●開発 西ドイツ陸軍は旧式化したアメリカ製のM47、M48戦車シリーズの後継として1970年代後期にレオパルト2戦車を実用化したが、引き続いてレオパルト1戦車シリーズの後継となる新型MBTの開発に着手した。 ちょうどフランス陸軍もAMX-30戦車シリーズの後継となる新型MBT(後のルクレール戦車)の開発を開始していたため、西ドイツ陸軍はレオパルト1/AMX-30戦車を生み出した「標準戦車」(Standard Panzer)計画で一度失敗したにも関わらず、再びフランス陸軍と新型MBTを共同開発することを決めた。 この新型MBTの名称はフランス側の意向で「ナポレオン」(Napoléon:革命期フランスの英雄でフランス第一帝政の皇帝)とされ、1980年2月に開発協定が締結された。 しかし西ドイツ陸軍が、ワルシャワ条約機構側の圧倒的な機甲戦力に対抗するためにナポレオン戦車を早期に実用化することを望んだのに対し、フランス陸軍は様々な新機軸を盛り込んでじっくり時間を掛けて開発することを希望したため両国の意見がまとまらず、結局1982年末に共同開発計画は中止されることになった。 ただし西ドイツ陸軍は、標準戦車やアメリカ陸軍と共同で行ったKpz.70/MBT70戦車の開発ですでにMBTの共同開発に2度失敗しており、この苦い経験からナポレオン戦車の共同開発が失敗に終わることもある程度想定していた。 そのためナポレオン戦車計画が失敗した場合の保険として、密かに「Pzkw.2000」(Panzerkampfwagen 2000:2000年代型戦車)の名称で将来「レオパルト3」となるべき新型MBTの開発も進めていた。 ナポレオン戦車の開発中止が決まると西ドイツ陸軍はPzkw.2000の開発に本格的に着手し、KJPz.4-5駆逐戦車のように車体上部に密閉式の戦闘室を設けて120mm滑腔砲を1~2門固定装備する車両を新規開発するプランや、レオパルト2戦車の車体に自動装填装置を備えたコンパクト砲塔または背負い式の無人砲塔を搭載するプラン、レオパルト2戦車を基本部分はそのままに改修によって能力を向上させるプランなど様々なコンセプトの車両の研究を進めた。 そして、ミハイル・ゴルバチョフが書記長に就任した1980年代後半からソヴィエト連邦との関係に改善の兆しが見られたため、西ドイツ軍はソ連軍との全面対決の可能性は低くなったと判断し、莫大なコストと時間が必要なMBTの新規開発を行わず、既存のレオパルト2戦車に近代化改修を施して能力を向上させるプランを選択することを決めた。 1989年から開始されたこの能力向上計画ではまず、MaK社(Maschinenbau Kiel:キール機械製作所、現ラインメタル・ラントジステーム社)で生産された第5生産バッチのレオパルト2A4戦車の最終生産車(車体製造番号:20825)を用いて、「KVT」(Komponentenversuchsträger:コンポーネント試験車両)と呼ばれる改良型レオパルト2戦車の試作車が製作され、試験を実施して実用性を検証することになった。 KVTは特に装甲防御力の強化に重点を置いた改良が施され、砲塔の前面に「ショト装甲」(Schott panzerung:隔壁装甲)と呼ばれる大きな楔形の増加装甲ボックスが装着された他、砲塔の左右側面にも板状の増加装甲が装着され、砲塔上面にもトップアタック式対戦車兵器への対策として一部にERA(爆発反応装甲)を含む増加装甲が装着された。 車体も前面上部に増加装甲が装着され、砲塔前面のショト装甲に干渉しないよう操縦手用ハッチは従来の跳ね上げ式から電動スライド式に変更された。 また車内には、乗員を保護するためのスポール・ライナー(Spall Liner:破片防御用の内張り)が張り巡らされた。 これらの改良によってKVTの戦闘重量はレオパルト2A4戦車の55.15tから60.5tに増加することが見込まれたが、KVTはレイアウトの検証が主目的の試作車だったため増加装甲などは張りぼてだったようである。 