レオパルト2A7戦車シリーズ
|
レオパルト2A7+戦車
レオパルト2A7戦車
レオパルト2A7V戦車
|
+レオパルト2A7戦車シリーズの概要
ドイツ陸軍はコソボやアフガニスタンでのPKO任務に派遣した経験を基に、保有するレオパルト2A6戦車のかなりの数に対戦車地雷への防御力を強化する改修を実施しており、この改修車には「レオパルト2A6M」(”M”はMine
protection:地雷防御の頭文字)の呼称を与えている。
レオパルト2A6M戦車では車体下面に増加装甲板、トーションバーに装甲カバーが装着され、車体下面前部にある操縦手用脱出ハッチの構造も強化されている。
またレオパルト2戦車シリーズの生産メーカーであるKMW(クラウス・マッファイ・ヴェクマン)社では、レオパルト2A6M戦車に対してさらなる改良を施した車両を「レオパルト2A7+」の呼称で、2010年6月にフランスで開催された兵器展示会「ユーロサトリ2010」において発表した。
レオパルト2A7+戦車は車体の左右側面に容易に着脱が可能なモジュール装甲を装着しており、想定される脅威の度合いに応じて複数のモジュール装甲を使い分けることで簡単に装甲防御力を調整できるようになっている。
モジュール装甲は最近のMBTでは必須の機能となりつつありフランスのルクレール戦車、イスラエルのメルカヴァMk.III/IV戦車、日本の10式戦車、韓国のK2「黒豹」戦車などでも採用されている。
ユーロサトリ2010で公開されたレオパルト2A7+戦車では、車体左側面に成形炸薬弾などの化学エネルギー(CE)弾対策を重視した空間装甲タイプのモジュール装甲、車体右側面にCE弾、運動エネルギー(KE)弾の両方に対応した複合装甲タイプのモジュール装甲が装着されていた。
レオパルト2A7+戦車の主砲は、レオパルト2A6戦車と同じRWM(ラインメタル・ヴァッフェ・ムニツィオーン)社製の55口径120mm滑腔砲L55であるが、RWM社が新たに開発したプログラム入力が可能な信管を備えたDM11
HE-FRAG(破片効果榴弾)を使用できるようになっている。
DM11の信管は着発、遅延炸裂、空中炸裂の3つのモードに設定できるようになっており、非装甲/軽装甲車両、対戦車陣地、野戦陣地などに対して最適な攻撃ができるようになっている。
またレオパルト2PSO戦車と同じく、砲塔上面の装填手用ハッチの後方には車内から遠隔操作できるKMW社製のFLW200武装ステイションが装備されている。
これは乗員が車内から敵歩兵を安全に攻撃できるように装備されたもので、7.62mmおよび12.7mm機関銃や40mm自動擲弾発射機を搭載することができる。
車長用サイトは第3世代の「アッティカ」(ATTICA:ギリシャ南部の県で首都アテネが県庁所在地)赤外線暗視サイトに変更され、夜間戦闘能力の向上が図られると共に、IFIS(Integriertes
Führungs und Informationssystem:統合指揮・統制・情報システム)と呼ばれるC4Iシステムが追加装備されて、司令部や僚車と戦闘データの共有ができるようになっており、部隊単位の戦闘能力の向上を実現している。
また砲塔後部には車内の空調装置が装備され、それに伴って機関室右側のAPU(補助動力装置)が新型のEKKA(Energie und Kampfraumkühlanlage:エネルギー供給および戦闘室冷却装置)に強化されている。
また消火システムも新型に換装され、車体後部には車内通話装置と車外歩兵通話機を統合したSOTAS-IPインターフォンシステムが設置されている。
こうした改良の結果レオパルト2A7+戦車の戦闘重量は67tに増加しており、これに対応して足周りも強化が図られている。
レオパルト2A7+戦車では起動輪と履帯が新型のものに換装され、トーションバーとブレーキも改良されている。
KMW社は、レオパルト2戦車シリーズを運用している国々を中心にレオパルト2A7+戦車を積極的に売り込んだが、最初の顧客となったのはレオパルト2戦車の開発国であるドイツであった。
ドイツ国防省は自国陸軍へのレオパルト2A7+戦車の導入を検討して1年間に渡る評価試験を実施し、検討の結果、レオパルト2A7+戦車からFLW200武装ステイションなどを省略した廉価版のレオパルト2A7戦車を採用することを決定した。
