ドイツ陸軍は冷戦が終結した1990年代初めに、「KWS」(Kampfwertsteigerung:戦闘能力向上)と呼ばれるレオパルト2戦車の3段階の近代化改修計画を策定した。 第1段階のKWS-Iと第3段階のKWS-IIIは攻撃力の向上を目指した改修プランで、KWS-Iは従来の44口径120mm滑腔砲に代えてより高初速の55口径120mm滑腔砲を搭載するというもの、KWS-IIIはラインメタル社が新規開発した140mm滑腔砲NPzK-140を搭載してさらに攻撃力を強化するというものであった。 これに対して第2段階のKWS-IIは主に装甲防御力の向上に重点が置かれた改修プランで、特に砲塔前面の装甲を強化することが主眼となっていた。 ドイツ陸軍はレオパルト2戦車について攻撃力よりも装甲防御力を向上させるのが急務だと認識していたため、KWSの3つの改修プランの内KWS-IIが最初に実施されることになった。 結局KWS-IIはレオパルト2A5戦車として具現化し、ミュンヘンのクラウス・マッファイ社とカッセルのヴェクマン社の手で1995年に第1陣として16両のレオパルト2A4戦車がA5型に改修された後、1996年から月6両のペースでA5型への改修作業が実施された。 最終的に、ドイツ陸軍のレオパルト2A4戦車の内350両がA5型への改修を受けている。 一方レオパルト2戦車の攻撃力を強化する近代化改修の研究も継続され、55口径120mm滑腔砲を搭載するKWS-Iと140mm滑腔砲NPzK-140を搭載するKWS-IIIの試作車がそれぞれ製作されて性能試験が実施された。 冷戦時代の1989年にアメリカ、イギリス、フランス、旧西ドイツの4カ国の間で次世代MBTの主砲を同規格の140mm滑腔砲に統一する協定が締結されており、当初はレオパルト2戦車に140mm滑腔砲を搭載するKWS-IIIの方が有力視されていた。 しかし冷戦が終結したことでレオパルト2戦車が本格的な戦車戦に投入される可能性は著しく低下しており、すでに140mm滑腔砲の必要性は薄れていた。 140mm滑腔砲は55口径120mm滑腔砲よりも装甲貫徹力や直撃エネルギーは上回るものの、大重量の140mm砲弾を人力で装填するのは困難なため自動装填装置または装填補助装置の導入が不可欠となり、改修コストが高騰してしまう問題もあった。 このため最終的に55口径120mm滑腔砲を搭載するKWS-Iが採用されることになり、この改修を実施したレオパルト2戦車には「レオパルト2A6」の制式名称が与えられた。 レオパルト2A6戦車は新開発の55口径120mm滑腔砲を装備しているため、従来の44口径120mm滑腔砲を装備したレオパルト2A0~A5戦車に比べ砲身長は約1.3mも長くなっている。 レオパルト2A6戦車に搭載される55口径120mm滑腔砲Rh120-L55はラインメタル社が1990年代前半から開発を進めていたもので、同じくラインメタル社が開発したタングステン弾芯の新型APFSDS弾(LKE-II/DM53)を発射した場合砲口初速1,750m/秒、射距離2,000mで810mm厚のRHA(均質圧延装甲板)を貫徹できるという。 ちなみに従来の44口径120mm滑腔砲でDM53を発射した場合砲口初速1,670m/秒、射距離2,000mにおける装甲貫徹力は650mmとなっており、55口径砲は大幅に装甲貫徹力が向上していることが分かる。 ドイツ陸軍では、KRK(Krisenreaktionskrafte:危機対応部隊)に所属する225両のレオパルト2A5戦車を2001~07年にかけてA6規格に改修した。 その後もA6規格への追加改修が実施され、2014年の時点で322両のレオパルト2A6戦車を保有している。 またオランダ陸軍も、330両のレオパルト2A5NL戦車の内188両をA6規格に改修し(レオパルト2A6NL)、2003年2月から運用を開始した。 しかし冷戦の終結と財政難からオランダ陸軍のMBTの定数は年々削減されていき、2010年の段階でレオパルト2A6NL戦車60両にまで規模が縮小された。 さらに2011年にオランダ政府は深刻な財政難のため軍隊の規模を大幅に縮小することを決定し、オランダ陸軍は戦車部隊を廃止し保有するレオパルト2A6NL戦車を全て海外に売却することになった。 これまでにカナダ陸軍に20両、ポルトガル陸軍に37両のレオパルト2A6NL戦車が売却されており、フィンランド陸軍も購入の意向を示している。 一方ギリシャ陸軍は「レオパルト2HEL」(”HEL”はHellenic:ギリシャの略)の名称で、2006~09年にかけて170両のレオパルト2A6戦車をドイツから導入しており、スペイン陸軍も「レオパルト2E」(”E”はEspaña:スペインの頭文字)の名称で2004~08年にかけてドイツから219両のレオパルト2A6戦車を導入している。 いずれもレオパルト2A5戦車のスウェーデン陸軍仕様であるStrv.122戦車と同じく、車体前面と砲塔上面に増加装甲が装着されており、ドイツ陸軍のレオパルト2A6戦車より高い装甲防御力を備えている。 