「LOSAT」とは「Line-of-Sight Anti-Tank Weapon:直接照準式対戦車兵器」の略号で、アメリカ陸軍が1980年代末に開発を開始した強力な自走対戦車ミサイル・システムである。 対戦車ミサイルは、ほとんどが成形炸薬弾頭によって生じる化学エネルギーの作用で装甲を貫徹するが、LOSATはこうした成形炸薬による化学エネルギーではなく、ミサイルの運動エネルギーによって戦車の装甲を強引に撃ち抜くことを目的に開発された。 原理的には、戦車砲の徹甲弾にミサイルとしての大きな質量と長い射程、高い命中精度を与えるものだともいえる。 本システムの開発を担当したのは、テキサス州ダラスのリング・テムコ・ヴォート社(現ロッキード・マーティン・ミサイルズ&ファイア・コントロール社)で、同社はこのLOSAT対戦車ミサイルの4連装発射機をM2ブラッドリー歩兵戦闘車の車体に搭載した試作車を1990年に完成させ、アメリカ陸軍のミサイル発射試験に提供した。 この試作車はM2歩兵戦闘車の車体内に、FLIR(Forward Looking Infrared:前方監視赤外線)照準機を装備するチューブ状の4連装昇降式発射機を搭載し、車内にはさらに16発までの再装填用ミサイルを積み込んだもので、ロッキード・マーティン社では1995年頃まで各種の発射試験以外にも、自走車台の走行・機能性試験を続けていた。 ミサイルの本体は「KEM」(Kinetic Energy Missile:運動エネルギー・ミサイル)、または「HVM」(Hypervelocity Missile:超高速ミサイル)と呼ばれ、その内部構造は先端から貫徹弾芯部、誘導部、インパルス・スラスター部、誘導信号処理/メインノズル点火制御部、ロール・センサー部、ロケット・モーター部、レーザー受信部となっている。 成形炸薬弾頭は設けられておらず、ミサイル先端の高密度貫徹弾芯が目標の装甲を撃破する部分となる。 このためLOSATは戦車の装甲だけでなく、堅固なバンカーといった防御力の高い固定目標に対しても効果を上げることが可能である。 このKEMの高い装甲貫徹力は飛翔速度にこそあり、秒速1,524mすなわちマッハ4.5以上の速度で目標に突っ込んでゆくわけだが、超高速のため通常の操舵翼では充分な軌道修正ができない。 このためインパルス・スラスター部にあるたくさんの噴射口から、横方向に装薬を瞬間燃焼させる方式が採られている。 いわゆる宇宙空間でスペースシャトルが姿勢制御を行う時に使うガス噴射と同じ方法で、軌道修正するわけである。 1996年後期には、アメリカ国防長官オフィスはLOSAT自走対戦車ミサイルの開発を中止するように勧告したが、結果的に技術デモンストレーション・プログラムとして生き残り、機能を向上させた改良型システムの開発が続けられた。 アメリカ陸軍は2002年8月に、ロッキード・マーティン社との間にLOSAT自走対戦車ミサイル108両の生産契約を結び、同年10月には最初の12両が引き渡された。 2003年8月にはニューメキシコ州のホワイト・サンズ・ミサイル試験場において、18項目に及ぶ性能試験を開始している。 LOSAT自走対戦車ミサイルの生産型では自走車台としてM2歩兵戦闘車の代わりに、汎用高機動車両M998HMMWVの装甲強化型であるM1114が用いられており、乗員は3名で車体上部にKEMを4発装填した発射機と照準/誘導装置を搭載している。 車体後部には、再装填用の8発のKEMを搭載したトレイラーを牽引するようになっている。 自走車台が軽量なHMMWVに変更されたことで、生産型はC-130輸送機やCH-53ヘリコプターで空輸することが可能になった。 本システムは今後海兵隊や、陸軍に新設されるミディアム師団といった緊急展開部隊の主要対戦車戦力として期待されている。 |
<LOSAT自走対戦車ミサイル 試作車> 全長: 7.08m 全幅: 2.97m 全高: 2.24m 全備重量: 30.9t 乗員: 3名 エンジン: カミンズVTA903-T600 4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 600hp/2,600rpm 最大速度: 61km/h 航続距離: 427km 武装: LOSAT対戦車ミサイル4連装発射機×1 (20発) 装甲厚: |
<LOSAT対戦車ミサイル> 全長: 2.845m 直径: 0.163m 発射重量: 80kg 誘導方式: レーザー・ビーム・ライディング 最大飛翔速度: 1,524m/秒 最大有効射程: 4,000m以上 |
<参考文献> ・「パンツァー2005年6月号 新時代の高速対戦車ミサイル LOSAT」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年8月号 現代の軽軍用車輌(3)」 眞光寺清彦 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年9月号 軽装甲車輌と大口径砲(2)」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年1月号 海外ニュース」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2018年2月号 戦後の米軍装甲兵員輸送車」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「大図解 世界のミサイル・ロケット兵器」 坂本明 著 グリーンアロー出版社 ・「戦車メカニズム図鑑」 上田信 著 グランプリ出版 ・「世界の最強陸上兵器 BEST100」 成美堂出版 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 ・「新版 ミサイル事典」 小都元 著 新紀元社 |