ロレーヌ37L装甲輸送・牽引車
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+開発
1936年4月、フランス陸軍は前線で戦車部隊に弾薬と燃料を補給する用途に用いる、完全密閉式の装軌式装甲車両の開発をリュネヴィルのロレーヌ社に要請した。
これに応じてロレーヌ社は、1937年1月に最初の試作車を完成させた。
この車両は、フランス陸軍に広く普及していたルノーUE小型装軌式牽引車の代替車両として、ロレーヌ社がかつて採用を提案した装軌式牽引車の車体を延長したものであった。
試作車は1937年2月から軍需品委員会の手による試験に供され、同年8月4日まで続けられた試験において本車は30km/hの路上最大速度を発揮したが、燃料トレイラーを牽引した際に速度が22.8km/hまで落ちてしまうのが問題とされた。
このためロレーヌ社は、試作車により強力なエンジンとより頑丈な変速・操向機を搭載する改良を施し、9月22日
〜10月29日にかけて再試験を受けた結果、要望された路上最大速度35km/hを発揮することが確認された。
軍需品委員会は1937年後期に本車を、「Tracteur de ravitaillement pour chars 1937 L」(戦車補給用牽引車1937L)の制式呼称でフランス陸軍に採用することを承認し、1938年に78両、100両、100両の3度の発注を行っている。
続いて1939年にも100両、74両、100両の3度の発注が行われ、総発注数は552両となった。
同年9月に第2次世界大戦が勃発したことにより、フランス陸軍は機甲師団の数を増大させることを決定し、最終的にロレーヌ37Lの発注数は1,012両まで増加した。
この発注数をロレーヌ社だけで生産するのは不可能だったため、ベジエのフーガ社もロレーヌ37Lの生産に参加することになった。
ロレーヌ37Lの生産はドイツ軍がフランスに侵攻した1940年5月以降も継続され、同年6月22日にフランスが降伏した時点でその総生産数は約480両に達していた。
フランスの降伏により、ドイツ軍は300両以上のロレーヌ37Lを接収した。
ドイツ軍は当初、これらの車両に「ロレーヌ・シュレッパー(f)」の鹵獲兵器呼称を与えて後方部隊の訓練や火砲の牽引に使用したり、あるいはそのままストックに回していた。
ところが1941年6月に開始された独ソ戦において、T-34中戦車やKV-1重戦車などの強力なソ連軍戦車と遭遇したことにより、強力な主砲を搭載する対戦車自走砲が早急に必要となった。
当初は、ソ連軍から鹵獲した48.4口径76.2mm野戦加農砲F-22(M1936)をII号戦車や38(t)戦車の車台に搭載した応急的な対戦車自走砲が開発されたが、続いて白羽の矢が立ったのがロレーヌ37Lであった。
ロレーヌ37Lは、車体中央部に機関室を配しその前後に操縦室と貨物室を設けるという、サイズはともかく自走砲のベース車台としては誠に理想的なレイアウトを採用していた。
当時、デュッセルドルフのラインメタル・ボルジヒ社が強力な新型の牽引式7.5cm対戦車砲PaK40を完成させたばかりだったため、自走砲のベース車台に適しているロレーヌ37Lにこの砲を搭載した新型対戦車自走砲(後のマルダーI)を60両製作することが1942年5月に決定されたのである。
なお、当時のドイツ軍は歩兵の火力支援用自走砲も不足していたため、同じくロレーヌ37Lの車台をベースに、ラインメタル社製の28口径10.5cm軽榴弾砲leFH18を搭載する自走榴弾砲が60両、およびエッセンのクルップ社製の17口径15cm重榴弾砲sFH13を搭載する自走榴弾砲も40両製作されることになった。
これらの自走砲の設計はベルリンのアルケット社の手で行われ、フランスのベッカー特別生産本部(ドイツ陸軍兵器局パリ支局の工場の通称)において生産が行われた。
最終的にマルダーI対戦車自走砲が170両、leFH18搭載型自走砲が24両、sFH13搭載型自走砲が94両生産され、他のフランス車両をベースとした自走砲と同じくフランスに展開した部隊に配備された。
なお、ロレーヌ37Lはフランス降伏後もヴィシー政権下で、ドイツ側に内緒でフランス南部の工場において生産が続けられ、約150両が完成したといわれる。
これらの車両の一部は、転輪が片側4個の短車体型であったという。
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+構造