西ドイツ陸軍(1990年に東西ドイツ統合によりドイツ陸軍に改組)はKVTの試験の結果を基に、保有するレオパルト2A4戦車の内699両に対してKVTに準じた近代化改修を実施することを計画していたが、1991年末にソ連が崩壊したことで冷戦が終結したためこの計画を放棄し、代わりに「KWS」(Kampfwertsteigerung:戦闘能力向上)と呼ばれる3段階のレオパルト2近代化改修計画を策定した。 第1段階のKWS-Iと第3段階のKWS-IIIは攻撃力の向上を目指した改修プランで、KWS-Iは従来の44口径120mm滑腔砲に代えてより高初速の55口径120mm滑腔砲を搭載するというもの、KWS-IIIはラインメタル社が新規開発した140mm滑腔砲を搭載してさらに攻撃力を強化するというものであった。 これに対して第2段階のKWS-IIは主に装甲防御力の向上に重点が置かれた改修プランで、特に砲塔前面の装甲を強化することが主眼となっていた。 ドイツ陸軍はレオパルト2戦車について攻撃力よりも装甲防御力を向上させるのが急務だと認識していたため、KWSの3つの改修プランの内KWS-IIが最初に実施されることになった。 レオパルト2戦車シリーズの生産メーカーであるミュンヘンのKM(クラウス・マッファイ)社(1999年にKMW(クラウス・マッファイ・ヴェクマン)社に改組)は、ドイツ陸軍の要請に基づいて第8生産バッチのレオパルト2A4戦車2両を用いて「TVM」(Truppenversuchsmuster:部隊試験サンプル)と呼ばれる改良型試作車を製作した。 2両の試作車のうち、車体製造番号11156のレオパルト2A4戦車を用いて製作された「TVM-I」(別名:TVM Maximum)はKVTにほぼ準じた改修を施した重装甲タイプの試作車で、車体製造番号11157の車両を用いて製作された「TVM-II」(別名:TVM Minimum)はKVTから砲塔上面と車体前面の増加装甲などを省略した軽装甲タイプの試作車であった。 またTVM-IとTVM-IIでは砲塔側面の増加装甲の形状が異なっており、TVM-IはKVTと同じフラットな形状であったがTVM-IIは緩い傾斜の楔形になっていた。 後にレオパルト2A5戦車の生産型に採用されたのは、TVM-IIに用いられたのと同じ楔形タイプの増加装甲である。 TVM-IとTVM-IIを用いた部隊試験は1991年12月~92年4月にかけて実施され、試験の結果が良好だったためドイツ陸軍は350両のレオパルト2A4戦車を軽装甲タイプのTVM-IIに準じた改修を行うことを決め、改修車には「レオパルト2A5」の制式名称を与えることになった。 一方、重装甲タイプのTVM-Iは1994年1~6月にかけて行われたスウェーデン陸軍の次期MBT選定のための性能比較試験に参加し、アメリカのM1A2エイブラムズ戦車とフランスのルクレール戦車を抑えて勝利を収めた。 ドイツ政府は1994年1月にKM社との間で、350両(内125両はオプション)のレオパルト2A4戦車をA5型に改修する契約を締結した。 砲塔の改修作業はカッセルのヴェクマン社が行うこととされ、車体と砲塔を統合する最終組み立てはKM社が担当することになった。 KM社は1995年に第1陣として16両のレオパルト2A5戦車をドイツ陸軍に引き渡し、以後1996年1月から月6両のペースで改修が実施されていった。 そして最終的にドイツ陸軍のレオパルト2A4戦車の内350両がA5型に改修され、さらにこの内225両がA6型への改修を受けている。 なおドイツからレオパルト2戦車を導入していたオランダ陸軍とスイス陸軍もKWSの開発に参加しており、保有するレオパルト2戦車にKWSを導入して近代化することを計画していた。 オランダ陸軍は保有する445両のレオパルト2NL戦車の内330両をA5型に改修し(レオパルト2A5NL)、さらにこの内188両をA6型に改修している(レオパルト2A6NL)。 一方スイス陸軍は2004年に、保有する380両のPz.87戦車の内150両を「Pz.87WE」」(”WE”はWerterhaltung:価値保存の略)の名称で近代化改修する予定であることを発表したが、これはKWSとは異なる改修計画でKMW社とスイスのRLS(ルアーク・ランドシステムズ)社の手で共同開発された。 スイス陸軍は2008年頃から約120両のPz.87戦車をPz.87WE戦車に改修することを予定していたが、スイス政府の財政難のために予算がなかなか承認されず未だに改修は実施されていない。 