●LAV装甲車の開発 1982年初めにアメリカ陸軍と海兵隊は緊急派遣部隊が装備する新型戦闘車両として、「LAV」(Light Armoured Vehicle:軽装甲車両)計画をスタートさせた。 この際の要求はC-130輸送機やCH-53ヘリコプターで空輸でき、高い信頼性を有し、路上最大速度は80km/h以上、路上航続距離は400マイル(644km)以上、7.62mm機関銃弾に対する耐弾性を備え、NBC防御力を持つなどというものであった。 この計画に対して8社から仕様書が提出され、その内3社が実車の製作契約を結んだ。 この内の1社であるカナダのジェネラル・モータース・オブ・カナダ(GMカナダ)社は、当時カナダ陸軍より旧式化したリンクス装甲偵察車の後継車両の開発を要求されており、スイスのモヴァーク社からライセンス生産権を取得していた8×8型のピラーニャ装甲車を原型として、各部に改良を加えた車両の開発を進めており、これをLAV計画に提案した。 また、アメリカのキャディラック・ゲージ社は4×4型のV-150装甲車と6×6型のV-300装甲車を提案し、イギリスのアルヴィス社は装軌式のストーマー装甲車を提案した。 この4車種による試験を実施した結果、1982年9月にGMカナダ社が提案したピラーニャ装甲車の改良型がLAV装甲車として採用された。 LAV装甲車は当初アメリカ陸軍と海兵隊で共同導入する計画であったが、この時点ではアメリカ陸軍は予算難を理由に計画から降りており、海兵隊のみが導入することになった。 LAV装甲車の生産はGMカナダ社(後にGMディフェンス社に改組)の手で行われ、2000年には本家であるモヴァーク社を吸収合併したが、GMディフェンス社自身も2002年にジェネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ(GDLS)社に吸収合併された。 アメリカ海兵隊は、軽装甲歩兵/偵察大隊に配備するため758両のLAV装甲車シリーズを発注し、すでに全車が引き渡されている。 この中には主力車種として422両が配備されたLAV-25歩兵戦闘車の他に、LAV-AT自走対戦車ミサイル(96両)、LAV-M 81mm自走迫撃砲(50両)、LAV-C2装甲指揮車(50両)、LAV-L装甲貨物輸送車(94両)、LAV-R装甲回収車(46両)の各種派生型が含まれている。 また1991年の湾岸戦争における活躍が認められて、サウジアラビアも国家警備隊用に1,117両のLAV装甲車シリーズを発注している。 |
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●LAV-25歩兵戦闘車 LAV装甲車シリーズの主力車種であるLAV-25歩兵戦闘車は、砲塔に火力支援用の25mm機関砲を備え、車体兵員室に下車戦闘用の完全武装歩兵6名を収容できる。 乗員は車体の操縦手、砲塔内の車長と砲手の計3名で、戦闘重量は12.79t、全長は6.39mである。 全周旋回するデルコ社製のLAV-25砲塔は2名用で、全備重量は1.93tである。 砲塔防盾には主武装の25mm機関砲M242ブッシュマスターと、副武装の7.62mm機関銃M240が同軸に装備されており、砲塔前部の左右には4連装の発煙弾発射機が各1基ずつ装着されている。 搭載弾薬数は25mm機関砲弾が630発(即用210発)、7.62mm機関銃弾が1,600発(即用400発)である。 25mm機関砲M242の有効射程は徹甲弾を使用した場合で3,000m(軽装甲目標)、榴弾の場合で2,700mとなっており、発射速度は単発、100発/分、200発/分の切り替え式である。 この25mm機関砲M242はアメリカ陸軍のM2ブラッドリー歩兵戦闘車の主武装と同じもので、湾岸戦争においてイラク軍の装甲車両に対して絶大な破壊力を実証している。 ソ連製のBMP歩兵戦闘車はほとんど機関砲によって葬ったようで、第2機甲騎兵連隊のジョーンズ軍曹は「我々はBMP歩兵戦闘車を破壊するのに10〜15発を集中射し、炎上させた」と語っている。 また近距離であればT-55中戦車であっても、25mm砲弾を車体と砲塔に叩き込んで破壊している。 砲塔と車体は共に圧延防弾鋼板の全溶接構造で、7.62mm弾の直撃や榴弾の破片に対する防御力を有している。 車内レイアウトは車体前部左側が操縦室、前部右側が機関室、車体中央部が全周旋回式砲塔を搭載した戦闘室、車体後部が兵員室となっており、兵員室内には3名用ベンチシートが2基背中合わせに設けられている。 ただしガンポートは無く、車体の左右側面と後面に外部視察用の視察ブロックが各2基ずつ取り付けられている。 車体後面には乗降用の2枚のドアが設けられており、車体下部は浮航時における安定性の強化と地雷への対処として舟型形状となっている。 パワーパックは、デトロイト・ディーゼル社製の6V-53T V型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル・エンジン(出力275hp)と、アリソン社製のMT653自動変速機(前進5段/後進1段)の組み合わせである。 タイアは、ハンチンソン社製の11×16というジープ並の小さなランフラット・タイアを履いている。 ランフラット・タイアとは、パンクしても堅いゴム材と空気の漏れを局限する構造によって走行を続けられる耐弾タイアのことである。 小型のタイアは確かに操向に力が必要無くて楽であるが底面高が低いため、泥の深い大きな泥濘地帯では車体の底が地面に付いてタイアが空回りする危険が高くなる。 これまでにLAV装甲車シリーズは実際の戦闘で立ち往生したことも少なくなく、今後の改善が求められる。 サスペンション・システムは全輪独立懸架方式で、前部2軸がコイル・スプリングとダンパーの組み合わせで、後部2軸はトーションバーとダンパーの組み合わせである。 全輪駆動式だが、操向は複雑な機構を避けて前2軸のみを用いる機構が採られている。 