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+概要
ギリシャ陸軍は1998年に、旧式化したアメリカ製のM47、M48戦車シリーズの後継として250両の新型MBTを導入する方針を決定し、海外の兵器メーカーに対して提案を募った。
ギリシャ陸軍の次期MBT候補には当初、アメリカのGDLS(ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ)社製のM1A2エイブラムズ戦車、イギリスのVDS(ヴィッカーズ・ディフェンス・システムズ)社製のチャレンジャー2E戦車、ドイツのKMW(クラウス・マッファイ・ヴェクマン)社製のレオパルト2A5戦車が挙げられた。
後にフランスのGIAT社製のルクレール戦車、ロシアのオムスク輸送機械工場製のT-80U戦車、ウクライナのV.O.マールィシェウ工場製のT-84戦車も候補に加えられ、次期MBT選定のために1999年10〜12月にかけて性能比較試験が実施されたが、この試験にはT-80U戦車とT-84戦車は参加しなかった。
この試験において、渡渉能力と総合性能でレオパルト2A5戦車が最も高く評価され、火力ではM1A2戦車、航続性能ではチャレンジャー2E戦車とルクレール戦車が高い評価を受けた。
2001年末には最終的な選定のための入札が行われ、試験の結果と合わせて検討した結果、2002年初旬にギリシャ陸軍は、レオパルト2戦車シリーズの最新型であるレオパルト2A6戦車を次期MBTとして採用することを決定した。
2003年3月にはギリシャ国防省とKMW社との間で、「レオパルト2HEL」(”HEL”はHellenic:ギリシャの略)の呼称で、170両のレオパルト2A6戦車の購入契約が締結された。
レオパルト2HEL戦車は最初の30両をKMW社で生産し、残りの140両をテッサロニキのELVO社(Elliniki Viomihania Ohimaton:ギリシャ自動車工業)でライセンス生産することになり、2006〜09年にかけて全車がギリシャ陸軍に引き渡されている。
レオパルト2HEL戦車は、「レオパルト2A6EX」(”EX”はExpansion:拡張の略)とも呼ばれ、ドイツ陸軍のレオパルト2A6戦車に比べて様々な改良が施されており、各国に輸出されたレオパルト2A6戦車シリーズの中でも最強との呼び声が高い。
レオパルト2HEL戦車では特にヴェトロニクス(車両用エレクトロニクス)が強化されており、FCS(射撃統制装置)はオリジナルのものより有効射程が長く、赤外線暗視装置もオリジナルより解像度の高いものが搭載されている。
また、ドイツのRDE(ラインメタル・ディフェンス・エレクトロニクス)社製の、「イニオカス」(INIOCHOS:古代ギリシャの二輪戦車)と呼ばれるC4Iシステムも装備されており、部隊単位の戦闘力がオリジナルより大きく向上している。
またレオパルト2HEL戦車では、ドイツ陸軍のレオパルト2戦車の第1生産バッチの車両のみ装備していた、環境センサーが復活している。
環境センサーが復活した理由は明らかにされていないが、レオパルト2HEL戦車はFCSの能力向上によって、初期のレオパルト2戦車では困難だった横方向への走行間射撃が可能になったため、風向や風速のデータが重要になったのではないかと推測されている。
防御面についてもレオパルト2HEL戦車は、車体前面上部と砲塔上面に増加装甲が装着されており、装甲防御力がオリジナルのレオパルト2A6戦車より大きく向上している。
また車内にはエアコンが装備されており、それに伴って機関室内右側にAPU(補助動力装置)が追加されている。
外から見ると、APUを搭載している部分の機関室天井が上に張り出しているのが分かる。
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レオパルト2HEL戦車
全長: 10.97m
車体長: 7.72m
全幅: 3.76m
全高: 3.03m
全備重量:
乗員: 4名
エンジン: MTU MB873Ka-501 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,500hp/2,600rpm
最大速度: 72km/h
航続距離: 500km
武装: 55口径120mm滑腔砲Rh120-L55×1 (42発)
7.62mm機関銃MG3×2 (4,750発)
装甲: 複合装甲
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参考文献
・「世界の戦車イラストレイテッド24 レオパルト2主力戦車 1979〜1998」 ウーヴェ・シネルバッハー/ミヒャエル・
イェルヒェル 共著 大日本絵画
・「パンツァー2010年12月号 第三世代戦車の流出で活況を呈する世界の戦車マーケット」 竹内修 著 アルゴ
ノート社
・「パンツァー2005年10月号 レオパルト2シリーズの最新バージョン レオパルト2A6」 城島健二 著 アルゴノー
ト社
・「パンツァー2020年1月号 特集 レオパルト2配備40周年(2)」 竹内修/藤井岳 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2011年3月号 レオパルト2 その30年に渡る発展の軌跡(2)」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2014年2月号 世界に拡散するレオパルト2戦車」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2005年10月号 各国採用のレオパルト2の現状」 藤井久 著 アルゴノート社
・「パンツァー2017年8月号 レオパルト2とその発展」 毒島刀也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2019年7月号 レオパルト2HEL」 アルゴノート社
・「パンツァー1999年3月号 海外ニュース」 アルゴノート社
・「パンツァー2000年8月号 海外ニュース」 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社
・「グランドパワー2005年4月号 レオパルト2 (3)」 一戸崇雄 著 ガリレオ出版
・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版
・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社
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