スウェーデン陸軍はレオパルト2A5戦車の砲塔上面と車体前面上部に増加装甲を装着して装甲防御力を強化し、「TCCS」(Tank Command and Control System:戦車指揮/統制システム)と呼ばれる本格的なC4Iシステムを追加したタイプを「Strv.122」(Stridsvagn 122:122型戦車)の名称で120両導入している。 デンマーク陸軍はドイツ陸軍から購入した57両の中古のレオパルト2A4戦車の内51両をA5型に改修しており(レオパルト2A5DK)、スウェーデン陸軍のStrv.122戦車と同様の増加装甲を装着している。 さらにKMW社は、レオパルト2A5戦車の市街戦への対応能力を強化したレオパルト2PSO(Peace Support Operations:平和支援活動)戦車を、2006年6月にフランスで開催された兵器展示会「ユーロサトリ2006」で発表している。 レオパルト2PSO戦車は、防御力を強化するためにサイドスカートと砲塔左右側面後部に増加装甲が装着されており、機関室周辺の開口部には火炎瓶対策のメッシュ装甲が追加されている。 車体前部には、瓦礫やバリケード等を除去するためのドーザー・ブレイドが装着されている。 また視察能力を強化するため、車長用キューポラの後方に360度の視察が可能なマスト式サイトが装備されており、車体の左右側面には監視カメラが追加されている。 装填手用ハッチの後方には車内から遠隔操作できるKMW社製のFLW200武装ステイションが装備されており、7.62mmおよび12.7mm機関銃や40mm自動擲弾発射機を搭載することができる。 |
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●構造 レオパルト2A5戦車は既存のレオパルト2戦車シリーズを改修する形で製作されたため、レオパルト2A0~A4戦車と基本的なレイアウトは変わらないが多くの部分に改良が施されており、総合性能を大幅に向上させている。 以下に、主な改良点を挙げる。 まず砲塔前面には「ショト装甲」と呼ばれる、大きな楔形の増加装甲ボックスが装着されている。 KMW社によれば、これには既存のあらゆる化学・運動エネルギー弾に対する防御力があるという。 レオパルト2A5戦車が公表された当初、この楔形の装甲ボックスの内部は防弾鋼板やセラミック、チタンなどの装甲材を何層も重ねた複合装甲になっているのではないかと推測され、HEAT(対戦車榴弾)や対戦車ミサイルなどの成形炸薬弾、タングステンや劣化ウランの侵徹体が高速で突入するAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)などの運動エネルギー弾の両方に対して高い防御力を発揮するものと思われていた。 しかし後にこの装甲ボックスの内部が実はがらんどうで、防弾鋼板製の仕切り板が傾斜を付けて縦方向に2枚挿入されているだけの簡素な構造であったことが判明している。 A5型で砲塔前面にショト装甲が装着された最大の理由は、レオパルト2A0~A4戦車の主砲防盾部が複合装甲ではなく通常の防弾鋼で製作されていたため、この部分が成形炸薬弾に対して大きな弱点となってしまったことへの対策であったようである。 従ってショト装甲は成形炸薬弾に対する防御力を重視した空間装甲であり、装甲厚自体は薄いため運動エネルギー弾に対する防御力はそれほど高くないものと思われる。 レオパルト2A5戦車ではこの他砲塔の左右側面にも増加装甲が装着されている他、サイドスカートにも複合装甲が採用されている。 さらに防御力の向上という観点から見落とせないのは、車内にスポール・ライナーが張り巡らされて乗員の生残性が向上したことである。 レオパルト2A5戦車は装甲防御力が重点的に強化されているが、FCS(射撃統制システム)についても能力の向上が図られている。 レオパルト2A5戦車では、砲塔上面の車長用展望式サイトが新型のPERI-R17A2に換装されている。 このサイトは赤外線暗視装置を内蔵しており、砲手が目標への射撃を行っている間に車長が次の目標を捜索・捕捉するハンター(車長)・キラー(砲手)運用が全天候下で可能となった。 