機動力は路上最大速度62マイル(99.78km)/h、路上航続距離415マイル(668km)を発揮する。 また車体後部にはスクリュー推進機が2基あり、車体前部の波切り板を立てて6マイル(9.66km)/hのスピードで水上航行できる。 ほとんど準備時間無しでいきなり河を渡れる能力は、偵察・パトロール任務に使われることの多い装輪式装甲車には不可欠な機能といえよう。 LAV-25歩兵戦闘車はこれまでパナマ作戦、湾岸戦争、ソマリア作戦など、アメリカ軍戦闘車両の中で最も実戦を経験した車両であり、高い機動力、攻撃力、稼働率が評価された。 ただ、現用のLAV装甲車には不満な点も多い。 3点挙げるならば夜間戦闘力、薄い装甲、そして悪路での踏破力の不足である。 そこで現在、LAV装甲車の改修計画が進められている。 例えば、旧式のM36昼/夜間サイト(視察・照準機)は月明かりの必要な光量増幅式暗視装置であるため、暗闇でも鮮明に見える新型の熱線暗視装置(赤外線式)と交換する、装甲強化のためセラミック製増着装甲プレートを開発する、エンジン出力を300hpに向上する等である。 またメーカー側ではレーザー測遠機、GPS(Global Position Satellite:衛星位置測定装置)をオプション設定している。 |
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●LAV-AT自走対戦車ミサイル LAV-AT自走対戦車ミサイルは、砲塔の代わりにエマーソン社製の起倒式TOW対戦車ミサイル連装発射機を車体に搭載した簡易な戦車駆逐車で、乗員は4名である。 発射機内の2発の他に、車体内にTOW対戦車ミサイルの予備弾14発を収容している。 使用するTOW対戦車ミサイルは破壊力の向上した二重弾頭のTOW2ミサイルで、有効射程は3,750mである。 |
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●LAV-M 81mm自走迫撃砲 LAV-M 81mm自走迫撃砲は砲塔を外し、兵員室スペースに15.7口径81mm迫撃砲M252をターン・テーブル上に取り付け、射撃要員3名と共に収容している。 迫撃砲弾の搭載数は99発で、乗員は5名である。 |
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●LAV-R装甲回収車 LAV-R装甲回収車は被弾、事故を起こしたLAV装甲車シリーズを回収し、エンジンを交換するためクレーン(1,814kg)とウィンチ(13,608kg)を搭載している。 乗員は4名である。 |
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●LAV-L装甲貨物輸送車 LAV-L装甲貨物輸送車は砲塔を外し、貨物を収容するため車体後部を大型化している。 乗員は3名である。 |
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●LAV-C2装甲指揮車 LAV-C2はLAV-L装甲貨物輸送車を改修した装甲指揮車ヴァージョンで、乗員2名と幕僚など5名、指揮・通信機材を搭載する。 |
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●LAV-AD自走対空システム LAV-AD自走対空システムは、LAV装甲車シリーズの対空車両ヴァージョンである。 LAV-ADの最大の特長は、対空機関砲と対空ミサイルを併用して装備するハイブリッド火器システムの採用といえる。 つまり射程は短いが速射力、弾の多さというメリットを持つ対空機関砲と、射程は長いが近距離(100m)に死角があり、弾の少ない対空ミサイルを組み合わせることによって、パーフェクトな自己完結タイプの自走対空火器システムを完成したのである。 LAV-ADは、ジェネラル・エレクトリック(GE)社製の25mm5砲身ガトリング砲GAU-12/Uと、スティンガー対空ミサイルの4連装発射機2基を、GE社製のブレイザー防空砲塔(2名用)に搭載している。 25mmガトリング砲の発射速度は1,800発/分、有効射程は2,000m以上である。 アメリカ陸軍のM163対空自走砲が装備する20mmヴァルカン砲よりはるかに強力で、塹壕の制圧などの対地攻撃にも絶大な破壊力を発揮する。 スティンガー対空ミサイルは、レイセオン社が開発した赤外線追尾方式の対空ミサイルで、発射重量9.9kg、最大有効射程は4,000m以上で、LAV-ADは発射機内の8発の他に車体内に予備弾8発を収容している。 贅沢な対空機関砲と対空ミサイルを無駄無く使えるように、FCS(Fire Control System:射撃統制システム)は高級で、FLIR(Forward Looking Infrared:赤外線前方監視装置)、IFF(Identification Friend or Foe:敵味方識別装置)、自動TV追跡装置、レーザー測遠機、2軸安定化装置を採用することによって、夜間悪天候でも敵機を撃墜できる。 |
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<LAV-25歩兵戦闘車> 全長: 6.393m 全幅: 2.499m 全高: 2.692m 全備重量: 12.79t 乗員: 3名 兵員: 6名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 99.78km/h(浮航 9.66km/h) 航続距離: 668km 武装: 25mm機関砲M242×1 (630発) 7.62mm機関銃M240×1 (1,600発) 装甲厚: 最大10mm |