レオパルト2A7戦車のドイツ陸軍への引き渡しは2014年末から開始されており、合計20両のレオパルト2A7戦車が改修生産された。
レオパルト2A7戦車が20両という少数調達に留まったのは、カナダとドイツの間で行われた戦車の取引が影響している。
カナダ政府は2000年代に入って、東西冷戦の終結や政府の財政難などの理由から戦車部隊を全廃する方針を決定したが、ISAF(国際治安支援部隊)の一員としてカナダ軍がアフガニスタンに派遣されることになったため、2007年に急遽ドイツからレオパルト2A6M戦車を20両リースすることになった。
そして、アフガニスタンでのPKO活動を通じて戦車の重要性を再認識したカナダは考えを改め、一度は廃止を決めた戦車部隊の保有を継続するよう方針を転換した。
カナダ政府はドイツからのリース車両を返す代わりに、当時戦車部隊の縮小を進めていたオランダ陸軍から余剰となったレオパルト2A6NL戦車20両を購入し、これをA6M仕様に改修することでドイツ側と合意した。
これを機に、ドイツ政府はリースから戻ってきた20両のレオパルト2A6M戦車に資金を追加して、レオパルト2A7戦車に改修することになったのである。
しかし、このアップグレードには日程上の制約があったため、ドイツ陸軍が要望した全ての改修項目を盛り込むことはできず、不完全な形でのアップグレードに留まってしまった。
このため、メーカー側がドイツ陸軍の要望する新規コンポーネントの開発を完了した時点で、さらなる完全なアップグレードを図ったレオパルト2A7戦車を調達することが計画された。
そしてこの計画を具現化したものが、レオパルト2A7V戦車である。
2017年5月5日にドイツ国防省とKMW社との間で、104両のレオパルト2戦車シリーズをさらに改良されたレオパルト2A7V規格にアップグレードする契約が7億6千万ユーロで締結された。
レオパルト2A7V戦車への改修対象となったのは前述のレオパルト2A7戦車20両と、モスボール保管されていたレオパルト2A4戦車68両、そしてオランダから購入した中古のレオパルト2A6NL戦車16両と、全て既存の車両からの改修となっているが、レオパルト2A7戦車以外の84両はすでに老朽化して修理費が高額となるため、新造車体に交換することになっている。
予定では、レオパルト2A7V戦車は2023年までに104両全てがドイツ陸軍に引き渡されることになっており、最初のレオパルト2A7V戦車は2019年10月29日にミュンヘンのKMW社の施設において、ドイツ陸軍への引き渡し式典が行われた。
この式典の後、レオパルト2A7V戦車が任務に適合するかどうかを判断する一連の試験が実施された。
レオパルト2A7V戦車の部隊レベルでの実戦配備は2年後に始まり、2021年9月15日にバート・フランケンハウゼンを拠点とする第393戦車大隊が最初のA7Vを受領し、編制された。
予定では2022年までに、大隊の定数である44両のA7Vが引き渡されることになっている。
2021年11月、第37機甲擲弾兵旅団「フライスタート・ザクセン」に属する同大隊は、ドイツ陸軍戦闘訓練センターで行われた大規模訓練にA7Vを持ち込んでいる。
その後、同年12月にベルゲン訓練場で初めてA7Vの実弾射撃訓練が行われ、主砲と訓練弾およびDM11 HE-FRAGのゼロイン(砲の照準機器を調整して、目標へ砲弾を正確に命中させるための所作)も行われた。
また2022年1月下旬から2月上旬にかけて、プトロス訓練場で34両のA7Vが参加する実弾射撃訓練が行われ、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)、HEAT(対戦車榴弾)を含む4種類全ての砲弾のゼロインが成された。
続いてA7Vを装備する2番目の部隊となったのは、ミュンスターに拠点を置く第9機甲旅団傘下の第93戦車大隊「ニーダーザクセン」である。
2022年2月7日に同大隊への最初の5両のA7Vの引き渡し式典が行われたが、この式典はドイツ社会民主党のクリスティーン・ランブレヒト新国防大臣のドイツ連邦軍への就任訪問の一環も兼ねていた。
|
+レオパルト2A7V戦車の改良点
レオパルト2A7V戦車は、近年の装甲貫徹力を増したKE弾に耐えられるよう、車体前面の装甲を大幅に強化している。
これは車体前面内側の複合装甲モジュールを最新のDテクノロジーによるものに換装し、車体前面上部に追加装甲板を装着することで実現している。
