+概要
フランスを占領したことにより、300両以上がドイツ軍の装備となった万能装軌式牽引車ロレーヌ37Lは、車体中央部に機関室を配しその前後に操縦室と貨物室を設けるという、サイズはともかく自走砲のベース車台としては誠に理想的なレイアウトを採っており、46口径7.5cm対戦車砲PaK40を搭載するマルダーI対戦車自走砲、28口径10.5cm軽榴弾砲leFH18や17口径15cm重榴弾砲sFH13を搭載する自走榴弾砲など多くの自走砲に転用された。
本車もロレーヌ37L装甲輸送・牽引車から改造された派生型の1つであるが、自走砲型とは一線を画する例外的な存在である。
本車はロレーヌ37Lベースの各種自走砲と行動を共にし、目標の観測や連絡を行う車両として開発されたもので、車両の設計と戦闘室用装甲板の切断・製作はベルリンのアルケット社(Altmärkische
Kettenwerke:アルトメルキシェ装軌車両製作所)の手で行われた。
戦闘室用装甲板は、アルフレッド・ベッカー少将を長とするフランスのベッカー特別生産本部(ドイツ陸軍兵器局パリ支局の工場の通称)に送られて最終組み立てが行われたが、1943年夏頃に30両が完成している。
本車は基本的にロレーヌ37Lの車体上部に密閉式の戦闘室を架設した車両であるが、戦闘室の構造は自走砲型とは全くの別物であった。
機関室の上部にあたる戦闘室上面装甲板の右側には吸気用のダクトが、同様に戦闘室の左右側面中央部に排気用のグリルがそれぞれ設けられ、戦闘室のグリル後方には円形もしくは楕円形のハッチが設けられ、その周囲にはスライド式の機関銃用レールが装着されていたが、残された写真が少ないために詳細は不明である。
ただし戦闘室の右側面中央に、装甲カバーを備えた星型アンテナを装着していたことが確認できる。
また戦闘室の後面には、観音開き式の乗降用ドアが装着されていたと思われる。
戦闘室内にはFu.5無線機に加えて、Fu.7もしくはFu.8無線機が搭載されていたと推測され、砲兵部隊の観測車として使用される車両には各種観測機材が収められたと思われるが、詳細については不明である。
完成した本車は、ロレーヌ37Lをベースとする各種自走砲の配備を受けた部隊に対して分散配備された。
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