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<LAV-AT自走対戦車ミサイル> 全長: 6.393m 全幅: 2.499m 全高: 3.124m 全備重量: 12.54t 乗員: 4名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 99.78km/h(浮航 9.66km/h) 航続距離: 668km 武装: TOW対戦車ミサイル連装発射機×1 (16発) 7.62mm機関銃M240×1 (1,000発) 装甲厚: 最大10mm |
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<LAV-M 81mm自走迫撃砲> 全長: 6.416m 全幅: 2.499m 全高: 2.794m 全備重量: 12.11t 乗員: 5名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 99.78km/h(浮航 9.66km/h) 航続距離: 668km 武装: 15.7口径81mm迫撃砲M252×1 (99発) 7.62mm機関銃M240×1 (1,000発) 装甲厚: 最大10mm |
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<LAV-R装甲回収車> 全長: 6.416m 全幅: 2.769m 全高: 2.649m 全備重量: 12.85t 乗員: 4名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 99.78km/h(浮航 9.66km/h) 航続距離: 668km 武装: 7.62mm機関銃M240×1 (1,000発) 装甲厚: 最大10mm |
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<LAV-L装甲貨物輸送車> 全長: 6.467m 全幅: 2.499m 全高: 2.769m 全備重量: 12.79t 乗員: 3名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 99.78km/h(浮航 9.66km/h) 航続距離: 668km 武装: 7.62mm機関銃M240×1 (1,000発) 装甲厚: 最大10mm |
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<LAV-C2装甲指揮車> 全長: 6.439m 全幅: 2.499m 全高: 2.794m 全備重量: 12.27t 乗員: 2名 兵員: 5名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 99.78km/h(浮航 9.66km/h) 航続距離: 668km 武装: 7.62mm機関銃M240×1 (1,000発) 装甲厚: 最大10mm |
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<LAV-AD自走対空システム> 全長: 6.393m 全幅: 2.499m 全高: 2.692m 全備重量: 13.29t 乗員: 3名 エンジン: デトロイト・ディーゼル6V-53T 2ストロークV型6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル 最大出力: 275hp/2,800rpm 最大速度: 99.78km/h(浮航 9.66km/h) 航続距離: 668km 武装: 25mm5砲身ガトリング砲GAU-12/U×1 (990発) スティンガー対空ミサイル4連装発射機×2 (16発) 装甲厚: 最大10mm |
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<参考文献> ・「パンツァー2013年1月号 アメリカ海兵隊の編成と装備」 城島健二/竹内修/柘植優介 共著 アルゴノート社 ・「パンツァー2002年7月号 新世代地上軍の主力車輌 LAVシリーズ」 齋木伸生 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2004年7月号 ストライカー/LAV-III装輪APC」 城島健二 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2015年5月号 世界の現用装輪装甲車輌」 平田辰 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2012年2月号 ブレイザー25・30システム」 三鷹聡 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2007年4月号 LAV-25 インアクション」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「パンツァー2010年8月号 ピラーニャIIIとLAV-III」 竹内修 著 アルゴノート社 ・「世界のAFV 2021〜2022」 アルゴノート社 ・「グランドパワー2018年6月号 戦後の米軍装輪式戦闘車輌」 後藤仁 著 ガリレオ出版 ・「世界の戦闘車輌 2006〜2007」 ガリレオ出版 ・「世界の軍用車輌(4) 装輪式装甲車輌:1904〜2000」 デルタ出版 ・「世界の主力軍用車」 ジェイソン・ターナー 著 三修社 ・「新・世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 ・「世界の装輪装甲車カタログ」 三修社 ・「戦車名鑑 1946〜2002 現用編」 コーエー |
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