装備していた赤外線サーチライトが外されているのが特徴である。 その後ドイツ陸軍はルクス装甲偵察車の後継として、オランダ陸軍と共同で4×4型の装輪式装甲偵察車「フェネック」(Fennek:大きな耳を持つ小型の狐の一種)の開発を1990年代前半に開始し、2004年からルクス装甲偵察車に代えて部隊配備が開始された。 フェネック装甲偵察車の部隊配備に伴って、ルクス装甲偵察車は2009年末までに全車がドイツ陸軍から退役している。 |
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<SPz.2ルクス装甲偵察車> 全長: 7.743m 全幅: 2.98m 全高: 2.125m 全備重量: 19.5t 乗員: 4名 エンジン: ダイムラー・ベンツOM403A 4ストロークV型10気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 390hp/2,500rpm 最大速度: 90km/h(浮航 9km/h) 航続距離: 730km 武装: 100口径20mm機関砲MK20 Rh202×1 (375発) 7.62mm機関銃MG3×1 (1,000発) 装甲厚: |
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<参考文献> ・「パンツァー2010年12月号 全車退役を終えたドイツの8輪重装甲車 ルクス装甲偵察車」 アルゴノート社 ・「パンツァー2005年8月号 ラインメタルMk.20 Rh-202対空機関砲」 小畑恒二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2005年7月号 AFV比較論 87式偵察警戒車 vs ルクス」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2001年8月号 ドイツ陸軍の装甲偵察車 ルクス」 齋木伸生 著 アルゴノート社 ・「世界AFV年鑑 2005~2006」 アルゴノート社 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904~2000」 デルタ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006~2007」 ガリレオ出版 ・「戦車名鑑 1946~2002 現用編」 コーエー ・「世界の最新陸上兵器 300」 成美堂出版 ・「世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 |
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