ロレーヌ37L装甲輸送・牽引車は比較的小型の装軌式車両で、特に全幅が1.57mと非常に狭いのが特徴であった。
その代わり、全長を4.22mまで延長することで車内空間を確保していた。
また本車は戦闘車両のように上部構造物や砲塔を搭載していないため、全高が1.215mと非常に低く抑えられていた。
ロレーヌ37Lの車体は前面のみが防弾鋼の鋳造で、その他の部分は防弾鋼板のリベット接合構造となっていた。
装甲厚は前面が12mm、側/後面が9mm、上/下面が6mmとなっており、小火器弾の直撃や榴弾の破片に耐える程度の防御力しか備えていなかったが、本車は戦闘車両ではないためこの程度で充分とされた。
ロレーヌ37Lの空虚重量は5.24tであり、後部にトレイラーを接続した場合は1.2t増加する。
前述のようにロレーヌ37Lの車内レイアウトは車体前部が操縦室、車体中央部が機関室、車体後部が貨物室となっており、自走砲のベース車台として用いるのに大変都合が良かったため、本車を接収したドイツ軍は様々な自走砲に改造している。
操縦室内には右側に車長、左側に操縦手が位置し、幅の広い2枚開き式の水平ハッチを用いて乗降を行った。
ロレーヌ37Lのパワープラントは、パリのドライエ社製のタイプ135 直列6気筒液冷ガソリン・エンジン(排気量3,556cc、出力70hp)と、前進5段/後進1段の機械式手動変速機の組み合わせとなっていた。
燃料タンクの容量は144リットルで、このパワープラントにより本車は路上最大速度35km/h、路上航続距離137kmの機動性能を発揮した。
渡渉能力は60cm、超壕能力は130cm、登坂能力は50%となっていた。
ロレーヌ37Lの足周りは片側6個の直径43cmのゴム縁付き転輪、片側4個の上部支持輪、前部の起動輪、後部の誘導輪で構成されていた。
転輪は2個ずつボギーで連結され、ボギー上方に装着されたリーフ・スプリングで懸架されていた。
本車のサスペンションは大変シンプルな方式であったが、反面非常に頑丈で信頼性が高かった。
履帯は220mm幅の鋳造製で、片側109枚の履板で構成されていた。
ロレーヌ37Lの車体後部には、装甲化された弾薬箱が搭載された。
本車は810kgの貨物を搭載可能であり、その際の全備重量は6.05tとなった。
また本車は車体後部に装軌式の専用トレイラーを牽引するように設計されており、このトレイラーは戦車部隊への補給用に565リットル容量の燃料タンクを輸送する用途に最も多く使用された。
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<ロレーヌ37L装甲輸送・牽引車>
全長: 4.20m
全幅: 1.57m
全高: 1.29m
全備重量: 6.05t
乗員: 2名
エンジン: ドライエ・タイプ135 4ストローク直列6気筒液冷ガソリン
最大出力: 70hp/2,800rpm
最大速度: 35km/h
航続距離: 137km
武装:
装甲厚: 6〜12mm
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<参考文献>
・「パンツァー2013年3月号 ロレーヌ・シュレッパーとその改造自走砲」 大竹勝美 著 アルゴノート社
・「グランドパワー2020年8月号 ドイツ軍のロレーヌ37L改造車輌(1)」 山本敬一 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2020年11月号 ドイツ軍のロレーヌ37L改造車輌(2)」 山本敬一 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2017年12月号 ドイツ軍捕獲戦闘車輌」 後藤仁 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2022年10月号 ドイツ軍自走砲(6)」 寺田光男 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2002年8月号 ロレーヌ牽引車のドイツ軍改造車輌」 箙浩一 著 デルタ出版
・「ジャーマン・タンクス」 ピーター・チェンバレン/ヒラリー・ドイル 共著 大日本絵画
・「捕獲戦車」 ヴァルター・J・シュピールベルガー 著 大日本絵画
・「世界の戦車・装甲車」 竹内昭 著 学研
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