またサイドスカートの装甲防御力も強化され、重くなったサイドスカートに対応して取り付け部も強化されている。
砲塔側面には追加装甲、車体後部の機関室周囲にはCE弾対策の格子装甲の取り付け基部が設置され、尾灯は車体後部の排気グリルと一体化された。
また機動性を高めるため、最終減速機を新型のP25.000 HDに換装し、後退時などにより早い加速ができるようになったが、装甲の強化に伴う重量増の影響もあって、路上最大速度は従来の68km/hから61km/hに低下している。
しかし、戦車にとっては巡航速度より加速性能の方が重要なので、総合的な機動力は向上していると見て良いであろう。
これらの改良により、レオパルト2A7V戦車の戦闘重量はレオパルト2A7戦車の64.5tから66.5tへと増加した。
これに対応して、レオパルト2A7V戦車は走行装置やサスペンションなどの足周りが強化されている。
強化内容は新しい起動輪、新しい570Zダブルピン式履帯、新しい強力なトーションバー(捩り棒)の導入、従来は片側7個の転輪の内5個しか装備していなかった転輪の油圧ダンパーを、7個全部に設置するというものである。
また夜間戦闘能力を向上させ、車長による指揮統制を可能にするため、レオパルト2A7V戦車はマルチスペクトル操縦手用映像システム「SPECTUS
II」(Spectral Technology for Unlimited Sight II)を搭載する。
KMW社とヘンゾルト光学が共同開発したこのシステムは、低光量(LLL)TV CMOSカメラと非冷却赤外線画像システムから成り、車体の前後に装備したカメラからの映像は操縦手席のモニターに表示される。
このシステムにより、操縦手は他の乗員の誘導無しに車両を後退させたり、視界の悪い状況下でも操縦を行うことができる。
砲塔後部に備えられている車内の空調装置は、より強力な10kWの冷却能力を持つものに変更された。
従来の空調装置とは異なり、砲塔内の戦闘室、弾薬室、電子機器室の温度を調整することができるようになっている。
NBC防護のための加圧システムは空調装置に統合され、左スポンソンにあった加圧システムのスペースが無くなった。
代わりにこのスペースには、操縦手席の温度を調整する冷却能力6kWの第2空調装置が設置されている。
レオパルト2A7V戦車の主砲は、レオパルト2A6戦車に装備されていたRWM社製の55口径120mm滑腔砲L55の改良型であるL55A1が採用されている。
この砲は砲尾やリコイルブレーキが改良されて、より高いガス圧に対応できるようになっているため、砲の有効射程が5,000mまで延伸している。
ドイツ陸軍のレオパルト2A7V戦車は、RWM社が開発したDM11 HE-FRAG、DM63A1 APFSDS、DM98 UEB-T(訓練用曳光弾)、DM88
CSDS-T PRAC CTG(円錐安定訓練用曳光カートリッジ)の4種類の砲弾を運用する。
レオパルト2A7V戦車は従来のレオパルト2戦車シリーズと同じく、砲塔の左右側面に76mm発煙弾発射機を装備しているが、従来は片側8基装備されていた発煙弾発射機は片側6基に減らされている。
レオパルト2A7V戦車はFCS(射撃統制システム)、光学機器関係も強化されており、砲手用サイトに前述のATTICA赤外線画像システムと新型アイセーフレーザー測遠機が装備された。
また砲手席の左側には、砲手用サイトと車長用展望式サイトの画像を合成して、人間工学に適った監視ができる新しいディスプレイが装備され、長時間監視での疲労が軽減されている。
車長用モニターは新しい8.4インチのディスプレイに交換され、主砲安定装置の電気制御はディジタル式となった。
ナビゲイションシステムは、高精度の新型耐圧防爆型GPS受信機(ERGR)を導入し、欺瞞や妨害にも一定の耐性を持つように改良された。
弾薬、周辺装備、個人装備の収納・配置も見直され、例えば、従来車体前部に収納されていた履帯のスノーグローサーは、砲塔後面のホルダーに収納されるようになった。
また砲塔の左右側面には、CE弾対策の空間装甲を兼ねたメッシュ状の収納バスケットが取り付けられ、重量が29.2kgあるDM11 HE-FRAGに対応するため、弾薬庫内の砲弾ホルダーも変更されている。
車体後部には、70tの牽引力を持つ新しい牽引装置が取り付けられた。
