LAV-300装甲車は、1960年代から4輪駆動の装輪式装甲車を製作してきたキャディラック・ゲージ社が、1980年代に満を持して完成させた3軸6輪駆動の大型装輪式装甲車である。 装輪式装甲車の場合、タイアの数が多い方が装軌式装甲車のように地面に対する接地圧が低くなり、不整地での機動性能を高められる。 車体が大型化できるので、輸送力や大型武器の搭載容量もアップする。 ただし当然ながら、価格は反比例し高騰することになる。 こういった観点から当時、3軸(車軸)・6輪駆動タイプの装輪式装甲車が価格と性能面で一番バランスが取れたクラスだと考えられていた。 つまり前方の1軸2輪を操向用として使い、後方の2軸4輪が安定した土台を車体に提供し、この上に重い武装類を楽に搭載するわけである。 LAV-300装甲車の開発の契機は、アメリカ陸軍と海兵隊が緊急展開部隊向けとして「LAV」(Light Armoured Vehicle:軽装甲車両)計画を要求したことにあった。 このLAV計画に対する基本要求は空輸が可能で高い機動性を備えるというものであり、8社から提案が出され3社に対して製作契約が結ばれたが、キャディラック・ゲージ社の提案したLAV-300装甲車(当時は「V-300」という名称であった)もその中に含まれていた。 LAV-300装甲車の開発は1981年に開始され、1982年に試作第1号車が完成したが、LAV計画にはスイスのモヴァーク社が開発したピラーニャ装甲車が選定され、アメリカでの採用の路は閉ざされてしまった。 しかし、LAV-300装甲車は攻走守のバランスの取れた安価な6輪駆動の装輪式装甲車であるため、クウェート(62両)、パナマ(12両)、フィリピン(24両)などで採用されている。 LAV-300装甲車は現在までに何種類かのヴァリエーションが作られているが、基本型はAPC(装甲兵員輸送車)タイプである。 車体はLAV-150装甲車より一回り大きく、やはりキャドロイ積層高硬化防弾鋼板の全溶接構造となっている。 車体前部左側が操縦手席、前部右側が機関室、車体後部が戦闘室/兵員室というオーソドックスなレイアウトで、車体前部には操縦手用のペリスコープが3基取り付けられている。 またここには回収に使う容量9,072kgのウィンチと、長さ45mのワイアーが収められている。 車体後部には、様々な大型武器を搭載可能なステイションと兵員室が設けられている。 車体の左右側面には、各4カ所の視察用ブロックとガンポート(丸い装甲カバーで通常は保護)が設けられており、車内の兵員が乗車したまま射撃できるようになっている。 兵員の乗降は、車体後面の2枚の乗降用ドアから行う。 足周りは、大きくなった車体に合わせて強化されている。 パワーパックは、LAV-150装甲車と同系のカミンズ社製6CTA8.3 直列6気筒液冷ディーゼル・エンジンだが、ターボチャージャーの装着によって出力が275hpにアップしている。 変速機は、アリソン社製のMT643自動変速機(前進5段/後進1段)を採用している。 サスペンションは操向用の前方車軸は固定され、後ろの2軸は安価なリーフ・スプリングから堅牢な独立懸架のコイル・スプリング方式に交換されている。 機動力は路上最大速度100km/h、路上航続距離700km(燃料302リットル)、ダッシュ性能は停止から32km/hまでの加速に10秒である。 最小ブレーキ停止距離(32km/hの速度から停止まで)は12.2mで、6個のランフラット・タイアを止めるブレーキには電子制御ポンプ付きデュアル油圧ブレーキを採用している。 またLAV-300装甲車は水陸両用なのでそのまま川に入り、タイアの回転によって5km/hの速度で航行することが可能である。 大きくなった車体には、16種類もの派生型が提案されている。 用途に応じて、多彩な武器や専門任務(野戦救急、回収、指揮通信)の装備が組み込めるのである。 基本的な武装型としては兵員9名を輸送するAPCタイプの場合、12.7mm重機関銃M2と7.62mm機関銃M240を同軸に備える1名用砲塔を搭載する。 火力支援型の代表格は、ベルギーのコッカリル社製の36口径90mm低圧ライフル砲Mk.3を2名用砲塔に装備したタイプである。 LAV-150装甲車も同じ砲塔を積むことができるが、砲を横向きに射撃することを考えると6輪で安定した車台のLAV-300装甲車に適した兵装だといえよう。 81mm迫撃砲を搭載する自走迫撃砲タイプは、迫撃砲を車体後部のターンテーブルに載せているので車内から360度の射撃ができ、しかも取り外して地上から撃つこともできる。 TUA(TOW Under Armor)は、TOW対戦車ミサイルの起倒式連装発射機を搭載した戦車駆逐車タイプである。 TOW対戦車ミサイルの搭載数は、10発である。 この他には20mm機関砲、25mmチェインガン、20mmヴァルカン砲を搭載したタイプなどが提案されている。 |
<LAV-300装甲車 90mm砲搭載型> 全長: 6.40m 全幅: 2.54m 全高: 2.70m 全備重量: 14.696t 乗員: 3名 兵員: 9名 エンジン: カミンズ6CTA8.3 4ストローク直列6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,500rpm 最大速度: 100km/h(浮航 5km/h) 航続距離: 700km 武装: 36口径90mm低圧ライフル砲コッカリルMk.3×1 (39発) 7.62mm機関銃M240×2 (1,600発) 装甲厚: |
<参考文献> ・「パンツァー2013年3月号 半世紀以上使われ続けるベストセラー コマンドー装甲車シリーズ」 柘植優介 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2018年11月号 各国の装輪戦車」 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2018年6月号 戦後の米軍装輪式戦闘車輌」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「決定版 世界の最強兵器FILE」 おちあい熊一 著 学研 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー ・「新・世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 ・「世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 |