測遠機も高精度のCE628レーザー測遠機に変更されており、距離10km先の誤差は20m足らずである。 この高性能FCSによってレオパルト2A5戦車は敵戦車や装甲車両のみならず、低空を低速飛行するヘリコプターも高い確率で狙い撃ちできるようになったという。 また車長用にはファイバー・ジャイロとGPS受信機を組み合わせたハイブリッド型の航法装置が導入されており、運用能力を総合的に向上させている。 砲塔前面にショト装甲が装着された影響で、それまで砲塔前面右側の切り欠き部分に設けられていた砲手用サイトは砲塔上面に移設され、同時に補助サイトが新型のFERO-Z18A2に換装されている。 またショト装甲に干渉しないよう、操縦手用ハッチは従来の跳ね上げ式から電動スライド式に変更されている。 その他にも、レオパルト2A5戦車は各部に細かい改良が施されている。 従来は油圧式だった砲塔の駆動機構は火災の危険が少なく反応が速い電動式に変更され、車体後部には操縦手用の後方監視カメラが追加装備されている。 またレオパルト2A5戦車は戦闘重量がA4型の55.15tから59.7tに増加したため、転輪が従来の防弾アルミ製から強度の高い防弾鋼製に変更されている。 |
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<レオパルト2A5戦車> 全長: 9.97m 車体長: 7.72m 全幅: 3.74m 全高: 2.64m 全備重量: 59.7t 乗員: 4名 エンジン: MTU MB873Ka-501 4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 1,500hp/2,600rpm 最大速度: 72km/h 航続距離: 500km 武装: 44口径120mm滑腔砲Rh120×1 (42発) 7.62mm機関銃MG3×2 (4,750発) 装甲: 複合装甲 |
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<参考文献> ・「世界の戦車イラストレイテッド24 レオパルト2主力戦車 1979~1998」 ウーヴェ・シネルバッハー/ミヒャエル・ イェルヒェル 共著 大日本絵画 ・「パンツァー2005年10月号 レオパルト2シリーズの最新バージョン レオパルト2A6」 城島健二 著 アルゴ ノート社 ・「パンツァー2011年3月号 レオパルト2 その30年に渡る発展の軌跡(2)」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2020年1月号 特集 レオパルト2配備40周年(2)」 竹内修/藤井岳 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2000年2月号 最初の第3世代MBT レオパルト2」 小林直樹 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2005年10月号 各国採用のレオパルト2の現状」 藤井久 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2017年8月号 レオパルト2とその発展」 毒島刀也 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021~2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2005年4月号 レオパルト2 (3)」 一戸崇雄 著 ガリレオ出版 ・「戦車ものしり大百科 ドイツ戦車発達史」 齋木伸生 著 光人社 ・「徹底解説 世界最強7大戦車」 齋木伸生 著 三修社 ・「世界の最新兵器カタログ 陸軍編」 三修社 ・「新・世界の主力戦車カタログ」 三修社 ・「世界の最強陸上兵器 BEST100」 成美堂出版 ・「最新陸上兵器図鑑 21世紀兵器体系」 学研 |
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