ドイツ陸軍は104両のレオパルト2A7V戦車と共に、スウェーデンのサーブ社製のバラクーダ偽装網を40セット調達している。
|
<レオパルト2A7V戦車>
全長: 11.17m
車体長: 7.72m
全幅: 4.00m
全高: 2.64m
全備重量: 66.5t
乗員: 4名
エンジン: MTU MB873Ka-501 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル
最大出力: 1,500hp/2,600rpm
最大速度: 61km/h
航続距離: 500km
武装: 55口径120mm滑腔砲L55A1×1 (42発)
7.62mm機関銃MG3×2 (4,750発)
装甲: 複合装甲
|
<参考文献>
・「パンツァー2010年12月号 第三世代戦車の流出で活況を呈する世界の戦車マーケット」 竹内修 著 アルゴ
ノート社
・「パンツァー2015年3月号 ドイツ連邦軍 レオパルト2A7の部隊配備スタート」 柘植優介 著 アルゴノート社
・「パンツァー2022年10月号 ユーロサトリにみる戦車の将来像」 カール・シュルツ 著 アルゴノート社
・「パンツァー2011年3月号 レオパルト2 その30年に渡る発展の軌跡(2)」 竹内修 著 アルゴノート社
・「パンツァー2020年1月号 特集 レオパルト2配備40周年(2)」 竹内修/藤井岳 共著 アルゴノート社
・「パンツァー2014年2月号 世界に拡散するレオパルト2戦車」 荒木雅也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2017年8月号 レオパルト2とその発展」 毒島刀也 著 アルゴノート社
・「パンツァー2022年6月号 LEOPARD2A7V」 カール・シュルツ 著 アルゴノート社
・「パンツァー2017年4・5月号 IDEX2017」 竹内修 著 アルゴノート社
・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社
・「グランドパワー2011年12月号 カナダ軍のレオパルト2 in Afghan」 伊吹竜太郎 著 ガリレオ出版
・「グランドパワー2023年11月号 レオパルト2A7V」 三谷修作/宮永忠将 共著 ガリレオ出版
・「世界の傑作戦車50 戦場を駆け抜けた名タンクの実力に迫る」 毒島刀也 著 SBクリエイティブ
・「世界の最強戦車図鑑」 毒島刀也 著 コスミック出版
・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社
|
関連商品 |
Homepatche 1/16 ドイツ軍 レオパルト2A7戦車 RC 7.0ver 2.4GHz ラジコン |
タミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.387 ドイツ連邦 主力戦車 レオパルト2A7V 35387 |
タミヤ 1/35 ディテールアップシリーズ No.94 ドイツ連邦 主力戦車 レオパルト2A7V メタル砲身 12694 |
ライフィールドモデル 1/35 ドイツ軍 レオパルト2A7戦車 プラモデル 5108 |
ライフィールドモデル 1/35 ドイツ軍 レオパルト2A7V戦車 プラモデル 5109 |
ボーダーモデル 1/35 ドイツ軍 レオパルド2A7V戦車 プラモデル BT-040 |
モンモデル 1/35 ドイツ軍 レオパルト2A7戦車 プラモデル TS-027 |
モンモデル 1/35 ドイツ軍 レオパルト2A7+戦車 プラモデル TS-042 |
モンモデル 1/72 ドイツ軍 レオパルト2A7戦車 プラモデル 72-002 |
T-REX STUDIO 1/35 レオパルト2戦車 可動式履帯 TR85033 |
ヴェスピッドモデル 1/72 ドイツ軍 レオパルト2A7+戦車 プラモデル VS720015 |
ヴェスピッドモデル 1/72 ドイツ軍 レオパルト2A7V戦車 プラモデル VS720016 |
AFM レオパルト2A7+戦車 組み立てブロック 898ブロック M0099P |
「レオパルド2A7V 生まれ変わるドイツの豹 世界最高の主力戦車へ」(英語版) Tankograd |
ギガント ドイツ軍 レオパルト2戦車 長袖Tシャツ |
ギガント ドイツ軍 レオパルト2戦車 半袖Tシャツ |