従来のレオパルト2A0~A5戦車に比べて大幅に攻撃力が向上したレオパルト2A6戦車だが、部隊に配備された当初はあまり乗員たちの評判は良くなかったようである。 初期のレオパルト2A6戦車はFCS(射撃統制システム)と55口径120mm滑腔砲の連動がうまく調整されておらず、砲塔の重量バランスも前寄りに偏っていたため主砲の命中精度が従来に比べて著しく低下してしまったのである。 また当初は乗員が55口径砲の長い砲身に慣れていなかったため、森林地帯での演習中に主砲を木にぶつけてしまうトラブルが幾度か発生しており、これが原因で砲塔内の乗員が負傷することもあったという。 しかし時間が経つにつれて乗員がレオパルト2A6戦車の扱いに慣れていき、FCSや砲塔の重量バランスも調整が進められたため現在では主砲の命中精度も大きく改善されているようである。 またコソボやアフガニスタンでのPKO任務に派遣した経験を基に、ドイツ陸軍のレオパルト2A6戦車のかなりの数が対戦車地雷への防御力を強化する改修を受けており、この改修車には「レオパルト2A6M」(”M”はMine protection:地雷防御の頭文字)の名称が与えられている。 レオパルト2A6M戦車では車体下面に増加装甲板、トーションバーに装甲カバーが装着され、車体下面前部右側にある操縦手用脱出ハッチの構造も強化されている。 また車体前部左側の主砲弾薬庫のうち最下列は使用が停止され、車体前部右側の操縦手席は天井から吊り下げるハンモック式の新型のものに変更されている。 さらに砲塔バスケットと砲塔内乗員の座席も、対地雷構造の新型のものに変更されている。 またメーカーであるクラウス・マッファイ・ヴェクマン社では、レオパルト2A6M戦車に対してレオパルト2PSO戦車に準じる改修を導入した車両を「レオパルト2A7+」の名称で、2010年にフランスで開催された兵器展示会「ユーロサトリ2010」において発表している。 |
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<レオパルト2A6戦車> 全長: 11.17m 車体長: 7.72m 全幅: 3.74m 全高: 2.64m 全備重量: 62.5t 乗員: 4名 エンジン: MTU MB873Ka-501 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,500hp/2,600rpm 最大速度: 72km/h 航続距離: 500km 武装: 55口径120mm滑腔砲Rh120-L55×1 (42発) 7.62mm機関銃MG3×2 (4,750発) 装甲: 複合装甲 |
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<参考文献> ・「世界の戦車イラストレイテッド24 レオパルト2主力戦車 1979~1998」 ウーヴェ・シネルバッハー/ミヒャエル・ イェルヒェル 共著 大日本絵画 ・「パンツァー2005年10月号 レオパルト2シリーズの最新バージョン レオパルト2A6」 城島健二 著 アルゴノ ート社 ・「パンツァー2006年6月号 世界の標準戦車砲となったラインメタルSB戦車砲」 林磐男 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2011年3月号 レオパルト2 その30年に渡る発展の軌跡(2)」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2020年1月号 特集 レオパルト2配備40周年(2)」 竹内修/藤井岳 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2014年2月号 世界に拡散するレオパルト2戦車」 荒木雅也 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年2月号 最初の第3世代MBT レオパルト2」 小林直樹 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2005年10月号 各国採用のレオパルト2の現状」 藤井久 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2008年1月号 レオパルト2の最新バージョン A6M」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2005年4月号 レオパルト2 (3)」 一戸崇雄 著 ガリレオ出版 ・「世界の主力戦闘車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「徹底解説 世界最強7大戦車」 齋木伸生 著 三修社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 |
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